「むこうのくに」技術監修のメディアクリエイターが語る、制作と研究の中で見えたものと目指す道
コロナ禍で新しいエンタメの形として増えてきているオンライン演劇。
そのなかでも最近話題となっているのが劇団ノーミーツの作品「むこうのくに」だ。(8月1日、2日で追加公演が決定!)
演者やスタッフが一度も直接会っていない点や、オンライン演劇ならではの世界観や表現に挑戦している点が話題になっているが、実はロボットアームなど様々な技術が使われていることも特徴。
その技術監修をしているメンバーの1人、鈴木健太さん(以下、すずけんさん)。
筑波大学、落合陽一研究室、クマ財団、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)といったキャリアを歩み、メディアアートを専門にしている彼に話を聞いたところ、メディアアートに取り組む方ならではの悩みや葛藤が見えてきた。
オンライン演劇、ハードの開発もフルリモート
劇団ノーミーツの「むこうのくに」、大好評ですね。 僕も観劇しましたが、とても面白かったです!
ありがとうございます。様々な意味で本当に新しい作品だと思っているので、技術監修という立場ながら話題になるのはとても嬉しいですね。 追加公演がちょうど8月の1日と2日にあるので、読者の方もぜひご覧ください!
すずけんさんは技術監修ということですが、今回はロボットアームでカメラを動かす部分で関わられているんですよね?
はい。劇団ノーミーツのメンバーが「遠隔系の映像作品でロボットアームで各自の部屋にあるカメラ制御したらおもしろいカメラワークができるのでは?」とツイートしたのをきっかけに、他のメンバーや僕などの経験のあるエンジニアたちが食いつき、技術監修に入ることになりました。
技術監修チームは3人いるのですが、直接会わないというコンセプトの劇団なので、「ハードの開発で最初から最後まで全員フルリモート」というかなりチャレンジングな開発でした(笑)。
全員で同じロボットアームを購入したうえで、制御するコードを共有するのは当然なのですが、3Dプリンターで自作する関連部品のSTLファイル※も共有し、それぞれが自宅の3Dプリンターで出力してました。 基本的に物を送らずデータを送るやり方で、全員が各自のローカル環境(自宅)で検証することができる環境を整えることで、開発を進めていけましたね。
※STLファイル:三次元形状を表現するデータを保存する、三次元CADソフト用のファイルフォーマット。
自宅に3Dプリンターがあるのすごい(笑)。 ハードのフルリモート開発、本番環境の検証もしづらいなかで進めるのを想像するとかなり大変そうです。 他にはどんな技術が?
ロボットアーム以外にも色んな技術が出てくるのですが、ネタバレにもなるので今回はここまでで(笑)。 他の技術や実装の裏話などは、追加公演が終わった後にまた公開したいですね。 エンジニアの方にしか伝わらない細かい話もあるので、ぜひお話したいです。
人差し指タイピングの状態で落合研へ
ロボットアームを制御する仕組みをつくっちゃうすずけんさん、筑波大学時代は落合研にも所属、現在はIAMASとのことですよね。 やっぱり大学に入る前からバリバリプログラミングしてたんですか…?
いや、高校時代は全然そういうことはしてなくて、冗談抜きで片手の人差し指でタイピングするレベルだったんですよ。 受験生時代に、落合さんのPixie DustやColloidal Displayといった作品・研究に衝撃を受け、世の中の概念や人間の意識を変えうる情報メディアの領域を自分も学びたいと思いました。
情報メディアを開発したいと意気込んではいたものの、研究も開発も経験はゼロ。 入学後はサークルやアルバイトなんかしている場合ではなく、とにかく修行できる場所を探していました。
筑波大学には学部の1〜3年次から研究ができる先導的研究者体験プログラムがあります。 高校から研究してきたような学生が多いなか、勢いで応募し、着任したばかりで正式な研究室がまだ無かった落合さんに、落合研0期生のような形で指導していただけることになりました。
落合研が厳しい場所というのは何度も聞いたことがあります。 経験の少ないすずけんさんは大丈夫だったんですか…?
本当に大変でした(笑)。 自分は超初心者で周りは高専からの編入生など経験豊富な人ばかりで。 落合さんに叱られたり、先輩や同期に教えてもらいながら、日中は授業、夜は研究室で、がむしゃらについていく日々でした。 少しでも追いつくために、睡眠時間を削りながら必死にやっていましたね。
落合さんの背中から学んだ「ものづくりへのこだわり」
研究と制作を日々行き来するなかで、自分は制作の方が向いていると感じ始めていました。 落合さんは研究だけでなく自分の作品を発表する機会も多く、作品制作に興味のあった僕は、落合さんの制作や展示のサポートを積極的にしていました。
そのなかでの学びってありましたか?
落合さんって最近のメディアでは論客のように見えるかもしれないですが、側で見ていると本当にものを作る人なんですよ。 プログラムも全部自分で書くし、展示のときもギリギリまで作り込んで準備しています。 落合さんの作品は作って見せて終わりではなく、それを通して伝えたい概念や哲学があり、それを伝えるためにとにかく細部にまでこだわっていました。
「なんでここまでこだわるんだ」「もう寝てもいいじゃないか」と思うこともありました(笑)。 でも、卒業して自分で作品をつくるようになって、落合さんの側で見ていたこだわりの大切さが身に沁みて分かります。 背中を間近で見ながら、研究や技術をどのように作品につなげ、どのように社会に伝えていくか、伝えるためにはどれくらいこだわらないといけないかを学びました。
制作と研究、それぞれに没頭して見えてきたこと
すずけんさんは2年生で落合研を抜けられてますよね?なぜだったんですか?
その頃は、落合研で鍛えられて自分も手を動かせるようになり、やりたいことも増えてきたんですが、授業も研究室も忙しく時間をつくれない状況でした。 このままでは自分1人でコンセプトを考えて作品を作れるようになれないと思ったのがきっかけです。
そして個人での制作に進んでいくんですね。
3年生は制作、4年生は研究に没頭してみて、それで大学院や今後の人生で研究と制作のどちらに重きを置くかを決めようと思っていました。 3年生の1年間は、コンセプトから作品まで全部自分自身の手で作り上げることを目標にしたのですが、勢いで研究室を抜けちゃったので、制作に必要なお金も場所も機材もない状態でした。 まず、制作費のための奨学金を探していたところ、クマ財団の1期生に採択いただけて制作費を確保できました。
※クマ財団:株式会社コロプラ代表の馬場氏が創設した財団。クリエイターを目指す25歳以下の「学生」に対して、返還義務を負わない「給付型奨学金」として120万円のクリエイター奨学金を提供している。
制作費は工面できましたが、特殊な工作ができる場所と機材がない状態でした。 調べているとDMM.make AKIBAがそれらの機材が揃っているということを知り、こちらもスカラシップに採択していただけました。 これで場所と機材も確保でき、満を持して個人での制作がスタートしました。
個人の制作をサポートしてくださる仕組みって結構あるんですね…! 同じ境遇の読者がいらっしゃればぜひ挑戦・活用していただきたい…!
この1年間で取り組んだ制作が、「Schnellraumseher: Bouncing Ball」という作品になります。 立体ゾートロープという映像のコマにあたる連続する物体を回転させ、回転に合わせて発光させることで、3次元のアニメーションを再生する装置を独自に進化させた作品です。
研究室を辞めた時に、次に落合さんに会うのは自分の作品を制作した後だと考えていたのですが、この作品の設営の日に偶然同じ車両で落合さんと再会しました。 展示も見てくださり、「やりたいこと分かる。おもしろいね。」と初めて少しだけ褒めていただけました。「ここの部分汚いよ」などのダメ出し付きでしたが(笑)。 制作に向き合った1年間で成長することができたのかなと思えた瞬間でしたね。
反抗期の後の親子みたいだ…!
制作に没頭する1年間を終えて、次の1年間は研究に没頭しました。 情報を空間にレンダリングすることに興味があり、物理シュミレーションができる研究室で1年間みっちりと研究をさせていただきました。 国際学会で発表するという目標も達成でき、研究も一定やりきれたかなと思いました。
制作と研究に没頭したそれぞれの1年を経て、表現文化に対して基底となるような技術的な発明をしたいということが明確になってきました。
自分のフィロソフィーと土台を固めるためIAMASへ
筑波大学を卒業後、IAMAS(情報科学芸術大学院大学、以下IAMAS)に進まれますよね。 IAMASってどんなところなんですか?特徴など教えてください。
研究や制作については、多分野の先生によるチームティーチングという制度をとっています。 生徒が様々な先生と面談し、主査となる先生を1人、副査となる先生を2人選んで、指導を依頼するシステムです。 研究室に所属して研究する形ではなく、自分のやりたいことに合わせて先生を見つけて研究・制作を進めていくという形ですね。
先生のジャンルはバラバラで、情報工学系の先生もいれば、デザイン系、アート系、社会学系など様々なジャンルの先生がいます。 またこのような環境から、3人の先生を選ぶときには、どうしても異なる分野の先生に依頼しなければなりません。 なので、自分の取り組む分野をその専門の言葉だけで語っていてもダメで、他のジャンルの人でも分かるように言語化して、対話する必要があります。 この過程で、自分の取り組む内容を多面的に見ることになります。これは、貴重な経験です。
これが仕組みになっているのはいいですね…! IAMASにはどんな学生の方がいらっしゃるんですか?
まず、年齢のダイバーシティがありますね。 ストレートで進学してきている人ばかりではなくて、30代で会社をやめてくる人などもいらっしゃいますし、さらに年上な方も珍しくありません。
バックグラウンドにもダイバーシティがあります。 僕のように工学がバックグラウンドの人もいれば、家具デザイン、現代美術、音響など様々な分野から来ている人がいます。 ただ、既存のジャンルから一歩外にはみ出して、新しい領域で活動したがっているという点は共通して言える点ですね。
学校は岐阜にありますよね? 田舎だと不便な面もありそうですが、その点はどうですか?
自然に囲まれながらのびのびやれているので、ストレスがないです。これは森の中にある筑波大学でも同じでしたね(笑)。 友達のいる関東と違って遊びの誘いも来ないし、都会から離れてまわりの情報や人の動きからある程度、遮断される環境というのは大きいです。 修士の期間で自分と向き合いたかった僕にとっては非常に良い環境ですね。
すずけんさんはIAMASでの目標ってあるんですか?
今後、ものづくりを続けていく人間として、自分の中でのフィロソフィー・哲学をつくること、そして、今後どういう風にこのものづくりを続けていくかを固めることを目標にしています。 大学の1〜4年の間は、ずっと何かしら手を動かし続けていたので、修士1年の頃は少し手を止めて、内なる自分と対話する時間を大切にしました。 そのため、オーストリアのリンツに留学したり、本を読んでリサーチしたり、IAMASの先生や学生と対話したり、様々なものを取り入れ、考える1年にしましたね。
卒業に向けて制作するものは決まっているんですか?
修士1年で考え抜いた結果、大学3年生のときに取り組んだ立体ゾートロープを再びテーマにすることにしました。 今回の制作では、当時はあまりできなかった自分のフィロソフィーを反映した制作を目指しています。
大学3年のときはとにかく制作に必死で、1人で部屋にこもって作っていたのもあり、いま振り返るとある意味、独りよがりな作品になっていたと感じます。 現在は、修士1年の1年間で自分と向き合った経験や、様々なジャンルの先生・学生と対話するなかで、当時はなかった視点なども得られながら、やっと自分が作りたいもの・表現したいフィロソフィーが固まりました。 最近、ある瞬間にバチッとハマった感覚があり、今は自室で昼夜問わずガンガン制作を進めています。
どのような制作になるのか楽しみだ…! 今後のすずけんさんの展望や目標を教えてください。
僕は、表現文化に対して基底を揺るがしうる技術的な発明をすることを一生続けていきたいと考えています。 博士に進むのか、就職するのか、個人の作家としてやるのか、という形は僕にとってあまり重要ではありません。何をするのかを重要視しています。 そのような活動をし続けるうえで、メディアアートやハードウェアの分野で、どのようにしてお金を集めてやり続けていくかは難しい課題ではあるのですが、その方法を模索して実現していくことが今後の目標であり、チャレンジしていくことですね。
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