AIはさまざまな業務効率化を実現しますが、動画領域におけるビジネス活用はまだ難しいという印象を持つ人が多いのではないでしょうか。そんな中、株式会社KaKa CreationではAI技術をアニメ制作に活用し、独自のワークフローを構築しています。
AIをアニメ制作にどう活用し、アニメーターの負担を軽減しているのか。サイバーエージェント社でソーシャルゲームのプロデューサーやアニメのエグゼクティブプロデューサーを経験し、株式会社KaKa Creationを立ち上げた同社の代表・竹原康友さんにお話を伺いました。同社が手がけている双子アニメTikToker「ひなひま」や、その動きをAIで作り上げる新職種「AIクリエイター」についてもご紹介します。
株式会社KaKa Creation
代表取締役CEO:竹原康友 所在地:〒153-0061 東京都目黒区中目黒1-1-17 LANTIQUE BY IOQ 410 設立:2023年6月5日
成長するアニメ市場で課題になっている制作コスト
まず、貴社の事業内容を教えてください。
「AIの力で、創造する人に力を。もっと、世界をつなぐクリエイションを。」というミッションを掲げ、AIを活用したアニメ制作事業やコンテンツサービス開発事業を行なっています。子会社の株式会社KaKa Merchではアニメキャラクターのグッズなどのマーチャンダイズ事業も行っています。
どのような背景で会社を立ち上げられたのでしょうか。
TVアニメ市場が伸びている中で、制作会社は人材不足も相まって市場感としても大きく伸びて来ていない現状があります。AI技術を活用してアニメ制作を効率化させ、日本のアニメ文化を守っていきたいという思いでKaKa Creationを立ち上げました。
AIを活用すれば、制作会社のアニメーターの負担を減らすことができるということですね。
まだまだ研究の余地は多くあるのですが、AIを活用することで制作の工程を省人化することができると考えております。各種メディアにおける権利の種類については、現状以下のようになっていますが、AIを活用してものづくりをする人たちにもっとお金が入る仕組みをつくっていきたいです。
たしかに、制作コストが減ればその分アニメーターにも還元されそうですね。
アニメ製作には数億円の費用がかかります。それを1社で担うにはリスクが大きすぎるため、製作委員会が組まれます。制作コストが3分の1になれば、業界の仕組みも変わってくるかもしれないので当社としてはできる限りのコスト削減に貢献していきたいです。
海外でもAIの活用や人手不足の問題などはあるのでしょうか。
海外でAIを活用したアニメ放送というのはまだされていないと思います(2024年6月現在)。制作会社の観点で言うと、日本も中国のアニメ制作会社を利用することがあるのですが、日本の円安も相まって値段がどんどん高くなってきています。
制作会社はいろいろな課題を抱えているんですね。
そうですね、その背景として求められるクオリティが上がってきているということがいえると思います。大手の制作会社が質の高いアニメを制作してヒットさせてきたのは素晴らしいことなのですが、それによって同じ価格でも求められるクオリティが上がってきています。制作会社として名を挙げて次の仕事に繋げるためには、予算の中で、時には赤字になってでもコストを投入し、良いものを作るようなケースも。そうすることで赤字運営になってしまうことも少なくありません。
AI技術を活用したアニメ制作会社KaKa Creation
KaKa Creation が手がけている双子アニメTikToker「ひなひま」が、SNSで話題になっていますね。
ありがとうございます。「ひなひま」は"AIでアニメを作る"というアイデアから始まったプロジェクトで、TVアニメの第一線で活躍するプロデューサーやCGアニメーターが集結しました。「AIアニメ」として世界的に見てもかなり高いレベルの品質になったと感じています。キャラクターデザインは『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』などのキャラクターデザインを担当した横田拓己氏が手掛けています。
「ひなひま」にもAI技術が使われているのでしょうか。
3Dモデリングから手書き風の2DアニメーションにAIで変換することで作業工数の削減を行い、高品質な縦型ダンスアニメ動画をSNSで高頻度に発信できるようにしています。通常、こういったものは3Dで作られた後、クリエイターが手書きで1枚ずつ書き直して作られます。膨大な作業をAI技術によって圧倒的に短縮することができています。
今までは手書きだったのですね。AIによってかなりの業務効率が図れそうです。
クリエイターとAI技術を融合させたイチオシのコンテンツもリリースしているので、ぜひチェックしてみてください。TVアニメ『【推しの子】』の劇中歌「サインはB」を「ひなひま」が踊っています。(動画はこちら)
これはすごい完成度ですね。
そのほかにも、下書きの状態からアニメーションに仕上げていくオリジナルのワークフローを構築したり、音に合わせて口や目が動くワークフローを開発したり、筑波大学との共同研究でモノクロ漫画に対して作家の個性を反映させた彩色を行うアルゴリズムの開発を行ったりしています。
漫画の彩色というのは、一般的にどのくらいの期間がかかるんですか?
単行本1冊につき半年近くかかり、数百万ほどの費用がかかります。しかしAIを活用すれば1週間で納品が可能です。特に海外ではカラー漫画が好まれる傾向にあるため、日本のコンテンツをどんどん発信していくために技術を活用していきたいと思っています。
新職種、AIクリエイターとは?
KaKa Creationではどのようなエンジニアが活躍していますか?
我々は「AIクリエイター」と呼んでいるのですが、いわゆるAIの技術者ではなく、AI技術を活用しながら、アニメを制作する監督やクリエイターたちと一緒に共同でものづくりを行っていただいています。CGクリエイターをイメージしていただけると分かりやすいかと思います。
アニメ作りにAIを活用している会社は多いのでしょうか。
検討している会社は多いと思うのですが、我々はかなり先行してAI活用を進めていると思います。弊社としてもAIクリエイターの育成に今力を入れているところです。
アニメ制作のクリエイターの方々とはどのように協働していくのでしょうか。
アニメーターの方が手書きで書いた線画からAI技術を活用してアニメーションを作っていきます。これまで生成AIを活用した動画コンテンツはフレームごとにパーツが異なってしまう「チラツキ」が問題でしたが、我々はCGキャラクターによる映像を作成し、アニメを生成する際にその動きをフレームごとに参照させることで「チラツキ」を大幅に軽減させました。どこまでラフ画でアニメーション化できるのか、クオリティや口数に差は出るのか、このあたりは今研究を重ねているところです。
他にも、CGにおける長年の課題「めり込み」をAIが補正する技術を発見しています。例えば、下の画像を見ていただくとわかりやすいと思いますが、通常のCGで生成された左側の画像では髪の毛が腕を貫通してしまっています。AIを活用すると、右側の画像のようにAIが整合性を補完して新たに髪の毛を描画することができます。
キャラクターの情報はプロンプトで指示しているのでしょうか。
プロンプトではなく、特定のキャラクターを記憶させる学習モデル「LoRA」を独自開発しています。プロンプトというのは例えば初音ミクのように、何かのデータベースを参照に創作をするものだと思うのですが、企業では自社のキャラクターを創らなければいけません。ですから自社のキャラクターのデータを学ばせ、精度高く動かせるようにする必要があります。
そこがAIクリエイターの腕の見せどころになるわけですね。
そうですね。AIの技術を活用していかにキャラクターの一貫性を保たせ、精度の高い動きをさせるかが求められます。
どういった方がAIクリエイターに向いていると思われますか?
特定のツールに詳しいだけではなく、目指している表現やアウトプットのためにどのツールをどのように活用したら良いのかを、常に考えていただける方が良いと思っています。アニメ制作の現場では、顔の振り向きや髪の揺れ動きなど、細かいところまで研究を重ねて取り組むことが求められます。
AIツールに関してさまざまな知識が必要になるということですね。
ええ、 AIツールを趣味で色々と使われている方、またそれによって自社キャラクターのIP(知的財産)を生み出し、世界に影響を与えることを目指す方が向いていると思います。
漫画と同じようにアニメを1人で作れる世界へ
AIの技術はアニメ制作のどういった部分で特に活かせそうでしょうか。
3Dモデリングからの2DアニメーションAI変換技術は非常に活用できると思います。冒頭でもお話しした通り、テレビアニメでは3Dを手書きで書き直さなければいけません。それをAI上でアニメーション化できるので、かなりの工数削減に繋がります。3Dデータをお持ちのゲーム会社さんがキャラクターを使ってアニメを作りたいと思ったときにも、少ない労力で仕上げることができます。
AIが苦手な分野もあるのでしょうか。
出来上がった後に細かい修正をしていくのは苦手です。振り返るときにもう少し遅くするだとか、そういったところは難しいんです。ですから、おおまかな動きをAIがつけ、細かいところを人間が修正していくという進め方が現状では最適かもしれません。我々としても簡単な線画から指定したキャラクターやアニメーションをつくれる独自の仕組みを現在開発中です。
アニメと人の力を合わせて、質の高いアニメを効率よく生み出せるのはすごいですね。AIクリエイターの需要は今後高まっていくでしょうか。
間違いなく高まっていくと思います。私はサイバーエージェント社に20年間在籍していたのですが、入社当時から急速に普及していったネット広告と同じ期待感を持っています。その時は誰もがネット広告のことをよく分かっていなかったし、本当に来るどうか分かっていなかった。AIも同様に、「すごいことになるんだろうけど、具体的にはどうなるんだろう」という空気感ですよね。ここで先行してAIクリエイターのキャリアを持っていると、大きな強みになると思います。
最後に、KaKa Creationの今後の展望を教えてください。
当社は最終的に、アニメの新しいビジネスモデルを作っていきたいと思っています。数億円をかけて、膨大な期間をかけてアニメをヒットさせるのではなく、よりスピーディーにアニメが作れるようになったら、SNSなどでショートアニメのようなものが増え、 “ソーシャルアニメ”というジャンルが生まれるのではないかと思っています。
たしかにショート動画はかなり人気なので、SNS上でもアニメコンテンツがさらに増えていきそうですね。
当社から、もうすぐソーシャルアニメーションレーベルを立ち上げる予定です。漫画家は1人で世界観を表現でき、そこから人気作品が生まれていきますが、アニメは現状、100人以上の人員が必要です。アニメが1人で作れるようになったら、その中からヒット作も生まれるはずです。世界に向けて魅力的なコンテンツを発信できるように、AIを活用した仕組みづくりに取り組んでいきたいです。
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