エンジニア・研究者が再びプロモデラーを目指す - 「好きなこと」を持続的な事業にするために考えたこと【寄稿:まつもとりー】
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エンジニア・研究者が再びプロモデラーを目指す - 「好きなこと」を持続的な事業にするために考えたこと【寄稿:まつもとりー】
松本亮介(まつもとりー)
2021.09.01
この記事でわかること
エンジニアリングや研究で培ったスキルを他の分野で活用すること。
趣味と仕事を同列のものにし、人生を楽しむこと。
まつもとりーさんのプラモデル沼。

こんにちは。松本亮介と申します。インターネットやSNS上では「まつもとりー」と呼ばれることが多いです。

わたしは、インターネットやWebサービスの基盤技術に関するエンジニアを経て、現在はインターネット基盤技術について研究をしている研究者です。また、複数の企業において、事業組織の改善や事業・プロダクトマネージメント、技術的課題、技術ブランディングなどに関するアドバイス活動に技術顧問として取り組んでいます。これまでの実績は、松本 亮介(まつもと りょうすけ)の研究・開発業績ページに書いています。

そんなわたしが、本稿でテーマとするのは「プラモデル製作 / プロモデラー」です。エンジニアリングでも、インターネット基盤技術でもなく、プラモデル。この時点で頭の中にはてなマークが出ている読者もいることでしょう。実はわたしは、2018年ころより、かなりのリソースをプラモデル製作に投下してきました。本稿ではなぜわたしがプラモデルに傾注するのか、その理由、経緯、思いなどをお伝えしていこうと思います。いたって本気で本稿を書いておりますが、まずは面白半分に読んでいただければと思います。

実はこの写真は僕の作業場です。

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エンジニアリング、研究、そしてプラモデル製作を行う部屋の様子です。

この記事も以下の写真の机で書いています。

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作業部屋を別の角度から。このスタンディングデスクで研究開発しています。

  1. 「趣味」と割り切り、自分の気持ちに蓋をする後ろめたさ

2008年あたりから2018年まで、とにかくエンジニアリングと研究に没頭してきました。さらにさかのぼり、大学生であった2005〜2007年あたりも、多数のサーバを置いたデータセンターかのような自室で遊んでいました。さまざまな「技術」が常にわたしの傍らにありましたが、特に深くのめり込んだのは、課題解決や新しいテクノロジーを生み出すためのプログラミングでした。わたしにとって、最初は課題解決の手段という位置づけにすぎないプログラミングでしたが、徐々にそれ自体におもしろさにを感じるようになっていったのです。また、プログラミングを「ひとつのソフトウェア」にまとめ上げ公開し、他者に使ってもらいフィードバックを得て、自身がつくったソフトウェアがよりよいものへと洗練されていくプロセスも、自分にとってとても気持ちよく、刺激的なものでした。

その結果、2014年には第9回日本OSS奨励賞を受賞し、また、より深く技術を突き詰めるべく進学した京都大学大学院情報学研究科では、2017年5月に京都大学博士(情報学)も取得できました。

このように、それなりにキャリアを築いてきた自負がある一方で、ゲームやプラモデルといった、「エンジニアリングや研究以外で人生で取り組んできたもの」とはかなり疎遠になっていたのです。「まあ、これらは趣味だから仕事が忙しければ疎遠になるのも仕方ない」と思い込むことで、気持ちを落ち着かせようとする自分がいました。

小学生の頃から最も時間をかけたゲームとプラモデル

ゲームとプラモデルは、わたしが小学生のころから自主性を持って傾倒してきたものでした。特に格闘ゲームに熱中し、ゲームセンターで大人にまぎれながら、ストリートファイターや餓狼伝説、龍虎の拳といったシリーズを夢中でプレイしていました。大学生になると週7でゲームセンターに通い、強者が集まるゲームセンターに遠征するほどの没頭ぶりで、いつしか、ゲームセンターのKOF98の大会で優勝したり、全国大会に出場できるような腕前になっていったのです。

ゲームと並行して、プラモデルも小学生のころからたくさん作ってきました。誕生日などでは必ずといっていいほどプラモデルを買ってもらい、ガンプラや戦艦、歴史的建造物といった、さまざまなプラモデルを夢中で組んでいました。小学校低学年のとき、兄と一緒に片道10kmの山道を歩き、SD戦国伝の闇皇帝((SDガンダム BB戦士というプラモデルシリーズの1体))を買いに行ったことを、いまでもはっきりと覚えています。

プロゲーマーを簡単に諦めた過去

大学までに人生で一番真剣かつ継続的に取り組んだのはゲームとプラモデルといっても過言ではありません。ですが、就活の時期になると、当たり前のように周りや社会に流され、ゲームやプラモデルを仕事にする、なんてことは視界から消えていきました。「ゲームはどうせ趣味」。こう考えるようになると、熱量は徐々に失われ、いつしかゲームセンターに行くことすらなくなっていったのです。

その後、就職し数年たったころ、かつてわたしと同じように格闘ゲームをプレイし、全国大会で顔を合わせていた人たちが、プロゲーマーとして活躍し始めている、と見聞きするようになりました。こうしたニュースに触れるほどに、わたしの心はざわつき、かつての自分の考えの浅さに、押しつぶされそうになっていたのです。

ゲームだけでなく、プラモデルも同じでした。「プロモデラーになど、わたしはなれない」と勝手に思い込み、人生の選択肢からも簡単に外していたのです。いま振り返ると、当時のわたしには、「好きなこと」への覚悟や情熱が足りなかったのでしょう。むしろ、「好きなこと」を趣味として処理することが、理性的で賢明な選択だとさえ思っていたのです。

やりたいことを諦めた後にとにかく心身削って学び続けた10年

ゲームやプラモデルづくりからから遠ざかる一方で、エンジニアリングや研究にどんどん没頭していく自分もいます。高い技術を持つ先達の背中を追いかけ、毎日のように朝まで課題解決のためにコードや論文を書き、成長が実感できる日々に快感や楽しさを感じていることに気付きます。コードを書いて作り上げたソフトウェアや、研究を進めて得られた新規性や有効性をまとめた論文などのアウトプットを、いつからか自分の「作品」と感じるようにもなっていたのです。

  1. 転職後、自分の幸せを見直し再びプラモデルへ

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2018年に製作した「MG 1/100 MSN-06S シナンジュ・スタイン Ver.Ka」です。当時は説明書通りにいかにちゃんと作るかにこだわっていました。

心身を削りプログラミングと研究に励む10年を経て、わたしにも転機が訪れました。現在の職場である、さくらインターネット研究所に転職し、比較的ゆっくりとマイペースに研究に取り組める環境を得たのです。いくらか時間に余裕ができ、改めて「自分の幸せはなにか?仕事ってなんなんだろうか?」と考えるようになっていったのです。

プログラミングや研究は確かに好きなことであり、これから先も生きがいにしていきたいと思える対象です。しかし、その生きがいのために「趣味」の優先度を低くしたままでいいのか。仕事が忙しければ「趣味」に時間は割けない、と仕事と趣味が主従関係にあることが本当に自分にとって幸せなのだろうか。こんな疑問が次々と生まれます。

プログラミングや研究は仕事でありながら、趣味同様、「好きなこと」として10年にわたり時間やお金を投じることができました。なぜ仕事に関しては熱量を維持し、継続的な取り組みにできたのか、と考えると、仕事のなかに、「わたしと社会、相互の価値提供」を見出していたからだと思います。仕事で得られる成果をソフトウェアや論文という形で社会に提供する。提供するから、社会からフィードバックや、ときに評価という形で、わたしにも価値が還元される。そうして得られた価値を、わたしの次なる仕事に回す。とても単純なサイクルですが、こうしたサイクルがあったからこそ、「趣味」のように仕事を楽しみ、「もっとスキルを向上させて、より良い価値を提供したい」と、モチベーションも保たれていたのでしょう。では、こうしたサイクルは仕事でなければ生み出せないのか。もしかしたら、「趣味」として片付けていたものであっても、同じように価値提供のサイクルを作れるのではないか。自分の好きなこと諦めない人生を創出できるのでは。こんな風に考えるようになっていったのです。

好きなことを、持続的な事業として捉える

例えば、YouTuberの方の活動は、特徴的な生活や活動で人々を楽しませ価値提供し、自身にその対価が還元されていると解釈できます。わたしを仕事に没頭させた「価値提供のサイクル」と同じと言っていいでしょう。

わたしが「趣味」の優先度を下げてしまったのは、YouTuberのように趣味を通じて社会に価値提供できず、また、提供するための手段が揃っていなかったという要因があるでしょう。しかしいま、ありきたりな情報が蔓延して刺激が薄れつつある時代にあって、人々のこだわった趣味こそ、多くの人を楽しませ、価値を提供できるかもしれません。また、SNSや動画配信など、こだわりを伝えるための手段やツールも身近です。「趣味」を通じて、仕事と同じように「価値提供のサイクル」を生み出す下地は整ってきています。

仕事と同じアプローチをとる。つまり、趣味を事業として捉えれば、そこに時間とお金をかけて継続できるはずです。仕事よりも後回しにしてきてしまいましたが、趣味をこれからの人生で十分に楽しんでいける事業のように取り組みたい。「仕事」と「趣味」を同列に扱いたいと構想するようになっていったのです。

構想を実現するべく、自分の時間の使い方も再検討し、仕事においては時間に縛られないような働き方を選択したのです。「仕事」同様、「趣味」に時間を投じ社会への価値提供を行う。これを実現させていくプロセスでは、エンジニアリングや研究にとにかく励んできた10年間が自分を多いに助け、決して無駄な時間ではなかったことにも改めて気付かされました。

  1. エンジニアリングと研究の手法をプラモデルに応用する

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こちらも2018年に製作した「MG 1/100 MS-06S シャア専用ザク Ver.2.0」。表面処理や整面処理を勉強して塗装後の表面が綺麗になることを意識した作例です。

ゲームとプラモデルという二つの選択肢があるなかで、まずはプラモデルに没頭していこうと思っています。なぜならば、自分が経験を重ねてきたソフトウェア開発や、研究・論文執筆といった“作品作り”とプラモデル製作には、さまざまな共通点を見出せるからです。なお、わたしは主にガンプラ(説明不要かもしれませんが、ガンダムのプラモデルのことです)を製作しており、以降は、「プラモデル=ガンプラ」という前提で筆を進めていきます。

塗装のプロセスを、コンポーネント結合に学ぶ

プラモデル製作における「塗装」は、とくにソフトウェア開発との共通点を感じるプロセスです。例えばプラモデルでは仮組みといって、一度組み立てた後、分解する工程があります。仮組みすることで「ここのディテールを作り込んでいこう」「ここは、こんな感じの色を塗っていこう」といった方向性を見定めます。

この工程は、さながらソフトウェア開発におけるコンポーネント結合です。いざコンポーネントを結合させていみると、思ってたように動かなかったり、「実はこの実装は、全体としてはあまり性能が要求されないところだから、違う実装を検討すべきでは」といった、思わぬバグや改修箇所が見えてきます。また、実は不要なコンポーネントが存在していた、といった結合前には見えていなかったことに気づけたりします。

各コンポーネントを実装していたり、その実装の細部フォーカスしているだけでは見えてこない、ソフトウェア全体にわたる実装方針と各コンポーネントの改修案が、結合によって改めて検討されだすのではないでしょうか。仕様書の時点ではなかなか想定できなかった問題も見つかることで、仕様へのアップデートを書けることもあるでしょう。

プラモデルの仮組みで得られる視点は、これに似ます。すべてのパーツを“結合”し、完成状態と同じポーズを再現すると、パーツがバラバラの状態ではわからなかった、「よく見える部分、あまり見えない部分」が明確になります。また、ただの直立ポーズではあまり見えなかったであろう間接部分が、実はしっかりと露出する、といったこともわかります。さらに、仮組みをすることで、事前に自分が思い描いていた塗装のイメージが実は違っていた。各パーツ本来の色よりも、もっとこういう色にしたほうが良い、といったアイデアが生まれてきます。自分のなかにあった当初の仕様が、仮組みによってアップデートされるのです。

わたしは仮組みのフェーズで、サーフェイサーという下地塗料を複数色しっかりと塗り、分解後のバラバラのパーツであっても外から見える部分がどこになるかを認識できるようにしています。

このように、プラモデル製作にはエンジニアリングを通じて得た、さまざまな考え方を適用することができました。また、以下エントリには他の観点についてもいくつか述べていますので、ぜひご一読ください。

ガンプラの全塗装プロセスは現代のソフトウェア開発プロセスそのものであると気づいた - 人間とウェブの未来

研究で培った手法でプラモデル製作のフローを可視化する

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こちらは2019年に製作した「MG 1/100 RX-78-2 ガンダムVer.3.0」です。、金属の質感表現、自分の解釈による20以上の塗り分けなど、わたし独自のディテールを複数取り入れることに挑戦した作例です。ブラックライトを当てると装甲の一部が発光したりします。

わたしはソフトウェア開発や論文執筆をする中で、自動化できるところはどんどん自動化する、あるいは、人の判断なく機械的にできる領域を増やす、というスタンスを大事にしてきました。そうでないと、本来自分が時間とスキルを投じるべきポイントを、見誤ってしまうと考えているからです。例えば、サーバの内部の設定や、複数のサーバノードをシステムとしてデプロイするにも、かつては、自分でサーバを立ち上げたうえで手動で設定し、お手製の設定ツールを流したりすることで対応していました。

ですが、現在ではそういった設定やデプロイはすべてコードで管理しており、必要なコードを変更すれば自動的にその変更が実際のサーバやシステムに適用されるようになっています。こうした自動化の整備は、「自分がラクになる」以外に、後進の方の理解を助ける、という効果もあるでしょう。自動化を実現する実装コードやデザインドキュメントは、初学者の方にとって「自動化の仕組み」を学ぶ教材にもなるわけです。

このような経験から、プラモデル製作においてまず取り組んだのは、「どんな作業をすると、どのような結果が得られるのか。その作業を“当たり前”にこなすためには、なにが必要なのか」の調査でした。プラモデル製作には、本当に多くの情報があふれており、ある一定の理解までにかなりの調査が必要でした。

また、ある作業が完成品のクオリティにどの程度影響するか、という点についてもあまり定義されていないこともあり、実際にどのようなプロセスと機材が必要で、どの程度まで作業すればよいのかという点を理解するのもかなり苦労しました。

そこで、自分は研究者であることと、同じインターネット技術に関するさくらインターネット研究所の研究者仲間で、プラモデル製作を得意とする菊地さん、後進への情報提供の意図から材料工学に関する実験を電子ノート化し公開している熊谷さんとともに、プラモデル製作の電子実験ノートの整備を始めました。

さて、プラモデル製作フローの電子実験ノートですが、その一部は現在、以下のように整備されています。

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開発中の電子実験ノート。プラモデル製作のフローを整理しています。

プラモデルを完成させるまでに必要な「プロセス」や「機材」などを、フロー図として整理しています。さらに、それぞれの機材や塗装の手法、各種処理などについては、必要とされる機器のメーカや機器のタイプ、機器をどのように使うか、例えば、エアブラシの圧力や塗装対象との距離、経口サイズ、塗料の希釈比率、湿度、処理の前後の比較写真などを記載し、これを見れば「この設定でこのようにやれば、このようになる」といった情報をストックしています。また、定量評価が難しい工程の場合は、その工程前後の写真を比較閲覧でき、どう変わればその処理が達成できているかの目安も示されます。例えば以下のようにサーフェイサーの項目をクリックすると、その横に詳細が出てくるようになっています。

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電子実験ノートに記載された作業項目を触ると、その内容が閲覧できます。

電子ノートは、まだまだプロトタイプとして研究中ですが、このノートを見た別の人がノートのとおりに作業を行うことで、「大体似たようなクオリティのプラモデルが制作できる」という状態にすることを目標にしています。ノートの情報をもとに製作すれば、あまり悩むことなく一定のクオリティのプラモデルに到達できる。そのうえで、個人の力量やオリジナリティが出る場所はどこなのか、といった議論や検討も、よりやりやすくなるのではないかと考えています。

この電子ノートは、プラモデル製作だけでなく、さまざまな用途に使えるようものにしたいと考えており、プラモデル製作のプロセスは電子ノートサービスそのものをブラッシュアップしていくサンプル材料としてのメリットもあります。また、菊地、熊谷両氏が熱意を持って活動に取り組んでくれることが、わたし自身のモチベーションを刺激してくれる側面もあります。

プラモデル製作環境を整備する

プラモデルのクオリティを追求するためには、事業同様、環境整備への投資も必要になってきます。以下では、エンジニアリング・研究と並行して整備した、プラモデル製作環境を簡単にご紹介します。

塗装ブース

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塗装ブース。右に積まれた箱は塗装ベースといって、塗装や乾燥の際に、パーツを保持してくれる道具です。

塗装ブースもいくつか試してきたのですが、やはりエアブラシの吹き返しが室内にかなりの塗料を散布させることに気づき、吹き返しを上部から廃棄するGATTOWORKSのネロブースに落ち着きました。シロッコファン(円柱状のファン)と150mm経口の排気ダクトのおかげで、室内にはほぼ塗料の匂いなどの影響がなくなりました。

塗料

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塗料はケースに入れて整理しています。

最近はキャンディ塗装などの重ね塗りの練習や、さまざまな素材の質感表現を試しており、塗料は随分と増えてきました。今はメタリックやクリア系塗料が好きで、ガイアノーツ社のスターブライトアイアンという色は特に気に入っています。また、下地にするサーフェイサーも沢山の色があるので、黒をベースに色々な質感を表現できるように何色か揃えています。注目して使用している塗料は同じくガイアノーツのプリズムブルーブラックです。この色は過去、限定で販売されていましたが、最近ではレギュラー商品として購入できるようになり、もともと紺色がすごく好だったわたしは、すぐに予約して購入しました。いまはこの色を使い、質感などを試しているところです。

キャンディ塗装の作品例は、以下のようにYouTubeにあげていますので、ぜひご覧ください。

工具

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気付くと増えている工具たち。

よい作業のためには工具はやはり大事で、定番とされるものを使用しています。BMCタガネやドリルビットやスピンブレードなど(上写真上段、下段右の工具)は、ゴッドハンド社のもので、非常に高品質で使いやすいものが多いです。これら工具はプラモデルを削り立体感を出すといったディテールづくりに欠かせないものですが、作業はなかなか難しく、最初はプラスチックの板などで練習を重ねました。ニッパーも、ランナー(パーツを保持している枠)から切り出す先細薄刃ニッパーや、ゲート(ランナーとパーツをつなぐ部分。切り離した際に生じるバリを削り、きれいな面をつくりだすことを、ゲート処理と呼ぶ)をきれいに処理するためのアルティメットニッパーの2種を使用しています。また、細かいゲート処理の際は、デザインナイフも使用します。アルティメットニッパースピンブレードが特にお気に入りです。

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プラモデル製作では、ほんとうにさまざまな形状、材質のヤスリを使います。

プラモデルは金型にプラスチックを流し込んで冷やしてランナーを作る特性上、ヒケ(へこみ)やパーティングライン(バリのような余剰)といった凹凸があり、これらを処理しきれいな面をつくる必要があります。また、ガンプラのパーツは複雑な形をしていますが、入り組んだ部分でもうまく凹凸を削りだせるよう、様々な材質、形状のヤスリを用意しています。布やスポンジ、スポンジでも薄型で曲がりやすいもの、表面の面だしをするための硬めの板型、金属製の細いものから広い面積を削るものだったりと、パーツの場所や形状に合わせて使い分けます。ゴッドハンドの「神ヤス!」シリーズは言わずもがな、最近では、シモムラアレックのステンレスヤスリぐるぐるBARが金属ヤスリでありながら繊細に削れるので重宝しています。

エアブラシシステム

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手前がタミヤ、奥に見えるのがクレオスです。

エアブラシはこれで3代目なのですが、5mmと3mm口径のものを主に使っていて、定番のタミヤやクレオスの製品を選んでいます。メタリック塗料だったり、大きな面積に一気に吹きたいときは5mm、それ以外の細かい塗装などでは3mmを使うようにしています。最近、エッジの部分など細く塗装する機会が増えてきたため、2mmの口径のエアブラシも使い始めています。

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エアブラシに空気を送り込むエアコンプレッサーも塗装時に欠かせないアイテムです。

エアーコンプレッサーはツールズアイランドの製品を使っています。価格的にも1万円前後と手頃で、秋葉原にある塗装ブースレンタルのお店でも、このコンプレッサーで十分だという情報を聞き、入手しました。エア圧の調整が少しやりにくかったりはしますが、性能としては今の所十分に感じています。

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製作用ツール満載の作業部屋です。

そして、このような全体的な配置で基本的にはスタンディングデスク(上写真右)で研究やエンジニアリングをこなしつつ、ときにはガンプラ製作などを行いながら日々楽しく生活しています。この記事もここで書いています。

と、以上がわたしのプラモデル製作環境の主な機材です。他にもパテやマスキングテープ、接着剤やウェザリング系の道具、部分塗装用の筆やペンなど、細かいアイテムはここでは説明しきれないほどたくさんありますが、それはまたの機会にお話できればと思います。

  1. 夢はこれから。プラモデル製作を事業化するためには

現在はこのようにプラモデル製作のプロセスと製作環境の整備を行いつつ、数をこなしてスキルを向上させている途中です。

幸い、インターネットを活用してスキルを学ぶ環境も充実しつつあります。とくにYouTubeには先達のモデラーの方々の動画がたくさん上がっており、これらは格好の学習素材といっていいでしょう。例えば、アーリーチョップさんのチャンネルである『Chop! Factory』はガンプラ製作の手法や考え方について非常に勉強になり、繰り返し見ては、その手法を自分の製作で実践しています。特に、「ストライクフリーダムガンダム」の作例動画は大変素晴らしいです。他にも『ぷらばん Plaban ガンプラ専門番組 Gunpla Build ch』や『TOYBALL FACTORY』といったチャンネルは、オリジナリティあふれる作品もさることながら、動画そのものが面白く、非常に楽しく勉強させてもらっています。

ソフトウェア開発、研究、そしてプラモデル製作いずれも、作品づくりにおいては、スキルを高めたうえで自分のオリジナリティをどう出すか、という基本的な姿勢が必要だと思います。前提となるスキル向上のためには、継続的な作品づくりが重要になってくるでしょう。しかし、製作ペースを維持するにも、時間やお金の投下が必要になってきます。わたしの場合、エンジニアリングや研究の分野で一定の収入を確保できつつあるので、ここで得られたリソースをプラモデル製作スキルの向上に投資していくフェーズであると考えています。これもまた一つの技術投資といえるのかもしれません。

過去、わたしが公開してきたソフトウェアや論文は、世のエンジニアの方や研究者の方が研鑽を積むための参照材料として貢献してきたと自負しています。そして、そういった貢献が回り回って自分への報酬へと繋がり、報酬があるから時間と資金を投じて新たな開発や研究、スキル向上に専念できてきたと考えています。今はプラモデル製作でもこうした状況を実現するべく、さまざまな取り組みを日々行っています。

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できるだけ数をこなすべく、プレミアムバンダイ(通販サイト)で月単位でキットを予約し、どんどん組み立てていっています。

また、スキル向上だけでなく、プラモデル製作を事業として取り扱うための状況整備も行っています。「プラモデル製作=好きなこと」を事業のように持続的なものにするためには、「好きなこと」を通じた社会への価値提供と、その先にわたし自身がなんらかの対価を得られるような取り組みにする必要があります。いわば、「好きなこと」をマネタイズしていく方法を模索せねばなりません。

プラモデル製作であれば、ガンプラの大会である全日本オラザク選手権に投稿する、製作過程の動画配信や製作ガイド本の製品化、製作作品の動画配信やブログ化など、マネタイズにはいくつかの方法が思い浮かびます。みなさんがいま読んでくださっているこの寄稿も、わたしからできる価値提供であり、マネタイズのひとつの手法といっていいかもしれません。さまざまな手法にアンテナを張り巡らせ、ときに深く思考し戦略を描くことが大事になってくるでしょう。

幸い、これまでエンジニアリングや研究といった領域では、事業立ち上げ、プロダクト開発、ビジネスモデルや事業戦略設計に携わったこともあり、こうした経験やノウハウが「好きなことの事業化」にも活かせるのではないかと考えています。

また、好きなことを事業的に取り組む先達にも学ぶ必要があるでしょう。いま、わたしよりももっと若い世代の方々が、自分のやりたいこと、やってきたことをうまく仕事にしているのを目の当たりにしています。YouTubeやTikTok、Instagramなどあらゆるサービスと手段を活用して、自分たちの人生を作品化し社会に影響を与え、その対価を得て、さらに面白い作品を生み出すサイクルが描かれています。かつてこれに挑めなかった自分は、いまの時代のサイクルのなかで、作品づくりに取り組んでいる人たちから、その手法や知識を学び、自身をアップデートしていく必要があります。

作品づくりを人生にする。趣味と仕事を同列に扱う

これまで述べてきた「好きなことの事業化」とは、ある種、起業にも近い考えです。ただし、起業のタネとなっているのはビジネスアイデアではなく、プラモデル製作という、個人的な欲求です。ただ、わたしはいまの時代、もう少し個人の幸せにフォーカスした人生を模索してもいいんじゃないか、と考えています。思い返せば就職当時、社会の常識のようなものにしっかりと縛られていたわたしは、ゲームやプラモデルといった、「好きなこと」というのは仕事にならない、という感覚しか持てず、「お金が稼げそう」という条件で仕事を選択してきました。

もちろん、こうして得たエンジニアリングや研究にまつわる仕事も、自分の知見を広げてくれる、素晴らしい「好きなこと」になりました。しかし、プラモデルに本腰を入れようと考えたとき、仕事と自分の関係も再考されたのです。仕事のための自分があるのではなく、自分自身の人生を幸せにするという観点で仕事をできるのではないか。「自分自身の幸せ」を基準にした仕事は、どうすれば成立するのか。その仕事にはどのようなスキル投資が必要で、どのようなビジネスモデルを設計すればいいのか。こんな考え方もしてよいのではないかと、いまは思います。こうした思いを具体化するべく、わたしはこれまでの知識と経験を投じ、人生でやり残した「好きなこと」をもう一度やり直すべく、誇りを持ってプラモデル製作に取り組んでいます。

おそらく、多くの方が仕事に向き合いながら、所謂「趣味」に取り組んでいるのだと思います。もし、仕事が忙しくなり、「趣味」の優先度を下げねばならない場面に遭遇したとき、改めて、「そもそも自分の幸せはなんだったっけ?」「趣味としていることに時間とお金をかけられるようにするには、どういう人生設計をすべきか?」「仕事で学んできた知識を趣味にも活用することで、趣味と仕事が同列の存在になるのでは?」と、立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

仕事とは、ある意味では自分の活動を社会へ還元し報酬を得る方法を学ぶプロセスとも考えられます。「趣味」と位置づけてきたことに対して、仕事を通じて学んだ知見を適用していけば、「趣味」と「仕事」を同列に扱う道が見つかるかもしれません。ひょっとするとそんな世界はもうすでに来ているのかもしれません。

編集:はてな編集部 ©創通・サンライズ

ライター

松本亮介(まつもとりー)
大学卒業後、ホスティング系企業でエンジニアとしての経験を積んだ後、京都大学大学院の博士課程に入学。インターネット基盤技術の研究に取り組み、数々のOSS開発を手がける。その後、GMOペパボ、ペパボ研究所のチーフエンジニア兼主席研究員を経て、2018年よりさくらインターネット研究所で上級研究員を務めるかたわら、多くの企業に技術顧問として関わる。 ブログ:人間とウェブの未来(https://hb.matsumoto-r.jp/)
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