特殊冷凍技術が目指す先は“地方創生”。社会課題に挑むフードテック企業「デイブレイク」の戦略とは
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特殊冷凍技術が目指す先は“地方創生”。社会課題に挑むフードテック企業「デイブレイク」の戦略とは
金子 茉由
2023.02.06

アンドエンジニアでは『話題のX-Techに迫る』と題し、さまざまな産業界でテクノロジーを用いて課題解決に挑む方々に、その戦略や実現したい世界観についてインタビューを行います。

第2弾は、食×テクノロジー。日本で唯一の「特殊冷凍」という技術を用い、フードロス削減や地方創生などの社会課題に取り組むフードテック系スタートアップ、デイブレイク社のCOO下村 諒氏にお話を伺いました。

デイブレイク株式会社

2013年創業。「作り手から食べ手のより良い未来を創造する」をミッションに、特殊冷凍テクノロジー×ITで食品流通の課題解決を行うフードテック系スタートアップ。

「特殊冷凍」というテクノロジーで、新たな食材の価値を生み、豊かな未来を届けることをミッションに、「特殊冷凍機械販売」「特殊冷凍コンサルティング」「業務用特殊冷凍食材販売」を主体としたサービスを展開している。

下村 諒氏プロフィール

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株式会社キーエンスにてセールス、グループリーダーを経て、本社販売促進グループに配属。国内および海外マーケティングにおける分析・企画立案・戦略設計・構築・施策実行などを担当。代表取締役木下氏の熱量と事業に将来性を感じて2020年デイブレイクに参画し、取締役COOとして事業全体を管掌。

唯一無二の特殊冷凍技術を実現する、高い性能と蓄積されたノウハウ

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従来は冷凍が難しいとされていた食材も、デイブレイクの特殊冷凍技術で商品化可能に
金子 茉由

下村さんがデイブレイク社にジョインされたきっかけを教えてください。

下村さん

デイブレイクには2年程前に転職したのですが、学生時代からの知り合いである当社代表の木下が描くビジョンや事業の大きさに魅力を感じたことが一番の理由です。

金子 茉由

入社前後でのギャップはありましたか?

下村さん

ありましたね(笑)当初は社会から求められているデイブレイク社の姿と、実際に当社がお客様に提供できているソリューションとの間にギャップがあったように思います。

下村さん

私がCOOとして入社してからの2年間、そのギャップを埋めるための戦略や事業設計、組織構築を行ってきた感じです。現在は代表が掲げるビジョンを実現するための戦略立案を一手に担っています。

金子 茉由

「特殊冷凍」の技術をもつデイブレイクさんですが、同業企業と比較して、自社の優位性はどのようなところにあると感じますか?

下村さん

1点目は商品の「性能・品質の高さ」です。当社は当初、各社の冷凍機を扱う専門商社として事業をスタートしたのですが、およそ1年前、最新の流体力学や制御の技術を集結させて「アートロックフリーザー」という冷凍機を開発し、メーカーとしての立ち位置を確立しました。

下村さん

たとえばバナナやりんごなどの果物は、従来の技術ですと変色したり解凍時にドリップが出てしまい、風味が飛んでしまうため冷凍商品化が難しかったのですが、当社の技術では鮮度の高い状態で冷凍ができるため、果物そのものの色鮮やかさや風味、甘さが保てて冷凍商品として販売することが可能になりました。

下村さん

2点目が「冷凍に関するノウハウや知見」です。創業以来、当社は冷凍技術の専門家として、お客様に冷凍に関するさまざまなコンサルティングを実施してきています。そのなかで蓄積してきた膨大な数のデータが、現在の商品開発にも活かされています。

金子 茉由

成功、失敗を含めた過去の事例の積み重ねが、精度の高いコンサルティングにつながるのでしょうね。

下村さん

はい。実際に良い冷凍機を使って作業をしても、思った通りの成果が出ないことがよくあるんです。その理由は冷凍前後の工程にあります。

下村さん

たとえばローストチキン。お店で出す調理工程で冷凍し、その後解凍すると、不適切な加熱によって鶏肉のたんぱく質が固くなりうまみ成分が流れ出てしまいます。

下村さん

そうではなく、解凍したときにベストの状態になるよう、調理・解凍方法を改善し、我々の特殊冷凍技術を組み合わせることで、レシピは全く異なるものになっているにもかかわらず、お店で提供するチキンと遜色のない品質に仕上がるんです。そのような前後工程の最適なノウハウを提案できる点が、私たちの強みですね。

金子 茉由

データの蓄積にあたっては、相当な数の実験を重ねられたのではないでしょうか。

下村さん

そうですね。食品に関する研究は、他の研究分野と比べて遅れていると感じています。特に冷凍技術に関する先行研究もほとんどなかったため、改良のためのテストを社内で何度も繰り返しました。

守りの冷凍、攻めの冷凍。それぞれの特徴とは

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フードロス削減により、CO2の排出削減に寄与
金子 茉由

現在はどのような業種のお客様が多いのですか?

下村さん

私たちにとって、食に関わる業態の個人・法人はほぼすべてお客様になります。農家さんや漁師さんなどの生産者の方々、加工・卸業者、総菜や生菓子を扱う食品メーカー、ホテル、飲食店やお弁当屋さんなど、本当に幅広いですね。特にコロナ禍では、飲食店のお客様が増えました。

金子 茉由

御社の冷凍機を導入されたお客様からは、どのような変化やメリットを感じたという声があがっていますか?

下村さん

私たちがお客様に提供しているメリットは大きく2つです。それぞれ「守りの冷凍」と「攻めの冷凍」と呼んでいます。

下村さん

「守りの冷凍」とは、効率化による利益アップを目的とした冷凍機の活用です。仕込みを冷凍にすることで、人手を減らし、生産効率を上げる。コスト削減に貢献できますし、飲食店などの人手不足の解消にもつながります。ある人気店では、完成品を冷凍ストックしておくことで、売り切れによる売上チャンスロスを回避することができたという声もいただいています。

金子 茉由

クリスマスやお正月などの季節性の高い商品は、冷凍技術を使うことで計画生産ができるようになりますよね。まさに「守りの冷凍」ですね。

下村さん

2つ目の「攻めの冷凍」については、商圏を超えた販路拡大をねらいとした冷凍機の活用を指しています。私たちの特殊冷凍技術を用いることで、味や鮮度、品質を落とさずに、全国どこでもその店の味を楽しんでいただくことができるんです。店舗販売だけでなく、通販やECなどの冷凍物販という新たな販路を開拓していただくことができる。実は「お寿司」や「ふぐ刺し」、「うな重」などの高単価商品も、当社の技術で冷凍販売されている実績があります。

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人気店のお寿司がいつでもどこでも味わえる
金子 茉由

お寿司もですか!

下村さん

お寿司や刺身は従来の技術では冷凍化が難しかった商品ですが、当社のお客様では冷凍のお寿司で月間3ケタの売上を上げる業者さんもいらっしゃるようです。プラスアルファの収益にもつながりますよね。

注目を集める「冷凍機×IoT」の取り組み

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世界初のインテリジェンスな冷凍機「アートロックフリーザー」
金子 茉由

現在「アートロックフリーザー」のIoT化が話題を呼んでいると伺いましたが、具体的にはどのような取り組みなのですか?

下村さん

私たちのなかでは「世界初のインテリジェンスな冷凍機」と呼んでいるのですが、今年の9月にアップデートを行ったアートロックフリーザーには、冷凍の品質や冷凍機の故障につながる重要な情報をセンサーで取得できる機能を搭載しています。

下村さん

ほかにも、凍結の進捗や完了などの情報をLEDライトで通知する機能を付けることで、離れた場所で作業をしていても凍結完了を視覚的に確認できるように改良しました。

金子 茉由

なぜIoT化を推し進めているのでしょうか。

下村さん

冷凍機を扱ううえで、作業者による仕上がりのバラつきが大きいという課題があったんです。たとえば、従来の冷凍機は食材や食品を置く棚の場所で冷え方が異なるため、取り出す際に時間差を設けなければいけません。ただ、その作業は経験値で行う要素も大きく、どうしても属人的になってしまうんです。

下村さん

また冷凍品質を最大化するには、その日の気温や食品の温度によっても冷凍設定を変えなければならず、熟練した作業者でも判断が難しい部分があります。そうした課題を解決するため、冷凍機にセンサーを付けて自動検知を行うことで、誰でも簡単に品質の均一化と最大化を実現できるしくみを整えました。

金子 茉由

そのときの環境に最適な制御をかけられるということなのですね。

下村さん

はい。自動で最適な運転を行うシステム、また故障につながる動きを事前に検知するシステムが当社ならではの強みですね。「安定した品質で冷凍品を流通させたい」というお客様の課題を解決したい、そんな想いが根底にあります。

金子 茉由

今回のアップデートは半年ほどで完了したそうですが、そのスピード感を実現できた秘訣はなんでしょうか。

下村さん

エンジニア個々のレベルの高さはもちろんのこと、エンジニアとマーケティング、セールス、商品企画担当者が真の意味で一体となって動ける体制が整っているからこそだと思います。顧客ニーズを踏まえながらも、リスクやコストなどあらゆる側面から認識の共有を図るなど、技術と商品開発のバランスが取れていることが秘訣なのかもしれないですね。

フードテック業界で活躍できる人材になるために

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テクノロジー(ハード)×ノウハウ(ソフト)の両側面から社会課題の解決に取り組んでいる
金子 茉由

フードテック企業として躍進されているデイブレイクさんが、世の中から期待されている事柄はどんなことだと思いますか?

下村さん

大きく4つあります。

下村さん

1つ目は「ノンケミカルな食のロングライフ化」。添加物を加えずに、保存期間が長くかつ品質の高い食品を、いつでもどこでも届けられる点ですね。

下村さん

2つ目が鮮度維持や美しい見た目の創出など、「食ビジネスの高付加価値化」です。

下村さん

3つ目として「生産性・働き方改革」と名付けていますが、少子高齢化の時流においても、働く人たちの生産性を高めながら、食品の味やブランドを維持していくことへの期待があると考えています。

下村さん

そして4つ目に「サステナブルな食業界の実現」。冷凍食材の流通によって、フードロスの削減にとどまらず、生産者のみなさんの仕事や雇用を守ることにもつながります。そのような意味で、特に昨今は“地方創生”の役割も期待されているように感じますね。

金子 茉由

特殊冷凍という軸を中心に据えながら、さまざまな社会課題の解決を目指しているのですね。最後に、下村さんが考える「フードテック業界で活躍できる人材に必要なマインドセット」を教えていただけますか。

下村さん

食品領域は先行研究が少ないことに加え、官能評価など感覚値が占める部分も大きいため、エビデンスがないものに答えを付与していく作業が多いと感じています。したがって、未知の事柄にも楽しんで取り組める人。また未知の課題に対し、仮説検証を繰り返して解を与えていくことにやりがいを感じられる人には面白い仕事なのではないでしょうか。

下村さん

また、たとえば“魚の鮮度をどう測るか”という要素1つをとってみても、その分野の専門家の方々は暗黙知で語るケースが多いんです。そうした暗黙知を解き明かすコミュニケーション能力が大切ですし、深掘りして言葉に落としていく言語化能力も、この業界では特に求められると思いますね。

<取材後記>

いつもどおり、何気なく口にしている市販のお弁当。もしかしたらどこかでデイブレイクの特殊冷凍技術が関わっているのかもしれない…そんな考えを抱きながら箸を進めてみると、生産者さんや加工業者、製造業者の方々、さらにはデイブレイクのみなさんが食品に込めた想い(と、数々の実験に費やした悲喜こもごも)を感じ取ることができた気がしました。

最新の技術が搭載されたアートロックフリーザーに、「まだ満足していません」と話す下村さん。そう遠くない将来、想像の斜め上を行くインテリジェンスな冷凍機に出会える日が訪れるかもしれません。

ライター

金子 茉由
12年勤務した大手人材会社を退職後、フリーランスライターに転身。会社員時代からIT業界のクライアントとの相性がよく、さまざまなIT系企業の採用活動支援や、エンジニアのスキル開発・育成支援業務に携わってきた。いまの一番の関心ごとは、子ども向けプログラミング教育の未来について。
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