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最新の3Dプリンターで何ができるのか?業界をリードする日本HPのエンジニアに聞いてみた
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最新の3Dプリンターで何ができるのか?業界をリードする日本HPのエンジニアに聞いてみた

岸 裕介
2023.06.29
この記事でわかること
3Dプリンターが身の回りの多くの製品を作り出している。
技術の進化を体感できる3Dプリンティングエンジニアの仕事内容
AIなど技術革新とともに、さらに進化する3Dプリンター

2次元の層を積み重ねることによって、立体物を造形する「3Dプリンター」。モノづくりに革命が起きると言われ、およそ10年が経ちます。興味はあるけれど、「実際に使ったことがない」「見たことがない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

一体最新の3Dプリンターはどこまで進んでいるのか、今後どういったことが可能になるのか。「HP Jet Fusion 3Dプリンティング」シリーズで業界をリードする株式会社 日本HPで、3Dプリンティング事業を担う宮内 大策さんと川崎 智仁さんにお話を伺いました。

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日本HPで3Dプリンティング事業部コマーシャルアカウントマネージャーを務める宮内 大策さん(左)とコンピテンシーエンジニアの川崎 智仁さん(右)

3Dプリンターは家庭用と業務用で何が違うのか

岸 裕介

現在の3Dプリンター業界はどのような状況でしょうか。

宮内さん

3Dプリンターが注目されるようになり約10年が経ちました。今は、大きさや価格、様々なものが各社から登場し、導入されるシーンも増えています。従来の3Dプリンターは、アイデアを形にしてみる、いわば試作品のために使われるケースがほとんどでした。作れる形状も限定的でしたが、今では製品として十分に利用できるものを作れるようになっており、製造スピードも格段にアップしています。

岸 裕介

家庭用の3Dプリンターも見かけるようになりましたが、業務用とはどんなところが違うのでしょうか?

宮内さん

家庭用は産業用に比べて小型でシンプルな作りで、試作品を作ってみるなどアイデア創出に用いられる場合が多いです。あとは、強度が求められないフィギュアやインテリア雑貨を作る方もいらっしゃるようですね。

宮内さん

一方で産業用は、モノづくりの工程を幅広くサポートするものになっていて、かなり大型です。試作品だけではなく、製品として使える強度のあるものを作ることができます。また、かなり複雑な造形も可能なのはもちろん、短時間で大量に製造することができます。これは、家庭用の3Dプリンターにはない特徴です。

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岸 裕介

なるほど。最新技術を駆使した産業用の3Dプリンターについて、近年の機能や性能のトレンドを教えてください。

宮内さん

近年の大きなトレンドは、3Dプリンターで最終製品を生み出せることです。以前に比べ、造形スピードが格段に向上し、造形できるものの強度が高まり、使用できる材料が増えてきました。例えば、3Dプリンターに注目が集まった10年ほど前は、ペットボトルのようなシンプルなものを一つ作るのに、半日~1日かかっていました。今では、もっと複雑な形を優れた品質で数十分で量産できるようになっています。3Dプリンターだけで、製品として十分なものを作り出せるようになっているのです。眼鏡のフレームなど、消費者向けのカスタマイズ性を持った最終製品を作り上げる事例も増えています。

岸 裕介

世界と日本で3Dプリンターの導入や活用に差はありますか?

宮内さん

日本は3Dプリンターの導入が遅れているといわれます。実際に活用状況を見てみても、3Dプリンターを活用した最新の製品の市場投入は、海外の方が早い傾向にあると思います。

岸 裕介

どうして日本での導入が遅れているのでしょうか。

宮内さん

要因として、世界と日本では製品に対する要求値が異なるということが挙げられます。一般的に、日本の製品は高品質と言われますよね。それだけ、日本が品質にこだわる国ということなんです。日本には、これまで様々な産業で培ってきたノウハウと独自の高い基準があります。そういったものと照らし合わせて進めていくと、どうしても慎重になり導入までに時間がかかります。

岸 裕介

日本は基準が高いがゆえ、新しいものを導入する時に慎重になるということですね。その分、高い品質を保証された新製品が増えていくのが楽しみです。

宮内さん

海外に遅れるケースが多いとはいえ、日本でも次々に新しい製品が誕生しています。他国の事例に準ずる流れになることも多いですが、今後最新の3Dプリンターの技術が続々と導入されていくはずです。

最新3Dプリンターの驚くべき進化

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岸 裕介

日本HPの3Dプリンターは、どんな特徴がありますか?

宮内さん

「HP Jet Fusion シリーズ」を中心に産業用3Dプリンティングソリューションに力を入れています。産業機器から消費者向け製品、医療分野、自動車業界など、様々な分野で採用され、評価をいただいています。

岸 裕介

日本HPの最新の3Dプリンターは、従来の製品とどういった違いがありますか。

宮内さん

わかりやすい変化は、速さと量です。HPの3Dプリンターは、これまでに累計1億7,000万個以上のパーツを製造しています。従来のやり方で、一つひとつ製造するのではとても実現できない数です。こういった高い機能を実現するためには、3Dプリンターの内蔵機能や構造への工夫が必要です。HPの最新モデルは、3Dプリンターだからこそ実現できる有機的なダクト構造を採用し、機能性を高めています。3Dプリンターの冷却効率を向上させることで、造形スピードが高まり、生産効率が飛躍的に向上しているんです。

岸 裕介

3Dプリンターの造形スピード・生産効率が向上しているということは、コストパフォーマンスも良くなってきているということでしょうか。

宮内さん

作るものや量によって違いはありますが、3Dプリンターを使うことでコスト面でもメリットが多いと思います。例えば、従来の製造ラインを組んだモノづくりは、材料や加工品を削る作業や、部品を合わせる作業が必要になります。しかし、3Dプリンターの場合は、始めから作りたいものを形づくっていくので、製造工程を最小減にし、大きなコストカットにつながります。

岸 裕介

なるほど、3Dプリンターのやり方そのものが、コスト面で強みになるんですね。

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宮内さん

それに、従来のモノづくりよりも生産前の準備に時間がかからないことも強みだと思います。3Dプリンターの場合、型の検討が必要なく、データがあればすぐに生産へ移すことができます。つまり、製造ラインでうまく作れるかどうかのシミュレーションをする必要がなくなるのです。

岸 裕介

なるほど。実際にどのような場面で導入されているのか、ユースケースを教えてください。

宮内さん

例えば、眼鏡のフレームやゴーグルの事例では、お客様自身がアプリでスキャンした顔面データを元に、パーソナライズされた形状の製品が3Dプリンターで製造されています。お客様のお手元に届くまでの時間もかなり短縮でき、米国ではアプリでご注文してから約2週間で手元に届くようになっています。

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岸 裕介

身近な商品が3Dプリンターで作られ、届けられているということですね。

宮内さん

ええ、身につけるものだと歯の矯正に使うアライナーの製造という事例もあります。これは歯型をもとに製造するマウスピース状の製品をイメージしていただければと思います。人によって全く異なる形を正確に作り上げなくてはいけません。海外の事例ですが、この複雑で高度な製品を、3Dプリンターで1日5万個生産している例があります。

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岸 裕介

事例はほんの一部だと思いますが、高い機能性を実現しているわかりやすい例ですね。

宮内さん

ええ。これまでの3Dプリンターは、モノづくりの試作を作るイメージが強かったように思います。それらの用途で使えるのはもちろんですが、近年では消費者向けの商品の最終製造にも活用され、消費者に合わせてカスタマイズが必要な市場や医療分野でも活躍しています。

「3Dプリンティングエンジニア」はどんな仕事なのか

岸 裕介

3Dプリンティングエンジニアのお仕事について教えてください。

川崎さん

3Dプリンティングエンジニアの仕事内容は、大きく2つに分けられます。サービスエンジニアとアプリケーションエンジニアです。それぞれ、ご紹介させていただきます。

川崎さん

まず、私が担当しているサービスエンジニアについて。HPの場合、開発拠点は海外なので、日本のサービスエンジニアの役割は基本的には販売された製品に対するサポートになります。3Dプリンターは大型機械なので、設置するための環境の要件からしっかりとお伝えする必要があります。受注前からお客様のサポートが始まり、導入準備、引き渡し、引き渡し後のフォローを行っていきます。3Dプリンターが安定して稼働されるようにすることが、私たちの使命です。

岸 裕介

3Dプリンターを利用していただくための重要なポジションですね。

川崎さん

ええ。もう一つのアプリケーションエンジニアは、3Dプリンターをより有効に使っていただくための活用支援を行うポジションです。お客様にHPのサービスやノウハウを伝えることで、より幅広いシーンで3Dプリンターが活用されるよう取り組んでいます。

川崎さん

サービスエンジニアは、導入した3Dプリンターの保守や修理に対応しながらお客様と接していくのに対し、アプリーケーションエンジニアは、3Dプリンターに関わるシステムやサービスそのものに携わりながら、より高い価値をお客様へ提供できるよう目指すポジションです。

岸 裕介

川崎さんは、今までどのようなキャリアを積まれて、3Dプリンティングエンジニアになられたのでしょうか。

川崎さん

元々は3Dプリンターとは別の業界でエンジニアとして働いており、大学卒業から15年ほど、防犯カメラなどを展開する小売店向けのソリューションに携わっていました。3Dプリンターの業界に入ったのは約8年前です。

岸 裕介

現在3Dプリンティングエンジニアをされている方のキャリアも様々なのでしょうか。

川崎さん

私は全く別の畑から入りましたが、産業機械系の経験がある方も多いように思います。既存のプリンター産業や、インクジェットの領域に関わってきた方は、3Dプリンターに関心が強いようです。

岸 裕介

成長領域として、業界内でも興味関心が高まっているということですね。

川崎さん

ええ、これまで2次元の世界だったプリント技術が、立体物という3次元に応用されていく。そして、印刷物ではない製品が出来上がるのはとても面白いことですよね。同じ業界でその進化を見てきた方が興味を持つのも納得です。

3Dプリンティングエンジニアとしてのやりがいは?

岸 裕介

実際に3Dプリンターを導入する際の流れや、お客様とのやりとりを教えてください。

川崎さん

まず、製品を選定していただく段階からサポートさせていただきます。私たちの商品・サービスを選定していただいた後、設置場所の環境を確認します。3Dプリンターは電力を消費する機械なので、高電流に耐えられる電源の用意が必要です。また、排熱や排気の設備についても考えなければいけません。

岸 裕介

様々な要件があるのですね。3Dプリンターならではの準備は他にもあるのでしょうか。

川崎さん

はい。3Dプリンターは粉末状の材料を使用するので、不要な粉末が発生します。それらを処理する掃除関連の設備・機器も必要です。安全・快適に使えるように、環境の確認を事前にしっかり行うことが、3Dプリンターの場合は特に重要になってきます。

岸 裕介

特殊な装置なので、設置環境のサポートがあるのは安心ですね。

川崎さん

設置環境が確認できたら、引き渡しを行い、実際に安定してご使用いただけるようにサポートを継続させていただきます。3Dプリンターの故障や不調といったトラブルへの対応はもちろんですが、うまく使用できるようなフォローアップ対応にも力を入れています。

岸 裕介

フォローアップというと、具体的にどのようなことでしょうか。

川崎さん

お客様に合わせた運用方法をお伝えするのはもちろん、造形そのものについてもサポートを行っています。例えば、お客様から「次はこういったことをしてみたいんだけど」とお声がけいただいたときには、どのようなデータを作ればスムーズに実現できるのかを伝えるようにしています。お客様が作りたいものを受け止め、造形のコツも紹介できるので、3Dプリンターの導入が初めてのお客様でもイメージに近い製品をつくりやすいと思います。

岸 裕介

3Dプリンティングエンジニアとして課題を感じることはありますか。

川崎さん

市場全体で「最終製品を作りたい」というニーズが高まっているので、エンジニアとしてその部分にどう応えるかが課題です。納得のいく最終製品を実現するためには、繰り返し作ったときの精度の高さが求められます。どういった造形ならプロジェクトをうまく進められるのか常に創意工夫しながら、安定性をさらに高めていくため3Dプリンター本体のメンテナンスにもしっかり取り組んでいきたいと思います。

岸 裕介

3Dプリンティングエンジニアのやりがいはどういったことでしょうか。

川崎さん

3Dプリンターのニーズ、活躍の場が市場全体で増えているので、今まで以上にやりがいを感じますね。私がこの業界に入る以前には試作に使われていた3Dプリンターが、現在は複雑・多様な最終製品の製造まで幅広く活用されています。しかも、従来の製造工程よりも速く大量に製造できるのは、本当にすごい進化だと思います。

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川崎さん

いちエンジニアとしては、お客様と直接やりとりできることが嬉しいですね。お客様の元を訪問して、プリンターの修理や改良を行うなかで、「次はこれをやりたい」など、将来的な取り組みについて声をかけていただくこともあります。

岸 裕介

なるほど、お客様との先進的な取り組みがやりがいにつながるということですね。

川崎さん

お客様とご一緒する中で、さらにやるべきことが見えてきて、一緒に解決策を見出していく。そういったパートナーシップの中に仕事のやりがいを感じます。ご提供している製品に満足していただけるのはもちろんですが、エンジニアとして頼られるのは誇らしいですね。

AIが3Dプリンターの世界でも技術革新を起こす?

岸 裕介

今後、3Dプリンターにはどういったことが求められ、どういった機能や性能が搭載されていくと思いますか?

宮内さん

最終製品を3Dプリンターで製造しようとするトレンドが、今後さらに高まると思います。そのために重要な要素は、生産に求められるスピードとコストです。3Dプリンターでの生産が進むことで、今後は何を作れるかだけではなく、どのように作るかがより厳しく求められると思います。海外では、3Dプリンターでユニークなテクスチャーを生み出して製品の付加価値を高めたケースもあります。今後さらに3Dプリンターならではのデザインも増えてくると感じています。

岸 裕介

モノづくりにおける大変革ですね。まだ課題も多いのでしょうか。

宮内さん

3Dプリンターでも得意とする形状と不得意な形状が存在します。3Dプリンターの特徴を理解し、強みを最大限に活かした設計思考が重要です。3Dプリンターの理解が広まることで、今後日本でも事例が増えると思いますし、活用の幅も広がっていくのではないでしょうか。

岸 裕介

3Dプリンターの技術革新において、懸念していることなどありますか?

宮内さん

3Dプリンターは、デザイン・設計から製造までの工程を一貫した生産プロセスでスピーディーに実現することを可能にします。そうなると、これまで以上にデザイン・設計といった部分にも注意しなくてはいけません。これまで分かれていた工程が一つになり、ストップせずに完成まで進んでしまうからです。デザインや設計は全ての始まりになりますので、最初から3Dプリンターでの製造を考慮して進めないと、思い通りの製造ができず業務の効率が落ちてしまいます。

岸 裕介

なるほど、最初に全体のサイクルを考えて検討する必要があるんですね。

宮内さん

ええ。それに最近ではChatGPTが話題ですが、AI技術が進んでいくことによって、デザイン・設計もより身近なものになってくると考えられます。誰が何を想定してものを作るのか、どのようにデザインするのか、AIだけに任せるのではなく、3Dプリンターの機能や特徴を理解し、最適な活用を学んでいくことが重要だと思っています。

岸 裕介

そういった変化は課題もありつつ、モノづくりの未来を考える上で非常に期待感があり広がりを感じます。最後に、HPが3Dプリンター事業で目指していくことを教えてください。

宮内さん

プリンターの機能を高めることはもちろん、これまでのデータやノウハウをお客様のサポートに活用していきたいですね。データを有効活用すれば、機器の安定性をさらに高めることもできます。例えば、不具合が起きる前に部品の消耗などを事前検知し、対応することが可能になります。そうすると、「突発的な故障で使えない」といった事態を未然に防ぐことができるので、製品製造が止まってしまうリスクを下げることができます。

岸 裕介

リスクを最小減にできるのは、日々の事業活動において安心ですね。

宮内さん

ええ。3Dプリンターの使用量などから運用効率を確認し、より効果的な活用方法をお客様にご案内することもできます。導入したものをどのくらい活用できているのか、どうしたら効果的に使えるのかというのはお客様にとっても気になるポイントではないでしょうか。活用状況をデータで可視化し、最適な運用方法を一緒に考え続けていくことで、より良いモノづくりが実現できるはずです。

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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