厚生労働省の『毎月勤労統計調査』によると、情報通信業の月間所定外労働時間は15.5時間となっており、全調査業種のなかで2番目に高い数値であることがわかります(※)。
日々長時間におよぶ作業のなかで、現場のエンジニアのみなさんにとって少しでも仕事の効率化、時間の短縮化につながる解決策が見いだせないものか――そのような想いから、アンドエンジニア編集部では業務で使用するデバイスに着目しました。
今回のテーマはプログラマの必須アイテム「キーボード」。秋葉原の老舗『パソコンSHOPアーク』秋葉原店スタッフの磯田 尚輝さんと松永 青泰さんに、売れ筋のオススメキーボードや、キーボード選びのポイントについてお話を伺いました。
※厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和3年分結果確報」より
英語配列で選ぶなら、Keychron K2、K3シリーズ
まずはプログラミングに適したキーボードの特徴について教えていただけますか?
キーボードの「配列」、つまり英語配列か日本語配列かという点は必ず注目してもらいたいポイントです。
プログラミングでは英語・記号の入力機会が多いため、「英語配列のほうが入力しやすい」という声をプログラマの方からよく聞きます。
キーボードも含めて、PC関連の製品は海外が発祥の地で、海外・英語文化向けに作られていることが多いのですが、当店でもやはり英語配列のキーボードが売れ筋ですね。特に最近プログラマから人気のキーボードが、Keychron(キークロン)社のK2シリーズとK3シリーズです。
Keychron K2 ワイヤレス・メカニカルキーボード White LED 英語
Keychron社のキーボードは、必要なキーと機能がコンパクトにまとまっている点が特長です。
フルキーサイズですと、マウスを使用する方にとってはキーボードの幅の分距離ができてしまい、扱いづらいという難点があります。本シリーズはコンパクトでありながら、メカニカルキーボードとしては最大級のバッテリーを搭載しているので、プログラミングの用途で使用しやすい製品だと思います。
またK2シリーズは、Windows / Mac / Linux / Unix / iOS / Androidなど、すべてのOSに対応しています。Macレイアウトのメディアキーを搭載した数少ないキーボードなので、従来のmacOSと同じメディアキーをすべて使用することができます。
またMac用とWindows用にそれぞれ3つの専用キーキャップが付属していてモードを切り替えられるため、幅広く活用していただける点が人気の理由ですね。
K2シリーズとK3シリーズではどのような違いがあるのですか?
キースイッチの高さが違います。K2シリーズはいわゆる通常の高さで、デスクトップ型のPCに慣れている人は使いやすいタイプです。K3は薄型(K2の半分の高さ)なので、ノートPCに慣れている人に向いていると思います。
疲れにくさで選ぶなら、Mistel Barocco MD770
他にオススメのキーボードはありますか?
分離型キーボードの「Mistel(ミステル)Barocco(バロッコ)MD770」もオススメです。
Mistel Barocco MD770 英語US配列バージョン Cherry MX
こちらの一番のオススメポイントは、疲労の軽減につながるという点です。
直線状のキーボードですと前に肩が入る姿勢になり、肩こりや首の痛みなどが生じやすくなります。長時間にわたるプログラミング作業はどうしても体への負担が大きいですよね。
Baroccoはキーボード自体が左右に分離できるので、ご自身の体格に合わせて広げ方や傾斜の付け方をカスタマイズすることができ、肩や腕を広げた自然なフォームでのタイピングが可能となります。
疲れにくいキーボード、まさに本コラムの趣旨にもぴったりですね!
キースイッチで選ぶなら、ARCHISS Maestro2S
松永さんのオススメはいかがですか?
私自身もプログラマとしてプログラミングを行っているのですが、ARCHISS(アーキス)社のMaestro(マエストロ)2Sが使いやすくてオススメです。
ARCHISS Maestro2S メカニカル スペースセービングフルキーボード CHERRY MX
本製品の一番の特長は、テンキーレスサイズなのにフルキーボードというところです。
プログラミング言語によっては数字のタイピングが多いのでテンキーがあったほうが作業しやすいのですが、フルサイズですと大きくて扱いづらく感じることがあります。Maestro2Sはコンパクトかつテンキー付きという点が魅力ですね。
さらに、配列は英語・日本語どちらも選ぶことができ、スイッチもCHERRY MXスイッチ7種のなかから選択できます。
オフィスで利用される場合、タイピングの音が気になるという方がよくいらっしゃいますが、この商品は静音性の高いスイッチも選ぶことができます。ストロークなども含め使用者の方の状況や好みに合わせて選べるメリットがありますね。
いまCHERRY MXスイッチという話がありましたが、キースイッチを選ぶ観点は「軽く流れるようにタイピングできるスイッチか」「重たくて反発力の高いスイッチか」の二つに分けられると思います。
前者については、赤軸・銀軸が代表的です。赤軸はクリック感が少なく軽いキータッチが特徴のスタンダードなスイッチですが、若干押し込みが必要となります。より流れるようなタイピングを行いたい方は、キー入力の位置が浅く高速入力が可能な銀軸が適しています。銀軸はゲーミング用キーボードによく搭載されていますね。
後者については、主に黒軸と青軸がありますが、黒軸は赤軸のバネを強くしたような押し心地で、青軸はクリック感が強くカチカチという音がなる点が特徴ですね。
なるほど、軸の色によって打鍵感がだいぶ異なるのですね。どのキースイッチを選ぶかは、実際に触ってみて自分に合うタイプを確かめてみるのが一番ですね。
そうですね。押し心地もそうですが、静音性にも差が出てくるので、ぜひいろいろ試しながら検討されるとよいと思います。
キーボード選びでこだわりたい3つのポイント
まとめると、キーボード選びのポイントは大きく3つです。
1つめが、最初にお話しした「配列」。2つめが、いまお伝えした「キースイッチ」。そして3つめが、「キーボード本体の重量感」です。
3つめの重量感については、キーボードの素材によるところが大きいのですが、プラスチックなどの軽い素材でできている商品ですとどうしてもすべって動いてしまったり、打鍵の位置がずれてしまったりといった弊害があります。一方で、アルミや鉄などの金属素材を用いたキーボードはどっしりしていて打ちやすいという声をよく聞きますね。
ちなみに重量の目安はどのくらいなのですか?
フルキーボード(テンキー付きキーボード)の重量は大体1kgが目安と言われています。1kgを超えると鉄板などが敷かれていて、安定感のある押し心地になりますね。
自作キーボードの場合、キースイッチを付けない状態で2kg程度あることも多いのですが、市販品と比べてもだいぶタイピングの感触がよくなりますね。
素材の違いは価格の差にも表れそうですね。
はい。やはり原材料費、加工費のコストがかかっている金属素材のほうが値段は高くなりますね。
一般的にキーボードの価格は1~2万円がボリュームゾーンかと思いますが、高価格帯のキーボードではどのようなものが人気ですか?
静電容量無接点方式と呼ばれるキーボードですね。先ほどお話した赤軸、青軸などのキースイッチとはまったく違うしくみで作られた、電気の力を利用して入力するタイプのものです。
金額は3万円を超えるものもありますが、打鍵感と耐久性に優れていて、とにかく構造がしっかりしている点が高い評価を得ているポイントです。代表的なものでは、東プレ社のREALFORCE(リアルフォース)や、PFU社の Happy Hacking Keyboard(ハッピーハッキングキーボード)があげられます。
静電容量無接点方式のキーボードも疲れにくいというメリットがあり、プログラミングに適していそうですね。ところで、アークさんはゲーミング用のデバイスにも強いと伺いました。
たしかに当店はゲーミングデバイスが充実しており、そのような用途でご来店されるお客様も多いのですが、ゲーミングと名の付いている商品も実はプログラミングへの適合度が高いんですよね。
ゲーミング用、すなわち高性能・高品質ということなので、ゲーミング用キーボードをプログラミングに使用していただいても何も問題ありません。むしろ普段ゲーミング用キーボードに慣れている方は、プログラミングの用途で使ってみてもよいのではないでしょうか。
使用感や慣れといった部分もキーボード選びのポイントと言えそうですね。
各キーボードの特長や強みを参考に、ぜひご自身に合うキーボードを見つけていただければと思います。
<取材後記>
プログラマの必須アイテムとも言えるキーボード。今回ご紹介したのは実際の店舗で売れ筋の、人気の高い商品がメインですが、さまざまな種類の商品のなかから“疲れない一台”“作業効率化につながる一台”と出会うためのヒントにしていただければ幸いです!
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