ビジネスシーンにおいて、「自分の話はなぜ伝わらないのだろう」「あのときもっとこういう伝え方をしていれば……」と反省した経験をもつ人も多いでしょう。しかし、いざ話す力や伝える力を鍛えようと思っても、一体なにから手をつければよいのか悩ましいものです。
そんなモヤモヤを解消してくれるサービスが『kaeka score』。世の中にはほとんどないとされる、自分自身の「話す力」を数値化できる診断ツールです。
今回は同サービスを開発した株式会社カエカ代表取締役 千葉 佳織氏に、プロダクトの開発背景や、エンジニアにおすすめのポイントを伺いました。
千葉 佳織氏 プロフィール
2019年株式会社カエカを設立、伝え方トレーニングサービス「kaeka」の運営を行い、経営者、政治家、社会人の話す力を数値化し、話し方を改善するサービスを提供している。また、企業総会や国政選挙などでスピーチ原稿の執筆にも取り組む。2021年、世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバルシェイパーズに選出。過去に全国弁論大会3度優勝、内閣総理大臣賞受賞。慶應義塾大学卒業後DeNAに入社。人事部所属時に同社初のスピーチライター業務を立ち上げ、登壇社員の育成、社長のスピーチ執筆など部署横断的に課題解決に取り組む。
話す力は努力で伸ばすことができる
まずは千葉さんがkaekaを設立した背景を教えてください。
高校時代に弁論部に所属していたのですが、周りからは“地味な部活だ”と言われることが多かったんです。それが悔しくて、上手な人の伝え方を分析して練習を重ねた結果、全国弁論大会で3度の優勝と内閣総理大臣賞をいただくことができました。周囲の反応が大きく変わったと同時に、伝え方は努力次第でスキルアップできることを身をもって実感して。その後、自分の人生を助けてくれた伝え方学習に関わるアナウンサー職を目指したのですが、すべてうまくいかず、ディー・エヌ・エーに入社しました。
ただ、どうしても人生で追っていたテーマが捨てられず、本を読んだり、人の話を聞いたりしながら、スピーチライター・トレーナーの仕事を1人で立ち上げてみることに。最初は個人の仕事として行っていましたが、次第に本業内でも活かす機会をいただき、人事部で同社初のスピーチライター業務を立ち上げたり、登壇社員の育成や社長のスピーチ執筆を担当したりなど、部署横断的に取り組みました。私自身もとてもやりがいを感じましたし、この仕事の意義をより多くの人に伝えたいと思い、kaekaを創業するに至りました。
現在kaekaではどんな事業を展開しているのですか?
5つのサービスを中心に事業を展開しています。 1つは、『kaeka』というスタンダードな伝え方トレーニングサービス。次に、経営者や政治家の方を対象とした、完全パーソナルなトレーニングサービス『kaeka pro』と、法人向けのトレーニングサービスです。2023年1月には、話す力を診断するツール『kaeka score』を、6月には『kaeka score』の派生サービスとして、日本初の政治家の演説力診断ツール『kaeka score politics』をリリースしました。
なるほど、「話す力」をスコア化するツールは、ありそうでなかったサービスだと思います。『kaeka score』はどのような経緯で生まれたのですか?
創業から約3年間、4,000名以上のお客様と接するなかで、話す力の分析を、根拠をもって行うことができれば、体系的にスキルを改善することが可能になるのではと考えたことがきっかけです。
というのも、話す力はどうしても感覚的なもの、先天的なものと捉えられがちで、具体的な振り返りが難しく、的確に課題を把握することは困難だと言われてきました。ただ、私自身がそうであったように、話す力は努力で伸ばすことができます。そして努力を継続するためには、定量的で客観的な指標が必要なのではないかと考えました。
当社ではお客様の課題感を踏まえ、さまざまな事例を研究したうえで、最終的に話す力の指標を14個に抽出しました。『kaeka score』ではそのうちの7要素について、「AIによる判定」と「話し方の専門家による採点」を融合させた独自の採点方法により、分析結果を提示しています。
診断方法に関しては、PC画面でシステムに向けた30分間の口頭試験を行います。提示された設問に対して2~3分で話す内容を考えていただき、録音がスタートするという流れですね。設問は全部で10問ですが、「会社の朝会でのスピーチ」や「母校で行うキャリアに関する講演」など、日頃起こりうるさまざまなシチュエーションのものを用意しています。
客観的な指標で話し方をスコア化するためにAIの力を活用
AIによる判定というお話もありましたが、AIについてはどのような目的や用途で活用しているのですか?
そもそもAIを利用しようと考えたのは、主観的・感覚的な評価ではなく、客観的・論理的な評価を行うことを重視したかったからです。『kaeka score』では「話し方」と「言語化・内容構成」の2軸で話す力を診断していますが、現在は主に「話し方」の項目でAIの力を活用しています。具体的には、話すスピードや声の高低、間(ま)などの測定です。
AIの導入にあたって苦労したポイントは?
「話し方」に関しては、たとえば“声が高いから良い/悪い”などといった正解が存在せず、パーソナリティによっても活かせる強みは異なります。答えのない状況において、なにを指標として数値化するかという点に悩みました。最終的に、「内容面」に関しては100点満点の採点を行い、「話し方」に関しては特微量の可視化や、“この結果だから、この強みと弱みを経験する可能性がある”という傾向を出す方法を採用しました。
AIは人間が感覚的だと思っていたものをしっかりと出してくれていて、心強い付き合い方ができています。データを蓄積していくことで、さらにAIで測ることができる指標を増やし、学習に活かしたいと考えています。
『kaeka score』はエンジニアのスキルアップにも有効なツール
『kaeka score』をはじめとする御社の「話す力」向上に向けたサービスは、あらゆるビジネスパーソンにニーズがあるのではないかと感じました。
はい。現在は20~30代のビジネスパーソンや経営者の方々を中心に、幅広い年代・職種のみなさまにご利用いただいています。kaekaが掲げる「話す力」は、なにも大衆向けのスピーチやプレゼンテーション場面に限ったものではありません。1対1のコミュニケーションであったとしても、「目的をもった会話」や「伝えたいことがある会話」を行いたいと考えている方には、当社のメソッドを大いに活用いただけると思っています。
例えば、打ち合わせでの発言の質を見直したい企画職の方や、 高校生の方が総合型選抜入試の対策で受講されるケースもありました。また、転職活動中で、面接対策を目的に受講される方もいらっしゃいます。業務スキルの向上や望むキャリアの実現など、目標や目的をもって臨んでいただいている方がほとんどです。
個人的には、専門的な技術を説明する機会が多いエンジニアのみなさんにもおすすめできると思っています。
まさにそうですね。実際、エンジニアの受講者の方も多くいらっしゃいますよ。 たとえば論理的に話すことは得意なものの、相手に伝わらないシーンがあって困っている。具体的には、報告や連絡の場面で、不安感から不要な情報まで話しすぎてしまい、言いたいことがうまく伝わらないという課題をもったエンジニアの方がいましたね。その方はトレーニングで学んだスキルを早速現場で実践したところ、上司から説明がうまくなったとほめられたとおっしゃっていました。
また、元々お話が苦手な方以外にも、ライトニングトークなどでさらにキャリアアップを図るために学習されている方もいます。ライトニングトークでは、短時間で伝えることが求められるなかで、もっと自分の経験や思いをうまく伝えられるようになりたいというニーズがありました。
特にエンジニアのみなさんは、科学的な根拠や客観的なデータを好む傾向があるように感じています。実際にこれまでトレーニングを受けてくださったエンジニアの方からは、体系的になっている学習そのものが楽しい、とご感想をいただいたこともあります。そういう意味でも、『kaeka score』は自分の話し方の良いところや改善点を定量的かつ視覚的に理解いただけるメリットがありますので、具体的なアクションプランにつなげていただきやすいようです。
たとえ話すことが得意な方であっても、自身の強みを体系的に可視化できるメリットがありそうですね。
『kaeka score』や当社のトレーニングは、意外にも「困ってはいないけれども、もっと高みを目指したい」という理由で受験、受講される方も多いんですよ。自分の想いをわかりやすく情熱的に伝えられるようになったことで、プロジェクトを任される機会が増えたり、昇進につながったりといった成果があがったという嬉しい声もいただいています。
さらに多くの人へ「伝え方教育」を届けていきたい
今後のサービス展開について教えてください。
まずは業種や職種に特化したサービスをさらに展開していくこと。そして、学校向けなど、全世代に対して当社の「伝え方教育」を届けていくことを目標としています。
職種特化に関しては、先日リリースされた『kaeka score politics』のようなイメージでしょうか。
そうですね。『kaeka score politics』は、政治家の方々に向けた演説力診断サービスですが、基本的な枠組みや採点指標は『kaeka score』と同様で、設問が政治家向けにアレンジされたものです。選挙プランナーの松田馨さんに監修いただきながら設問を作成したのですが、たとえば駅頭挨拶や応援演説、議会質問、個人演説会など、かなり細分化されたシチュエーションにおける設問を通して、ご自身のスキルを測っていただける点が特徴です。
ちなみに、今回なぜ政治家に特化したサービスに着目したのでしょうか。
当社では過去に160名以上の政治家の方にトレーニングを受講いただいていますが、自己流の演説に陥りがちで、最適な伝え方がわからず迷っている方が多い印象を受けました。そうした悩みに寄り添い、より効果的なトレーニングを実施するためのプロダクトとしてリリースしました。
一般的なビジネスパーソンのプレゼンでは、資料があったり、既に関係性が築けている人に向けて話したりする場面が多いと思います。一方で政治家のみなさんは、面識のない大衆に向けて、声だけで情報や思いを届ける必要がある。また昨今はSNSの普及により、小さな発言が切り取られて炎上につながるケースも見受けられます。そうした課題感を踏まえ、より話し方に留意をしていただくためのツールとして、ご活用いただきたいと思っています。
最後に、kaekaが目指す世界を教えてください。
当社は「すべての人生にスポットライトを」というミッションを掲げ、言葉の力で自分の人生を輝かせる経験を1人でも多くの人に届けたいと願っています。そのために、「伝え方教育」を全国に広げ、誰もが言葉を磨ける社会をつくるための事業を作りあげていきたいです。
また当社ではスピーチライターの仕事も請け負っているのですが、現在の日本において、話す人にスピーチライターがついているという状態は一般的ではありません。プロが伴走し、その人が伝えたいことを、伝え方も含めて一緒に磨き上げていく。書籍に編集者がつくように、またアスリートにトレーナーがつくように、挑戦者の言葉にはスピーチライターやトレーナーといった言葉の伴走者がいることが当たり前の世界を作りたいですね。スピーチライターの役割を多くの人に知っていただき、その存在価値をさらに高めていくこともkaekaの目標です。
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