「Macはなぜ高い」に元Appleエンジニアが神回答
macOSで利用できるパソコンはMacだけです。細部までこだわったMacのデザインは魅力的ですが、一般的なWindows PCに比べて、同じようなスペックでもMacは価格が高いのが玉にキズ。だから、もっと低価格なPCやもっと高スペックなPCでmacOSを使いたいという声が昔から根強く上がっていました。そんなmacOSの解放を求める声に対するテリー・ランバート氏のQuoraでの解説が神回答であると話題になっています。
根強い「どうしてmacOSはMac限定?」
Macは、macOSがUNIXベースのため、多くの開発者に使われています。仕事用のパソコンも、OSを選べたり、BYOが認められるようになって、スマートフォンがiPhoneだからMacを選ぶという人が増えています。しかし、Windows PCに比べてMacは価格が高いのが玉にキズ。スペックが同程度の機種を比べると、Windows PCならMacの半分ぐらいの価格の製品が見つかります。細部までこだわったMacのデザインは魅力的ですが、価格差ほどの価値の差はあるのでしょうか?
そんなユーザーのもやもやとした気持ちに対して、Appleで長くソフトウエアエンジニアとして活躍していたテリー・ランバート氏のQuora(Q&Aサイト)での解説が神回答であると話題になっています。同氏はAppleでmac OS Xのカーネル開発を担当、その後はGoogleでもChrome OSの開発に携わりました。
Quoraの質問は「どうしてAppleブランド以外でOS X(macOS)が動作するPCがないの?」でした。MacはIntelのCPUを採用しているので、乱暴な言い方をすると多くのWindows PCやLinux PCと中身は同じx86/ x64プラットフォームです。だから、macOSを使いたくて使っている人の中には、もっと価格の安いPCや高スペックなPCにmacOSをインストールして使ってみたいと考えている人が少なくありません。
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同じスペックでも異なるPCとMacのパーツ
それができない理由を一言で説明すると「Appleが認めていないから」。もう少し長いバージョンだと「ハードウエアをMacに限定して、Macに最適化したOSとしてmacOSを開発することで、パソコンとして最高の使用体験を提供できるから」、これが最もよく見る回答ですね。でも、「ハードウエアに最適化」と言われても、具体的にどういうことなのか、一般的にはイメージできません。他のPCだってハードウエアに最適化しているはずです。「それならMacは何が違うのか?」という点についてランバート氏は分かりやすく説明していますので、かいつまんで紹介しましょう。AppleがMacにこだわるのは、一般的なスペックの性能ではなく、Appleが求める性能を発揮させるためです。
今日のMacBookシリーズではRAMのユーザーを交換できません。Appleは電力管理を向上させるためにRAMの動作周波数や電圧も変動させており、その動作を効果的に実行できる水準のRAMに限定するためです。CPUも同様に、動作周波数を上げるバーストモードや安定した電圧コントロールなどで微細なコントロールを求めています。そのため、スペック上は他のブランドのPCと同じIntelのCoreプロセッサを採用していても、Intelの基準ではなく、より高いAppleの基準を満たす部品を求め、Intelへの支払いにはその分のプレミアを乗せているそうです。
macOSではKEXT(Kernel EXTension)というモジュールを通じてカーネルの機能を拡張し、デバイスドライバなどを、カーネルと分離しながら安全に、そして容易に追加/削除できます。KEXTには「The Stepper」と呼ばれる電力や周波数などを微細にコントロールするモジュールが組み込まれています。厳選したパーツをKEXTで微細にコントロールすることで、パワフルな性能と効率的な動作が実現します。効率的な動作によって放熱が抑えられ、よりスリムで軽量なデザインも可能になります。
以前はデスクトップは据え置き型のデザインでしたが、今日では全てのMacでモバイルノートに見られる電力効率優先が徹底されています。たとえば、量販されているPCのマザーボードは信号の遅延を抑えるようにデザインされていますが、Appleは電力効率と放熱を優先してロジックボードを設計しています。ボードだけ見ると冗長で奇妙なデザインに思えますが、それが筐体と組み合わさった時に、小さなヒートシンクや最小限の冷却ファンで効率的に熱を逃がせる設計が完成します。
マージンを確保するMac、低価格競争に向かうPC
厳選したハードウエア、その性能や機能を存分に引き出すOSとソフトウエア。最初から最終的な製品をイメージした統合的な設計によって生み出される相乗効果がMacならではの使用体験です。対照的に、Windowsは存在するあらゆるPC向けパーツをサポートする必要があるので平均的になってしまいます。汎用パーツと平均的なWindowsの組み合わせはスペック通りの性能に納まり、性能で差別化できないPCメーカーは「低価格」で競争し始めます。より安くを求めすぎると、粗悪なパーツや低品質なパーツが含まれる可能性が高まるという悪循環です。
Macのマージンは35%程度と言われています。それほどあれば、2011年にタイの水害でHDDの価格が上昇したようなパーツ価格の変動があっても吸収できます。また、コストのかかる新しい素材や機能の採用にも挑戦可能です。一方、低価格競争にあるWindows PCのマージンは3〜6%程度。コストの上昇によって利益が吹き飛んでしまいかねません。
もちろん、Appleのモデルがいつでも正しいというわけではありません。ムーアの法則が有効で、CPUの性能の向上がそのままPCの価値になっていた頃は、汎用パーツを組み合わせて低価格を実現したWindows PCがMacを圧倒していました。
ただ、ムーアの法則の進行が鈍って、差別化のポイントがCPU性能から総体的な使用体験に移ったことで風向きが変わり始めました。PCの主流はデスクトップからモバイルノートに、そして従来型のPCからポストPCへと移るに従って、Macの価格の価値を認める人が増えています。見方を変えると、限られた電力の中でPC並みの性能が求められるスマートフォンをAppleが編み出せたのも、統合的なデザインを是とするAppleであってこそ。Macで培ってきたモデルは、iPhoneの強みにもなっています。
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