「ぷよぷよ」でプログラミングを学べる!? eスポーツプロ選手が教えるプログラミング教室
「ぷよぷよ」「ソニック」など人気ゲームシリーズでおなじみの株式会社セガは、2020年6月にプログラミング教材「ぷよぷよプログラミング」をリリースしました。
「ぷよぷよプログラミング」は、「ぷよぷよ」で実際に使われているコードを手本通りに入力して、動くゲームをつくることで、プログラミングの基礎を学べる教材です。
ゲーム事業や「ぷよぷよ」の e スポーツにおける知見・ノウハウを活かした内容が特徴で、教育現場や各種イベントで活用されており、利用者数は20万人以上にものぼります。
今回は、プロジェクトのリーダーである五十嵐 勝氏、「ぷよぷよ」シリーズの総合プロデューサーを務める細山田 水紀氏、開発を担当した上田 展生氏、講師を務めるeスポーツプロ選手・ぴぽにあ選手に、教材の特徴や授業の流れ、ユーザーの反応、今後の展望などについてうかがいました。
「ぷよぷよプログラミング」とは?
「ぷよぷよプログラミング」はどんなプログラミング教材なのでしょうか?
セガのアクションパズルゲーム「ぷよぷよ」のコードを“写経”、つまりコードを書き写すことでプログラミングを学べる教材です。学習環境は教育現場で広く使われている「Monaca Education」なので、特別なソフトのインストールは不要です。
HTMLやJavaScriptといった世界中で使われているコンピュータ言語を使ってコードを書くことで、コーディングのルールを知り、プログラミングに慣れることができます。
「ぷよぷよ」を教材にしているものの内容は本格的なんですね。
私たちはゲーム開発会社なので、短時間であってもできるだけ本物と同じ開発環境でプログラミングを体験してほしいと考えて開発しました。
製品版の「ぷよぷよ」と同じ画像素材を使っていて、正しいコードを入れると、ゲームのように「ぷよぷよ」が落ちたり回転したりするんです。
実際のゲーム画面が動くのは面白そうです。元々どのようなきっかけで「ぷよぷよプログラミング」は生まれたのでしょうか。
私はもともとeスポーツの仕事をしているので、もっと若い世代に参加してほしいという思いがあり、学校で何かできないかと考えていました。ちょうど文部科学省が教育現場のICT環境を整備する「GIGAスクール」構想を打ち出したこともあり、「ゲーム会社の事業の延長線上で社会貢献できるのは、プログラミングなのでは」と思い、学校教育に利用できるプログラミング教材の開発を決めました。
eスポーツそのものも、一般的なスポーツと同じようにあいさつやルールを大切にしています。ゲームを通して、子どもたちにマナーや適切な競争の在り方を学んでもらうのも社会貢献のひとつだと考えています。
ゲームから多くのことが学べるんですね。他のプログラミング教材にはない特徴はどのあたりなのでしょうか。
全国の学校から依頼を受けて行う特別授業の講師を、ぴぽにあ選手をはじめeスポーツのプロ選手が担当している点です。彼らは元々ITエンジニアとして活躍していたこともあり、現場の先生方からも厚い信頼をいただいています。
第一線で活躍しているプロeスポーツ選手がゲームについて解説したり、プレイを見せたりできるので、興味を持ってもらいやすいと思います。
現役のプロ選手から教えてもらえるのは貴重ですね。他に特徴的な点があればお願いします。
「ぷよぷよプログラミング」のリリースから2年半くらいになりますが、70以上の学校で授業をして、はじめの頃よりもかなり内容をブラッシュアップしています。例えば、飽きさせない工夫として、コードを入力したらすぐに動くようにする。せっかくプロeスポーツ選手が講師なので、eスポーツの話題について話すこともあります。
他にも著作権に関すること、SNSの使い方などネットリテラシーの話、ゲーム開発に関する技術的な話などもしますが、あまり難しくならないように好奇心がわく内容を心がけています。
プログラミング周辺の知識も学べるんですね。ぴぽにあ選手は、「ぷよぷよプログラミング」はどんな教材だと感じていますか?
質も量もちょうどよいと感じています。小学校の授業でも5~6年生となると、講師の説明を追い越してどんどん進める生徒もいますが、全体をみるとプログラミングが初めての生徒が多いので最初は「写経」が適切だと思いますね。
高校生だとタイピングスピードも早くて理解力もありますが、高校生の授業で取り扱う上級コース全体のソースコードが1000行ほどなのに対し、1回の教室でできるのは10行くらいです。プログラミングの入り口という立ち位置の教材だからこそ、なるべく楽しく体験してもらえるように心がけています。
eスポーツと組み合わせた特別プログラムも
「ぷよぷよプログラミング」のプログラムはどのような流れで進めているのでしょうか?
せっかくプロ選手が講師をしているので、最初に13連鎖とかすごいプレイをしてもらって、生徒の気持ちをつかんでから説明しています(笑)。あとは、できるだけ説明を短時間で終わらせて、授業開始から15~20分くらいで「ぷよぷよ」が落ちてくるのを体験できるように授業を進めています。
「ぷよぷよ」が落ちてくると、教室でワッと歓声が上がります。その後の授業でもわからないところがあれば、私はもちろん他のスタッフもサポートするようにしています。
なるほど、楽しみながら学べるんですね。
ええ、中学生以上が対象の場合、2部構成で午後にeスポーツを楽しむこともあります。午前中に「ぷよぷよ」のソースコードを実際に書き、午後にそのゲームをプレイすることで、今までよりもプログラミングを身近に感じることができるんです。
ニーズに合わせて、授業のやり方を変えることも多いのでしょうか?
その時々で学校の先生と相談して、カスタマイズしています。生徒の状況を見て難易度を調整するのはもちろん、効果音を鳴らしたり、ゲーム内で使用する画像を生徒のイラストに変更したりするケースも多いですね。
校内eスポーツ大会の場合では、MCや司会進行などの役割を生徒が担当するケースも少なくありません。決まったパッケージを提供するというよりも、学校のニーズを実現できるよう手助けするといったスタイルです。
非常に自由度が高いんですね。一般公開している「Monaca Education」ではどのように学習を進めるのでしょうか?
「Monaca Education」にサインインして、初級・中級・上級からコースを選んで、ソースコードを正確に“写経”するという流れです。公式ホームページからソースコード一式と学習方法を記載した小冊子をダウンロードできます。独学でも、プログラミングへの理解を深め、コーディングの作法を身につけられます。
自分で書いたコードで「ぷよぷよ」が動く面白さ
「ぷよぷよプログラミング」を開発するうえで、どのような点を意識していたのでしょうか?
いかに楽しくコードを“写経”してもらうかです。“写経”はプログラミングの第一歩として、とても適していると思います。見本通りに打っているつもりでも、半角・全角の違いなどで正しく動いてくれない。どこが間違っているのかを確かめて、正しい動作を導き出す経験が、プログラミングの第一歩だと考えています。
たしかに、“写経”はプログラミングを学ぶうえで効果的ですね。
とはいえ、ただ“写経”するだけではすぐに飽きてしまいます。そこで私たちは、コードを正しく打ったらすぐに「ぷよぷよ」の動きに反映されるように工夫しています。この部分は何度も試行錯誤を重ねており、例えば「一行追加したらぷよぷよが上から降ってきた」といったようにできるだけ動作の変化がわかりやすく理解しやすい箇所のコードをピックアップしました。
書いたコードが動きに反映されることが重要なんですね。
私自身、子どもの頃に雑誌に載っているコードを写経しても上手く動かなくて、間違いを必死に探して直した結果、きちんと動いてすごく感動した経験があります。その喜びを体験してもらえるようにプログラムを工夫しています。
上田さんご本人の経験が反映されているのですね。難易度などの設計については、どのように調整したのでしょうか?
最初の基本の部分は1行だけで動くようにする、次のステップでは4行くらい入力するようにするといったように、五十嵐と相談しながらバランスが取れるようにしました。あとは、どうしてこうなるのかなどコードの構造がわかるような設計を意識しています。
細かいところまで配慮しているんですね。参加者の反応についてお聞かせください。
「いつもはすごく大人しい子が、普通に初対面の講師と話したり、積極的に周りの子に教えたりしていて、新しい面を見ることができました」といった声をよくいただきます。どちらかというと、普段静かな生徒がクラスの中で一番活躍するようなケースも多いようです。
最初は、プログラミングに興味がない子がいきなり写経して楽しめるのか不安でしたが、いざやるとみんなすごくいい目をして集中して取り組んでいます。プログラミングは、いわばPC上で行う“ものづくり”なので、図画工作のように楽しめることに気づかされましたね。
あとは、生徒同士が主体的に教え合ったり、話し合ったりしているのが印象的でした。プログラミングと発表会をセットで実施する場合もあるのですが、やりたいことがぶつかっても自分たちで解決していて、コミュニケーションの訓練の場にもなっています。
「ぷよぷよeスポーツ」の裾野も広げていきたい
今後の展望についても伺いたいです。ぴぽにあ選手の目標をお聞かせください。
「ぷよぷよプログラミング」だけではなく、「ぷよぷよeスポーツ」も大きく成長させる手助けができるよう、今後も進化していきたいです。選手としては、明確な目標設定をしていろいろな部分を練習しつつ、本番で一番いいパフォーマンスを出せるようコンディションを整えて臨みたいですね。
今後のさらなる活躍が楽しみです。「ぷよぷよeスポーツ」の認知度を高めるための取り組みについてお聞かせください。
競技人口の増加を目指し、トップ層だけではなく裾野を広げるような取り組みに注力していこうと思います。eスポーツの大会はオンライン配信する場合が多いのですが、女性プレイヤーのなかには顔出しに抵抗感のある方もいらっしゃいます。そのため、女性だけの大会も検討しています。その他にも、日本で暮らす外国人・障害者・シニアなど、幅広い方が参加できる世界基準のeスポーツを実現できたらと考えています。
今まで以上に誰もがeスポーツを楽しめるようになるんですね。他に何か施策があれば、うかがいたいです。
これまで「ぷよぷよeスポーツ」は1対1がメインの競技でしたが、チーム戦も積極的に実施する予定です。今のeスポーツはチーム戦が好まれていて、世界的にも5人チームで戦うといった試合がたくさんあります。特に学校では、協力しながら競技ができるチーム戦が歓迎されるので、2対2の試合を導入できたらと思います。
今年は私の地元である鹿児島で、全国都道府県対抗eスポーツ選手権が開催されます。「ぷよぷよeスポーツ」も競技タイトルのひとつです。これまで活躍してきた子どもたちが参加してくれるので、盛り上げていきたいですね。
なるほど。「ぷよぷよプログラミング」の普及に向けた取り組みについてはいかがでしょうか?
プログラミング講師として、プログラミングそのものの楽しさをわかりやすく伝えていきたいです。「ぷよぷよプログラミング」は、教材として非常によくできていると思います。わからないながらもコードを写し、「ぷよぷよ」をプログラミングで実際に動かしていく。初めてプログラミングに挑戦する人にとって、最適な「入り口」ではないでしょうか。
内容のブラッシュアップはもちろん、より多くの人にプログラミングの楽しさを知ってもらうため、今後さらに開催数を増やしていきたいです。社会的にもプログラミングのニーズは高まっており、2025年1月に実施される大学入試の共通テストに「情報」という科目が追加され、プログラミング言語についての問題が出題されるようになります。「ぷよぷよプログラミング」で取り扱うJavaScriptがベースになっている部分があるので、入試対策になるような要素を今後取り入れていきたいですね。
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