国産スパコン「富岳」が3期連続世界1位! 量子コンピュータはそれよりスゴい?
日本のスーパーコンピュータ「富岳」が世界のスーパーコンピュータに関するランキングの、「TOP500」、「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、「HPL-AI」、「Graph500」のすべてにおいて、3期連続の世界第1位を獲得したと報じられ、新型コロナ対策の研究開発をサポートしています。スーパーコンピュータの能力を超えるといわれる量子コンピュータとの間にはどのような違いがあるのでしょうか。(Misa)
スパコン「富岳」が3期連続4冠達成
2021年6月28日、富士通株式会社(富士通)は、理化学研究所と富士通が共同で開発し、2021年3月より共用を開始したスーパーコンピュータ「富岳」が、世界のスーパーコンピュータに関するランキングの、「TOP500」、「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、「HPL-AI」、「Graph500」のすべてにおいて、第2位に大きな差をつけて第1位を獲得したと発表しました。この結果は「富岳」のフルスペック(432筐体、158,976ノード)によるもので、3期連続で4冠を達成しました。
もっとも注目すべきは、2位に約3倍の性能差をつけた(※2021年6月時点)計算速度を指標とする「TOP500」ですが、人工知能(AI)の深層学習で主に用いられる単精度や半精度演算処理に関する性能ベンチマーク「HPL-AI」や、産業利用など実際のアプリケーションでよく用いられる共役勾配法の処理速度の国際的なランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」でも1位を獲得し、総合的な性能の高さを示しています。
先代機「京」は専用プログラムが必要で、利用できるのは技術力を保有する大企業などに限られる傾向がありましたが、富岳は市販のアプリケーションにも対応するよう設計されており、AIや深層学習向けの機能が拡充しています。
新型コロナウイルスに関連して、富岳による飛沫拡散予測の動画を、ニュースなどでご覧になった方もいらっしゃると思います。新型コロナウイルスの分析や治療薬の開発、感染対策のシミュレーション解析など、新型コロナ関連の研究開発のサポートを行っています。
スーパーコンピュータと量子コンピュータの違い
一方、2019年秋、グーグル社を中心とする研究グループは、当時の世界最速のスーパーコンピュータが1万年を要する計算を、同社が開発した量子コンピュータが3分20秒で実行したことを発表しました。特筆すべきは計算速度だけでなく、両者を構成する素子数の違いです。たった53個の量子素子が、1京個を超える半導体素子を持つスーパーコンピュータを桁違いのスピードで凌駕した点です。
ご存じのとおり、スーパーコンピュータは従来のノイマン型コンピュータの最高峰ですが、基本構成は普及品のパソコンと同じです。量子コンピュータは、全く異なる原理で構成されています。それぞれに得手、不得手があり、量子コンピュータの能力が発揮されるのは特定の計算処理に限られます。さらに量子素子はきわめて脆弱で、演算を繰り返すうちにエラーが生じるという課題があります。これを解決するには20年はかかるといわれており、「組み合わせ最適化問題」に特化した「量子アニーリングマシン」を除いては実用化の見通しはたっていません。それに対して、スーパーコンピュータにはあらゆる分野に対応できるという長所があり、すでに多方面で活用されています。
また、量子コンピュータは小型で、冷却装置を含めても電力消費はきわめて小さいというメリットがあり、環境性能という点では量子コンピュータに軍配があがります。
コンピュータの世界はどうなる?
量子コンピュータは従来型コンピュータの上位互換であり、いずれは特定分野に限定されない万能型の量子コンピュータが普及する時代が来るでしょう。現在は、コンピュータの進化の過渡期であるとも考えられ、そのプロセスで、誰もがスーパーコンピュータを持ち歩ける時代がやってくるかもしれません。
一方では、突出した技術が悪用されるケースもあります。現在、セキュリティとして普及している公開鍵暗号方式は、理論的には演算で特定できるものですが、その計算処理には膨大な時間がかかります。つまり、公開鍵暗号方式は計算量的安全性によって担保されていますが、完全な秘密通信とはいえないのです。
量子コンピュータでは、パスワードなどの解析が瞬時に行えることになり、既存のセキュリティは無意味になります。量子コンピュータの発展により、セキュリティ技術にも進化が求められます。
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