ただのAI教材じゃない!?公教育現場に武器を増やす「Qubena(キュビナ)」のUI/UX設計を徹底解剖
「働き方改革」「GIGAスクール構想」など、教育現場の効率化とICT化が求められている今。
全国100以上の自治体・1,200以上の小中学校で採用され、30万人に利用(2021年7月現在)されているのが、AI型タブレット教材「Qubena(キュビナ)」です。
Qubenaは、生徒一人ひとりの習熟度に応じてAIが最適な問題を出題するアダプティブラーニング教材。
2021年度には、世田谷区や名古屋市の全公立小中学校、北九州市の全公立中学校及び一部の特別支援学校にも教材として正式採用されるなど、教育インフラになりつつあります。
多くのIT教材が続々登場する中、Qubenaはどうやって公立学校に受け入れられたのでしょうか。普及の背景と開発のこだわりポイントについて、Qubenaを開発・提供している株式会社COMPASS 未来教育部部長の木川俊哉さんからお話を伺いました。
トライアルでの高評価が正式採用につながった
2021年度に入ってから、Qubenaは続々と公立小中学校に導入されていますよね。 さまざまなIT教材がある中で、Qubenaの導入が進んだ背景を教えてください。
多くの自治体・学校に導入されたきっかけは、千代田区立麹町中学校で行われた実証でQubenaの学習効果が認められたことです。 そこで多くの自治体や学校にQubenaを知っていただくことができました。 そして2020年から、経済産業省の「Edtech導入補助金」がスタート。
GIGAスクール構想によって、小・中・特別支援学校のIT端末普及率は95%以上になったものの、学習ソフトがまだ普及しておらず、端末を活用できない状態でした。 そのため政府は、Edtech補助金を使ってQubenaのようなAI教材や学習ソフトを無料で導入実証できるようにしたのです。
補助金があれば導入のハードルは下がりそうですね。
2020年は、Edtech補助金によって多くの自治体に使っていただきました。 そこで現場の先生方から評価され、2021年から自治体としての予算化・正式採用という流れになったのです。
先生方は、Qubenaのどのような点を評価されたのでしょうか?
評価されたポイントは大きく2つあります。生徒が自主的に勉強してくれるツールであること、そして先生が使いやすいことです。 特に「生徒が自主的に勉強してくれる」というポイントは高く評価していただけました。
テンポ感の良い学習で、「生徒が自主的に勉強してくれる」ようになった
「ナノステップ」「迷わない導線」「手書き」でテンポ感を生み出す
小中学生が自主的に勉強してくれるなんて、先生にとっては夢のようなツールですね…! でも、先生が苦労して生徒に勉強させているのが普通ですよね。 なぜ、生徒が自主的に勉強してくれるんですか?
問題がサクサク解けてテンポ感がいい状態を実現できているからです。 「問題がわからない」「使い方がわからない」といったつまづくポイントがなければ、生徒は自然と勉強に集中できるんです。
今の小中学生はスマホのゲームやアプリに慣れているので、それらと同じくらいテンポ感よく使えるように意識しています。
テンポ感を重視されているんですね。 では、テンポ感はどのように設計されているんでしょうか?
生徒にとって「無理ゲー」にならない問題を出すようにしています。 頑張れば自分で解けるレベルの問題を出すことで、勉強に没頭できるわけです。
生徒がなんとか解ける問題って絶妙な難易度ですよね…。 どうやってそんな絶妙な難易度の問題を作成されているんですか?
問題の粒度を非常に細かくすることで、どんな生徒にとってもちょうどいい難易度を実現しています。 「スモールステップ」よりさらに細かく分けていく。私たちはこれを「ナノステップ」と呼んでいます。
ナノステップ…?
具体例で説明しますね。 例えば、中学1年生が「正の数・負の数」を勉強し始めるとします。 Qubenaでは、最初の問題で温度計が表示され、「気温が0度より高いのはどちらか選びなさい」という問題が出てくるんです。
温度計なら小学校の授業で使ったことがあるので、たいていの子は正解できます。 そして、この問題の後に、「0よりも大きい数を何というか」を問い問題が出てきて、「正の数」を選ぶと正解になる。 ここでようやく、ひとつ前の温度計の問題との関連性に気付きます。
このように、教科書の説明を噛み砕いて、一つひとつ問題にしています。 そうすると、生徒は問題を解くだけで、自然と教科書の内容が理解できる仕様になっています。 いわば、教科書の行間を埋めるような細かい問題設計になっているんです。
これならつまづくことも少なくて、没頭できそうですね!
テンポを生み出すために、ナノステップだけでなく生徒が迷わないわかりやすい動線も意識しています。 普段の学習では、まず問題集とノートを出して問題を解き、終わったら自分で採点して…とやることが多いんですよね。
でもQubenaなら、学習したい節を選んでスタートすれば、その節が終わるまで自動的に出題されていき、採点まで自動でやってくれる。勉強だけに集中できるつくりになっているんです。 ボタンなども最低限にして、「どこを押せばいいかわからない」と迷わせないUIにしています。
シンプルかつ、一直線に勉強できる仕組みということですね!
加えて、解答欄に手書きで答えを記入する仕様もテンポの良さにつながっていると思います。 タイピングして入力する仕様だと、使い慣れないうちは「この記号はどこにあるのか」と悩んでしまい、問題を解く手前でつまづきます。
Qubenaは手書きだから、ボタンを探す手間は不要です。ノートに書く感覚で回答できることも、テンポ感を生み出す要因のひとつになっているのです。
問題の要素分解×習熟度付与で個別最適化を実現
AIによる個別最適化も、生徒たちの学習しやすさの大きな要因だと思います。どのような仕組みで実現しているんでしょうか?
問題が持っている要素を1つずつタグづけして、各タグごとに「理解できているか?」という習熟度を付与しています。 裏に蓄積された習熟度を踏まえて、「この子はこの要素がわかっていない」と判別し、個別最適化させているのです。こうして、問題を解けば解くほど習熟度の予測精度が高まる仕組みになっています。
例えば、分数の割り算の問題であれば「分数」「割り算」「約分」「分母を揃える」など、さまざまなタグがあります。 この問題に正解できれば、「これらのタグはすべて理解できているだろう」と判断できるわけです。
もし次の問題で分数のかけ算を間違えたら、分数は理解できているけど、かけ算は理解できていないと判断されます。そうしたら次からはかけ算を理解できるよう出題していくんです。
なるほど! しかし、算数や数学の問題では、パッと答えが出るものばかりではなく、途中にいくつか計算式を挟まなければ解けない問題もあると思います。途中まで理解しているけど不正解、という場合はどう判断されるのでしょうか?
確かに、複雑になればなるほど含まれる要素が増えていくので、どこがわかっていないかの判定が難しくなります。 そこで先ほどのナノステップが生きてくるんです。
問題のレベルを一気に上げるのではなく、タグ1つ増える程度のナノステップで出題していくので、何を理解していて何を理解していないのか、細かく確認できます。 問題の要素をとにかく細かく刻むことがポイントなんです。それによって精度の高い個別最適化が可能になります。
精度という点では、生徒がクイズのように解いて「たまたま正解したもの」を、AIが「理解している」と判断してしまわないのか気になります。
10問のテストで判断するのであれば、そういった現象は起こりうるでしょうね。そのためQubenaでは、「たまたま正解したもの」が統計上の誤差になるくらい多くの問題を解いてもらっています。 1ヶ月で1000問解いた子もいるくらいなので、理解度の精度はかなり高いはずです。
1000問!そんなに解けるものなんですね。
Qubenaは「テンポよく解けて集中できる」UI設計なので、不可能ではありません。時間をかけずにたくさん解いてもらうことで、AIの予測精度を高められています。
「直感的な操作」と「広いカバー範囲」で、どんな先生にも使ってもらるツールへ
先生のために、徹底したチューニングで直感的に使えるように
ここまでのお話で、生徒視点でのQubenaの使いやすさが理解できました。 先生視点での使いやすさはどう設計されているんでしょう?
直感的に使えるようなUI/UX、これに尽きます。 どんなサービスでも重要だと思うんですが、先生方に使っていただくためには特に重要なんです。
それはなぜでしょうか?
ひとつは、先生方は※ICT教材への慣れの個人差が大きいからです。 学校の先生には幅広い年齢の方がいらっしゃいます。必然的に、Webアプリやネイティブアプリといったデジタルなツールへの慣れにも大きな個人差があります。 中にはスマホを使っていない方もいるんです。
※主に電子黒板や教育用のタブレット端末・PCを指す。ICTは「Information and Communication Technology」の略。
シンプルで直感的に使えるツールでないと、ICT教材に慣れていない先生には使っていただけないんです。
幅広い年代の先生に使っていただくために、直感的に操作がわかる必要があるんですね。
もうひとつの理由が、先生の忙しさです。 先生って、めちゃくちゃ忙しいんです。 ですので、マニュアルを読む時間もほとんど取れません。 それでも問題なく使ってもらえるように、UI/UXはマニュアルを読まれない前提で設計しています。
すごくシビアな条件ですね…!
とにかくユーザテストを回して、結果やフィードバックを元に改良を繰り返しました。 今の仕様に辿り着くまで、フルリニューアルを3回行ったんですよ(笑)。
3回も!大変だったんだろうなと想像できます…。
さらに今年から、ブラウザ上で動かせるWebアプリに変更したんです。 これまでは、アプリストア経由でタブレットにインストールしてもらっていたのですが、それだとなかなかアップデートされなくて。
学校現場ってアップデートでアプリがうまく使えなくなった経験から、アップデートにネガティブになっている場合が多いんです。
私もスマホやパソコンのアップデートでうまく使えなくなった経験をしたことがあるので、なんとなく気持ちが分かります… 特に学校だと情シスが常備されているところも少なそうですしね。
アップデートしてもらえないと、どれだけ先生方の要望を織り込んでも反映されないので、お互いに幸せじゃないと思うんですよね。その点、Webアプリだと自動的にアップデートを反映させられて、スピード感のあるアップデートが可能になります。
私たちは今、Qubenaを毎週アップデートしています。先生からの不満や要望にすぐ対応することで、「報告したら対応してもらえるんだ」と実感してほしいんです。 そして、「いつまでも変わらない」という従来の学習系アプリのイメージを打破し、先生方から見放されないアプリにできるよう頑張っています。
一度導入されても、使われなくなったら悲しいですよね。
そうですね。Qubenaを「意見を言えば変わるもの」と認識してもらい、先生とコミュニケーションがとれたらいいなと思っています。
Qubenaひとつで全範囲カバー!コスパ度外視の開発で先生に安心を届ける
Qubenaには「コンパスや分度器を使った作図ができる」という特徴がありますよね。AI教材としては珍しい機能だと思います。どのような経緯で開発されたんでしょうか?
「このアプリひとつあれば、数学の全範囲を網羅できる」と、先生方に安心してもらえるよう開発しました。「計算問題には対応しているけど作図問題には対応していない」ツールだと、その単元に入るとき、先生はどうやって教えようか不安に思うかもしれませんよね。
先生方の不安や、教材としての使いづらさをなくすために開発されたんですね。
そうです。でも実は、コンパスや分度器を使う問題は、非常に限られているんです。問題数で言えば、数学の全問題の0.5%くらい。搭載しても、活躍する機会がほとんどない。 それなのに、開発は技術的にも難しく、手間も時間もかかりました。言ってしまえば、コスパの悪い開発なんです(笑)。
技術的にはどのような点が難しいのでしょうか?
まずは、説明を読まなくても感覚的に使えるようなUIにするのが難しいんです。そして、実際にコンパスの幅を広げたり針を点に留めたりする際の使用感も、細かいチューニングが必要。問題を解くうえでは作図手順も重要ですので、手順の正誤判定もできなければなりません。 これらの要件に対し、テストと調整を繰り返しながら使いやすいポイントを探っていきました。
先生が安心して使えるツールを実現するために、細部までこだわり抜かれているんですね。
COMPASSは「教育環境のアップデート」を目指している
Qubenaが、生徒にも先生にも使いやすいツールであることは理解できました。 しかし実際に学習効果は出ているんでしょうか…?
Qubena導入から3年が経過した東京都千代田区の麹町中学校では、過去2年の同時期・同単元のテストに比べて、平均点が10点上がったという報告を受けています。
加えて、学習速度も従来の約2倍になり、コロナ禍による休校の影響を受けることなく学習を進められたそうです。世の中的には授業時間不足が嘆かれていたなか、麹町中学校では時間が余ったくらいだとか。 勉強の効率化と学力向上の両面で、Qubenaが役に立ったのかなと思います。
ただ使いやすいだけでなく、成果も出している…素晴らしい教材ですね! このような教材を開発された背景には、やはり現代の教育業界に対する課題意識があるのでしょうか?
はい。大きな課題は「先生が忙しすぎる」ことです。
2021年度から中学校に導入された新学習指導要領には、「現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で、知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を育成」とあります。 簡単に言えば、「今までのことは維持したうえで、さらに高みを目指してください」ということ。それって普通に考えてしんどいですよね。
そうですね、無茶なことを言われているような気がします。
しかし教育現場のICT活用は遅れていて、先生方の武器は増えていないんです。 「やることが増えているのに武器が増えない」なんて、矛盾していますよね。先生は忙しくなる一方です。そんな教育業界に対して私たちができるのは、ICTの力で業務を効率化することだと思っています。
授業とその準備、テストの採点、宿題作り、成績管理など、先生がやるべきことはたくさんあります。それだけでも手一杯なのに、それらを終えてから、個々の生徒への対応や授業研究などに取り掛かるわけです。 先生たちはすでに、両手に抱え切れないほどの荷物を持っています。その荷物を手放してもらうためにQubenaがあるのです。
具体例を挙げると、Qubenaによって小テストのあり方が変わります。 今は、小テスト作り、採点、成績管理までを先生が手作業で行っています。しかしQubenaがあれば、すべて自動化できるわけです。
先生の手間がかからないから、小テストの頻度を上げられます。テストを繰り返せばそれだけ学習効果が高まるので、生徒の成績も上がる。先生の使える時間も増えて、新しい教育ができる…そんな好循環が生まれると思うんです。
先生の手間を減らして教育の質も上げ、教育業界の底上げをするわけですね。
はい。私たちはただ教材を作って売っているだけでなく、教育業界のアップデートを目指しています。 教育を良くするためには、先生方一人ひとりが「本当に必要は教育は何か」と考える時間を持つことが必要です。でも今の状況ではとても時間が取れない。だからその時間を生み出すツールとして、Qubenaを提供しているのです。
GIGAスクール構想にある「これまでの教育実践の蓄積×ICT」には、大きな可能性を感じています。私たちは「Qubenaがその一助になれれば」という想いで開発しているんです。
COMPASS社さん、そして木川さんの熱い想いがひしひしと伝わってきました。 最後に、COMPASS社さんから伝えたいことはありますか?
COMPASSでは、子供たちの「未来を生き抜く力」のため教育業界のアップデートに一緒に取り組んでくれる仲間を募集しています。 興味を持たれた方は、こちらのリンクからご連絡ください!
本日はありがとうございました! Qubenaによってこれからの教育環境がアップデートされることに期待しています!
取材・編集:矢野 由起
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