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日常のあらゆる営みがデザインにつながる。エンジニアならではの「デザインの視点」とは?
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日常のあらゆる営みがデザインにつながる。エンジニアならではの「デザインの視点」とは?

金子 茉由
2024.08.22

デザイン思考の先駆的存在である米IDEO社の大規模なレイオフや日本法人撤退に伴い、「デザイン思考の終焉」という言葉も囁かれる今日この頃。一方で、「エンジニアリング」と「デザイン」の考え方は、密接に関連しているとも言われます。

今回は、デジタル領域のUI/UXデザインやプロダクト開発に強みを持つ株式会社グッドパッチにて、エンジニアを務める藤井 陽介氏と内田 啓太氏にインタビュー。同社が考える「デザインの視点」や、エンジニアリングの現場における活用方法などを伺いました。

藤井 陽介氏

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株式会社グッドパッチ DesignDiv - Engineer 東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修士課程を修了後、2021年グッドパッチに新卒入社。主にiOSエンジニアとしてクライアントワークに従事しながら、副業で在学中立ち上げに関わったオンライン劇場ZAのWebフロントエンドやサーバーサイドの実装も行う。また社内では、教育系インターンの経験を生かしエンジニアリング研修の設計・運営を担当。コンピュータ科学の経験と、デザインへの理解をもとに、「いいデザイン」を素早く動くものにするのが得意。

内田 啓太氏

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株式会社グッドパッチ ProductDiv - Frontend Engineer 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科の修士課程を修了後、2023年グッドパッチに新卒入社。自社サービスのオンラインホワイトボード「Strap」の開発・デザインを担当。コネクター機能の改善やPPTX書き出し機能などの開発、提案を主導。

学生時代のグラフィック、モーション制作、Webデザインのアルバイト経験での学びをベースに、学生ベンチャーとして企画、コンセプト立案、体験設計などの広義のデザインも経験している。

グッドパッチが重視する広義の「デザインの視点」

金子 茉由

まずはお2人の業務内容を教えてください。

藤井さん

iOSエンジニアとして、クライアントワークを中心に従事しています。具体的には、アプリのグロース段階で企画や実装に携わったり、プロトタイプを作って検証チームに連携したり。最近はテクニカルディレクターとしてデザインフェーズからプロジェクトに参画し、デザイナーと相談をしながら実装作業を進めています。

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内田さん

私は自社プロダクトのエンジニアとして、オンラインホワイトボード『Strap』の開発設計を担当。特に、ホワイトボード上におけるコラボレーション機能の開発に携わっています。

金子 茉由

藤井さん、内田さんはエンジニアとして「デザインの視点」を重視した開発を得意としています。グッドパッチでは、「デザインの視点」をどのように解釈していますか?

藤井さん

「デザイン」という言葉には大きく2つの意味合いがあり、1つが「狭義のデザイン」です。みなさんがイメージしやすい“見た目を綺麗に整えること”や“スタイリングをすること”などが、狭義のデザインに当てはまります。

藤井さん

一方で当社が大切にしているのは「広義のデザイン」の視点です。見た目や表層的なデザインにとどまらない、本質的な課題解決やより良いユーザー体験の創出を目的としたデザインを指しています。

内田さん

デザインという言葉自体にはさまざまな解釈がありますが、本質的には人が抱える課題に向き合い、解決していくプロセスがベースにありますよね。

藤井さん

そのような意味では、エンジニアリングも「広義のデザイン」の一種だと言えるかもしれません。エンジニアも日々の開発業務のなかで、ユーザーのどんな課題を解決したいのか、ユーザーにどういう感情を受け取ってもらいたいかを意識した設計を行っているはずですから。

金子 茉由

なるほど。ユーザーに寄り添った考え方が「デザインの視点」の基本ということですね。

内田さん

はい。エンジニアが課題解決を行う際も、ユーザーが何に困っているのか、何を望んでいるのか、どうすれば喜んでもらえるかを思考する場面が多いのではないかと思います。それらの思考プロセスこそが、「デザインの視点」そのものだと考えています。

「デザインの視点」はエンジニアにも求められる

金子 茉由

普段エンジニアが無意識に取り組んでいることが、実は「広義のデザイン」につながっているのですね。

内田さん

そうですね。お客様からヒアリングする、ニーズを調べる、使いやすい設計にする、組織がうまく回る仕組みを考える。人にとって、社会にとってプラスに働くアクションに対して「デザイン」という言葉をつけることで、曖昧な概念に対して共通言語が生まれるわけです。「デザイン」という言葉で議論できるようになると、デザイン業界に閉じてしまっている、広義のデザインに対して有効なノウハウを活用できるようになると思います。エンジニアが開発を進めるうえでは他職種との連携が不可欠ですから、プロジェクト内での認識をそろえるという点でも「デザインの視点」は有効だと思います。

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金子 茉由

共通言語というお話がありましたが、職種間などで「デザインの視点」に関する認識のズレが生じるのはなぜでしょうか?

内田さん

やはり、デザインという言葉に対する解釈の違いが大きいと思います。英語の「Design」は広義の意味で解釈されることが多いのですが、日本語の「デザイン」は表層的な意味合いが強いですよね。

藤井さん

そう思います。余談ですが、先日参加したGoogle社のイベントで、Designという言葉が日本語訳ではすべて「設計」となっていたことに驚きました。まさに「広義のデザイン」を指していて、ここでは“デザイン=設計”のニュアンスで使われているんだな、と。

内田さん

人によって、または職種によって「デザイン」とするか「設計」とするか、温度差があるがゆえに認識がずれてしまうのかもしれません。当社では設計のプロセスも含めて「デザイン」と表現する傾向がありますが、まずはとらえ方のすり合わせを行う必要があると思います。

エンジニアならではの強みを活かした提案

金子 茉由

グッドパッチの社内では、どのような手法で職種間の認識合わせを行っていますか?

内田さん

基本的に、エンジニアとデザイナーがよくコミュニケーションを取る文化がありますよね。

藤井さん

そうですね。例えば、2~3年前から「エンジニアオフィスアワー」という施策を打ち、職種の垣根を超えてエンジニアに相談できる体制を整えています。当社でクライアントワークを行うデザイナーは、グッドパッチ以外のエンジニアと連携する機会もあり、社外のエンジニアには聞きづらい専門的な知識などを質問されるケースも多いですね。

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藤井さん

そのほかにも、エンジニア視点での「UIレビュー」や、エンジニアとデザイナーが同じ画面を見ながらリアルタイムにデザインを行う「ライブデザイン」など、1つのプロジェクトにおけるコミュニケーションの密度を高めることにも注力しています。

内田さん

自社プロダクト事業に関しては、チームメンバーの入れ替わりが少ないため、最初のマインドセットやプロジェクトの目的など、共通認識を持ちながら開発しやすいという側面があります。だからこそ、エンジニアからデザイナーに対してデザイン面での提案を気軽にできますし、その逆のパターンもあります。互いに質問や相談をしやすい関係性が作られている点が特徴的ですね。

金子 茉由

お2人が開発に関わったプロジェクトで、特に「デザインの視点」を活かした事例はありますか?

内田さん

例えば『Strap』には、図形同士をコネクターでつなぐ機能があります。そのリニューアル開発の際に、エンジニアがユーザーからのフィードバック履歴を読んだり、ユースケースを整理するなど、広義のデザインの視点から関わりました。

内田さん

そのうえで、まずはエンジニアがプロトタイプを作成し、デザイナーと相談しながら手触り感や体験を改善していくプロセスをとったんです。触り心地やユーザー体験などを直接数値や仕組みで調整できるのは、エンジニアならではの強みです。その結果、製品の品質が格段に高まり、ユーザーからも「使いやすい」という声をいただくことができました。

内田さん

また、仮にデザイナーから開発難度の高い機能を提案されたとしても、デザイナーと同じ目線で「ユーザーに提供したい価値」を考えることができれば、期待する価値を維持したうえで開発難度の低い代案を提示できる可能性もあるんです。

藤井さん

同様に「狭義のデザイン」においても、エンジニアならではの強みが発揮できると考えています。例えば、iOS、Android、Webなどプラットフォームごとのお作法の違いはエンジニアのほうがよく理解しています。そのような知識を踏まえてデザイナーにデザイン上の問題点を伝えたり、代替案を提案したりなど、エンジニア側からアプローチするケースも多々ありますね。

ユーザーの視点に立ち、意図を持った設計を行う

金子 茉由

お2人の経験上、「デザインの視点」はどのように磨いてきたのでしょうか。

藤井さん

正直、普段のものづくりの過程で学んでいった部分が大きいのですが、主に狭義のデザインに関しては「デザインの4大原則」の考え方を参考にしています。「近接」「整列」「対比」「反復」という4つの要素に基づく概念を学んだことで、UIフレームワークのコンポーネントの役割やプロパティの意味を深く理解したうえで、デザイナーの意図を汲んだ選択や実装ができるようになりました。特に『ノンデザイナーズ・デザイナーブック』という書籍は、狭義の「デザインの視点」を学ぶうえで役立ちました。

内田さん

『ノンデザイナーズ・デザイナーブック』は私も読みました。ほかにも『インタフェースデザインの心理学』『UXデザインの法則』『なるほどデザイン』などの書籍は、学術的または論理的に説明されているため分かりやすく、個人的に参考になりました。

内田さん

一方で広義の「デザインの視点」は、本を読んでステップどおりに行えばできるような、体系化されたものではありません。常に「使う人がどう感じるのか」という観点に立ちながら、意図を持って設計していくことが大切です。

内田さん

特にエンジニアは製品の内部構造を知っているがゆえに、ユーザーにとって分かりにくいものであっても、分かりやすいと評価してしまう傾向があるように思うんです。内部構造を理解していない人にはどのように見えるのかを考える点でも、「デザインの視点」は有効なのではないでしょうか。

藤井さん

エンジニアのみなさんは、日常的に「開発者が開発しやすいように」「開発者が変わってもメンテナンスがしやすいように」といった目的でプログラムのアーキテクチャ設計を行っているはずです。それこそがまさに「デザインの視点」であり、目的の部分をユーザーに置き換えてみると、分かりやすいのではないかと思います。

あらゆる営みがデザインにつながる

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金子 茉由

今後、「デザインの視点」の重要性をどのように展開していきたいですか?

藤井さん

広義の「デザインの視点」に関しては、どんな職種のビジネスパーソンにも必要な考え方だと思います。実際に当社はかねて「デザインの5段階モデル」をはじめ、イベントやカンファレンスでの登壇などを通じて、広義のデザインの視点について提唱していますし、あらゆる営みが実はデザインなのだという点を、これまで以上に発信していきたいですね。

藤井さん

エンジニアのみなさんも、例えばFigmaなどを使っても表現しきれない触り心地や、ユーザーの反応に意識を向けてみる。エンジニアが得意とする高速化などもユーザーの体験を良くする「デザイン」の1つですので、まずは身近な領域から取り組んでみるとよいのではないでしょうか。

藤井さん

生成AIの進化にともなって、手書きの絵からUIの実装コードを自動で書き出すなど、便利な機能に注目が集まるようになりました。多くのエンジニアからは“仕事が楽になる”という声もあがっているようですが、私個人としては、人間だからこそ工夫できる事柄があると思いますし、その楽しさをもっとたくさんの人に感じてもらいたいですね。

内田さん

『Strap』の開発者としては、本プロダクトを通じて「デザインの視点」を活かしたチームを世の中に増やしていくことが目標です。というのも、『Strap』はただのオンラインホワイトボードツールではなく、業務プロセスや思考を整理・見える化し、情報資産としたうえで、それを活用してくためのプラットフォームだからです。

内田さん

チームの全員が共通の目標に向け、同じものを見ながらコラボレーションをする。その過程で、デザインのプロセスの1つである「視覚化」を誰もが簡単に実践する。職種の垣根を超え、さまざまなビジネスパーソンのみなさんに気軽にデザインの体験をしてもらうことで、当社が考える「デザインの視点」の価値を届けていきたいなと思います。


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ライター

金子 茉由
12年勤務した大手人材会社を退職後、フリーランスライターに転身。会社員時代からIT業界のクライアントとの相性がよく、さまざまなIT系企業の採用活動支援や、エンジニアのスキル開発・育成支援業務に携わってきた。いまの一番の関心ごとは、子ども向けプログラミング教育の未来について。
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