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エンジニア組織の公用語を英語に。マネーフォワードが挑む、採用強化に向けた変革
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エンジニア組織の公用語を英語に。マネーフォワードが挑む、採用強化に向けた変革

岸 裕介
2024.04.11
この記事でわかること
エンジニア組織の4割以上が外国籍メンバーのマネーフォワード、公用語英語化までの道のり
日本人のエンジニアが業務を英語化するまでの課題と解決策
業務で英語を使用するために特に意識すべきこと

家計簿アプリや金融系プラットフォームを提供しているマネーフォワード社は、2021年にCTOの中出匠哉氏が「エンジニア組織の英語化」を掲げています。

グループ全社員約2,000名のうち約4割を占めるエンジニアのうち、4割以上がNon-Japanese(外国籍)メンバーで構成され、その出身国は30か国を超えます(2024年1月現在)。

エンジニア組織がなぜ英語化を目指しているのか、また英語化にあたっての課題や工夫点とは?株式会社マネーフォワード CTO室 副部長で、エンジニア組織のモデルチームとして英語化にいち早く取り組んできた伊東 嗣音氏にお話を伺いました。

伊東 嗣音氏

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株式会社マネーフォワード CTO室 副室長

SIerとしてキャリアをスタートさせ、前職では現在のマネーフォワードCTO中出氏とともに、シンプレクス株式会社で10年以上開発リードとして様々な案件に携わるほか、若手育成などにも携わる。

その後2021年にマネーフォワードに入社。CTO室にて、マイクロサービスや基盤アプリケーションの開発を行うチームのエンジニアリングマネージャーとしてチームを率いる。またエンジニア組織英語化のモデルチームとして英語化にもいち早く取り組む。

世界中の優秀なエンジニアを採用するため、英語化を決断

岸 裕介

マネーフォワードではなぜ、エンジニア組織の英語化が始まったのでしょうか?

伊東 嗣音さん

エンジニア人材が不足している中で、世界中の優秀なエンジニアを採用したいというのが動機として大きかったように思います。「日本語が喋れない」という理由で優秀な海外エンジニアの採用を諦めなくてはいけないのは、残念に思っていました。

伊東 嗣音さん

また、現在のマネーフォワードは日本国内向けのプロダクトしかありませんが、エンジニア組織が英語化することで、将来的にグローバルのマーケットにプロダクトを出していく布石にもなります。こういった可能性も考慮して、英語化の取り組みはとても前向きな活動だと捉えました。

岸 裕介

2024年11月末までに公用語の英語化を目指しているとのことですが、英語化の基準はどういったレベルで設定されているのでしょうか。

伊東 嗣音さん

業務が英語メインで行われている状態の部署・チームであることが、最終的に目指すところです。業務とは、開発の業務や面談・会議などのコミュニケーション、チャットなどのテキストコミュニケーションを想定しています。

岸 裕介

2024年1月現在の進捗はいかがですか?

伊東 嗣音さん

当初の予定よりも順調に進んでいます。英語化の完了した部署は現在、チーム内でのコミュニケーションやドキュメンテーションは英語で行っています。一方で、セールスやカスタマーサービスなど、エンジニア以外の組織は英語化対象ではないため、そういった部署とのコミュニケーションは基本的に日本語で行なっています。

伊東 嗣音さん

エンジニア組織内でも日本人同士で日本人しかいない中でのコミュニケーションは日本語です。ただ、議論をした結果の決定事項やその理由は、必ず英語のドキュメントで残して共有するようにしています。

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グローバル採用ページでは外国人の採用候補者向けの情報を掲載
岸 裕介

個人の英語力としてはどの程度のレベルを目指したのでしょうか?

伊東 嗣音さん

目標は随時アップデートを重ねているのですが、最初に設定した目標は、読み書きができるという観点でTOEIC700点、英語でMTGができるという観点でPROGOS(プロゴス)B1(※1)以上です。マネージャーはメンバーをマネジメントするにあたって、単に会話ができるだけでなく、細かいニュアンスを汲み取ったり正しい表現だったりを使う必要があるため、一つ上のランクのPROGOSのB1 High以上を指標にしました。

※1 PROGOS……実践的なビジネスシーンを踏まえた英語スピーキングテスト。B1のランクは、英語で仕事ができるスピーキング力を持ち、自律した言語所有者(中級者)。

短文で要点を伝える「グロービッシュ」を採用

岸 裕介

エンジニア組織英語化に向け、2021年秋から2024年11月末まで、どんなステップを踏まれていますか?

伊東 嗣音さん

全員で一気に英語化を進めると混乱が大きく非効率ですから、段階を追うことになりました。1年目は私が所属するCTO室をはじめとする2〜3チームが先行して英語化を実施しています。そして、それらのチームでのGoodプラクティス・Badプラクティスなどのノウハウを活かして、英語化の範囲を順次拡大。2年目の対象チームは予定よりも前倒しで範囲を拡大できているので、非常に順調に英語化を進められました。

岸 裕介

CTO室が先行的に始めるにあたり、意識されたことを教えてください。

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伊東 嗣音さん

TOEICやPROGOSの基準を設けてはいたのですが、コミュニケーションの本質は自分の思っていることや考えていることを、正しく相手に伝えることだと思います。ですから、難しい英語の表現や、ネイティブの発音を必ずしも目指さなくても良いということは最初に認識をそろえました。「グロービッシュ」と呼ばれる、簡単な単語を使った、短文でのコミュニケーションを使うことを大前提にしています。

岸 裕介

なるほど。CTO室がモデルチームとして選ばれた理由はありますか?

伊東 嗣音さん

CTO直轄の部署で、全社横断の技術的なサポートや共通サービスを提供しているチームだったからです。日本語を絶対的に使用しなければいけない各プロダクトのチームより英語化がしやすかったのが大きな理由です。

岸 裕介

CTO室の英語化に向けて、どのようなスケジュール感で進めていったのですか?

伊東 嗣音さん

まず翌年のグローバル採用で入社する新卒の人材について、日本語が話せないNon-Japanese(外国籍)のメンバーが各チームに必ず1名入ることが決定していました。

伊東 嗣音さん

また、2022年11月からCTO室の室長として新しくベトナム人の方が着任することも。室長は英語とベトナム語しか話せません。そのため英語を学ぶ必然性が生まれるのです。英語が喋れないと新卒メンバーの受け入れができず、室長と面談も報告もできないですから、チームのメンバーは非常にモチベーション高く学ぶことができました。

岸 裕介

ゴールが先に設定されていたわけですね。CTO室では2022年の1月から取り組みが行われたのですか?

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CTO室長のグエン タン トアン氏(左)
伊東 嗣音さん

はい。まずは部長・マネージャーが先行して英語研修を始め、4月以降はメンバーも順次研修を始めていきました。

岸 裕介

通常業務がある中での研修に、反発などはなかったのでしょうか。

伊東 嗣音さん

研修中の英語学習は業務時間内に1日3時間まで許可されています。それに伴う業務調整も行われていましたので、みんなが納得感を持って英語の学習を進められていたと思います。もちろん個人によってモチベーションの差異はありますし、日本語でしか仕事をしたことがないから不安だという声もありました。

岸 裕介

そういった方に向けて、意識して話されていたことはありますか?

伊東 嗣音さん

まず英語化の意義を正しく理解してもらうということが重要なので、わかりやすく伝えるようにしていました。中出からのメッセージにもありましたが、英語で仕事ができるようになることで、グローバルレベルで評価されるエンジニアになれる、自分の市場価値が上がる、ということを話していました。

伊東 嗣音さん

また、元々英語が公用語の組織ではなく、日本語で仕事をしていた組織から英語で仕事をする組織に変革するというのは、ものすごく貴重な経験ではないかと。こんな一大ミッションを乗り越えられたら、自分のスキルが磨かれるのはもちろん、海外の優秀な人材と一緒に働きながらより一層高いレベルの仕事ができるはずということもお伝えしました。

ミーティングで誰も発言できない状態に

岸 裕介

室長着任のタイミングまでに、英語学習はスムーズに進んだのでしょうか。

伊東 嗣音さん

色々と工夫が必要でした。私たちのチームにはバイリンガルの外国籍メンバーがいたのですが、当時はまだ新人で、エンジニアとしての知識は少なかったんです。

伊東 嗣音さん

一方、日本人の我々はエンジニアの知識はあるけれど、英語は初心者でした。英語を研修で学んだからといっていきなり業務を英語化することは難しいので、まずは業務を洗い出し、チャットやGitHubでのイシュー作成など読み書きが必要な業務、ミーティングなど会話が必要な業務を整理しました。

岸 裕介

なぜ業務の洗い出しから始められたのでしょうか?

伊東 嗣音さん

英語化の優先順位をつけるためです。チャットなど非同期のコミュニケーションは、調べたり翻訳ツールを使用したりしながら書けるため、英語化しやすい。余裕を持った準備期間で、室長が着任する3~4か月前からドキュメンテーションの英語化を始めました。

岸 裕介

なるほど、英語化をしやすい業務を見極め、段階的に着手されていったのですね。

伊東 嗣音さん

ええ、1・2か月経つと、徐々に読み書きには慣れていきました。英語化したばかりの頃はもちろん業務のスピードが落ちるわけですが、日常的に使うことで英語能力が向上したり、翻訳ツールの使い方にも慣れてくるので、業務の効率が良くなっていきましたね。

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伊東 嗣音さん

その後、ミーティングの英語化を始めましたが、ここが1番メンバーみんなの心理的ハードルが高かったです。流暢に喋れないし、言われたことを聞き取れるかどうか自信がないという声が多くて。当初は室長着任の1ヶ月前からミーティングの英語化を行う予定でしたが、慣れるために予定を早めて2ヶ月前から始めることにしました。

岸 裕介

確かにミーティングでの英語化は、色々と課題が生まれそうです。

伊東 嗣音さん

当初、ミーティングに時間がかかってしまうと思ったのですが、ものすごく早くミーティングが終わってしまったんです。なぜかというと、みんな発言をしなくなってしまったから。自分が喋ることに精一杯で、他のメンバーが話していることを聞いている余裕がなくなってしまいました。ミーティングなのにみんなが一方通行に話すだけで、まだ研修が追いついていないメンバーは聞き取れていないこともありました。そのため、情報がロストしてしまったり、突っ込むべきところで突っ込まれず、方向修正されずにプロジェクトが進んでしまったり、多くの課題が起きました。

岸 裕介

その課題にどう向き合われましたか?

伊東 嗣音さん

まずメンバーと、ミーティングの時間が短くなっていること、ミーティングの本質的な意味が損なわれていることに対する課題意識を共有しました。当時は個人によってリスニング・スピーキングのレベル差が大きかったので、議事録やアジェンダを用意し、聞き取れなくてもそのドキュメントを読んだり、翻訳ツールを使ったりすることで、内容に追いつけるようにしました。結果的に、議事録が残ることでコミュニケーションロスが減り、伝わっていなかったということもなくなったので、業務の質を向上できたと感じています。

岸 裕介

そういった改善は、すぐに行われたのでしょうか。

伊東 嗣音さん

そうですね。室長が着任する前にこういった改善を行うことができました。朝会やレビュー会は定型的な進行が決まっているので、そこで使えるフレーズ集も作成しました。会議の入り方や意見の聞き方、訂正したい時など、会議で使えるフレーズを英語ができるメンバーと話し合いながら準備しました。フレーズ集があると、フレーズ集の中から選びながらでも話すことができるので、一律のレベルまで底上げすることに役立ったと思います。

岸 裕介

実践的に使えるフレーズ集があると心強いですね。

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社内で実際に使われていたフレーズシート(毎日の定例会議で使用)

英語学習に近道はない。学習時間を積み重ねよ

岸 裕介

英語のレベル感は個人によって様々だったと思いますが、みなさんどのように工夫されて勉強されていましたか?

伊東 嗣音さん

2~30名のメンバーを見ていて感じるのは、単純に学習の累積時間がものを言うということです。学習時間が多い人は、やはりそれだけ伸びています。また、大切なのは、今の自分に合わせた内容を学ぶこと。単語力が全くない人が難しい文章を読もうとしても読めないので、まずは単語から覚える必要がありますよね。そういった自分のレベルを理解し、それに合わせた学習を行うこともポイントではないかと思います。

岸 裕介

研修はどのように行われていたのでしょうか。

伊東 嗣音さん

エンジニア組織の公用語英語化に向けた専門チームが社内におりまして、彼らが英語力のレベルに合わせたプログラムを提供してくれました。3年の間でもどのトレーニングに効果があるかを検証しながら、プログラムをブラッシュアップし続けてくれています。

岸 裕介

この辺りを集中的に学んでおくと良い、などのアドバイスはありますか?

伊東 嗣音さん

基本的な英語力がとても大事だと思います。TOEICの700点が取れるぐらいまでに出てくるような基本的な単語はみんな理解して、使いこなせるようになるべきではないでしょうか。逆にそれ以上の複雑な表現を無理にカッコつけて使う必要はない。相手に伝わらなかったら意味がないので、シンプルな英語、「グロービッシュ」を使うというマインドは、全員で共有しています。

岸 裕介

伊東さんが英語を学ぶにあたって参考になった書籍があれば教えていただけますか?

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『チームを動かすIT英語実践マニュアル』
ラファエル・ヴィアナ 著 / 出版社:アルク
伊東 嗣音さん

「チームを動かすIT英語実践マニュアル」は非常におすすめです。IT業界でよくある、ミーティングやディスカッション、1on1、オリエンテーションなどのシーンに合わせてケーススタディ的に英語がトレーニングできるようになっています。

岸 裕介

実践的で役立ちそうですね。

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デイビッド・パーカー 著 / 出版社:BTB Press
伊東 嗣音さん

もう1冊おすすめなのが、「日本人がはまりがちな英語の落し穴〜自然な英語へのA to Z〜」です。私はマネジメント職なので、メンバーの英語の細かいニュアンスを理解するために本書で勉強しました。Wishとhopeの違いなど、単語におけるニュアンスの違いを解説してくれているので、英語の深い理解に繋がったと感じています。

国民性の違いを理解し、一緒に挑戦できる組織づくりへ

岸 裕介

実際に英語化してみて、組織の変化はどのように感じていますか?

伊東 嗣音さん

英語を使うことによって、今まで仕事をする機会がなかった非日本語メンバーと仕事をする機会が莫大に増えたと思います。それによって英語を使う時間がどんどん増えていくので、自分の英語力の向上も感じます。

伊東 嗣音さん

もちろんまだ、日本語を使っているチームとのコミュニケーションが日本語になってしまうなど、さまざまな課題が残っています。ただ、マネーフォワードには相手にリスペクトを持ってコミュニケーションを取ろうとするカルチャーがあります。それが後押しして、分かりやすいグロービッシュを使ったり、英語に慣れていない人にはゆっくり話したり、前向きに課題をクリアしようとすることができていると感じます。

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岸 裕介

さまざまな国籍のメンバーがチームに入ってくることで、多様な価値観に触れる機会もありますか?

伊東 嗣音さん

そうですね、私は特にマネージャーなのでそれぞれのメンバーとの1on1や面談を通して、文化の違いや考え方の違いを実感します。日本の価値観だけで話をしていると理解できなかった相手の本心や、国民性による違いもあるので「だったらこういうふうに説明しないと正しく伝わらないな」と気づかされることも多いです。

岸 裕介

メンバーの変化もありましたか?

伊東 嗣音さん

はい。印象的だったのは、英語が得意なメンバーの変化です。これまでは英語が得意な方にも日本語で仕事をしてもらっていたので、中には口数が少なく、積極性が足りないと感じていた人がいました。しかし私たちも同じ立場に立ってみると、慣れない英語で喋るのはどれだけ発言しにくいかと身をもって感じることができました。

伊東 嗣音さん

そして、英語化された後は、そのメンバーが非常に喋るようになったんです。積極性が足りないのではなく、日本語がボトルネックになっていたのだと気づきました。世界系に見れば日本語より英語に慣れている人の方が多いですから、我々が英語に慣れれば、全体としてのコミュニケーションのボトルネックはなくなっていくし、裾野も広がっていくんじゃないかなというふうに思っています。

岸 裕介

日本人のメンバーにとっても、英語ができることでスキルアップにつながりますよね。

伊東 嗣音さん

海外でお仕事をするというような話も、今は臆せずにやれると思います。また、入社いただく海外の人材に対しては、社内では「グロービッシュ」を使いたいということをしっかり説明するようにしています。ですから、面接のときに私でも理解できるスピードや内容で質問に答えてくれるかどうかを見ていて、相手に伝わるコミュニケーションに配慮ができる方を採用したいと考えています。

岸 裕介

最後に、今後の展望を教えてください。

伊東 嗣音さん

マネーフォワードは日本国内の拠点だけじゃなく、ベトナムとインドにも拠点があり、それぞれ規模を拡大しています。エンジニア組織を英語化することによって、海外拠点とのコミュニケーションもよりスムーズになり、海外展開への敷居がどんどん下がってくるのではないかと。ゆくゆくは海外向けのプロダクトを作っていくことも、より現実味を帯びてきます。今後のさらなる成長に向けて、新たなメンバーと一緒にチャレンジを続けていきたいと思います。

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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