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弁護士ドットコムがChatGPTをサービス活用。AIはどこまで依頼者の相談に応えられるのか?
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弁護士ドットコムがChatGPTをサービス活用。AIはどこまで依頼者の相談に応えられるのか?

岸 裕介
2023.10.17
この記事でわかること
弁護士ドットコムがChatGPTを導入。その活用方法とは?
ChatGPTはどこまで正確な回答を出来るのか?
専門家領域のDXでエンジニアに求められることとは

弁護士資格を持つ元榮 太一郎氏が2005年に創業した弁護士ドットコム株式会社。「専門家をもっと身近に」を理念に掲げ、法律トラブルを抱える相談者と法律家をつなぐ日本最大級の弁護士/法律ポータルサイト「弁護士ドットコム」を展開しています。

弁護士ドットコムは2023年2月、ChatGPTなど新しいAI技術を法律相談やリサーチに活用する「Professional Tech Lab(プロフェッショナル・テックラボ)」を創立。人間のように自然な会話ができると話題のChatGPTですが、誤情報が回答されるケースも。ChatGPTはどの程度まで相談者の依頼に答えることができるのでしょうか。専門家領域におけるChatGPT活用の可能性や弁護士ドットコムが目指す未来像について、弁護士ドットコム技術戦略室長の市橋立氏に伺いました。

弁護士ドットコム株式会社

代表取締役: 元榮 太一郎 設立: 2005年7月4日 従業員数:427人

法律相談のサポート役としてChatGPTを活用

岸 裕介

まず、弁護士ドットコムを始めとする御社の事業概要を教えてください。

市橋さん

法律相談や弁護士検索ができる「弁護士ドットコム」、紙やハンコを使わずにオンライン上で契約締結ができる電子契約サービス「クラウドサイン」などを展開しています。我々は2014年に上場していますが、弁護士が創業者の会社としては初の上場企業であり、法律×テクノロジー、いわゆるリーガルテックのパイオニア的な存在であると自負しています。2023年の2月には「Professional Tech Lab」を立ち上げ、弁護士など専門領域におけるテクノロジーの活用を研究しています。

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出典:弁護士ドットコム
岸 裕介

弁護士はどのくらい弁護士ドットコムに登録されているのでしょうか?

市橋さん

全国には4万4,000人ほどの弁護士がおりますが、そのうち約半数の弁護士の先生方に登録いただいています。

岸 裕介

法律相談や弁護士検索の分野では最大規模だと思いますが、弁護士の世界ではDXの推進は進んでいると感じられますか?

市橋さん

民間の事業会社と比べると弁護士事務所は小規模なケースが多いですから、例えば会計業務をデジタル化したり、情報をオンライン上で一元管理したりするケースは少ないです。弁護士業務ではいまだに紙の資料を必要とする事務所が多く、裁判所とのやり取りも郵送やFAXが主流となっています。DXのスピード感は緩やかであると感じます。

岸 裕介

弁護士ドットコムではどのようにテクノロジーを導入されているのでしょうか。

市橋さん

今までは「みんなの法律相談」という掲示板サービスで相談者から相談があった場合、弁護士が一つひとつ確認してその都度回答していましたが、ある程度基礎的な内容はChatGPTが人を介さずに回答することで、より効率的に法律相談を進められると考えています。

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出典:弁護士ドットコム
岸 裕介

掲示板サービスがChatGPTの回答に代わるということでしょうか?

市橋さん

いえ、あくまでも「みんなの法律相談」における補助的な立ち位置です。「弁護士の代わり」なのではなく、質問者の質問を深掘りし、弁護士が必要かどうかの判断をサポートするのがChatGPTの役割。話が進んでいき、具体的な法律の個別相談が必要となった場合は、弁護士に相談いただく形になります。

岸 裕介

ChatGPTには専門的な知識を学習させているのでしょうか?

市橋さん

ChatGPTをAPI連携した上で、プロンプトエンジニアリングと言われる指示や法律相談に関するデータを与えています。「みんなの法律相談」でこれまで寄せられた125万件のデータを活用し、より質問の領域に特化した回答ができるよう調整をかけています。

岸 裕介

なるほど。専門家向けの法律専門書籍のリサーチツールにもAIの活用を検討しているそうですね。

市橋さん

ええ、専門家は非常に多くの情報を扱う職業になりますので、少しでもAIによるリサーチツールを活用いただき、生産性を上げていきたいと考えています。弁護士や法務部の方々は法律関連の書籍を頭から最後まで読むというより、案件に関連する部分を参照したいというニーズが大きくあります。我々は出版社さんと提携をしており、オンラインで書籍読み放題サービスを提供しています。例えば、そこに連携させたリサーチツールで知りたいことを打ち込むと、全ての書籍の中から関連する部分のみをピックアップして提示するなどの活用方法があります。

岸 裕介

なるほど。過去の大量の事案から案件に当てはまるケースを探すのは骨の折れる作業でしょうから、そこにリサーチツールを活用できればかなり作業効率化に寄与できそうですね。

ChatGPTはどこまで正確に法律分野で回答できるのか?

岸 裕介

様々な観点からChatGPTの活用を研究されていらっしゃいますが、ChatGPTについてどう捉えていらっしゃいますか?

市橋さん

非常にインパクトが大きいサービスだと考えています。エンジニアやAI研究者だけではなく、一般の方々も気軽にAIを使える点が大きいのではないでしょうか。これまで機械学習はある種一部の人々の中で閉じられていたものでしたが、ChatGPTによって一般の人でも使えるものになり、精度もそれなりに高いというのは画期的だと思います。こういった点を踏まえ、我々は先陣を切ってサービスに積極的に取り入れていくべきだと考えています。

岸 裕介

正確性という観点ではセンシティブな内容もあり、リスクもあるかと思いますが、いかがでしょうか。

市橋さん

いわゆるハルシネーションと呼ばれるものですが※、技術の進化によってカバーできていくことだと捉えています。GPT3.5から4になった際にもだいぶハルシネーションは減少しましたし、抑える工夫が出来てきています。ハルシネーションの要因として、全てが解明されているわけではありませんが、データが不足していると起きやすいということは分かっています。法律の分野でいえば、我々が持っている法律関連のデータを与えることで、ハルシネーションの発生を最小減に抑えることができます。

※ハルシネーション:チャットAI等において、事実とは異なる情報をもっともらしい回答として文章生成してしまうこと
岸 裕介

弁護士ドットコムでは、日本の司法試験をChatGPTに解かせてみたそうですね。

市橋さん

ええ、ChatGPTに司法試験を解かせる実験がアメリカで行われたこともあり、日本でやってみたらどうなるのか実証実験に取り組みました。

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出典:弁護士ドットコム
岸 裕介

結果はいかがでしたか?

市橋さん

アメリカの実験では2科目で人間の平均を上回るなど高い成績を出していますが、日本の司法試験では足切りラインをギリギリ超える程度の結果でしたね。

岸 裕介

アメリカと日本の結果には、なぜ差が生まれたのでしょうか?

市橋さん

日本には法律に関するオープンデータで質の高いものが少ないという点が大きいと思います。アメリカでは判例データの公開が進んでいるのですが、日本ではほぼありません。学習データとして弱かったため、なかなか成績に結び付かなかったのではないかと。質の高いデータを継続的に読み込ませていくことで、点数が高まるのではないかと考えています。

岸 裕介

今後に期待ですね。ChatGPTは、今までのAIに比べてどんなところが進化しているのでしょうか?

市橋さん

会話のキャッチボールが続き、自然なやりとりができるという点が非常に進んでいると思います。これまでは、例えばAmazonのAlexa(アレクサ)のように、一問一答に対応できたとしても会話を続けることは困難でした。一方で、ChatGPTは前の質問を踏まえた上で会話が続いていきます。また、これまではAIが人種差別的な回答をしてしまいサービス閉鎖に追い込まれたケースもありましたが、ChatGPTは差別的な発言や攻撃的なワードを使用しないように調整されています。

岸 裕介

それは企業で活用していく上で安心ですね。

市橋さん

もちろん現状が完全版ではなく、これから計算量などのデータ量を上げていけば性能はさらに上がっていくと考えられます。そうすれば回答の精度がどんどん上がっていくので、技術で解決できることが増えていくと思います。

AIと専門家が共存、助け合う世界を目指して

岸 裕介

AIの進化が専門家領域にどのような影響を与えると思われますか?

市橋さん

巷には「AIの進化によって仕事が奪われる」といった論調もありますが、我々はAIが進化したからといって弁護士の仕事がなくなるとは考えません。さらに技術が進化していったとしても、ChatGPTが裁判に出廷したり、裁判で認められる証拠について議論したりすることは難しいでしょう。ChatGPTなどのAI技術は、書類作成やリサーチなどの効率化を図るために活用されていくと思いますし、弁護士はクライアントと向き合う時間を今までよりも多く創出できるようになります。ChatGPTの活用としては、そういった「亜種共存共栄」の関係になっていくのが理想なのではないでしょうか。

岸 裕介

弁護士の作業効率化といった点では、ChatGPTなどを活用することで、少数精鋭の事務所でも効率性の高い仕事を実現できそうですね。

市橋さん

ええ。小規模の事務所では事務作業を弁護士自身が行うケースも多く、事務作業の効率化は非常に重要な課題です。また、ChatGPTを始めとする大規模言語モデルはデータをもとに学習するため、データのないケースには対応できません。例えば、新しい法律が出てきたときに裁判でどうアプローチするのかは、弁護士が力を発揮する部分になってきます。我々は、事務作業を減らすことにより、依頼者と向き合う時間が増えることで、弁護士の皆さんが最大の価値を発揮していける世界を目指しています。

岸 裕介

業務効率化の他に、ChatGPTやAIを活用することで御社が解決していきたい課題はありますか?

市橋さん

我々はChatGPT以前にもIBM Watsonを活用したチャレンジを行なっており、ハッカソンで優秀賞と最優秀賞を受賞しています。こういった取り組みの背景には、トラブルに遭われた方のうち2割しか弁護士と繋がれていないという「2割司法」と呼ばれる課題があります。トラブルが起こった時に、「弁護士に相談していいのか分からない」と疑問に感じたり、相談をためらったりすることが多いのです。いわば、依頼者と弁護士の間の知識の非対称性が大きい状態といえるでしょう。そんなときにAIを活用すれば、依頼者が必要な知識をすぐに得ることができます。そして、本来なら受けられる法的保護や、生まれるはずのお金を受け取ることもできるでしょう。

岸 裕介

たしかに、「弁護士に相談するほどでもないかも」と尻込みしてしまう人が多そうです。ChatGPTが「みんなの法律相談」で基礎的・一般的な回答をすることに対して、弁護士側はどのような反応なのでしょうか?

市橋さん

弁護士の方にもメリットが大きいという声が多いです。というのも、弁護士事務所には日々さまざまな相談が舞い込んでいますが、全ての案件に弁護士が力になれるわけではありません。例えば、法律とは異なる部分が問題であったり、少額のお金の貸し借りの問題で弁護士費用を払うと損になってしまったり。

市橋さん

それらの相談に対して弁護士がその都度対応することは時間がかかるので、弁護士だけではなく相談者にとってもデメリットです。ChatGPTが入口になることで、こういった課題を解決できると考えています。我々が行った調査では、7割を超える弁護士がAI導入に期待していると回答しています。

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出典:弁護士ドットコム

専門家領域で活躍するエンジニアの条件とは

岸 裕介

専門家領域のDXで求められるエンジニアの条件はどういったものがありますか?

市橋さん

技術だけでなく、ドメイン知識を習得することに取り組んでいけるかどうかは重要だと思います。弁護士の領域でいえば、弁護士会からの連絡はFAXなので、弁護士事務所ではFAXが必要不可欠です。単純にオンライン化すれば良いわけではなく、弁護士会との連携はFAXでしか出来ないからこそ、どう工夫すべきなのか。業界がなぜそうなっているかまで理解して、新しい仕組みを発想して作っていける人が必要だと思っています。

岸 裕介

元々ドメインに詳しいエンジニアはほとんどいないでしょうから、考える姿勢を持つということですね。

市橋さん

ええ、言われたものを作るだけではなく、業界に関心を持ってキャッチアップするということですね。サービスとしてどうあるべきかを考えられるエンジニアは非常に稀有であり、重要な人材です。弁護士にとっても、依頼者にとっても、テクノロジーの進化があって良かったと思っていただけるサービスを作っていける人材には、ぜひ我々の業界のDXにジョインしていただきたいです。

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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