消えゆくゲームを蘇らせる!?クラウドゲーミング最先鋒「オーパーツ」CEOが語る、クラウドゲーミング2.0の衝撃
「OOParts(以下、オーパーツ)」を知っていますか? 「オーパーツ」は、4月にリリースされたばかりの、「ビジュアルノベル(以下、美少女ゲーム)」と呼ばれるゲームジャンルに特化した「クラウドゲーミング」サブスクサービス。
今回アンドエンジニアでは、「オーパーツ」の運営企業「Black Inc.」のCEOである、小川楓太さんにインタビュー。
「価値あるゲームをテクノロジーの力で蘇らせたい」。 そう語る、彼の真意とは? そして、彼が語る「クラウドゲーミング2.0」とは一体…?
消えゆくゲームたち…「僕たちが蘇らせる」
「オーパーツ」ではスマホやPCで、昔のWindows用に作られた美少女ゲームを、クラウド上で起動してプレイできるとのことですが、なぜこのサービスを始めようと思ったんですか?
実は、当初の「オーパーツ」は自分の趣味として実装したんですね。 約1年前、2019年の4月のことでした。 そしたらTwitterで1万RTを超える反響があって。 それから、本格的にサービスとして始めることを検討しました。
すごい反響ですね。
ユーザからの反響も当然大きかったんですが、それと同じぐらい「ゲームメーカー」からの反響が大きかったんですよ。 「是非うちの作品を扱って欲しい」という会社から、「その技術を売ってくれ」という会社まで。
ゲームメーカーからですか!? 一体なぜ?
そもそも「美少女ゲーム」は2000年代周辺に、サブカルチャーの中でも一際大きい文化を作りました。 自分も高校時代にいくつかの作品をプレイして、大好きだったアニメやマンガと比較しても、より強く心を動かされたんです。
奈須きのこ氏による「Fate」シリーズの「TYPE-MOON」や、「AIR」「CLANNAD」などの「Key」が有名ですよね。
そういった、「スタジオジブリ」や「ハリウッド」と比較しても遜色ない「強いIP」を生み出すメーカーさんもいます。 「FGO(Fate/Grand Order)」は、単体で上場企業以上の収益を上げていますよね。 あの「bilibili(中国の動画共有サイト)」も、上場時点で、売上の6割以上をFGOの中国ライセンスだけで占めていたとか…。
収益で言えば、もはや最強のIP、コンテンツになっていますよね。
一方で、そういった「強いIP」でも、なかなか原作をプレイしづらいのが現状です。
例えば、「Fate」シリーズの原点である「Fate/stay night」のオリジナルは、この間まで「ロットアップ(編集注:生産終了かつ在庫切れを示すゲーム業界での和製英語)」になっており、かつR18作品なので、スマホはもちろん、PCでもプレイしづらい状況でした。 例えるなら、「スタジオジブリ」の第1作「風の谷のナウシカ」を見る方法がない、という状況です。
また、Windowsのバージョンやハードウェアの問題など、様々な都合でゲームはプレイできなくなります。 そういった「価値あるゲーム」をプレイする手段がないのが、これまでだったんです。
そうなんですね…! 自社ゲームを、現行のデバイスで遊べるようにしたいメーカーさんが「オーパーツ」に興味を持ってくれた訳ですか?
これまでも、多くのメーカーさんが、最新端末やコンシューマー機で遊べるようにするために頑張ってきました。 ただ、そうなると元々のソースコードをベースに、現代の環境で遊べるように、かなり大規模な変更を加えないといけない。 他にも、「スマホゲームだとR18シーンの規制が厳しいので、そのシーンを削る」などの検討が必要ですよね。 結果、移植するだけでも相当な時間的・金銭的コストがかかってしまいます。
新しいOSやデバイスが出る度にやるのは、確かにしんどそうですね…。
一方で、既存のゲームを「オーパーツ」で遊べるようにするのには、既に販売したディスクが1枚あればいい、という仕組みにしたんですよ。 追加の開発コストも、リリースにあたっての初期費用も要らない。 なんなら、開発当時の「ソースコード」さえ要らないんです。
なので、既にメーカーさんは倒産されているケースでも、権利者から許諾をもらって、「オーパーツ」で公開させていただくことが可能です。 究極的には、権利者がディスクを持っていなくても、許諾をいただいた上で、オークションサイトでディスクを1枚手に入れれば良い。 こうして、もう誰も遊べなかったゲームを、誰でも遊べるようにするわけです。
時代の波に埋もれそうになっていたゲームを、クラウドゲーミングの力で蘇らせる、と。
これは、僕たちのクラウドゲーミングのやり方じゃないと出来ないと思っています。
「Google Stadia」の登場と、クラウドゲーミング2.0
もう少し「僕たちのやり方」について聞かせて下さい。
例えば、クラウドゲーミング界の巨人として、「Google Stadia(以下、スタディア)」がありますよね。 本当にすごいサービスなんですが、ここでゲームを遊べるようにしようと思ったら、「もはや別のアプリ」というレベルまで、ソースコードから作り直す必要がある。 OSはLinuxベース、GPUはVulkanベースになるわけですから。
結果、いわば「これまでになかった体験を提供する、ハイエンドゲーム」にだけ特化している。 「体験」を追求した、それ自体は素晴らしいことですが、このやり方だと、前述の「消えゆくコンテンツ」は救えない。 なので、僕たちは「そのままのソフトウェアを動かす」という方法を取っています。
なるほど、敢えてシンプルな形を取ると。 お話に出た「スタディア」、去年頃にニュースになっていたように覚えていますが、やっぱりすごいものなんですか?
僕は「スタディア」以前と以降で、クラウドゲーミングが明確に変わったと思っていますね。 「スタディア」以降を「クラウドゲーミング2.0」と呼んでいます。
一体、何を変えたんでしょうか。
実は、クラウドゲーミングって2010年代前半からあったんですよ。 これが1.0世代。 例を挙げるなら「G-cluster」や、当時の「PlayStation Now」ですね。 ただ、「2.0世代」と比べたときに2点大きな違いがありまして…。
「G-cluster」は聞いたことがないですね…。 何が違ったんですか?
まず、当時は「専用端末」が必要でした。 「G-cluster」はそれ専用のゲーム機が必要だったんですね(笑)。 「PlayStation Now」も、「プレステでクラウドゲーミングを使ってプレステのゲームが出来る」ってだけだったんで、「だったら普通にゲームやるわ!」ってなっちゃう。
なるほど…。 確かに、クラウドゲーミングのために新たにハードを購入するのは、ハードルが高いかもしれませんね…。
そして、2点目ですが、「クラウドゲーミング」を配信するサーバ側のハードウェアも、それに特化したものが必要でした。 当時では非常に高度な「基礎技術」が要求される部分で、当時のソニーは計1000億円近く投資して、「Gaikai」と「OnLive」という会社を買収しています。
そもそも、「クラウドゲーミング」というビジネスを始めるためのコストが莫大だったわけですね。
一方で、「スタディア」以降の2.0世代は、まず「Webブラウザ上で遊べるようになり、ハードの制約から解放された」というのが大きいです。 ブラウザ上での「WebRTC(低遅延でリアルタイム通信を行う規格)」が「枯れて」きて、安定的に使えるようになった。
確かに、ブラウザで動く簡単なWeb電話アプリぐらいなら、「WebRTC」を利用してサッと開発できますもんね。 PCやスマホで「クラウドゲーミング」を遊べるようになって、ユーザ側のハードルが下がってきたと…。
そして、サーバ側も、各種クラウドが充実してきた結果、巨大企業でなくても参入できるようになった。 ハードウェアの進化で、専用チップの開発までは必要なくなったのが大きいです。 その結果、業界として「基礎技術」の勝負から、「サービスの総合力」の勝負になったのが2.0世代の特徴だと思います。
なるほど…。 それで、「オーパーツ」のようなベンチャーでも、業界に参入できたわけですね。
この流れは、5年ほど前から「ライブストリーミング業界」で起きている流れと同じだと思っています。 「ニコニコ生放送」の頃は他社が生放送サービスを始めることのハードルが高かったですが、「基礎技術」から「サービスの総合力」になった結果、「YouTube Live」を皮切りに、「LINE LIVE」「ミラティブ」「SHOWROOM」など、様々なサービス特性を持ったベンチャーが参入していく…。
ぶっちゃけ「高い」?クラウドゲーミングの「価格」
「オーパーツ」の話ですが、今って月額1000円(編集注:期間限定。キャンペーン終了後は3000円)で遊べるわけですよね。 「音楽配信サービス」や「動画配信サービス」と比べて「高い」という声も、ネット上にはあるみたいですが…。
う〜ん、これは「クラウドゲーミング特有のコスト構造」があって…。
ライブ配信部分ですか?
いや「配信」は、そこまでコストがかからないんですよ。 「オーパーツ」は、「クラウド上にWindowsのインスタンスを立てて、そこにユーザがアクセスして操作できるようにする」という仕組みをとっているんですが…。 その仕組み上、接続中の1ユーザにつき、1インスタンスを確保しなきゃいけないんですよね。
あ〜…。
仮に個人が、コンテンツのライセンス料等は措いておいて、完全に趣味で「スマホからクラウド上のインスタンスにアクセスして、ゲームを遊びたいときに、すぐ遊べるシステム」を作ろうと思うと、サーバ代だけで月3〜5万円はかかってしまいます。
確かに、そう考えると、かなり割安に抑えられていますね。
この辺は、「僕らの技術力が低い」というよりは、「クラウドゲーミングという仕組み自体がまだまだハイコスト」という部分もあって…。 例えば、ソフトバンクとエヌビディアが今年始める予定の「GeForce NOW」というクラウドゲーミングのサービスがあるんですが、これにはゲームが付属しないんですよ。 要は、サーバ貸しのサービスなんですが、実はゲーム無しで月額1800円です。 そう考えると、100種類以上のゲームがついてきて「3000円」って、「オーパーツ」の値段はかなり頑張っている方なんです。
なるほど…。 ちなみに少し脱線しますが、「1ユーザ1インスタンス」だと、インスタンス数がすごいことになってしまうのでは?
そうなんです(笑)。 1000人が同時に接続すると、1000インスタンス必要になる。 1000インスタンスって、めちゃくちゃデカいソシャゲの会社でも使わない規模じゃないですか。 リリース当初に、30分ほど障害が発生したことがあったんですが、インスタンス数が増えすぎたことで、AWSのコンソールへのアクセスがタイムアウトしていたことが原因のひとつでした。
AWSのコンソールがボトルネックに(笑)。
元の価格のお話ですが、現在「プレイするゲームに応じて利用するインスタンスを変える」「インスタンスの立ち上げ/シャットダウン戦略を賢くする」などの方法で、エンジニア一同、鋭意インフラコストを抑える努力をしています。 今後、さらに安くなる見込みもありますので、しばらくお待ちいただければと…。
「オーパーツ」を初めとするクラウドゲーミング業界が、これからどんな世界を見せてくれるのか。 期待で胸が膨らむインタビューでした。
小川さん、ありがとうございました!
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