「学費無料」「教師なし」のエンジニア養成機関「42 Tokyo」開校!彼らが目指す「自走できるエンジニア」を育てる方法とは?
2020年6月、エンジニア養成機関の「42 Tokyo」が六本木で開校しました。
42 Tokyoは「学費完全無料」「教師なし」「24時間365日オープン」という従来のプログラミングスクールとは全く異なるスタイル。
2013年にフランスのパリで創設し現在は16か国で展開されるなど、42式のエンジニアの育成方法は世界で広がっています。
ただ、日本に上陸する際には大きく取り上げられたものの、それ以降はあまり情報がなく中身は見えないまま。
動き出した42はどういう場所なのか、開校後はどのような状況なのか、日本でも42はうまくいくのか。
一般社団法人42 Tokyoで事務局長を務める長谷川 文二郎さんに、42 Tokyoの今をお聞きしました。
「講師は無し」分からないこともピア・ラーニングで解決
上陸のニュースを見たのですが、開校された42 Tokyoってどういうところなんですか? 普通のプログラミングスクールとは違う…?
「エンジニアとして必要なこと」を学ぶ場所ではありますが、プログラミングスクールと聞いてみなさんがイメージされるような、講師がいて、授業を受けて…といった場所ではありません。 42には講師はおらず、課題を学生が自主的に進めていくシステムになっています。
自分で進めながら、分からないときにいつでもスタッフに質問できるシステムですかね?
いえ、課題について教えるスタッフもいません。 分からない点は学生同士で互いに教え合って解決してもらいます。 ピア・ラーニングと呼んでいますが、42での学習のコアとしてかなり徹底しています。
課題のインストラクションでも、「わからないことがあったら右の人に聞いてみて、それでもわからなければ左の人に聞いてみてください」と書いてあるほどです。
生徒同士でも解決できなかったらどうなるんですか?
分かるまでやってもらいます。 分からない中でヒントや理解のきっかけを調べる、それを実際にやってみる、というのを繰り返すこともエンジニアに必要な能力ですよね。
このような学習方法のため、42での学習はある程度の時間が必要です。 短期間で学ぶコンセプトのプログラミングスクールを否定するつもりはありません。 ただ、とにかく時間がないという方には42は適していないかもしれませんね。
「1週間や1ヶ月でエンジニアになれる!」みたいなスクールも多いなか、思いっきり真逆をいってるんですね…! 42では、学生たちはどうやって学習内容を決めるんですか?
基礎となるプログラムは全員に共通で、それ以降は自分で学んでいく内容を決めてもらいます。 具体的には、基礎の部分では言語はCを使い、OSやネットワークを中心に学んでもらいます。
基礎はプログラミングというよりコンピューターサイエンスの勉強に近そうですね。
基礎を学び、情報収集や対話をする中で、得意な分野、やりたい開発、目指すエンジニア像などが明確になってくるかと思います。 応用では好きな分野・言語を選んで進めてもらうのですが、UnityやWeb、機械学習など様々な言語についての基本的な学習内容は揃っているので、42でどのような分野でも学ぶことが出来るんです。 課題は木構造になっているので、低レベルをクリアして初めて次のレベルを学ぶことができるようになっています。
Final Fantasyのスキルポイントの割振りシステムを思い出します(笑)。 進めるペースは自分で決めていいんですか?
基本的にはそうですが、ブラックホールという最低ラインは設けています。 規定の日数が経つまでに決められたレベルをクリアできていないと、強制退校になるんです。
プレッシャーが半端なさそう…。
怖がらないでください(笑)。 忙しい方でも進められるラインで設定してありますので、やる気があれば大丈夫ですよ。
説明できないプログラムは0点
他にも42ならではのシステムってありますか?
課題の一環として他の学生に自分の書いたプログラムの説明をするレビューがあります。 ルールがシビアで、レビューする側が本当に「理解できた」とならないと点数がもらえません。
どうやってレビューする側とされる側を決めているんですか? 仲のいい相手と組めればハックできそう。
今はランダムでマッチングしています。 プログラミング経験の豊富な学生と初学者の学生がマッチすることもありますし、全く違う専門で全然関係ない言語を書いている学生とマッチすることもあります。
そんなに隔たりがある人同士だと説明にも苦労しそうですが…。
もちろん時間はかかりますが、レビューする側が理解できるまで説明してもらいます。 自分の実装や分からない点について言語化する・説明する、ということはエンジニアの能力の向上につながりますし、現場で働くうえでは絶対に必要な経験ですよね。
能力がつきそうですが、かなり大変そうにも感じます…。 やっぱり途中で離脱する人も多いですか?
一般的なプログラミングスクールに比べると多いかもしれません。 もちろん離脱しないでほしいですが、我々が学習を強制することはできませんから。
42の役割は「社会との接続」
そもそも、42って「プログラミングの勉強」をするところではないんですよ。
え!?さっきと言ってること違いません?
いえいえ、さっきも言ったように、42は「エンジニアとして必要なこと」を学ぶ場所です。 プログラミング知識のある人を輩出したいわけではなく、エンジニアとして社会に出て自走できる人を育てることが目標なんですよ。
なるほど。 プログラミングスクールを卒業して念願のエンジニアとして就職したけど、実務が想像よりも大変で苦労する…という話も聞きますもんね。
まさにその問題に対して42はアプローチしたくて。 僕は、プログラミングスクールと実務の間のギャップって構造的なものだと思っています。 プログラミングスクールは知識の学習の場で、学習のメインの内容はアプリの作り方であったりWebサイトの作り方です。
もちろんそれも大切ですが、実務の場で活躍するためには「エンジニアとしての仕事の仕方」も学ぶ必要があります。 「読みやすいコードを書くように心がける」ということから、「レビューしやすいコミットの仕方やプルリクの出し方」のようなことまで。
あー…。 たしかに僕もスクールに通ってから現場でコードを書くようになったのですが、そういった仕事の仕方を身につけるのには苦労していました…。
スクールを卒業してすぐに身につけられる人もいますが、多くはないと思います。 42はそういった部分も実践して学べる場を提供することで、知識と実務のギャップを埋める存在を目指しているんです。
具体的にどうやってそのギャップを埋めようとしてるんですか?
まだ実現していませんが、スポンサー企業での長期インターンの機会を提供するなど、実際に現場で働ける仕組みはつくりたいですね。
たしかに現場で働く経験があるとギャップが埋められますね。採用側も経験があると安心できそう。 現時点でもやれていることはありますか?
実務と同じような状況下で学んでもらうようにしています。 例えば、誰も解決方法が分からない難しい課題では全員で協力して解決方法を調べなければいけません。 これは実務でバグが起きた際や難しい仕様を実装する際も同様ですよね。
なるほど。
質問や説明をする際には、どこまで理解できているのか、どの点が分からないのか、そのために何を試したのか、などを言語化して整理し、相手が理解できるように説明する必要があります。 これは職場で他のメンバーと働くうえでは必須ですよね。
一番大事な能力かもしれませんよね。
予想外のことですが、コロナの影響で本来は登校のはずがリモートになり、コミュニケーションの課題も出てきています。 対面なしでのレビューのやり取りや言葉の使い方などによって、生徒たちの雰囲気がギスギスしてしまうことがあったり。
でも、リモートでのコミュニケーション、テキストでのコミュニケーションは職場では確実に必要になりますし、そこに課題も付き物です。 職場と同じような状況を現時点で体験できることは悪いことだとは思いませんね。
システムの根幹にあるのは「完全無料」
42が他のプログラミングスクールとまったく異なるのはわかったんですが、どうしてそんなシステムを採用できたんですか?
42は完全に無料なんです。 1円も払わずに、24時間オフィスやPC、ネット環境が使えて、かつWeb, 機械学習, セキュリティ…といった分野の中から、学習したい分野を学ぶことができます。
え、お金はどこから…?
ビジョンや仕組みに共感いただいた多くの企業様に支援していただくことで、月々の運営費を賄うことができています。
すごい多くの企業がスポンサーになってくれている…! どうしてこのように学費無料のシステムになったんですか?
42は、学歴社会が日本より厳しいフランスで、「エンジニアに学位はいらない、必要なのは実力だ」という信念で生まれたんです。
だからこそ授業料が完全に無料で、いつでも学習できる場所を提供しています。 年齢、学歴、性別に関係なく、現在の環境を問わず挑戦することができる仕組みになっています。
一般的なプログラミングスクールだと、どうしても10万円以上の金額がかかってしまいますもんね。
完全無料によって運営側にも実はメリットがあって。 無料だからこそチャレンジングな取り組みができているんです。 運営が極力関わらない仕組みも、生徒に厳しい態度を取ることができるのも、無料だからです。
必要な能力を培うための仕組みは、完全無料だからこそ実現できているというわけですね。
そうです。 お金をもらってしまうと、どうしてもサービス提供側とお客様の関係になってしまい、思い切ったことはしづらいですから。
必要な時間は140時間!?通過率5%を切る過酷な入学試験
42の環境をしっかり活用してくれるモチベーションの高い方に入学していただくため、入学にあたっては難易度の高い試験があります。 まず最初にオンラインテストがあり、今回の開校時には約5000名の応募から約700名まで絞られました。
通過率14%って、相当やばい試験ですね…。
これで終わりじゃありません。 次にPiscine(ピシン)と呼ばれる4週間に渡るテストを受けてもらい、ここを合格すると入学です。
42入学後と同じような形式で学習しながらテストに挑戦してもらいます。 期間中は1日あたり5時間程度の学習が必要とされています。 ここで約700名のうち200名程度が合格し、42 Tokyoに入学することになりました。
かなりの時間が必要ですね。 仕事がある社会人だとかなり厳しそう…。
それは間違いないです。 ただ、働きながらエンジニアになりたいのであれば時間をつくって頑張る必要はあります。
Piscineの課題はプログラミングに関するものですか? そうだとすると経験者がかなり有利そうですが。
必ずしも有利というわけではありません。 合格基準は明確にできないんですが、一言で表すなら「42に向いている人」が受かるようになっています。
ハンター試験並の過酷さだ…。
試験を受けてみないと「向いている」かはわからない
42ってプログラミングスクールとしてはだいぶ特徴的ですよね。 こんな方にオススメ!というのはあるんですか?
今まで金銭的な理由などで諦めていた方にはぜひ挑戦していただきたいです。 どのような方にも平等にチャンスがあるのが42なので。
42に向いている方の特徴などはありますか?
向いているのかどうかはPiscineに参加してみないと分からないと思っています。 42 Tokyo設立の際にも、受動的な学校教育を受けてきた日本人に能動的に学ぶ必要のある42の仕組みは合わないと言われていましたが、蓋を開けてみると、成績は他の国に比べて遜色ないレベルでした。
運営側でもエントリーシートを見たり面接をしているわけではないので、どんな人が向いているのか分かりません。 なので、興味があればとりあえず受けてみて欲しいんです。
あ、一つだけ注意点があります。 入学のためのPiscine、そして入学後の学習にはどうしても時間が必要です。 そこだけは覚悟しておいてほしいですね。
42 Tokyoの取り組みはすごくチャレンジングで、どういう成果がでるのか、持続的に提供できるのか、などまだまだ分からないことばかりです。 既にエンジニアとしてバリバリやられている方は、温かい目で見ていただけると嬉しいです。
次回の入学試験のPiscineは9月7日(月)〜10月2日(金)の期間。
申込みはこちらから可能です。
興味を持った方はぜひチャレンジしてみてください!
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