法律でも"公式ドキュメント"を読んでみませんか?政治をもっと身近にする政治情報ポータルサイト「PolityLink」とは
すべての人にとって他人事ではない「政治」。
しかし、様々な情報が入り乱れ、ファクトチェックだけでも多大な労力を要するのが現状。 法律案や国会での議論について詳細を調べ、それぞれに対して自分なりの意見を持っている方は多くはないのではないでしょうか?
そんな「政治」を、より身近にするサービスが、政治に関する情報を整理したポータルサイト 「PolityLink」です。
法律や国会、委員会といった項目ごとに情報が整理されており、相互の繋がりもリンクで辿れるようになっています。
2020年の公開以来注目を集め、VLEDオープンデータ勝手表彰なども受賞しています。
実はこのPolityLink、数名の個人によって開発されているんです。
今回は、テクノロジーの力で政治と市民をつなげるCivicTech(シビックテック)の面白さについて、PolityLinkの開発・運営を行っている、ソフトウェアエンジニアの薄井光生さんにお話を伺いました。
PolityLinkは開発者の感じた「原文を探す手間」から生まれた
なんとなく、CivicTechってNPOやNGOがやっているイメージが強かったので、個人開発でやられている方がいたことに驚きました。 どうして政治にまつわるサービスを作ろうと思われたんでしょうか?
僕は最初からCivicTechをやろう!というモチベーションで開発を始めたわけではないです。 もっと単純で、自分が政治に関する情報を集めるのに苦労したからなんです。 とりたすさんは政治について自分で調べたことはありますか?
お恥ずかしながら、政治に関してはTwitterでたまに流れてくるツイートや記事を読むくらいで、自分で調べたことはありません…。
実は僕も大学の専攻も理系でしたし、かつては全く関心がなかったんです。 政治との関わりは選挙で投票に行くくらいでしたし、どの候補に票を入れるかは顔で決めてたくらい無関心でした。
薄井さんも最初から政治に興味があったわけではなかったんですね。
そうです。 でもあるとき、政治って我々の生活に大きな影響を与えるということに気づいて。 例えば、消費税の増税や大学のセンター試験の変更は、人生の選択を大きく変えてしまう可能性があるじゃないですか。 そこで急に政治に好奇心が湧いて、試しにいくつか気になる法律案について調べてみたんです。
そしたら、情報を集めるのが本当に難しかったんです。 まず、新聞は各社の色がありますし、Twitterだと声の大きい人の意見が目立つ割にファクトチェックの手間がかかります。
前提知識が必要な内容だと特にそうですよね。 薄井さんはこの問題にどう対処されたんですか?
私は公式のドキュメントを参照しようと考え、国会や行政のページを見てみました。 しかし、この公式のドキュメントにも問題があって。 情報がバラバラに散らばっているんです。
公式のドキュメントを参照するのはエンジニアらしい考え方ですね。 この場合は日本政府の資料が公式のドキュメントになると思いますが、バラバラに散らばっているとはどういうことでしょう…?
例えば、2020年5月に話題となった「検察庁法改正案」に関する情報を集める場合を考えてみましょう。 国会に提出された法律案は衆議院のHPにて公開されています。 しかし、改正対象の検察庁法はe-Gov、法律案の概要資料は内閣官房、 そして国会での議論は国会会議録検索システムでそれぞれ別々に公開されています。
これらの情報は、相互に紐づいておらず、各サイトにて独立に探さなければ閲覧することができません。 法律に関する公的文書は、インデントやカラーなど視覚表現も使うことができず、文章もすごくカタいのでただでさえ読みづらいんです。 なのに探しづらかったら、二重三重でわかりにくくなってしまいます。 これを解消するために始めたのが、PolityLinkです。
政治に関する情報を見やすくまとめることがサービスの肝なんですね。
政治の原文は、ただ集めるだけでなくどうリンクさせるかが重要
PolityLinkは他のサイトから情報を集める、ということはクローリングをされているんですか?
そうですね。 例えば法律案の概要資料は、担当する省庁ごとに公開されているので、20弱くらいのサイトからクローラーでデータを集めてます。 省庁って意外とたくさんあるんですよね(笑)
サイトごとにデザインもバラバラなので、基本的にめちゃくちゃ探しづらいです。 あとは、政府のHP以外にも、会議録や審議中継、ニュース記事なんかもクロールしています。
でも、クロールするのって大変かと言われるとそうでもないですよね。 てっきり魔改造されたXMLを取得して、それを使えるように変形する…みたいなことをやっているんだと思ってました。
クロールすることより、クロールしてそれをどう関連づけていくかという部分が大変でしたね。 いかに情報を整理するか、というのがこのサービスの肝なので。 実際のユースケースを考えた上で、それに沿ったデータ構造にする必要がありますから。
現在は、法律案、国会、議員、委員会…みたいなものをオブジェクトとしていて、それを交互に結びつけるようにしています。 オブジェクトの相互移動もなるべくスムーズにできるようなUXを考えるのも大変でしたね。
なるほど、ただクローリングして並べるのではなく、どのようなUXにするのかが重要なんですね。 薄井さんが想定されている、PolityLinkの理想的な使い方はありますか?
まずは今年の秋に衆議院選挙があるので、そのときに役立ててもらいたいです。 自分の選挙区の議員ページを見て、彼らが国会で4年間どんな活動をしてきたのかをファクトチェックしてもらえると良いなと思います。 国会でどんな発言をしたのか、どんな法律案を推進したのかなど、実際の行動を元に投票先を決めるのも面白いかもしれません。
またそれをきっかけに、日々の国会にも興味を持ってくれれば嬉しいです。 どんな法律案が現在議論されているのかを見てみるのも、今のニッポンの課題が垣間見えてきて面白いですよ。
政治にあまり関心がない人たちの政治リテラシーの向上のために使っていただきたい、ということですね。
法律案を載せるだけでは公平ではない!?PolityLinkの目指す「公平」なポータルサイトとは
PolityLinkは政治を扱うサービスですが、政治の話ってセンシティブなものじゃないですか。 意見が偏りやすかったり、炎上しやすかったりしますよね。 サービスを作る上で気を遣った部分とかありますか?
「公平」にするためにはどうすればいいのかは気をつけた部分ですし、まだまだな部分でもあります。 最初、PolityLinkの法律案ページには今のようにニュースサイトを貼っておらず、法律の原文だけを載せていたんです。 でも、これって公平じゃないと思ったんです。
法律の概要を載せるだけでは公平ではない…? 偏った意見は載ってないですし、公平ではある気がします…。 情報が足りない、だったらわかりますが。
法律案やその法律案に関連する資料って、その法律を成立させたい人が作るじゃないですか。 だから、それらのドキュメントに載っていない、ネガティブな要素が存在する可能性があるんです。
なるほど! 法律案は成立させたい人が作っている、というのは完全に盲点でした…。
それを踏まえると、1番可視化したい・届けたい情報というのは、実際にどういう議論が行われたかなんです。 ある法律案について、この法律案のポジティブな面は資料の通り、ネガティブな面は資料にある他にこういうことがあって…みたいな議論ですね 。 これが真に中立だと考えています。
ただ、PolityLinkを使えばユーザがみんな真に中立な情報を取得できているか、というとそれはまだ未達成だと思っています。 いまは、「資料をリンクさせてアクセスしやすくするから、自分で読んでください」というスタンスなので。
PolityLinkは中立についても非常に深い検討がされているサービスなんですね。
"チームで"個人開発!? PolityLinkの開発体制とは
PolityLInkはリリースからすごいスピードで新機能が開発されていますよね。 どうやって実現されているんでしょうか。
チームで開発しているのが大きいと思います。 人手も増えますし、メンバーが自分では思いつかないアイデアをくれたりするんです。 「こういう機能もあったほうがいいんじゃないか?」といって新しい機能を追加してくれることもあります。
チームで開発されてるんですね! メンバーはどうやって集められたんですか?
僕が大学時代の友人に声をかけました。 実は、このPolityLinkの前に作ってたLawHubっていうサービスのときも誘ったんですが、そのときは断られちゃったんですよね(笑) PolityLinkは一緒にやってくれてよかったです。
ご友人と開発されてたんですね。 PolityLinkの開発体制は複数人で趣味としての開発をされているんだと思うんですが、あんまり周りにそういった形式で開発をしているエンジニアがいなくて。 よかったら他にもメリット・デメリットを教えていただけますか?
メリットからご紹介します。 まずはさきほど言ったように、新しい機能をそれぞれが追加できるため、開発速度があがります。 それにあくまで個人開発なので、好きな技術に挑戦することもできます。
例えば、PolityLinkを開発するにあたって、扱ったことがなかったGraghQLをバックエンドで採用したんです。 その結果、仕事でもGraphQLを使ったプロジェクトに取り組めるようになりました。
個人開発でたまに聞く、趣味が仕事に活きたやつですね!
あとはやっぱり議論ができるので、悩ましい部分だったりアイデアがでない部分についてベターな判断がくだせるようになります。 抽象的な話、たとえばさきほどお話した公平の概念についても議論することもります。
ただ、これは意見が衝突してしまうというデメリットと裏表です。 機能の重複や意義についてよく議論するんですが、やはり意見の不一致は起こります。
薄井さんがPM的なポジションだと思うんですが、そういう場合ってどうするんですか?
フラットな視点で議論してもらえるように心がけています。 その結果、不一致が解決できているかはわからないですけど(笑)。
あまり開発のマネジメントはされていないんですか?
していませんね。 PolityLinkの開発はモチベーション駆動なので、最終的には各々の時間にやりたいことをやってもらうしかないです。 チームメンバーも仕事がありますし、計画を立てても全然そのとおりに進まないですから。
開発速度が安定しない、個人開発ならではの問題もあるんですね。
PolityLink開発者・薄井さんの一番の願いは「たくさんの人に使ってもらうこと」
そんなお忙しいなかで、薄井さんがPolityLinkの開発を続ける理由ってなんなんでしょうか?
色んな人に使ってほしいっていうのがやっぱ一番強いですかね。 自分が「こういうサービスがあったら便利だな」と考えたところからPolityLinkは始まってるので、それを実際に同じように困ってる人みんなに使ってほしいです。
めちゃくちゃいい話じゃないですか。 収益化目的とかではないんですね。
すごく多くの人が使ってくれたら僕も広告入れたいです(笑)。サーバー代もかさむでしょうし。 でもまずは、とにかく色んな人に使ってもらえるようになってほしいです。 PolityLinkは万人受けするサービスではないので難しい部分もありますが。
政治は国民全員にかかわることですし、そんなニッチな分野ではなくないですか…?
エンジニアはともかく、普通の人はなかなかソースをチェックしようとはならないんです。 大学の先生だったり、普段から国会中継に目を通している方々には好評ですが…。
やっぱりもっと利用してもらうためには、法律をわかりやすく解説するなど、サービス利用の敷居を下げる必要があると感じています。 そもそも原文へのアクセスを用意しても、法律の原文を読み解くのが難しいことがあるんです。
それは法律案に使われる日本語が難しいからですか?
それもありますし、法律案ってすごくハイコンテクストなんです。 改正法案だったら元の法律も読まないといけないですし、そうでない法律案でも既存の他の法律と相互に関連していることが多いです。 そこそこ法律案の原文を読んでいる僕ですら、たまに「なんだコレ、概要読んでもちょっと分かんないな」となるときがあります。
確かに原文に書いてあること以外も知っておく必要がある、となると途端にハードルが高くなりますね。
「より政治を身近に」PolityLinkの目指す未来
PolityLinkのこれからについてお伺いさせていただいてもいいですか?
やっぱり、色んな人に使ってもらえるサービスにしたいです。 まずは今年の秋の衆議院選挙に向けて、議員ページの改善を進めていきたいなと思っています。
あとはPolityLinkで集めたデータは公開しており、Graph APIを通して好きに使っていただけます。 データ解析に興味がある人にはどんどん使ってもらいたいです。 基本的な分析をPythonで行うチュートリアルも用意しているので、興味がある人はぜひ読んでみてください。
極論フロントは見やすければ何でもいいと思うので、開発者の方々にはPolityLinkのAPIを使ってどんどん整理されたサービスを作ってほしいです。 もちろん一緒にPolityLinkのサイトを改善してもらうのも大歓迎です! 一緒にGitHubに草を生やしましょう。
最後に、薄井さんはPolityLinkを作ったことで、なにか変化はありましたか?
PolityLinkは僕のニーズから始まったサービスなので、不自由が解決されましたね。 どういう法律案が今議論されてるのかのような、日本の課題がすっきりと理解できるようになったメリットは大きいです。 これからも、なるべく多くの人の不自由を解決していきたいと思っています。
本日はありがとうございました!
ライター
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