Microsoftテクノロジーに触れたことのあるエンジニアであれば、一度は「MVP(Microsoft Most Valuable Professional)」という賞を耳にしたことがあると思います。
今回は、MVPを受賞するために必要な活動やそのメリットについて迫るべく、15年連続でMVPを獲得した及川 紘旭氏にインタビューを実施。受賞に至った経緯や、Microsoftテクノロジーの魅力などを伺いました。
及川 紘旭
アドバンスド・ソリューション株式会社 代表取締役社長
IT系の専門学校を卒業後、システム開発会社に入社。一貫してエンジニアとしてのキャリアを極め、2012年にアドバンスド・ソリューション株式会社を創業。特にMicrosoftテクノロジーを活用したソリューションへの造詣が深く、2007年から15年連続でMicrosoft社認定のMVPに選出されている。
エンジニアチーム内の情報発信をきっかけにMVPに挑戦
及川さんは2007年から15年連続でMicrosoft社認定の「MVP(Microsoft Most Valuable Professional)」に選出されたと伺いました。そもそもMVPとは、どのような賞なのでしょうか?
MVPはMicrosoftテクノロジーに対する高い技術と知識を持ち、メディアでの発信やコミュニ活動を通じて世の中に広めている人たちを表彰する制度です。
日本では毎年数100名のエンジニアが受賞していて、受賞者にはMicrosoft社からの技術情報提供や、アメリカ本社でのイベント参加権利獲得など、さまざまな特典が用意されています。Microsoftテクノロジーのカテゴリーに応じて、いくつかの分野に分かれていますが、私は「SharePoint」の領域で受賞を続けてきました。
及川さんが「MVP」の存在を知ったきっかけは?
初めてMVPを受賞したのが15年前で、その2年ほど前に賞の存在を知りました。きっかけは、前職でMicrosoftのエンジニアの方と一緒に仕事をしていた際に、「MVPという賞があるから、及川さんもチャレンジしてみたら」と勧められたことです。
ちょうど当時、Microsoft関連の案件に携わっていて、プロジェクトチームのエンジニアに対して技術的な情報を教えるためにブログを書いていたのですが、その活動を知って応募を勧めてくれたのだと思います。
その後、どのような経緯で受賞に至ったのですか?
MVPの存在を知りすぐに申請をしたのですが、その時点での活動期間が半年程度と短かったため、あいにく受賞できなくて。さらに1年ほど活動し、受賞することができました。
当時は現在のようにオンラインコミュニケーションツールも発達していなかったので、ブログやオフラインの勉強会などを通して、どれだけMicrosoftテクノロジーの普及に貢献できたかという点が審査の大きなポイントでした。特に私はブログでの発信に力を入れていて、閲覧数もそれなりにあったため、活動内容とともに実際のPV数など裏づけとなる情報を示せたことが良かったのだと思います。
審査の厳しさという点では、どんな印象を受けましたか?
特に昨今はSNSなどのメディアが進んでいますので、「表立ってきちんと活動している人」でないと受賞できないように感じました。
世間の人たちにも、Microsoft社にも、「SharePointといえば及川さんだよね、このブログだよね」というふうに認知されている必要があり、そうでない人はどれだけ活動しても受賞できないように思います。審査員もアメリカ本社のエンジニアで、実際にブログなどの内容を見てシビアに精査している印象です。
MVPの受賞により得られたメリット
アメリカ本社のエンジニアによる審査とのことですが、英語表現などの語学力は必要ですか?
必要ないと思います。私も英語があまり得意ではないのですが、特に問題はありませんでした。ただ、MVPになると、年に1回シアトルのMicrosoft本社に招待してもらえるんですよ。本社のエンジニアと直接会話をする機会が設けられているのですが、英語ができたほうが自分の思いを伝えることができますし、新しい情報をより得やすくなりますね。
それはスペシャルな機会ですね!
そうですね。私も7~8回行きましたが、とても感動しましたよ。大学のキャンパスのようなオフィスで、開発チームごとに棟に分かれているだけでなく、各個人に10~15畳くらいの部屋が割り当てられていて。エンジニアにコミットした環境が提供されていることに驚きました。食事や飲み物も無料で提供されたり、社内にレストランやバー、遊具があったりと、リラックスしながら仕事ができる雰囲気が魅力的でした。
15年連続という長期間にわたってMVPを受賞できた秘訣を教えていただけますか?
私の場合、ブログ執筆とセミナー登壇をひたすら継続してきたことが、審査員の目に留まったのだと思います。会社を創業後はコミュニティ活動に十分な時間が取れず、今年度のMVPは辞退させてもらってしまったのですが、晩年はもはや「根性」でしたね(笑)。一度得た栄誉でしたので、手放したくないという気持ちで続けていたような感じです。
MVPの受賞経験は、及川さんにとってどんなメリットがありましたか?
今、会社を立ち上げて事業を成長させることができている背景には、MVPという看板があったことが大きいと思っています。やはり、世間から見たときに、技術力に対する安心感や信頼感につながるのではないかと。
また、ブログや勉強会の資料などもネット上にアップしていますので、たまたま目にした方が私の会社に行きついて、指名で仕事をいただける機会もありました。案件の引き合いにつながるという事業上のメリットがありましたし、何より「個人」を売れる状態になるので、自身のキャリアにおいてもプラスになりましたね。
あとは、年に数回、日本のMicrosoft社主催のMVPが集まるイベントや、受賞カテゴリーごとのオフラインイベントに参加しています。受賞者同士の交流はとても刺激になりますし、新たなビジネスの話も生まれたりなど、ネットワークの面でも大きなメリットを感じています。
Microsoftテクノロジーの導入によって実現できること
そもそも、及川さんはなぜMicrosoftテクノロジーの分野を極めようと思ったのでしょうか?
開発者に寄り添ったテクノロジーであることが大きいですね。Microsoft社自体が開発者にかなりコミットしている会社ですので、自社のテクノロジーを使うエンジニアに対しても優しいんです。プログラムを作るためのソフトウェアや、さまざまな情報を無償提供してくれたり、エンジニアが開発準備を進めやすい身近なテクノロジーであることに魅力を感じました。
及川さんが代表を務めるアドバンスド・ソリューション社も、Microsoftテクノロジーに特化した事業を展開していますよね。
そうですね。日本の大手企業は、どの会社もほぼ何かしらのMicrosoftソリューションを使っていますし、安定した基盤があることも我々が事業ドメインに設定している理由です。特にコロナ禍を経てリモートワークが主流となり、Microsoftテクノロジーの需要により拍車がかかったイメージです。また社会全体でDXの波が押し寄せてきて、その流れで当社に相談をいただくことも増えました。
実際に、お客様からはどのような課題を相談されるケースが多いのでしょうか?
基本的な課題感は創業当初から変わっていないのですが、「社内の情報共有をスムーズに行いたい」「末端まで効率的に情報を浸透するための基盤を作りたい」といったニーズが多いと思います。特にリモートワークの定着で、分散された情報をいかに全員が見られる状態にするかというご相談が増えました。
なるほど、そのようなニーズに対してMicrosoftテクノロジーを用いてどんな解決をしているのですか?
社内の情報共有に関しては、主にSharePointなどのクラウドを活用した提案を行っています。例えば、社内のポータルサイトの利便性をより高めるために、既存のイントラネットをクラウドに移行するといった内容です。
あとは、情報集約ではありませんが、最近はPower Platformなどのローコード関連のソリューションを提供することが多いですね。お客様の社内で内製化を進められるよう、アプリ開発の支援などのお手伝いをさせていただいています。
開発プロセスにおける生産性向上を目的に、エンジニアチームに対してMicrosoftテクノロジーの活用を促すケースも増えていますよ。開発者向けのAIツールがその一例です。AIに話しかけるとプログラムのひな形を作ってくれるサービスなども組み込みながら、品質と生産性を高めるためのアプローチを提案しています。
実際にMicrosoftテクノロジーを導入したことで、大きな業務改善につながった事例を教えてください。
特にPower Platformに関しては、業務システムの構築に関わるテクノロジーのため、DXの推進につながったという声をいただくことが多いですね。例えば、ある建設業界のお客様で、約4,000人規模のユーザーを想定したアプリケーションをPower Platformにて開発した事例があります。
当初、同社は建築プロセス管理に関する業務フローを、担当者が一つずつ手作業で動かしていたため、連絡漏れや情報の重複、データの入力ミスが発生していました。そこでPower Platformを活用して自社でメンテナンス可能なシステムを作ることで、人為的なミスが大幅に減り、プロジェクトの業務を効率よく進められるようになったり、コストカットの面でも効果が現れました。
他のアプリケーションとの連携という点ではいかがですか?
SharePointに関しては、ワークフローの機能の追加や、Power Automateなどと連携させることで、機能性を高めています。あとは、iPhoneやandroid用のアプリケーションや、Azureで作ったプログラムをSharePointと連携させることもあります。ちなみに、SharePoint自体がわりとニッチな市場のため、SharePointを基盤にさまざまなアプリケーションと連携したり、開発をしていくスキルは当社に固有の強みだと考えています。
エンジニアに必要な1つのソリューションを極める姿勢
Microsoftテクノロジーの領域を極めることで、どんなメリットが得られると思いますか?
常に進化しているテクノロジーのため、最新の技術が今後も開発者に提供されていくであろうこと。その点で、エンジニア自身のスキルアップも目指せることがメリットだと感じます。特にMicrosoftテクノロジーは最初の敷居が低いため、誰でもとっかかりやすいという特徴があるかもしれないですね。
ただ、テクノロジーを問わず、大切なのは「1つのソリューションを極めていくこと」だと思います。1つの領域を極めれば同じソリューション内で横展開ができますし、エンジニアのみなさんには、まずは何でもいいので1つの領域を追究してみてほしいと考えています。
MVPを目指すエンジニアは、どのようなことを準備しておく必要がありますか?
はじめからMVPになることを目的に準備するというよりも、「結果的にMVPになった」という流れが自然かもしれません。当社でも、私がMVPを引退するにともない、次なるMVPを出すためにいろいろとアドバイスなども行っていたのですが、結局は本人のやる気やテクノロジーへの愛着がないと難しいですね。
コミュニティ活動に関しても、完全に業務外のボランティア活動なので、本当に好きじゃないとできないことですし、好きなら多分自発的にやると思うんです。自然にやっている人がやりつづけていれば、いずれその道が見えてくるのではないでしょうか。
実際、MVPもいろいろなバックグラウンドを持った方がいますし、性格やタイプもさまざまです。でも、共通しているのは、技術が本当に好きだということ。「好きこそものの上手なれ」というように、心底テクノロジーを楽めるかどうかがポイントになってくると思います。
今後の目標を教えてください。
テレワークも浸透し、SharePoint自体も成熟した市場になってきていますので、次なる事業の軸を見つける必要があると考えています。Microsoftテクノロジーという領域にこだわりながらも、AIをはじめとする技術を磨いていくことで、自社の新たな強みを生み出していく方針です。そして、事業運営がある程度落ち着いたら、私自身も新しい領域で再度MVPに返り咲きたい。歩みを止めず、チャレンジしつづけていきたいですね。
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