通話サービス「TwiCall」の個人開発者と買収企業、両者が語る開発とスピード事業譲渡の裏側
8月中旬、株式会社AppBrewによるTwiCallの取得が発表されました。
TwiCallは、学生の個人開発者れとるときゃりーさんが開発した、Twitterで通話の募集ができる無料のWebサービスです。
5月のリリースから8月の事業譲渡まで約3ヶ月。
スピード感のある事業譲渡はどのようにして進んだのか? そしてその開発者れとるときゃりーさん(以下、きゃりーさん)とは?
株式会社AppBrew(以下、AppBrew)側で今回の事業譲渡を担当した松井さんにもご同席いただき、その裏側に迫りました。
TwiCallのスピード事業譲渡の裏側
今回の事業譲渡、とても驚きました。 個人開発者の事業譲渡のニュースも久しぶりだし、何よりすごいスピード感ですよね。 実際どのようにして進んだんですか?
譲渡契約の流れとしては、我々AppBrewがきゃりーさんに直接TwitterのDMを送ってご提案しました。 すぐに返事が来て、そのままオンラインで通話したんです。 譲渡の意向についてすぐに確認できたので、そのまま契約の進め方や金額感、具体的な条項などについて3時間くらい話し合いました。
いきなりのDMからそのまま進むスピード感すごい…!
お互いの意向が最初から一致していたのでかなりスムーズに進みました。 あ、もちろん使ったオンライン通話ツールはTwiCallでした。
これは大きなイベントだし、TwiCallで話すのが一番エモいやつだと思ったので(笑)。
めちゃめちゃエモいなー! 意地悪な話なんですが、事業譲渡って条件や条項で揉めるようなお話も聞くじゃないですか。 そういう点は大丈夫でしたか?
全然なかったですね。 むしろ、お互いに揉めたくないという気持ちが強かったので、競合避止義務のような点を含め、細かく詰めながら進めました。 AppBrewさんもそこを理解してしっかりとお話してくれました。
譲渡側も取得側も、お互いにしっかりと話せているの素晴らしいですね…!
TwiCallは「売るか閉じるか」のサービスだった!?
きゃりーさんは譲渡する際に迷いみたいなものはなかったんですか? 自分の作ったサービスですし、手放したくない気持ちもあったと思うのですが。
もちろん愛着はあったんですけど、実はTwiCallは売るか閉じるかしたいサービスだったので、迷いはなかったですね。
え!?ユーザも伸びてたはずなのにどうして!?
僕は飽き性で、作ってしまうと満足しちゃうんですよね(笑)。 それに、個人開発で作ったサービスが伸びてくると、それはそれで責任が発生するので、その対処が面倒だったというのもあります。
特に音声通話サービスだと、ユーザ同士のコミュニケーションが発生するので、問題が起きるリスクは十分にあるなと考えていました。 もちろん積極的に閉じたいわけではなかったですが、それもやむなしだと思っていたんです。
サービスの種類によっては、伸びるにつれてそういった課題もでてくるんですね、難しい…。 譲渡契約がまとまってからはどのようにして進めていったんですか?
まずはコードの移管や各種オーナー権限の移行を進めていきました。 一通りの移行が完了して終わりではなく、きゃりーさんに業務委託のメンバーとして入ってもらって一緒に開発を進めています。
事業譲渡後もきゃりーさんが関わっているんですね!
TwiCallについて一番理解していて思いもあるのはきゃりーさんですし。 それに、きゃりーさんはユーザ視点での分かりやすさを追求するのが得意で、チーム内でも役割的に補完できているんです。 きゃりーさんとAppBrewのエンジニアでタスクを分担しながらうまく進められていますね。
例えば、僕がワイヤーフレームを作って、AppBrewのエンジニアさんに実装はしてもらうこともあります。 やっぱり自分が必死に作ったサービスなので愛着もありますし、譲渡後も開発に関わることで、嬉しくない変更などを一定コントロールできるのは安心です。
事業譲渡後も開発・運営に関わるというのは、個人開発者としては理想的な形の一つかも…!
コロナ禍でより求められる「寂しさ」を解決するためのサービス
気になったのですが、なぜAppBrewさんはTwiCallを取得しようと思ったんですか?
AppBrewは美容プラットフォームサービスのLIPS以外にも、色々な新規事業に挑戦しているんです。 そのうちの一つで音声領域にトライしていました。
そんな折にTwiCallがバズって、社内でも面白いサービスだと話題になっていました。 実は、TwiCallに似た機能を持ったサービスを作って検証したこともあったんです。
競合サービスがあったんだ(笑)。きゃりーさんはご存知でした?
もちろん知ってました。 似たようなサービス作ってるな〜と思って見てました(笑)。
検証していく中で、既に知名度が高く多くのユーザに使われているTwiCallと競合するのは得策ではないと思いました。 むしろTwiCallの開発者の方と一緒にサービス作っていけたら最高だよね、という話になり、事業譲渡を提案させていただいたんです。
AppBrewさんはTwiCallを取得したうえで、関連する通話サービスをアプリで開発されてるんですよね?
そうですね、こちらのTeleful(テレフル)になります!
今ってあまり外に出かけられないし、人と会って話す機会が減ってきて、寂しさを感じる瞬間が増えていると思っていて。 SNSなどテキストのやり取りができるものは多くありますが、声で繋がることでテキストで繋がる以上に親密な関係を築くことができると感じているんです。
TelefulとTwiCallを通して、ふらっと集まって話せる体験がもっとカジュアルに生まれるようにしたいと思っています。
僕がTwiCallを作ったのもかなり考えが近くて。 昔から作業中にmocriっていう通話サービスも使ったりしていて、もっと通話を誘うハードルを下げられるサービスを作れないかと思っていたんです。 半年以上前から実際に通話関連のサービスを開発していました。
コロナの影響で大学がリモートになって帰省した際に、1ヶ月くらい1人でウィークリーマンションに籠もってTwiCallを開発していました。 東京から帰省したので友達も会いづらく、ほとんど誰とも会わずしゃべらない生活だったんです。 TwiCallが完成しないと寂しさでメンタルをやられそうだったので、死ぬ気で開発しました(笑)。
AppBrewのTelefulもきゃりーさんのTwiCallも、解決したい課題や目指す世界は同じなんですね。
だからこそ事業譲渡もスムーズにいった面もあると思います。
個人開発で大事なのは「バットを振るのをやめないこと」
こちらのnoteも拝見したのですが、きゃりーさんはこれまで個人開発でかなりの数のサービスを作られてますよね。 どういったきっかけで個人開発を始めたんですか?
もともと作曲したりもしていて、創作が好きだったんです。 プログラミングは高校時代はハローワールドをやってみたレベルで、大学入学後になにか作ってみようと開発を始めました。 最初はArduinoやラズパイなどの電子工作やIoTみたいなことをやってました。
Webサービスの開発にハマったきっかけは?
サークルのホームページを作った際にHTMLやCSSに触れたのが始まりでした。 初めて本格的に作成したのが、仮想通貨で投げ銭ができる音楽投稿サイトであるTipmusicです。
有名人にRTされたり、多くのブログ掲載されたりして初めてバズったのと、自分の好きなボカロ作家がサービスを使って投稿してくれて、とても嬉しかったのを覚えています。 ここからWebサービスの開発にのめり込みました。
ただ、独学で全然知識がなかったので、フレームワークすら使ってなくて。 ページングがすごくめんどくさかったです(笑)。
Tipmusicの改善をしようとしたときに初めてフレームワークの存在を知って、半年くらいかけて色々と開発しました。 でも、振り返ると重要じゃない機能も多かったし、マイグレーションし損ねてコンテンツが全部消えてしまい、サービスの勢いが落ちちゃいました。 時間かけた割にうまくいかず、めっちゃ悔しかったです。
なかなかハードな失敗談ですね…。 そこから個人開発が嫌になったり、開発のモチベーションが下がったりしなかったんですか?
むしろ燃えました。 Webサービスで実際に長く使われて、ユーザーがつくようなサービスを本気で作ってやろう、って。 そこからはPV数の目標をたてて、サービスを開発しまくりました。
メンタル強い…! そこからいくつもサービスを作りながら、TwiCallやみんなのボタンメーカーなどバズるサービスもでてきていますよね。 個人開発のコツとかあるんですか?
ヒットするサービスを作るために一つだけ絶対に必要だと思っているのが、「バットを振るのをやめない」ということです。 僕自身、みんなのボタンメーカーがバズって利用者が増えた後に、また次もバズるサービスを作らなきゃってプレッシャーで萎縮して開発が進まなかったんです。
でも、そのままだともっと大きいサービスは作れないと気づき、また開発を始められました。 あのとき開発の手が止まったままだったら、TwiCallは生まれていなかったです。
とにかく続けることが大事なんですね…!
開発の過程は公開してコンテンツに。
とはいえ反響がないと続けるのも辛いと思います。 なにかオススメの方法ってありますか?
僕がやっているのは、サービスの構想や開発の過程、疑問点などを公開することですね。
リリース前から公開!?アイデアが真似されたりするの怖くないですか!?
すでに開発が進んでいるのを見ると諦める人の方が多いと感じています。 それに、もし真似されたとしても先に開発している方に分がありますよ。
なにより、公開することでサービスへのフィードバックがもらえるんです。 開発途中なのでコンセプトや最低限の機能の検証になるんですが、反応が微妙だと方針転換のきっかけになるし、反応がよいと開発のモチベーションが上がります。
これまでの経験から、開発途中から反応がいいとリリース後に確実にバズりますし、実際に刺さるユーザは引くぐらいに熱量高くフィードバックをくれます(笑)。
僕は結構ビビってしまうタイプだったので参考になります…。
あとは、開発の過程ってコンテンツになるので、公開すると周囲の人が楽しんでくれるんです。 サービス開発って100%うまくいくわけはなくて、むしろ失敗のほうが多いです。 だったら、もし失敗したとしても、開発の過程や試行錯誤の様子を楽しんでもらった方がいいじゃないですか。
そういった開発の過程を知っている人は、完成時には拡散を手伝ってくれますし、刺さった人は初期から熱量が高いユーザになってくれます。 TwiCallなんて「できた」みたいな簡単なツイートをしたらまたたく間に拡散されてちょっと焦ったくらいでした(笑)。
そして、世の中には本当に親切なエンジニアの方が多く、困っているときに教えてくれる方がいらっしゃいます。 なので、技術スタックや難しいと感じている点も公開しているんです。
公開するデメリットよりメリットの方が圧倒的に上回ってるんですね…!
事業譲渡で学んだ「ユーザ増加やマネタイズの仕組み」の重要性
そういえば、事業譲渡の過程で個人開発に関して学びがありました。 これまで開発してきたサービスは、自分が作りたいものや仮説の検証をしたいものをノリでつくる感じで、マネタイズもGoogle Adsenseを貼り付けているだけのものがほとんどでした。
個人開発者はそういう方が多いイメージです。
でも、事業譲渡の際にはユーザが増えていく仕組みやマネタイズの可能性という観点で評価をされました。 これがないと長期的にサービスとしては成立しないですし、もし事業を譲渡できたとしても、その後のサービスの寿命に直結します。
ユーザを集められる仕組みやマネタイズの仕組みを構造的に持っていることが、自分の手を離れた後にも長続きするためには不可欠なんです。
たしかに…! この学びは今後の開発にも活きてきますか?
趣味の範囲での開発ではあまり考えないと思いますが、事業譲渡や継続的な運営を目指すサービスでは開発当初からその仕組みや構造を意識して設計していくと思います。
事業譲渡後の個人開発者のキャリア
きゃりーさんは学生で事業譲渡を経験したことになりますよね。 生活やキャリア設計になにか変化はありましたか?
生きていければいいやというタイプなので、劇的に変わったことはなかったです。 実績にはなるので周りの評価は上がっただろうしそれは嬉しいですが、自分の能力が何か変わったわけではないので、むしろこれからちゃんとやっていかないとなと思っています。
きゃりーさんは今後はどうされるんですか? 個人開発で食べていくという選択肢もありそうですが。
今のところはチームに入って開発する経験を積みたいと思っています。 個人開発でやり続けるのって楽しくない瞬間も多いですし、自分一人の力だけだと限界があって、プロダクトのスケールや作り込みが個人レベルに留まってしまいます。
将来的には、プロダクトのコンセプトやUXを考え、収益を作り、大きなサービスをリードできるようになりたくて。 そのためにもチームでの開発の経験を積みたいし、もう少し幅広くエンジニアリング力を身に着けたいと考えているんです。 もちろん個人開発をやめることはないですが、ひとまずは趣味として続ける所存です。
ということは就活をするんですか?
実はちょうどいま就活しています! 現時点のスキルセットを載せているので、オファー等ありましたら、ツイッターのDMにご連絡ください!
きゃりーさんが募集したら引く手あまたでは…! 興味のある企業の方はぜひご連絡ください! AppBrewさんもなにか伝えたいことがあれば!
直近の新規事業としてはTelefulとTwiCallの音声領域に力を入れていますが、音声以外でも様々な領域でサービスを検証していければと考えています。
AppBrewは美容プラットフォームサービス「LIPS」の会社というイメージが強いと思うのですが、新規事業を成功させて単プロダクトの会社から領域横断的なテックカンパニーへと成長したいと考えていますので、お力を貸していただける方はぜひご連絡ください!
きゃりーさんもAppBrewさんも今後どうなるか楽しみだ…! 貴重なお話ありがとうございました!
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