専門知識を持ったアドバイザーがIT・Webエンジニアの転職をサポートする「マイナビITエージェント」ですが、IT領域をトップとして束ねているのが統括部長を務める吉田陽子さんです。
吉田さんは、2008年から15年間にわたってIT領域のキャリアカウンセリングに携わり続け、IT産業の発展に貢献してきました。
今回は、日本のIT業界の課題や求人ニーズの変化、これからのIT・Webエンジニアに必要とされるスキルなどについて語ってもらいました。
また、一児の母として子育てと仕事を両立するワーキングママとしての吉田さんの働き方も併せて紹介します。
(※IT・Web業界の最前線でエンジニアと企業の架け橋となってきた吉田さん。特に、時代とともに変化してきた「エンジニア求人ニーズの移り変わり」、また、「今まさにエンジニアが身に着けておきたいスキル」について語っていただいた内容はエンジニア必見です。それぞれ目次の2、3からご覧になれますのでぜひご一読ください)
「IT領域でのカウンセリングスキルを高めたい」とマイナビエージェントへ
まずは現在に至るまでのご経歴をお聞かせください。
2006年に別の人材紹介企業に新卒で入社し、IT領域のCA(キャリアアドバイザー)として転職サポートを中心とした業務に携わりました。
ITエンジニアのキャリアカウンセリングを担当する中で、「IT業界」と一口で言っても開発系からインフラ系、メカトロ系、Web系はじめさまざまなジャンルの会社があり、それぞれ異なる人材ニーズがあることも分かって、IT業界の奥深さを感じるようになりました。
そこで、「もっとIT領域でのカウンセリングスキルを磨きたい」という思いが募り、2008年11月に、マイナビが子会社として設立した毎日キャリアバンク(現在はマイナビと統合)へと転職したのです。
マイナビエージェントと前職との違いはどこに感じましたか?
毎日キャリアバンクは、マイナビ本体から分社化したばかりでとてもフレッシュな組織でした。当時は全体で50名程度、IT領域のメンバーに至っては10名未満と小さな所帯でしたね(笑)。
そんな中、「自分たちがこの新たな事業を成長させていくんだ!」という強いチャレンジ意欲を掻き立ててくれるような雰囲気に満ちあふれていました。
毎日キャリアバンクはマイナビと統合した後、マイナビの人材紹介事業の中核である「マイナビエージェント」として人材紹介大手へと成長を遂げ、吉田さんもIT領域のトップになるわけですが、マイナビエージェントでの働き方についてはいかがでしょうか。
私は一児の母として、2歳の子供を育てながら仕事を両立する、いわゆるワーキングママですが、当社はそうした社員をサポートする制度が充実しているので、無理なく子育てと仕事を両立することができています。
中でも大きいのは「時短勤務制度」と「時差出勤制度」ですね。
時差出勤制度、時短勤務制度を利用し、子供を保育園に迎えにいくなどライフステージや子育ての変化に応じてワークスタイルを変えながら仕事ができるのは本当にありがたいです。
また、社内には私と同じような子育てと仕事を両立するワーキングママも多く、そうしたワーキングママ・パパ向けの情報交換ミーティングなども定期的に催されているのもありがたいポイントですね。
「新ビジネスの創出」を目的としたエンジニアの求人ニーズが増加
吉田さんは、15年間にわたってIT領域のキャリアカウンセリングに関わってきたわけですが、この期間にIT業界はどのように変化してきたと感じていますか?
私が入社した2008年11月はリーマンショックの直後でもあり、IT業界に限らずすべての求人市場が大きく冷え込んでいた時期でした。
その後、リーマンショックが収束に向かい、それにともなって2011年あたりから景気が上向きになり、さらに2016年あたりから本格的にIT領域の求人ニーズが高まっていきました。
リーマンショック以前は、どちらかというと「社内の業務を効率化するためにシステムを導入していこう」というニーズが主だったのですが、2016年あたりからは、そうしたニーズに加え、「ITを利用して新しいビジネスを創っていこう」という新しい潮流が生まれてきたように感じます。
従来の「IT人材が欲しい」というベースに、「新しいビジネス創出をにらんだIT求人」というニーズが加わっていった感じですね。
さらに、Web領域のエンジニアの求人ニーズも急速に高まっていきました。
PCだけでなくスマートフォンやタブレットをはじめとしたスマートデバイスの普及により、次々と新しいWebサービスやテクノロジーが生まれ、それを用いたサービス開発や提供を行う会社が増えていくことで、Web領域の求人需要が大きく拡大していったのです。
そこで2018年9月、マイナビエージェントの中にもWeb領域専門のチームを立ち上げました。
Webは新しい領域であり、急速にテクノロジーが進化する世界ですので、キャリアカウンセリングにおいても、高度な技術要件への理解にもとづく情報提供やマッチングが求められます。
Web領域に特化したチームを発足させることで、お客様からのニーズに高いレベルで応えられる体制を整えることにしたのです。
IT・Web領域におけるニーズの高まりの背景には、国のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進なども関係していると思うのですが、日本のITの課題は何だと感じていますか?
アジアにおけるIT先進国である中国や、エストニアに代表される欧州のIT先進国と比べると、日本のITは「国の推進力」という点で大きく異なります。
例えば中国では、深セン(王編に川)をはじめとした経済特区を設けて外資系企業を誘致してIT分野の発展の土壌を整えたり、そこに海外留学などでビジネススキルや技術を磨いた人材が戻したりして、IT産業を牽引するという好循環が生まれました。
また、欧州のエストニアでは、コンパクトな国土と人口規模という条件を活かし、国が主導して、行政はもちろん国内のさまざまな分野のIT化を進めてきました。
両国に共通して言えるのは、国が強力なリーダーシップを発揮してDX化やデジタル化をリードしていることです。
日本でも2021年9月にデジタル庁が発足し、それを機にDX化推進への動きが加速していますが、中国やエストニアに代表される世界のIT先進国と比較すると、「国の牽引力」がやや欠けているように感じます。
「国を挙げてのDX化に対する風土づくり」が、これからの日本の課題ではないでしょうか。
エンジニアのスキルは「高い技術力」に加え、「マネジメント能力」も重視される時代に
現在のIT・Web業界の状況について教えてください。
まずWeb領域では、デジタル決済やECサイトの普及、紙の資料の電子化、eKYC(※)などをはじめ、さまざまな分野でデジタル化が進められ、それにともないWeb技術も大きく進化しています。
(※「electronic Know Your Customer」の略称で、オンライン上で本人確認を完結するための認証技術)
例えば、今ではスマートフォンひとつでキャッシングからインターネットバンキング、決済まですべてを行えるようになっています。
アパレルなどの買い物にしても、以前はリアル店舗へと足を運んで実際に服を手にとってショッピングを行っていましたが、今ではECサイトでカラーシミュレーションやバーチャルフィッティングを行って購入するのが当たり前になりつつあります。
一方、業務系のIT領域では、スマートデバイスの普及によってネットワーク上を流れるデータ量が爆発的に増えたことで、さまざまな企業がビッグデータ分析を通じたデジタルマーケティングやデジタルプロモーションに本腰を入れるようになりました。
さらにIoTの進化などにより、さまざまな分野でAIや機械学習などの技術へのニーズが急速に高まっています。
そうした変革の中でどのようなエンジニアが求められているのでしょう。
先ほど申し上げたように、Web技術は急速に変化・多様化しています。
それに伴い、Web領域では、エンジニアも従来のような「ある技術に特化したスペシャリスト」から、「幅広い技術要件に対応できるエンジニア」へのニーズが高まっています。
例えば、開発目的に応じて複数の言語やフレームワーク、クラウドサービス、ネットワーク技術を柔軟に使い分けられるようなエンジニアが、今後、より強く求められていくことでしょう。
一方、業務系のIT領域についても先ほど申し上げた通り、ビッグデータ分析を通じたデジタルマーケティングやプロモーション、ビジネス創出などさまざまな利活用のほか、各分野でAIや機械学習などの活用が始まっています。
そのため、これからはビッグデータをより高度に活用するためのデータサイエンティストや、AI・機械学習エンジニア、さらにはデジタルマーケティングの視点を持ったエンジニアへのニーズが高まっていくと見ています。
また、高度な技術力を持ちながらマネジメントもできる人材もより強く求められていくでしょう。
以前なら「マネジメントが行えるのならば技術は必要ない」というような求人も多かったのですが、これだけ世の中の隅々までIT化が進んでくると、マネージャーでも高度な技術要件に対応できなければ仕事にならないケースが増えているからです。
そうしたエンジニアになるために必要なキャッチアップの方法を、ぜひ「アンドエンジニア」の読者の皆さんに向けて教えてください。
今はオンラインのプログラミングスクールがたくさんあるので、習得したい言語やツールに合わせて学ぶことができます。
もっと手軽な学習方法としては、「Qiita」や「GitHub」などのプログラミングに関するノウハウやプログラムコードを共有するようなコミュニティを利用して学ぶのも手です。
無料で利用できることはもちろん、多種多様なプログラミング言語についてのノウハウが共有されているので、初級者から上級者まで幅広く利用できます。
また、「paiza」のようなITエンジニア向けの教育サービスを利用するのもいいでしょう。Web上にはたくさんのITエンジニア向け教育サービスやコミュニティがあり、手軽に学ぶことのできる環境が整っています。
さらに「YouTube」のような動画共有サービス上には、プログラミング講座のような動画が豊富にアップロードされているのでそれを利用したり、プログラミング学習をテーマとしたSNSを利用したりして学ぶのもおすすめです。
いずれも無料で利用することができることを考えると、現代は「学ぶ」ということに関して、本当に恵まれた環境が整っていると感じますね。
そうした環境があるからこそ、これからのエンジニアは、「教えてもらう」から「自ら学ぶ」という姿勢が一層重要になってくるのではないでしょうか。
ぜひ読者の皆さんが転職という形で新しい挑戦をされる際には、「マイナビITエージェント」にご相談いただけると嬉しいです。
(編集後記)
吉田さんの「日本のIT業界に欠けているのは国の牽引力」というご指摘には、15年間IT・Webエンジニアの転職市場を最前線でご覧になってきた上での強い思いが感じられました。
20世紀後半にエレクトロニクスで世界をリードした日本に、なぜGoogleやAppleのような世界を牽引するような企業がIT業界には現れないか、という疑問への大きな解答の一つだと思います。
一方で、IT技術の活用について、「単なる業務効率化のツール」から、「新しい技術の創出」へとニーズが変化しているというお話には希望がもてました。
日本においても、IT技術を活用した新しい事業が次々と生まれている、そんな状況が目に浮かんだからです。
今回のインタビューが、エンジニアの皆さんの新たな道を切り開くきっかけになることをアンドエンジニア編集部一同願ってやみません。
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