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アイドルのMVをゲームエンジンUnityで制作!? Devil ANTHEM.のMV『UP』制作の裏側。
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アイドルのMVをゲームエンジンUnityで制作!? Devil ANTHEM.のMV『UP』制作の裏側。

増田あかり
2020.12.22
この記事でわかること
Unityで全編CGでたくさん動くようなアイドルのMVを制作することもできる
アイドルのMVになるためには必須のポイントがあり、それを押さえることが重要
Unityのアセットを活用することで効率よく映像を制作することができる

「アイドルのミュージックビデオ」と聞くとみなさんはどのようなものを想像するでしょうか。

キラキラ笑顔やダンスパフォーマンス、水着シーンなど、思いつくものがたくさんあると思います。

そんなMVが多くあるなか、あるアイドルのMVが最近大きな話題を呼びました。 そのMVがこちらです。 サムネイルの衝撃に負けずに再生してみてください。

アイドルのMVとは思えない衝撃的なサムネイル画像。

…いかがでしょうか。 もちろん実写のMVではありません。 なんとこのMVはゲームエンジンのUnityで制作された全編CGのMVなんです。

どのような着想からこのようなMVが生まれたのか? UnityでMVを制作するとは?

Devil ANTHEM.(デビルアンセム)の新曲『UP』のMVにおいて、制作のディレクションをしたサワイシンゴさんUnityを用いてCGのMVを制作したレーズンさんにお話を伺いました。

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Devil ANTHEM.のアーティスト画像。こんなかわいいグループからどのようにしてあのMVが生まれたのかを伺います。

全編CGの「アイドルのMV」ができるまで

MV制作までの流れ

増田あかり

このMVを初めて見たときにかなり衝撃を受けたんですが… 今回のMVはどのような流れで制作されていったのでしょうか?

サワイシンゴさん

まず今回の曲『UP』のCDのジャケットやMVのディレクションを私が担当していました。 MV制作にあたってプロデューサーの方とディスカッションをする中で、方向性に合うのがCGを得意とするレーズンさんだったんです。

増田あかり

アイドルといえば本人たちが登場するキラキラなMVが多いですよね。 どんなディスカッションからあのMVの方向性になったのか気になります。

レーズンさん

まず、サワイさんから「CGをメインに使ったMV」をお願いされまして、そこから『UP』の曲調・歌詞・世界観、メンバーの雰囲気やビジュアルをどうCGをメインにしたMVに落とし込むかはかなり考えましたね。

レーズンさん

サワイさんと色々案を練りつつ、例えばサビは実写にする案もあったのですが、プロデューサーの方から「グループとして今年は『攻める』がテーマ」とお聞きしたのもあり、インパクト重視で全編CGでいくのを提案しました。 アイドルのMVでもインパクトがある攻めたMVという方向を全員が見れたのが、このMVの方向性に結びついたのだと思います。

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ダークな雰囲気の街、水着やワンピースで踊るメンバー、空を飛ぶメンバー。インパクトがある。

「アイドルのMV」にするためには?

増田あかり

いや本当に、アイドルのMVではまったく見たことがないタイプの映像でした。 全編CGの異質感がありながら「アイドルのMVっぽさ」を出すためにはどのような工夫をしたんでしょうか?

レーズンさん

基本的に全編CGなんですが、2番で実写を入れ込んだんです。 CGのみだと攻めすぎた印象になるところを、実写の映像が入ることでアイドル感を担保しました。

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MVの世界の中にメンバーの動画が差し込まれている。
レーズンさん

これは絶対入れたいと思っていたポイントです。 ファンの方もアイドル本人がちゃんと出てくれないと嫌ですよね(笑)。

レーズンさん

この部分、実はインスタのストーリーズの撮影機能を使ったんですよ。 メンバーが等身大で楽しんでいる感じや可愛さが出ていて、それってファンが嬉しくなるポイントだったり、アイドル感につながる点だと思うんです。

増田あかり

ほっぺたの赤いマークなど不思議に思っていたんですが、インスタを使ってたんですね…!

レーズンさん

メンバーは普段はインスタをやっていないので、制作陣でフィルタをピックアップしておき、メンバーにその場で選んでもらって撮影しました。 メンバー自身に選んでもらったのでセルフプロデュース感もあり、それぞれの良さが出ていると思います。

レーズンさん

もっとわけわからないフィルタも撮影してみたんですが、ごちゃつきすぎたのでシンプルな方向でまとめました。 フィルタは実際にあるんでぜひ探してみてほしいですね。

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レーズンさん

それと、歌詞が渋谷原宿のイメージと聞いたので、撮影は渋谷と原宿の間で行いました。 よく見ないと分からない細かいこだわりですが(笑)。

増田あかり

ファンの方には嬉しい制作秘話をありがとうございます…!

撮影風景・メイキング映像はこちらの動画で見ることができます。

攻めながらも「アイドルMVの王道」は押さえる

レーズンさん

『UP』はラップとEDMが混ざったような曲調や自己紹介風の歌詞などからギャルっぽさを感じていて。 全編CGの異質な世界感の中にギャルっぽさをどう入れていくかは大きな課題でした。

レーズンさん

そのために入れたのが、インスタのフィルタを使ったメンバーの実写であり、反響の大きかった水着でのダンスシーンです。

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MVの水着でのダンスシーン。Devil ANTHEM.のメンバーとしても初の水着MVとのこと。
サワイシンゴさん

最初に案がきた時、本当にびっくりしましたよ(笑)。

レーズンさん

絶対NG出るだろうなと思いながらプロデューサーさんに提案したら、メンバー本人は無理だけどCGならいいよと言われて(笑)。 全然ブレーキかからなかったです。

レーズンさん

おかげで、アイドルMVの王道の一つである「水着」を実現でき、一気に「アイドルのMV」に近づきました

増田あかり

たしかに、アイドルと言えば水着MVも多いですもんね…!

レーズンさん

Twitterでファンの方が「水着・走る・ダンスがあって、要素としてはアイドルのMVの王道だ」と言ってくれていて。 実はそれ、狙ってたんです。

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たしかにMV内ではメンバーが謎の姿で街中を走っている。
レーズンさん

違和感のある映像になるからこそ、逆にベタなところをしっかり押さえないとアイドルのMVにならない。 アイドルのMVに必要な要素を、この作品ではかなり入れているんです。

増田あかり

言われてみれば、たしかに。

レーズンさん

だからこそこの密度のMVになりましたし、刺激的な映像でありながらも、ぎりぎりアイドルのMVとして成立させるのを目指しました。。 必要な要素が抜けていたら、もっと質の低いものと受け取られてもおかしくなかったと思います。

レーズンさん

なので、アイドルMVのツボを押さえた制作経験がなく、Unityの映像が作れるだけだと難しかったかもしれないですね。。

レーズンさん

苦労した点で言うと、最初に作ったCGが結構不細工な出来になっちゃって。 メンバーの可愛さをちゃんとCGに反映しなきゃ、というプレッシャーは自分にかけていました。 顔の部分のCGは何度も修正しましたし、かわいい顔に見えるようなカメラの位置などもひたすら模索していましたね。うまくいってるといいんですが…。

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アイドルのMVである以上、CGであっても顔のクオリティにこだわったという。

UnityでMVを制作するための技術とノウハウ

ゲームエンジンの中でもUnityを選んだ理由

増田あかり

全編CGのMVというお題に対して、Unityを使って制作された理由を教えていただけますか?

レーズンさん

普段からUnityに慣れていたのもありますが、効率よく進めるためにも「CGのレンダリングの時間が短縮できること」を重視しました。 Unityであればリアルタイムでどんどん反映できるのではないかと。

増田あかり

レンタリング時間も見越してプロジェクトを進めていくんですね。

レーズンさん

そしてUnityを選定した最大の理由が「アセットの豊富さ」ですね。 全編CGで1本のMVを作るにはプロジェクト期間が短かったので、アセットをかなり活用しました。

増田あかり

背景や建物はたしかにアセットですよね。 メンバーが着ている衣装はどうやって作っているんですか?

レーズンさん

衣装もアセットをベースにしています。 基本的なセッティングができているアセットを加工する方が圧倒的に早いので。

レーズンさん

例えばメンバーの赤いワンピースは、白いワンピースの色を変えてツヤ感を足したりスカートの丈を詰めたり細かい加工をしたものです。

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右側にいる女性の白いワンピースのアセットをベースに、メンバーの赤いワンピースが作成されている。
増田あかり

アセットの加工!なるほど! サビのところでメンバーがダンスを踊ったり急にアッパーしたり、こういうモーションはどうしたんですか?

レーズンさん

そのモーションも全部アセットです。オリジナルでつくったモーションは一つもないんですよ。

増田あかり

え、そうなんですか!? こんな拳を突き上げるモーションまでダンスのアセットに!?

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「UPして」の歌詞に合わせてメンバーが拳を突き上げている印象的なシーン。
レーズンさん

これはダンスのアセットには入っていません。格闘ゲーム用のモーションのアセットを購入したんです(笑)。 格ゲーのアッパーカットのモーションです。

増田あかり

たしかに、よく見ると人を殴る動きです。

レーズンさん

サワイさんがジャケットのイメージがアッパーだと聞いたので、思い切って格ゲー用に作られたモーションを組み合わせました。

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『UP』のタイトルに合わせてメンバーがアッパーをしているCDジャケット。
増田あかり

かなり大胆にアッパーをするなって思っていたので、話を聞いて腑に落ちました。

レーズンさん

この動きの制御にはUnityのTimelineという機能を使っています。 任意のタイミングでどのモーションをを行うかを設定できると同時に、モーションのブレンドができるんですよ。

増田あかり

モーションのブレンド…?

レーズンさん

今回だと、ダンスするモーションのアセットがあり、アッパーするモーションのアセットがありました。 これを組み合わせるときに、急にモーションが切り替わると昔のゲームみたいにつなぎが不自然に見えてしまいますよね。

レーズンさん

Unityのタイムライン機能は、復数のモーションをスムーズにつなぐことができるんです。 これを活用することで、シンプルなモーションの組み合わせでもオリジナリティのある動きを作ることができました。

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レーズンさんの作業画面。Timeline機能で別々のモーションをスムーズにつないでいる。
増田あかり

格闘技用のモーションとダンスのモーションって全然別のはずなのに、それをうまくつないでくれるんですね…!

レーズンさん

Unityにおける人型の骨格には、Humanoidというフォーマットがあり、これを活用することで、Unity用に作られた様々なモーションが使えるんです。 TimelineやHumanoidを活用して、スムーズな動きを実現できました。

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UnityのHumanoidアバター構造。この構造に沿ったモデル用意すれば、AssetStore等のモーションをそのまま使える。

Unityでも高解像度の映像を実現するためのHDRP

増田あかり

ゲームエンジンだとUnreal Engineなど他の選択肢もあり得たと思うんです。 それでもUnityを選んだ理由は、アセットの豊富さ以外にもあるんでしょうか?

レーズンさん

HDRP(High Definition Render Pipeline)が使えたというのも大きいです。 Unityの中には、レンダーパイプラインというCGをレンダリングする際の仕組みがいくつか用意されているんです。

レーズンさん

レンダーパイプラインには、モバイルゲーム用の軽くてチープなものから、PCゲームで使うような高級で重たいものまで色々あるんですが、その中でAAA品質のゲーム使われることを目指したレンダーパイプラインがHDRPです。

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HDRPで制作された世界の一例。
レーズンさん

Unityの一般的な映像とUnreal Engineで作られた映像を見比べると、Unreal Engineの方が圧倒的に綺麗なんです。 ただ、HDRPを使えばUnreal Engineに迫る綺麗なビジュアルが作れるのではないかと思い、今回はUnityで進めることにしたんです。

レーズンさん

HDRPを使った映像制作は初めてだったので、制作開始前にHDRPに関する公式の資料の読み込みやテスト用のプロジェクトなどの研究の期間は長く確保しましたね。

HDRPに関してUnityがリリースしている動画。非常に綺麗な映像が作られている。

CG制作や3Dモデル制作についてのスキルやキャリア

増田あかり

レーズンさんのようなUnityで映像を作るスキルって、キャリアにおいて役立てられるものなのでしょうか?

レーズンさん

ゲーム関係のキャリアを歩みたい方であれば確実に役立つスキルだと思います。 1人でプロトタイプを作れたりすると、エンジニアとの連携においてもUnityを触れるかどうかでかなりワークフローが変わってくるので。

レーズンさん

またVTuberはUnityベースのものも多いですし、ライブや音楽活動は増えてきているので、MV制作で活躍の機会は増えるかもしれないですね。

増田あかり

たしかに。VTuberの台頭によってUnityを使った仕事が増えていく可能性があるんですね…!

増田あかり

今後Unityなどを本格的に学習したいという読者もいるかと思います。 そのような方はどのようにして学んでいくとよいのでしょうか?

レーズンさん

僕はゲーム会社で10年くらい働いていたので初学者の方とは前提が少し違うのですが。 VTuberやVRChatなどでモデル制作や配信などにトライしながら、Unityに慣れていくのは良さそうかなとは思いますね。

増田あかり

たしかにとっつきやすそうです。

レーズンさん

僕もVTuberでの配信をやってみたくてUnityに触れるようになり、色々とできるようになっていったので。 VTuberに関する情報はネット上に多くあるので、敷居はかなり低いと思いますよ。

あのMVを制作したレーズンさんもここから始まっていると思うと勇気をもらえる。
増田あかり

とにかく触ってみるのが大事なんですね。

レーズンさん

ただ、VTuberってUnityの基本を学ばなくてもできちゃったりします。 Unityの基本的な操作や設計思想を学ぶためには、スペースインベーダーみたいなミニゲームを作ってみるのがオススメです。

レーズンさん

特にUnityの設計思想を理解できると、できることが途端に増えていきます。 最初は興味のある分野から入り、Unity力を上げたい人はそのような開発に進んでみてほしいですね。

増田あかり

参考になります。 映像作品を作りたいという方はどうすればよいですか?

レーズンさん

まずはアセットの組み合わせで何ができるかを考えて、作りきってみるのがいいと思います。 なんでも自分で手を動かすのは時間がかかりますし、まずは組み合わせでいいので作ってみることが近道ですね。 今回の『UP』のMVも実際かなりアセットを使ってやっているわけですし。

増田あかり

ありがとうございます。 CG制作等に挑戦したい方、ぜひ参考にしてみてください!

増田あかり

UnityでのMV制作について、本当に興味深い話ばかりでした。 レーズンさん、サワイさん、そしてDevil ANTHEM.のみなさんありがとうございました!

今回の動画の制作をされたレーズンさんが、来年の2月に山梨県でUnityを使った3Dゲームを作るワークショップを行います! Unity初心者の方向けに基本的な使い方、ゲームの作り方、VTuberやVRなどにも少し触れられるようなものとなるとのことです。

山梨県メディア芸術ワークショップ

気になった方はぜひチェックしてみてください!

最後にもう一度この衝撃的なMVを掲載させていただきます。

ライター

増田あかり
元RPA・テストエンジニアで現在フリーのライター。IT記事からエンタメ記事まで幅広く執筆している。趣味でボードゲームを作っていたが終わらないゲームになってしまい、頭を抱えながら制作を進めている。いつか完成する…はず。
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