さまざまな業務のDXが一気に進むなか、画像認識AIはその先頭を走る技術です。顔画像の特徴により個人を認証する顔認証の分野において業界トップクラスの研究体制を持つ株式会社トリプルアイズは、決済や勤怠打刻、さらには顧客分析にも利用できる画像認識プラットフォーム・AIZE(アイズ)を提供。クラウド上に送信された画像データを、ディープラーニングの手法でAIが解析し、正面静止画像の認証率は98%を誇ります。
そんなトリプルアイズが、5日間という短期間で実践的なAI人材を育成するプログラム「AIエンジニア養成ブートキャンプ」をスタートしたとのこと。わずかな期間で本当にAIエンジニアになれるのか。全社員の80%がエンジニアの同社において、営業本部DXソリューション営業部を統括する小林誠さんと技術本部 AIZE開発部の片渕博哉さんに、AIによる画像認識のトレンドと詳しいプログラム内容について伺いました。
株式会社トリプルアイズ
代表取締役:山田 雄一郎 設立:2008年9月3日 事業内容:システムインテグレーションおよびAIプラットフォームの提供 上場市場:東京証券取引所グロース市場
AI活用で知っておくべき4つの画像認識タスク
まず、AIによる画像認識はどのような技術なのか教えてください。
AIを活用した画像認識は、大きく4つに分類されます。1つ目は「画像分類」と呼ばれるタスクで、画像が何を表しているかをAIが判定するもの。例えば、「この画像は犬である」あるいは「これは猫である」という風に判別することができます。
少し難易度が上がってくると、2つ目にどこに何が映っているのかという「画像検出」。画像内に対象のオブジェクトがある場合に、それがどこにあって、何が映っているかをAIが認識します。例えば、ある画像を読み取ったときに「スマートフォンが右下にあり、左上に人がいる」などの位置情報を把握。つまり、「何がどこにあるのか」を認識するタスクが「画像検出」です。
3つ目は、今流行の「画像生成」というタスクです。例えば、「夕暮れに河原を歩いている」という風にパソコンで入力すると、AIが自動で画像を生成してくれます。著作権フリーの画像をつくってくれたり、広告モデルとして架空の人物画像を生成したりするなど、活用シーンがどんどん広がっています。
4つ目は、画像分類や画像検出をピクセル単位で行う「セマンティック・セグメンテーション(領域分類)」。どのピクセルに何が映っているかを認識することができ、自動運転や衛星写真、さらには医療診断などさまざまな分野での活用が期待されています。
画像認識にはいろいろな技術があるんですね。そのなかでも、近年のトレンドとして注目を集めているのはどの領域でしょうか?
「画像分類」や「画像検出」は社会に広く普及しており、どういった対象のオブジェクトが得意なのかなど、ある程度認知されて社会に実装されつつある分野です。ビジネスに応用しやすいので、今後も新たなアプリケーションの開発や社会でのさらなる活用が広がっていくと思います。
最近のトレンドとしてあげられるのは「画像生成」です。AI技術として近年注目されているChatGPTと同様に、あらゆる業界で活用が模索されています。得意な領域を探っているような段階ですが、今後の展開が期待される分野です。
トリプルアイズに寄せられる案件は、どの領域が多いのでしょうか?
私たちの企業では、「画像認識」や「画像検出」に関するプロジェクトが非常に多く、人物、車、料理、植物、動物などあらゆる画像において、機械学習が活用されています。専門的な分野では、配管の傷の箇所の検出なども可能です。できることがわかっているのでビジネスに応用しやすく、近年さらにニーズが高まっています。
画像認識プラットフォームと「囲碁AI」の共通点
貴社が提供している画像認識プラットフォーム・AIZEは、勤怠認証やマーケティング、さらには人流測定や顔決済まで、さまざまな分野で活用されています。AIZEはどのように生み出されたのでしょうか。
AIZEは囲碁AIの研究から生まれました。当社では2014年から囲碁AI開発を進めてきました。グローバル企業がAI技術の成果を競う囲碁AI世界大会において、トリプルアイズは世界2位の実力を有しています(2019年)。
囲碁AIの技術からAIZEが生まれたというのは驚きです。
コンピュータ囲碁は現在のAIブームの大きな火付け役であるとともに、AI技術の限界や応用分野を考える上で、重要な研究テーマとなっています。というのも、囲碁の盤面は19×19の361マス、指し手の選択数は10の360乗と天文学的に複雑だからです。つい最近まで、囲碁の世界でコンピュータが人間を凌駕するのは遠い将来のことと思われていました。
AI研究で問われるのは技術力であり、同時に技術の優劣は囲碁の勝敗にそのまま反映されます。つまり、シビアな世界で高めてきたディープラーニング技術がAIZEにも活用され、世界最大級512次元の特徴量を顔画像から検出・個別認識することに役立っているというわけです。
シビアな勝負をしてきたエンジニアたちの技術力がAIZEに活かされているわけですね。AIZEは各企業でどのように活用されているのでしょうか?
大規模な事例でいうと、ヤマダデンキさんが全店舗で展開している顔認証決済サービス『ヤマダPay』にAIZEが導入されています。顔認証決済の導入により、お客様は事前に顔画像を登録しておけば、来店時に現金もスマホもクレジットカードも持たずにお買い物の決済をすることが可能になります。
なるほど、実店舗でも活用されているんですね。Webサイトやアプリではどのように画像認識の技術が活かされていますか?
わかりやすい事例として、植物好きが集まるオンラインコミュニティ『GreenSnap』アプリ内の「教えてカメラ」のアップデートがあげられます。「教えてカメラ」は、名前のわからない植物や花を撮影するとAI(人工知能)や『GreenSnap』のユーザーが名前を教えてくれる機能です。写真を撮るだけで「〇〇かも!」と、自動で植物の写真と名前の候補がいくつか表示され、すぐに名前を知ることができるため、特に園芸初心者の方に人気です。
トリプルアイズの画像認識技術を活用した今回のアップデート版では、AIが判定可能な植物の品種を約2倍に拡大し、判定精度を大幅にアップすることに成功。対応している品種では、9割以上の確率で正しい植物の名前を知ることができるようになっています。このようにAIによる画像認識がアプリに組み込まれることが増えているため、みなさんも自然とその技術を活用していると思います。
5日間のブートキャンプでAIエンジニアになれるのか?
トリプルアイズが今まで培ってきたAIのノウハウや知見を学べる「AIエンジニア養成ブートキャンプ」が2023年5月にスタートしたそうですね。
ええ、機械学習の基礎知識からAI実装スキルまで身につく短期間のプログラムを提供しています。わずか5日間で「画像分類」と「画像検出」の機能を持つAIアプリケーションを実装するところまで、エンジニアとしてのスキルを高められます。対面で行うプログラムなので、疑問点や不明点はその場ですぐに解決することができます。
すごいですね。たった5日間でAIエンジニアを育成できる?
私たちは、最先端技術(Advanced Technology)に携わる社員の比率を20%以上に引き上げるための独自の通信教育プログラム『AT20』をスタート、社内で実践し、数多くのAIエンジニアを輩出してきました。そのノウハウを今回のブートキャンプにも活かしています。
『AT20』は社外に向けても2021年にサービスローンチしました。、開始から1年半ほどで受講者は530名を突破。そこでご好評いただいている内容をより実践的なものにして、今回のブートキャンプでも取り入れています。今回の参加にあたってプログラミング経験がゼロというのはさすがに難しいので、Pythonプログラミング経験者の方が対象になります
AIエンジニアを育成するため、特にこだわっているのはどんなことでしょうか?
対面で実践的な内容を学んでいただくことにフォーカスしています。他社のプログラムでよくあるのは、スクール側で必要なデータとAIのコードを用意して一つひとつの意図を説明。その後、コードを順次実行していくとAIができるという内容が多い印象です。
しかし、実際にお客さまのデータを使ってAIを作る場合、どこをどのように操作すればいいのかわからなかったり、学習量が足りないのか、AIの計算が悪いのかわからなかったりすることが多いと思います。つまり予定調和のAI構築だけ教わって「AIってすごいんだな」で終わってしまう研修だと、現場では全く役に立たないということです。研修と実践はそれぐらい違うものです。
「AIエンジニア養成ブートキャンプ」では、どのようなことが学べるのでしょうか?
現役のAI開発プロジェクトのリーダーが講師として参加者を徹底的にサポートしており、実践的なカリキュラムを組んでいます。AI人材として即戦力になるためにはどんなことを知っておくべきなのか。現場における対応力を高めるため、途中でつまずくポイントを仕掛けています。現場に入らないと味わえない体験をするためです。トライアンドエラーの経験が実践力になっていきます。
なるほど。たしかにここまで実践的なプログラムはなかなかないかもしれません。
実は私自身も、25歳までIT業界が未経験で、最初は全くプログラムが書けない状態でした。トリプルアイズに入社していろいろな知識を吸収し、AI開発の第一線に立てるようになったのです。AIエンジニアとして働けるようになった私の経験も踏まえ、最短で学べるプログラムを構築しているので、AI初心者にとってもわかりやすい内容になっていると思います。
最短でAIエンジニアになるために必要なこと
ブートキャンプでどんなことが学べるのか、全体のプログラムを教えてください。
1日目は「AIと一般教養」について学びます。自社開発する上でも請負開発する場合でも、AIの技術的な知識を持っていないと、どこで詰まっているのか把握できません。プロジェクトの成功のためには、必要な技術的な知見を持ち合わせることが前提になります。AIの開発やプロジェクトにおいて重要な考え方や視点をインプットさせていただくので、単なる座学ではなく「AIとは何なのか」「AIをどうやって開発するのか」ということを自分の言葉で説明できることを目指します。
2日目は「数学基礎と機械学習」のプログラムで、データを集めてAIをトレーニングすることを行ってもらいます。数学については、中学校の知識があれば問題なくついていける内容です。数学を入れる理由としては、その後のAIの精度上げやAIの精度に関する比較指標において必要になってくるからです。それ以外は、データを駆使してAIをつくることに挑戦してもらいます。
3日目は「精度上げとディープラーニング」ということで、あえて途中でつまずくような仕掛けも用意しながら、トライアンドエラーを繰り返していただきます。上手くいかない原因をさまざまな視点で分析しながら、最適な方法を見つけていくことが大事です。弊社が今まで培ってきた受託開発のノウハウもふんだんに盛り込んでいます。
実践的な内容が多く、濃密なプログラムですね。4日目、5日目はどのような内容を学べるのでしょうか?
3日目まではAIをつくるプロジェクトと、AIの精度を上げるプロジェクトを経験してもらいます。4日目からはいよいよ、AIをアプリケーションに実装するところに移っていきます。
4日目は「AI構築」ということで、つくったAIをどのように配置・活用するかを考えてもらいます。つくっただけでは誰にも使ってもらえないし、事業の収益につながらないため、画像認識を活用したアプリケーションを実際につくることと、AIを活用するにはどういった視点が必要で、アプリケーションをどのようにつくればいいのかを身につけます。
5日目はAIアプリケーションの実装と成果発表。私たちの方で「画像認証のアプリケーションをつくってください」などのテーマを設定し、グループワークでつくってもらいます。成果発表も経験し、最短でAIを世の中に出すところまで実践してもらいます。
なるほど、5日間で効率よくAIの実践的な内容を学べるということですね。
オンラインのAI講座『AT20』でも、「こういうときはこれを使った方がいい」というように、具体的な内容を体系的に学べることに評価をいただいていました。一つのソリューションだけではなく、さまざまな解決法を学べることに価値を感じてくださっています。
また、AIを導入するときにヒアリングするべきことなど、プリセールスのような観点での内容も参考になるようです。例えば、オンプレとクラウドでやる場合、どんなことを確認する必要があるかなど。今回のブートキャンプでも、法律的・倫理的な観点も含め、AI事業を実際に手がけている当社にしかわからないナレッジをお伝えしていきます。
ブートキャンプは貴社で開催される対面でのプログラムですが、地方在住の方などリアルな参加が難しい方はどうすれば?
その場合はオンラインで学べる『AT20』を活用していただくことをおすすめします。『AT20』は地方の方々にも、数多く受講をいただいています。そういった活用はもちろん、プログラミングの基礎から学べる『AT20』でレベルアップした上でブートキャンプを受講するのもいいかもしれません。
ブートキャンプは5名以上で受講可能なのですが、いろいろな助成金が対象になります。1社5名様以上で受講ご希望の企業様のケースでは、実質100万円以上の負担減となる可能性があるので、検討の際には確認していただくといいかなと思います。
画像認識の進化でIDもパスワードも不要な世界へ
画像認証や顔認証について、今後の展望を教えてください。
『脱マスク』が進むなかで、さらに顔認証AIサービスの可能性がひろがっていくと考えています。特に注目されているのは、来店客の顔画像から性別や年齢などを分析する『AIZE Research』です。来店客が新規かリピーターなのかはもちろん、「楽しい」「怒り」「嫌悪」「恐い」など7つの感情をリアルタイムで分析できます。
アミューズメント施設やイベント会場で年代や性別ごとの満足度を計測することなどが想定されますが、それ以外のさまざまな施設でも活用が進められていくのではないでしょうか。マスクを取ることにより、感情をより詳細に分析できることに加え、属性認証の精度が向上します。あらゆるシーンでの活用に可能性が広がっていくはずです。
顔は人のアイデンティティそのものなので、プライバシーにも配慮しながら慎重に進めていく必要があります。しかし、AIが顔を認識できればIDもパスワードも不要な世界が実現できます。トリプルアイズの画像認識プラットフォーム・AIZEは専門家の目を代替することもできるので、今後さらに医療介護、保守点検、小売流通など人手不足の解消にも役立つと思います。
AIは私たちの事業の柱になっているところもありますが、それ以上に新しいテクノロジーのイノベーションが起こったときに、大手企業でもスタートアップ企業でも、技術を身につけた者同士がフラットに競争できることが日本の産業の底上げになります。
つまり、ここで優秀なエンジニアを育成することは、日本のIT産業全体の底上げにつながるのではないかと。我々のようなITベンチャーでも、大手企業と同等以上の技術を提供できることは、その証明になっていますし、IT産業全体の発展に寄与できると信じています。
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