数学を勉強したことのある人なら、一度は目にしたことのある本**『数学ガール』。**

物語調の文章で、高校から大学レベルの難解な数学をわかりやすく説明してくれる本として、助けられた人も多いはず。

数学ガール（立ち読み版）

~~ 結城さんの代表作「数学ガール」。扱う数学は決して簡単ではないが、高校生の「僕」や、高校生のミルカとテトラ、中学生のユーリなど多彩なキャラクターの会話を通じて数学を学ぶことができる。 ~~

そんな数学ガールの著者・結城浩さんは、実はプログラミングの本も書いているエンジニアでもあるんです！

今回はそんな多様な側面を持つ結城さんに、若手エンジニアへのアドバイスをお伺いしてきました！

## 「発信すること」で学びの効率アップ

#### balloon and-engineer left
結城さんといえば『数学ガール』という数学物語が有名ですが、かつてはエンジニアとして働かれていたんですよね。

#### balloon hyuki_san right
そうですね。
*若いときはプログラマとして、またソフトウェアエンジニアとしてばりばり開発していました。*
**実は私の最初の著書も、『数学ガール』ではなくC言語に関する本でした。**
現在は職業エンジニアとして働いてはいませんけれど、ふつうにプログラムは書いています。

~~ 結城さんの最初の著書「Ｃ言語プログラミングのエッセンス」 [amazon.com](https://www.amazon.co.jp/C%E8%A8%80%E8%AA%9E%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AE%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B9-C-MAGAZINE%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E7%B5%90%E5%9F%8E-%E6%B5%A9/dp/4890524312)より ~~

#### balloon and-engineer left
そうだったんですね！
これまでに、全部で何冊くらい本を書かれたんですか？

#### balloon hyuki_san right
改訂版もカウントするなら、これまでに出版された著書は**54冊**(※インタビュー時点)ですかね。
最初の本が出たのはいまから*27年前*になります。

#### balloon and-engineer left
途方もない数字だ…。
ブログですら続かない人が多いなかで、そんなに長く継続して本を書けたコツって何なんでしょう？

#### balloon hyuki_san right
「コツはこれです」みたいにまとめるのは難しいですが、**自分のために情報発信していたから**というのは長く継続できた理由の一つになると思います。

#### balloon and-engineer left
自分のため、ですか。
情報発信にどんなメリットがあったんでしょうか？

#### balloon hyuki_san right
当たり前のことですが、プログラミングにしろ数学にしろ、**情報発信しようと思うと、内容を正確に理解し、記述する必要があります。
ですから、*情報発信すると、結果として深く学ぶことができ、しかも忘れにくくなるんですよ。*

#### balloon hyuki_san right
軽くさらっただけの勉強だと、結局あとから勉強し直したり、何度も検索して調べ直したりして、かえって時間が掛かることがあります。
自分から情報発信するつもりでちゃんと勉強した方が、*トータルでは効率がいい場合は多いですね。*

#### balloon and-engineer left
たしかに、人に教えることが一番の勉強法だ、というのはよく言われることですよね。

#### balloon hyuki_san right
ああ、それから、**自分の手間を減らすために、本を書く場合もありましたね。**
昔話になりますが、ネットでCGI（Common Gateway Interface）を作っていたときに、メールでたくさん質問がくるので、一つ一つに答えずに済むように本を書きました。

~~ 結城さんが書いた、CGIに関する本。CGIはかつて動的Webアプリを実装するための最もメジャーな方法だった。 ~~

#### balloon hyuki_san right
他の継続的に本を書けたモチベーションとしては、読者さんからの反応があります。
『数学ガール』がいい例ですが、『数学ガール』は当初、Webで無料公開していたんです。いまでいうWeb小説でしょうか。当時は私が作った*テキストサイト*で公開しました。

#### balloon and-engineer left
数学ガールはWeb小説のはしりだったんですね…！

#### balloon hyuki_san right
公開した当初から大変評判が良くて、はてなブックマークなんかで話題になって。
読者さんからの反応がうれしくなって、どんどん続編を書くようになりました。
何編かまとまったときに、たまたまプログラミングの書籍の改訂版を何冊か出したタイミングがあり、*そこで『数学ガール』の企画を編集部に提案したんですよ。*

#### balloon hyuki_san right
一冊目が出るまでは、売れるかどうか出版社さんも半信半疑だったと思います。
そりゃそうですよね、**「数式がたくさん出てくる物語」がそんなに売れるとは思えないでしょう。**
でも、*おかげさまで予想よりも非常によく売れた*ので、現在は出版社さんもシリーズを全面的にバックアップしてくださっていますね。

#### balloon and-engineer left
いい意味で期待を裏切られたんですね。
数学ガールは広い年齢層に親しまれている印象なんですが、これまで何冊くらい出ているんですか？

#### balloon hyuki_san right
そもそも私自身も、まさか続編が出るようになるとは思っていませんでした。でも「数学ガール」シリーズは現在までに6冊刊行され、「数学ガールの秘密ノート」は13冊が出ています。2020年11月には14冊目の『数学ガールの秘密ノート／確率の冒険』も出ますね。

~~ たくさんの続編が出版されている「数学ガール」 ~~

#### balloon and-engineer left
もはや長編小説だ…！

#### balloon hyuki_san right
単純に執筆が継続できただけではなくて、**数学ガールの方向性に関しても、読者さんからの強い影響を受けているところがあります。**
たとえば、数学ガールの読者さんってどんな人が多いと思います？

#### balloon and-engineer left
僕が初めて読んだのも高校生のときでしたし、中高生や大学生ですかね…？

#### balloon hyuki_san right
そうですね。確かに中高生や大学生は多いですし、私も当初はそう思っていました。
ところが、*その他にも「教える人」にも読まれていることがわかってきたんです。*
学校の先生や、塾の先生、自分の子供に教える親御さんですね。

~~ 結城さんは学校の教師向けに講演も行ったことがある。[結城さんの個人HPより](https://www.hyuki.com/girl/lesson.html) ~~

#### balloon and-engineer left
学校の先生、ですか。
あまり、読み物でわざわざ数学を勉強し直す必要はなさそうですが…。

#### balloon hyuki_san right
*数学の勉強をするため*ではなくて、**教え方の参考にするため**に読んでくださっている先生が少なくないようなんです。
読者さんの中に、そのような「教える人」がいるということを知り、数学ガールの物語の中に、より「学ぶこと」や「教えること」という要素が強く入ることを意識するようになりました。

#### balloon and-engineer left
自分の書きたいことを書くんじゃなくて、読者に合わせて書く方向が決まるなんて、かなり読者ファーストで書いてらっしゃるんですね。

## 自分が見ている「自分」が全てじゃないからこそ、若手エンジニアはキャリアを柔軟に考えるべき

#### balloon hyuki_san right
私は**自分のやることをあまり固定的に決めすぎず、相手や状況に合わせて柔軟に変える姿勢って、20代後半から30代エンジニアのキャリアにも通じるところがあると思っています。**

#### balloon hyuki_san right
**20代後半から30代って、難しいお年頃だと思うんです。**
まったくの初心者というわけじゃないけれど、それほど立派なキャリアがあるわけでもない。
経験を積んできて、少しずつ成長していて、それから多くの可能性が見え始めてくるころ。

#### balloon and-engineer left
ちょうどゴリゴリのエンジニアから、PMみたいなマネジメント職になる人もでてくるくらいの年齢ですよね。

#### balloon hyuki_san right
そうですね。
そんな年代のエンジニアですが、自分なりの経験があるので、*ややもすると技術にフォーカスし過ぎるきらいがあるんですよ。*
自分は技術で生きていくぞ、プログラミングに特化していくぞ、みたいに。

#### balloon hyuki_san right
たとえば、*自分はエンジニアなんだから、マネージメントはしなくていいや*とか、*コミュニケーションはどうでもよくて、そんなことより技術をもっと磨けばいいんだ*みたいな考え方に陥ってしまう人は少なくないと思います。

#### balloon and-engineer left
そう言ってた人の顔がいくつか浮かびました（笑）。

#### balloon hyuki_san right
そんなふうに、**自分はこうだから、自分のやるべきことはこれだけだ。みたいに固定して考えるのは、やっぱり楽なんですよ。**それだけやってればいいので。
でも、それだと、自分の可能性を狭めてしまう危険性がある。もっと自分の可能性が広がるかもしれない時期に、自分から視野を狭くしてしまう。

#### balloon and-engineer left
でも、将来使わなさそうなスキルって確かにありません？
そういうスキルを身につけるために努力するの、億劫に感じてしまうんですよね…。

#### balloon hyuki_san right
いやいや、*そもそも20代後半から30代くらいに考える「自分」なんて、自分の本当の能力をまったくとらえきれてないと思いますよ。*

#### balloon hyuki_san right
自分はこんなスキルは使わない、なんて簡単に切り捨てられません。「自分はこういう人間だ」という自己認識は誰しも持っていますけれど、**その自己認識がそもそもズレている可能性だってありますし。**

#### balloon and-engineer left
自己認識がズレているって発想はなかったです…！

## エンジニアは「自分の実力」を誤認しがち

#### balloon and-engineer left
結城さんは、著書の他にも、いろんな内容をTwitterや個人ブログ、noteなどで発信されていますよね。
これまででバズったコンテンツの中で、エンジニアへオススメしたいものはありますか？

#### balloon hyuki_san right
**[「プログラマの心の健康」](https://www.hyuki.com/kokoro/)**ですかね。
これは、まだ私がエンジニアとして働いていたころ、つらかった自分を励ますために書いたものです。
SNSもない20世紀の末に書いた文章ですが、未だに読んで拡散してくれている人がいます。

~~ Twitterで「プログラマの心の健康」と検索すると、共感の声が多々発見できる。 ~~

#### balloon and-engineer left
20年たった今でも拡散されるってすごいな…。
でも、この20年で、エンジニアを取り巻く環境もだいぶ変わっていますよね。

#### balloon and-engineer left
エンジニアはホワイトだってよく言われるようになったし、情報系の学部の社会的地位も上昇してるじゃないですか。
*それでも20年前の結城さんのアドバイスが通用するワケってなんですか？*

#### balloon hyuki_san right
エンジニアはその仕事の性質上、メンタルが不安定になりがちな職業なんです。
**いつの時代でも、これは変わりません。**

#### balloon and-engineer left
メンタルが不安定になりがち…？
確かに優秀な同僚と自分を比較して落ち込んでいるエンジニアはたくさん見ますが…。

#### balloon hyuki_san right
まさにそこです！
エンジニアは他の職種に比べて、特に*優秀な同期と比較して落ち込んでしまう状態に陥りやすい理由があるんです。*
**エンジニアってどうしても「自分の実力」がわかりにくいんですよ。**

#### balloon and-engineer left
自分の実力がわかりにくい…？
もう少し詳しく聞かせていただけますか？

#### balloon hyuki_san right
エンジニアって、コンピュータのおかげで、**自分が行う仕事量に対してすごく大きな成果を生むことができる**じゃないですか。

#### balloon hyuki_san right
少しのプログラミングで、これまで毎日何時間も掛かっていた仕事が数分で終えることができるようになる、なんてよくある話です。
これっていわば、**レバレッジがかかった状態なんです。**

#### balloon and-engineer left
なるほど。

#### balloon hyuki_san right
どうしても、そのようにレバレッジが掛かった成果物を比べてしまうことになるので、*実際の能力以上に差を感じることが多いでしょうね。*
もちろん、各人の能力差はあるでしょう。でも、他の業種に比べたらその能力差が極端に拡大されて見えてしまうということです。

#### balloon hyuki_san right
自分自身の成果物についてもそうです。うまくいってるときは「オレってばスゲー！」という万能感で満たされるのに対し、うまくいかないときは逆に落ち込んでしまうんです。

~~ エンジニアは成果にレバレッジがかかっている状態で他人と自分を比べることが多い。 ~~

#### balloon and-engineer left
確かに、できる人は「瞬時に解決」するけど、できないときは「何年かかってもできなそう」という印象があります。
「完全に理解した」と「何もわからん」を繰り返すエンジニアもいますね。

#### balloon hyuki_san right
まあ「完全に理解した」はジョークの一種ですけれどね…。
あとは、*技術の変化があまりにも高速*で、いつも追い立てられている状態になっていることもメンタルが弱る原因の一つになるでしょう。

#### balloon hyuki_san right
先週はこのライブラリでこうするのが最先端だったけど、今週はそんなやり方はもう古い……そんなケースだってありますから、そこから受けるストレスは非常に大きいです。

#### balloon and-engineer left
真逆の仕事をやることすらありますしね…。
エンジニアは仕事の性質からすでにメンタルが不安定になりやすかったんですね。

## 若者が陥りがちな罠は、「成長による解決」

#### balloon hyuki_san right
メンタルが不調になったときに注意してほしいことがひとつあります。
私は医者ではないので、あくまで私の個人的な経験則ですけれど。

#### balloon and-engineer left
どんなことでしょう？

#### balloon hyuki_san right
それは、**すべてを自分の力で解決しようとしない**ということです。
もっと具体的にいえば、○○という発想を自分が身につけさえすれば、現在のメンタルの不調に対処できる……のように考えないということです。対処方法のすべてを自分で見つけ出そうと思わないこと。

#### balloon and-engineer left
え、どこがダメなんでしょうか…？
自分でやるって、すごく前向きで推奨されるマインドセットだと思うのですが。

#### balloon hyuki_san right
逆説的ですが、**この自分で解決しなくちゃという思考はけっこう危険なんです。**
自分のメンタルがつらいから自分で原因を見つけて自分でどうにかしよう……という根底には、*「自分のすべてを自分でどうにかできる」*という考えがありますよね。「自分のすべてを自分でどうにかできる」と思っているのに、現実にはできない。だから、苦しくなるんです。

#### balloon hyuki_san right
そもそも、自分が考える「原因」が本当の原因なのか、怪しいことはよくあります。調子が悪い自分が考えることをどこまであてにしていいのか…。

#### balloon and-engineer left
原因を認識している自分を疑え、ということですね。なんだか哲学的な話だ…。
そうなると、現実にメンタル不調があったとき、どうすればいいんですか？

#### balloon hyuki_san right
**私は「他者の存在」が大事だと思っています。**
つらいときって「誰かにそばにいてほしい」や「誰かに話を聞いてほしい」と思いますよね。これは、他者の存在が大事だということを、みんな心のどこかではわかっているんだと思います。

#### balloon hyuki_san right
心が苦しいときには、**仕事とは無関係に自分を受け入れてくれる「誰か」と話すのがいいと思います。**
仕事の場ではエンジニアという役割として見られています。
そういう役割としてではなくて、いち個人として見てくれて、受け入れてくれる相手と話すのが大切ですね。「他者の存在」です。

#### balloon and-engineer left
プライベートの会話で仕事を思い出してしまい、気が休まらないやつですね…。

## エンジニアが情報発信する際に大事なのは《読者のことを考える》

#### balloon and-engineer left
最近QiitaやZennなどが有名になり、技術ブログなどエンジニアが情報発信する場面も多くなってきています。
最後に、情報発信のプロとして、結城さんからなにかアドバイスはありますか？

#### balloon hyuki_san right
情報発信をするときの原則をお伝えします。
その原則とは**《読者のことを考える》**です。
《読者のことを考える》ができると、*せっかく書いた文章がまったく読まれない、読まれたとしても伝わらないということが起きにくくなります。*

#### balloon and-engineer left
それってどういう理由なんでしょう…？
内容をちゃんと書こう、ということならわかるのですが。

#### balloon hyuki_san right
もちろん内容をちゃんと書くのは大事です。
でも、文章を書く目的というのは、その内容を読者に伝えることですよね。
**自分が誰に伝えようとしているのかを意識せずに、内容をちゃんと書くのは不可能なんです。**

#### balloon hyuki_san right
たとえば文章を書くときには、*ある用語をどのくらい詳しく説明する必要があるか、全体の長さをどのくらいにするか*……そんなことを悩みますよね。文章を書く人は判断をする必要があります。

#### balloon and-engineer left
おっしゃるとおり、文章を書いているときに、書きたいこと以外にもたくさん悩みます…。

#### balloon hyuki_san right
*判断をするときには《読者のことを考える》のが一番です。*
自分は誰に向かって書いているのかを考えるんです。読者を深く意識することで、どのくらい詳しく説明する必要があるか、どれだけの長さが適切なのか、それに対する答えが見つかるんです。

#### balloon hyuki_san right
逆を考えればもっとわかりやすいです。もしも読者を意識せずに、書きたいことを書きたいように書いたなら、難しすぎたり、易しすぎたり、長すぎたり、短すぎたり……と読者にとって読み難く伝わりにくい文章になるでしょうね。

#### balloon and-engineer left
文章を書いているときに、自分の好きなように書いてしまうの、あるあるですよね…。
当たり前ですが、やはり《読者のことを考える》のが重要なんですね。

#### balloon hyuki_san right
そうです。
自分向けに書く簡単なメモであっても、*《未来の自分》という読者のことを考えて書くのがいいですね。*
どうせ読むのは自分だからなんて適当に書いたメモは、読み返したときにわけがわからなかったりします。

#### balloon and-engineer left
分かります！
技術ブログでもメモでも、適当に書いてしまって後から見返すと何を書いてるかわからない…みたいな経験はエンジニアなら誰しもありそう…。

#### balloon hyuki_san right
文章を書くときの《読者のことを考える》という原則は、本当に重要です。
私はこの原則を伝えるために「数学文章作法」という本を書いたくらいです！

書籍『数学文章作法』基礎編・推敲編

かつて数学を学んだことのある人の大半が読んだことのある「数学ガール」。今回は、その著者であり、かつては職業エンジニアとして働かれていた結城浩さんに、若手エンジニアへのアドバイスを伺ってきました！

多数のプログラミング・数学に関する本を執筆している。代表作は「数学ガール」シリーズ。かつては職業エンジニアとしても働いており、現在でもプログラミングは続けている。メルマガ・note・個人Webサイトなどでの文章の発信や、Twitterでのツイートも精力的におこなっている。

結城浩

若手エンジニアは、キャリアを考えるときに「自己認識のずれ」に注意しよう

メンタル不調に陥ったら、自分だけで解決しようとせず他人に相談しよう

技術ブログなどで情報発信するときには《読者のことを考える》を忘れずに

著書54冊!? エンジニアかつ「数学ガール」著者の結城さんが語る、エンジニアのメンタルマネジメントのすゝめ

「*競技タイピング*」という世界をご存知ですか？

**タイピングの速度と正確性を競うもので、日本一を決める大会も開催**されているんです。

それがハイエンドキーボードで有名なREALFORCEが主催している**「REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP」（以下、RTC）**。

その大会の熱気と競技性、そしてタイピング速度は想像を大きく越えるものでした。

REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2019 Digest

~~RTC2019のダイジェスト動画。miriさんは1:48あたりから登場します。~~

この大会は2017年から毎年開催されているのですが、**優勝者はなんと３年連続同じ方**なんです。

それが、**タイピング女王とも評されるmiri選手**（以下、miriさん）。

大会３連覇を果たしたmiriさんに、競技の裏側、面白さや見どころ、タイピングのスピード向上のコツなどをお伺いしました。

~~miriさんの自己紹介。[RTC2019](https://www.youtube.com/watch?v=4usMMWbadks)より引用。~~

## miri選手のタイピングのスピードと入力方法

#### balloon kurimao left
RTCの動画、見させていただきました！
みなさんタイピングが速すぎて…。
miriさんだと1秒間に何文字ぐらい打っているんですか？

#### balloon miri right
**平均だと16~17キーぐらいです。ローマ字入力なので、文字数に換算するとだと８文字くらい**ですね。

「タイピングの女王」miriさんの爆速タイピング

~~miriさんのタイピングの速さが分かります、短いのでぜひご覧ください。~~

#### balloon kurimao left
１秒間にですよね!?速すぎる…！
大会を見ると*ローマ字入力の選手とかな入力の選手がいらっしゃいます*が、スピードの差はあるんですか？

#### balloon miri right
スピードの差はかなりありますね。
**かな入力は１打鍵で１文字が入るのに対して、ローマ字入力だと１文字を入れるのに２打鍵以上が必要**なので、タイピング量が結構な差になります。   

#### balloon kurimao left
それでも**miriさんはローマ字入力**ですよね？
かな入力に転向を考えたりしないんですか？

#### balloon miri right
かな入力でローマ字入力の速度が出せたらかな入力にしています。
一応かな入力もできるんですが、打ち方が違いすぎて、慣れているローマ字入力ほどの速度は出ません。   

#### balloon miri right
「**競技で戦えるレベルのスピードを出せるのはローマ字入力だけ**」という感じですね。
イメージで言えば短距離走と長距離走くらい別物で、個人的には大会の部門も分けた方がいいと思っています。

#### balloon kurimao left
その状況でローマ字入力で優勝してるmiriさんすごい…。
ちなみに競技タイピングではかな入力が主流なんですか？

#### balloon miri right
e-typing等タイピングのスコアを競うサイトではローマ字のほうが人口が多いので、**基本的にローマ字が主流**と言えると思います。

#### balloon miri right
有利不利で言えば、かな入力とローマ字入力が同じ土俵で戦うRTCにおいて、**かな入力の方がタイピング量が少ない分だけ有利な点は多い**と思います。
ただ、RTCでは正確性の95％ルール（後述）があり、**かな入力の方がタイプミスの影響が大きいため、速度面で有利なかな入力とミスの影響が少ないローマ字入力でバランスは取れています**ね。

#### balloon kurimao left
RTCに出場されてる方ってどんな方がいらっしゃるんですか？
みなさんタイピングめちゃめちゃ速くて、もはや想像もつかない世界なんですけど…。

#### balloon miri right
*タイプウェルというタイピング練習ソフトの1位、インテルステノというタイピング世界大会の多言語部門の優勝者、毎日パソコン入力コンクールの優勝者などが多数*いらっしゃいます。

#### balloon kurimao left
すごい方ばっかり…。
その方々を差し置いて３連覇するmiriさんは一体…。

## 競技タイピングの戦略性・競技性とは？

#### balloon kurimao left
大会の動画、通しで見てしまうくらい面白かったです。
詳しい話に入る前に、まず競技タイピングの大会であるRTCのルールの紹介です。

~~競技タイピングの大会であるRTCのルール。~~

#### balloon kurimao left
補足をすると、*正確性はタイプミスの割合を計算するもの*で、**ラウンド終了時（どちらかが10ワードを先取したとき）に自分だけが95%を下回っていると無条件で敗北、両方が95%を下回っている場合は10ワードを先取した方が勝利**というルールになっています。   

### １タイピング差で勝負が決まる「緊迫感」

#### balloon kurimao left
どの選手もタイピング速度は速かったですが、miriさんは高い正確性を保ちながら、**1000kpm近く（１秒間に16~17キー）をキープしている**シーンが多いですよね。

~~kpmとはkeystrokes per minuteの略で、１分間にどれだけのキーを打てるかの単位。~~

#### balloon kurimao left
ギリギリまでどちらがワードを取るか分からないシーンも多く、緊迫感がすごかったです。

#### balloon miri right
ワードの取得は、**全く同タイミングになることや１〜２タイピング差になる**ことも多いですね。
最後打ち切ることで少しの差で取れたりもするので、**思い切りも重要**だったりします。

### 競技を面白くする「正確性」

#### balloon kurimao left
文字を打っている途中に正確性がリアルタイムで表示されるじゃないですか。
あれはどれくらい意識していますか？

#### balloon miri right
**毎ワードごとに見ています。**低いときは「あっやばいな」とか思ってますね。

~~正確性は常に更新され、95%を下回っていると黄色く表示される。~~

#### balloon kurimao left
やっぱり正確性から戦略も変わってくるんですか？

#### balloon miri right
ここは**駆け引き**があります。
例えば*両方が95%を下回っていると、先に10本を取った方が勝ち*なので、**相手も下回ることを想定して速度に全振り**して打ったり。

#### balloon miri right
*自分だけが95%を下回っていると、勝つためには95%以上の正確性が必要*なので、**何ワードかは取られてもいいから慎重に打って正確性を上げることを優先**したり。

#### balloon kurimao left
それを知ってから試合を見るともっと面白い…！

#### balloon miri right
もちろん速度と正確性の両立が重要なのですが、駆け引きや戦略性も含めて面白いですよ。

### 「ワード選択」という駆け引き

#### balloon kurimao left
ラウンドごとに次のラウンドのワードを決めていますよね？
あれってどういうやり取りをしているんですか？

#### balloon miri right
1戦目は候補の言葉すべてが入る「ALLワード」からの出題なのですが、**2戦目以降は、ラウンドを取られた方が次のラウンドの出題ワードを選ぶ**んです。
「ALLワード」・「平成ワード」(平成に流行った言葉)・「コンピュータワード」・「スポーツワード」から選択して対戦します。

#### balloon miri right
*「平成ワード」は文字数が多くかな入力有利*、*「コンピュータワード」はアルファベット表記の単語が多くかな入力の有利さが少ない*、などワードごとに特徴があります。
なので、**相手の入力方法や苦手なワードに応じて選択するなどの駆け引き**があるんです。

#### balloon kurimao left
ランダムで決まるわけじゃないんですね、面白い…！

REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2019

~~miriさんが出場しており、息が詰まる2019年の決勝戦はこちら。~~

### 大会に向けての入念な準備と対策

#### balloon kurimao left
タイピングの練習って定期的にされてるんですか？

#### balloon miri right
今は仕事でかなりタイピングするので、仕事が練習になっている感じです。
でも大会が発表されれば大会に向けた練習を始めますし、**大会直前には１週間くらい有休をとって集中して練習**しています。

#### balloon kurimao left
有休！！ガチだ…！
大会に向けてはどういう練習をするんですか？

#### balloon miri right
**出題されるワードの候補は事前に公開されるので、それらのワードを速く正確に打てるよう練習する**ところから始まります。
苦手な入力パターンをつぶす練習、速度重視の練習、正確性重視の練習、速度と正確性を両立する練習を繰り返します。

#### balloon miri right
ある程度詰まってきたら、最後はとにかく苦手をつぶすことにフォーカスしますね。
**本番１週間前は１日10万打鍵**はしていました。

#### balloon kurimao left
10万打鍵…!?ガチのトレーニングだ…！
ワードごとの対策って、ものすごい数になりません…？

#### balloon miri right
大会での出題候補は３つのジャンルそれぞれに100ワードずつあるので、かなりの量です（笑）。

#### balloon kurimao left
しかも２つのワードが組み合わさって出てくるから、*普段なら絶対打たないような言葉*が出てきますよね。
「エミュレータを砲丸投げ」というワードが出たときは目を疑いました（笑）。   

~~２つのワードを組み合わせたものが出題されるため、驚くようなワードが多くでてくる。~~

#### balloon miri right
とんでもない日本語ばかり出てきますね。
同じワードでも、組み合わせ次第で打ち方を変えた方が効率がいいこともあるので、何度も繰り返しながら少しずつ慣らしていきます。   

~~miriさんによるRTC2019の詳細なレポ~~

## ホームポジションは使わない!?タイピングの運指のこだわりと最適化

#### balloon kurimao left
タイピングの際の運指（指の動かし方）ってどれくらいこだわっているんですか？

#### balloon miri right
**あらゆるワードについて速くタイピングできる運指を考えます**ね。
ホームポジションのままの指でとらないワードはかなり多いですよ。

#### balloon kurimao left
じゃあ、大会の候補ワードについても全て運指を考えているということですかね…？

#### balloon miri right
そういう事です。

#### balloon kurimao left
対策の量が半端ない…。
大会動画を見ていると、**同じ指に負荷が集中しないよう分散する運指**を考える選手もいて、*運指の最適化も奥が深い*と感じました…。

#### balloon kurimao left
ちなみに、速度が上がる運指のコツってどんなものがありますか？
（**ここからはキーボードを見るかイメージして、実際に手を動かしながらお読みください**。）

~~いわゆるホームポジションと言われる標準的な運指がこちら。~~

#### balloon miri right
とにかく**入力時間のロスを減らす**ことが大事ですね。
例えば「KI」「DE」などは、通常だと両キーとも中指を使いますが、**同じ指が連続すると遅くなってしまう**ので、より速く打つために「Kを中指、Iを人差し指」や「Dを人差し指、Eを中指」にします。

#### balloon kurimao left
あ、たしかに速い！

#### balloon miri right
Nが連続するワードはXを使う、例えば*「トンネル」だとTONNNERU→TOXNNERUにする*ことで、右手の負担が軽減されて速く打てます。

#### balloon kurimao left
そもそもXを使えること知らなかった…。

#### balloon miri right
また、**一部のキーは複数の指でとれるようにすると速度が上がります**。
例えば、*真ん中にあるY・H・Bのキーを両手で打てるようにする*と速度が上がりますね。

#### balloon kurimao left
やばい、わたしどれもできてない（笑）。

#### balloon miri right
**指の移動のロスをなくすことは本当に重要**です。
例えば「漁師」と打つときに、Rを左手の中指、Yを左手の人差し指、Oを右手の中指、Uを右手の人差し指にすることで、標準位置で打つより速く打てるんです。

#### balloon kurimao left
確かに速い！すごい！
こういう「速くなる運指のコツ」がリサーチされているものなんですか？

#### balloon miri right
ちゃんと決まってはおらず、競技者間でノウハウがシェアされているわけでもないので、人それぞれですね。

#### balloon kurimao left
**RTCでは選手の運指表が公開**されていますが、選手ごとにどのキーをどの指で打つかは違いますもんね。
このキーをこの指で取るんだ！って結構驚きました。   

~~miriさんの運指表。各選手の運指表を見るだけでも興味深い。~~

#### balloon miri right
単語ごとに運指は異なり、例えば「旅行」だとYを右の人差し指、Cを左手の中指で取ります。
もし右手でKを取ろうとすると、OとUの間にKがあるからちょっと指が絡まっちゃうんです。
「ここ」と打つときは、KOKOよりCOKOで打った方が速く打てます。

#### balloon kurimao left
なるほど〜〜〜！めっちゃ面白い！！！

#### balloon kurimao left
エンジニアだとDvorak配列などキーボードの配列を変える人はたまにいますが、競技シーンでも配列を変える方っていらっしゃるんですか？

#### balloon miri right
QWERTY配列以外だとDvorak配列のキーボードが使用できますが、あまりいないですね。

## 競技タイピング選手のmiriさんが生まれるまで

### タイピング選手になるきっかけはハンゲーム？

「競技タイピング」という世界をご存知ですか？タイピングの速度と正確性を競うもので、日本一を決める大会も開催されているんです。それがハイエンドキーボードで有名なREALFORCEが主催している「REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP」。その大会の熱気と競技性、そしてタイピング速度は想像を大きく越えるものでした。大会３連覇を果たしたmiriさんに、競技の裏側、面白さや見どころ、タイピングのスピード向上のコツなどをお伺いしました。

miriさん

競技タイピングは、タイピング速度や正確性で競うスポーツのような真剣勝負の世界。

速度や正確性はもちろん、駆け引きや戦略性、指の動かし方の最適化など見どころはたくさん。

字幕の入力など、タイピング力を活かせる仕事もある。

知られざる"競技タイピング"の世界。競技タイピング日本一のmiriさんに聞くその面白さや見どころとは。

前回の**チーターの経済圏や収益構造について説明した記事が話題を呼んだ**、*ホワイトハッカー集団「Ninjastars」*。

ホワイトハッカー集団「Ninjastars」が教える、「チーター経済圏」の全て

Ninjastarsはチーターからゲームを守るため、**ゲーム企業に脆弱性の診断やセキュリティのレベルを高めるサービスを提供**しています。

**チーターはどのようにして育つ**のか、**チーターに対してゲーム会社はどのように付き合いセキュリティと向き合っていくべき**なのか。

Ninjastars代表の森島さんが教えてくれました。

## チーターが育つのは「簡単なゲーム」から？ 「チーターの生態系」に迫る

#### balloon mitsuji left
ゲーム業界におけるチートって、最近ではどういうものがあるんですか？

#### balloon morishima right
[以前の記事](https://and-engineer.com/articles/XqAwwRIAACIA1LeE)でもご紹介したとおりチートツール配布サイトがあったり、チートツールを大々的に開発する業者もいるのですが、*ゲーム会社側がチート業者に損害賠償を請求しており、860万ドル（約10億円）の支払い命令*がされています。

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