Twitter17.2万RT「密です3D」開発者は落合陽一の弟子だった!NY在住の本人を直撃
4月20日、新型コロナウィルス感染拡大の混乱が続くこの日、一人の男性のTwitter投稿が大きく話題になりました。
小池知事になって街中の密集団を探し、解散させるこの「密です3D」。
4月27日現在、Tweetは17.2万RT、43.6万いいねという驚異的な「バズ」を生み出し、動画の再生回数は830万回以上に上ります。
ついにテレビのニュース番組でも取り上げられ、小池都知事も記者会見でこのゲームについて言及するなど、コロナ禍における数少ない明るい話題としても脚光を浴びています。
その「密です3D」はどのようにして生まれたのか。開発者の坂下 申世(もうせ)さんにお話をお聞きしました。
明らかになったのは、“バズるゲーム”をつくる上で開発者が身につけるべき心構えと、彼が大学時代師事した有名研究者の教えでした。 これを読めば、もう“自粛中”という納期遅れの言い訳はできなくなる!?
デビュー作でいきなりの特大ホームラン
もうせさんは筑波大学で情報学を学ばれて、今はニューヨークのコーネル大学大学院博士課程で研究をされているそうですね。 普段からゲームを作られているんですか?
いえ、実はこうやってゲームを一般に公開するのは初めてなんですよ。
デビュー作が特大ホームランって…すごいですね!
正直ビックリしています。 身内でウケればいいな程度の気持ちで作ったので、こんなに反響をもらえるなんて思っていなかったです。
そもそも、なんで「密です3D」を作ろうと思ったんですか。
Twitterで、小池知事の「密です」発言をいじったコンテンツ(2Dの「密ですゲーム」など)が出始めているのを見て、自分も何か作ってみようと思ったんです。
自分はニューヨークに住んでいるんですが、こちらは日本以上に厳しい自粛状態になっています。 ずっと家にいて、ほぼ外に出れない。 それで、時間に余裕があったっていうのも大きいです。 「自宅で研究ばかり」というのも疲れてしまうので、気分転換にと思ったんです。
自粛で生まれた時間で「密ですゲーム」が作られたんですね。
そうですね。 朝から晩まで家にいるので…。
(我々が家でゴロゴロしてる間に、こんなクリエィティブなことをしている人間もいたのか…。)
ちなみに、ゲームの中で小池都知事が飛んでますよね。 なぜ飛ばそうと思ったんですか?
飛んだ方が面白いからですかね(笑)。
制作期間はわずか4日!早さの理由とは
仮に、小池知事の発言から一ヶ月後に公開されていたら、今のような反響はなかったかもしれませんね。
その通りだと思います。 ローンチするタイミングはとても重要です。 自分の頭の中でアイデアをじっくり暖めて、UIやデザインをしっかり練ってから実装していたら、ここまでの反響はなかったでしょうね。
「密ですゲーム」が完成するまでの期間はどのくらいだったんですか?
アイデアを思いついて、冒頭のTwitterの動画を投稿するまでが2日。 で、そこから遊んでもらえる状態にしてリリースしたのも2日なので、合計4日ですね。
トータルで4日! めちゃくちゃ早くないですか⁉
Unityで作ったんですが、Unityが優れていることも大きくて…。 Unityのアセットストアでは、他のエンジニアが作成したアセットが有料/無料で公開されているんですよ。 今回はそれに、C#スクリプトを書いて動かしました。
「密ですゲーム」で言うと、あのアメリカの街のモデルはアセットストアにあったものなんですね。
そうです。 アセットストアは今、春のディスカウントセールをやってて、ちょうど買ったばかりのタイミングだったんです。 「こいつをどこかで使いたいな」と思っていて。
今回、ついに活かせたわけですね。
「この購入していた街のモデルを使えるのでは?」と思ったことも、制作意欲を掻き立てられた理由の1つですね。
小池都知事は自作したんですか?
小池都知事も、街で密集しているキャラクターも、アセットにあったものです。 小池都知事を、リリース時点ではそれっぽく色付けしたぐらいですね。 現在はBlenderという3DCGソフトで作ったマスクをしてもらっていますが。
すでに公開されているアセットを活用したことが、早いリリースに繋がったんですね。
例えば、ちょうど月曜日のアップデートで、都知事に新たにマスクをつけたり、キャラをカスタマイズできるようにしたんですが、そういう時間がかかる実装はリリース時には付けていませんでしたね。 とにかく、早くリリースするのが優先で。
落合研で学んだ「とにかく手を動かす」ということ
とはいえ、既存のアセットを活用しても、ここまで素早くリリースすることは簡単ではないですよね。 今回のリリースまでの早さには、他に何か秘訣があるんでしょうか。
僕は今はコーネル大学ですけど、学部時代は筑波大学の落合陽一先生の研究室にいたんですよ。 そこで落合先生やラボメンバーに鍛えられたということが大きいかもしれません。
あの落合研! 落合先生の研究室は相当スパルタと聞きますね…。
実際はそんなに厳しいという感じでもなくて(笑)。 研究室には学部1年から博士課程まで幅広く在籍しているので、それぞれの段階に合った指導をしている感じですね。 落合研で、「とにかく手を動かしてプロトタイプを作る」「プロトタイプへの反応を見て、本質的な問題が解決できているかを確認する」のサイクルを繰り返すことを叩き込まれました。 その経験は、今専攻している、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションという分野での研究でも活きていますね。
なるほど。 まずは「世に出してみる」ということですね。 その落合研での経験が、今回の「密ですゲーム」でも生きている、と?
そうですね。 「アイデアを思いついたら、まずは手を動かしてプロトタイプを作ってみよう」というスタンスが自分の中に残っていて。
ちなみに、「密です3D」がバズってることは、落合先生は知っているんですか。
落合先生も知ってます。 LINEに落合研の同窓会グループがあって、そこで「もうせがバズってるぞ」という投稿に「それな」って返信してました(笑)
「自粛期間中こそ、勉強するチャンス」
「密です3D」をリリースしてみて変わったことはありますか。
「一度遊んでくれても、ゲーム性がしっかりしていないと、継続して遊んではくれない」ということを実体験として感じましたね。 今は、ゲーム性の改善に腐心している状況です。 実際にリリースしてこそ、こういった学びがあるので、やはりとりあえず作ってみるのが一番です。
「密です3D」がデビュー作ということですが、今後新しいゲームを作る予定もあるのでは?
うーん、どうでしょう。 自分は博士課程だし、将来も研究に携わるつもりなので、当面は研究が第一です。 ただ、今回の件のように、何か思いついたタイミングで作る、といったことはあるかもしれません。 その意味で、「アイデアが降りてきた時に、それを形にできるスキル」を持っていることは重要だと思います。
確かに、ゲームを作ろうと思ってからUnityやC#、デザインを勉強をしていたら、今回のリリースには間に合っていないですもんね。
日ごろから、関心を持って色んな技術に触れていたことは大きかったと思います。 1つのゲームをリリースしようと思うと、例えば「遊び方についての動画をYouTubeに投稿」したり、「キャラクターをデザイン」したりといった、通常の開発とは異なる作業が必要になってくるんですよ。 そして、スピーディにリリースしたければ、こういった作業も自分でやる必要がある。 自分は趣味程度ですが、IllustratorやPhotoshop(それぞれデザインソフトウェア)やBlender(3DCGソフトウェア)などを勉強していた、ということが非常に役に立っています。
普段からの幅広く勉強しておくことが重要、だと。
自分の場合は、落合研で優秀な仲間から刺激を受けつつ、負荷を掛けて勉強することに慣れていたので、色んなスキルを習得できていたという面があるかもしれません。
ただ、エンジニアの中には、自分の専門外については「それは自分の仕事じゃない」と思っちゃう人も一定いると思うのですが…。
それが悪いとは言いませんが、個人開発の場合はフルスタックで全部、自分でやる必要があります。 「専門外の技術でも、必要であれば興味を持って、ある程度使えるようにしておくこと」は重要だと思います。 今の自粛期間中こそ、興味があるのに手を出していなかった分野について勉強してみる、いいチャンスかもしれません。
あと、もう一つ。 何かを作ってみたら、クオリティがそこまで高くなくても躊躇わずに、リリースしてみた方がいいですね。 当然ですが、どんなエンジニアでも全てが上手くいく訳ではありません。 「とりあえずリリースしてみて、ユーザの反応を見て改善する/成長する」という態度の方が建設的だと思います。 エンジニアの皆さんは、自粛期間を機に、一つプロダクトをリリースしてみるのも良いのではないでしょうか。
(5/30 編集部追記)
記事公開後、非常に大きな反響のあった本記事。
製作者もうせさんが『密です3D』のアップデートおよびスマホアプリ化のため、クラウドファンディングを開始されました!
一緒に『密です3D』を応援しませんか? 支援者には様々なリターンがあるとのことです。ぜひご覧ください! https://www.makuake.com/project/mitsu-desu-3d/
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