エンジニアにとって切っても切り離せない「資格」。自分のスキルを証明するため、またスキルアップを図るため、日々資格の勉強を行っている方は多いのではないでしょうか。
ビジネスパーソンにとって必須となっている資格や、エンジニアが持っていると企業から好印象な資格など、昨今のIT資格事情が気になるところです。今回はインターネット・アカデミー株式会社の講師で、IT人材の育成を推進している有村克己氏にお話を伺いました。
インターネット・アカデミー
インターネット・アカデミーは日本で初めてのインターネット技術の専門スクールとして、1995年に開校しました。「世界中の人々へ教育を」という理念のもと、IT人材サービス・IT開発を行うグループ企業と連携しながらIT教育事業を国内外に展開しています。
有村克己
インターネット・アカデミー 講師部門責任者 IT研修講師 兼 ITエンジニア 「監査法人トーマツ」「小学館」などの大手企業の研修実績を持つ。神奈川工科大学での講演など産学連携活動にも従事。IoTからAIまで、高度IT人材に必要な専門スキルを教えるゼネラリスト。
IT人材の需要増で拡がるリスキリング
IT人材の需要は今増えているのでしょうか。
近年では、ITサービスを提供する企業様ではなくても、社員にITを学ばせたいという企業様が増えています。その背景として、少子高齢化による労働力不足の深刻化と、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進への注目があります。
特に求められているのがビジネスアーキテクトやデータサイエンティスト、デザイナー、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの知識をもった人材ですが、人材不足により採用が難しいのが現状です。そこで既存社員の方にITの知識を身につけてほしいというITリスキリングのニーズが高まっています。
企業からはどのような研修へのニーズがありますか?
コンサルティング会社がIT分野の案件を拡大・強化するため、IT知識を学んでいただくという機会も増えてきています。例えば、弊社の「実践型ITコンサルタント研修」では、ITスキルはもちろんのこと、ビジネス課題の把握や課題解決提案など、コンサルティング業務まで学ぶことができます。そして、最後にはビジネス課題を解決するシステムを自身で開発できるようになります。
ITの知識を学んで終わりではなく、コンサルティング業務に活かせる実践的な内容まで学べるんですね。
ええ、インターネット・アカデミーは1995年に日本で初めて、インターネット技術を学ぶ専門スクールとして開校しました。企業向けの研修サービスの提供と、個人向けの転職支援を行うスクール事業とに分かれており、リスキリングはもちろんキャリアチェンジのサポートも行っております。グループ会社にはIT開発企業やIT人材企業があるため、実践で役立つ知識とスキルを学ぶことができます。
どのような企業が研修サービスを利用されているのでしょうか?
小学館様や日本デザインセンター様、NTTコミュニケーションズ様、野村グループ様などの大手企業様から、これからどうやってITを導入すればいいか分からない、という中小企業様まで、幅広くご利用いただいています。インターネット・アカデミーでは、会社ごとのニーズに基づき、オーダーメイド型で柔軟な研修カリキュラムを提供できることが大きな強みです
ITパスポートはビジネスパーソンの必須資格に
IT関連の資格で人気の高いものは何でしょうか。
よく聞くのはITパスポート試験です。広くITの知識が問われるため、社員全員に取得を推奨する企業も増えてきています。DXが進んでいる企業は特に、正社員や総合職の方は必須資格とする場合が多いです。
いつ頃からそのような傾向になってきたのでしょうか。
2021年ごろからDXというキーワードが出てきて、企業の5ヵ年計画や10ヵ年計画の中にDX化や社員のITスキルの向上といった目標が掲げられるようになりました。
ITパスポート試験以外には、どのような試験が人気ですか?
P検(ICTプロフィシエンシー検定試験)や応用情報技術者試験、情報セキュリティマネジメント試験などのお問合せや受講者が増えてきています。エンジニア向けの資格では、Pythonエンジニア認定資格や、ディープラーニング(AIの深層学習)に関するG検定も、エンジニアの職種で必須資格としている企業様も珍しくありません。
G検定の取得を求められることは増えているのでしょうか。
ディープラーニングにおいて一番メジャーな資格がG検定のため、企業様からも研修のご要望をいただくことが多いですし、「AIのスキルを高めるにはどの資格が良いですか?」と質問をいただいた際には、G検定をご提案することが多いですね。
<G検定試験概要>
- 試験概要:多肢選択式の選択問題 約200問(シラバスより出題)
- 試験時間:120分
- 受験環境:オンライン受験
- 受験資格:制限なし(複数回受験可)
- 受験料:一般:13,200円(税抜)/学生:5,500円(税抜)
- 試験日程:3回/年
G検定の人気は、生成AIの影響でしょうか。
生成AIが話題になる前からニーズとして高い資格でしたね。エンジニアの方に人気だったのが、AI構築に欠かせないプログラム言語のPythonでしたが、エンジニアに限らず幅広い職種で人気だったのが、AIの知識を網羅的に学ぶことが求められるG検定でした。
一方で、生成AIのムーブメントは一過性のものではなくなっています。Google検索やSEOなどあらゆる観点でAIは関わってくるので、学んでおくと転職などにも有利に働くはずです。
直近のトレンドで言うと、セキュリティ関連のニーズも高いのでしょうか。
ITを活用する上で、セキュリティに関する基礎知識は欠かせません。セキュリティの不備があれば甚大な損害となりかねないため、セキュリティのリテラシーを高める全社員向け研修もニーズが増えています。情報システム部やITに関わる部署の方々は、さらに専門知識が求められるので、セキュリティ関連の資格を取得するための研修もインターネット・アカデミーでは行っています。
個人のお客様から人気の高い資格はありますか?
IT関連の資格自体を受けたことがないという方は、ITパスポートやWebクリエイター能力認定試験などから勉強を始められる方が多いです。Webクリエイター能力認定試験は、HTMLやCSSというようなウェブサイトを構成する言語を学ぶので、第一歩としてとても良いと思います。
エンジニアが身につけておくと企業から好印象な資格は?
インターネット・アカデミーの中で、エンジニア向けにおすすめの講座はありますか?
未経験の方であれば、プログラマー入門コースがおすすめです。すでにエンジニアとして働かれている方は、今後どのような言語を学びたいかによって、コースを選んでいただくのが良いと思います。
すでにエンジニアとしての知識を持っている方やキャリアがある方の中で、人気のコースはありますでしょうか。
Python技術を学べるAIの活用実践コースや、IoTエンジニア育成コースも人気です。厚生労働省大臣と経産省大臣の指定講座の「Reスキル講座」では最大56万円の給付金があるため、給付金を活用して受講される方が非常に多いです。またAIを使って新規事業を生み出したり業務効率化を図ったりしたい方には、ビジネス新規事業コースやビジネス改善実践コースもご用意しています。
AIと一言に言っても、活用方法によって学ぶ内容が変わるのですね。給付金を活用できるというのも魅力的です。IoTを学びたいエンジニアも増えているのでしょうか。
電力や気温によってIoT機器の設定をコントロールするIoTアプリの開発はこれからの持続可能な脱炭素社会において非常に重要です。「ECHONET IoT MASTER」という資格は、IoTの通信規格「ECHONET Lite」を推進する団体エコーネットコンソーシアムが認定しているもので、インターネット・アカデミーは唯一この資格を取得するための講座を開設しています。(2024年5月現在)
ECHONET IoT MASTER の講義では、エアコンや照明等を操作しながら省エネに役立つアプリケーション開発をおこないます
エアコンや照明などのIoT機器は近年増えてきていますよね。家電メーカーの方々が資格を受けられているのでしょうか。
そうですね。家電メーカーの方々や、それに関連する企業の方々が資格を受けられています。政府もIoT人材の育成は力を入れており、イギリスではIoT製品のサイバー対策の義務化が求められるなど、セキュリティ対策と並行してトレンドとなっています。インターネット・アカデミーの受講者の方でも、IoT講座を受講したことで、家電メーカーに限らず転職活動がしやすくなったという声があります。
そのほかにも、エンジニアがよりスキルを広げていくためにおすすめの資格はありますか?
セキュリティへのニーズは年々高まっておりますので、そのスキルを持っておくと企業様からも評価されやすくなると思います。CompTIA Security+はセキュリティにおける認定資格であり、個人で学ぶには難易度が高いため、研修のニーズとしても増えてきています。実際にNTT東日本様にもご提供させていただいた事例があります。
ちなみにCompTIA Security+は世界147か国で50万人以上が受験しているセキュリティ資格です
なるほど。資格の難易度が高い分、持っていると知見の高さを評価してもらえるのでしょうか。
そうですね。CompTIA Security+は世界的に広がっている資格ですので、その情報をキャッチしているということ、またセキュリティの知識を積極的に学んでいるということが示せるため、入社後にもさまざまなスキルを身につける素地があるということが示せるのではないでしょうか。資格についてご存知でない企業様にも、国際的な資格であることをお伝えいただければ、非常に好印象だと思います。
資格は試験慣れも重要。まずは難易度が低い資格試験から
これから初めて資格取得を考えている新人エンジニアに向けて、おすすめの資格があれば教えてください。
資格に慣れていただくという観点も踏まえて、まずは難易度が低い資格試験から挑戦することをおすすめします。ITパスポートはIT関連の初級的な位置付けの資格ですが、試験の範囲も広く、不合格になる場合もあります。資格の受け方の勉強にもなりますので、まずはITパスポートから始めたのち、G検定やPythonエンジニア認定資格、CompTIA Security+などにステップアップしていただくのが良いと思います。
所属企業で推奨している資格があれば、まずはそれを受けてみるのも良いですよね。
ええ。企業の推奨資格は査定に影響することもありますし、企業が今求めている分野だと思いますので、受験すると良いと思います。
ITパスポートやG検定、Pythonエンジニア認定資格のほかに、会社の推奨資格として増えているものはありますか?
クラウド関連のAWS認定資格も多いです。AWSを使ってサイト構築をされるエンジニアだけでなく、ベンダーをマネジメントする発注側の担当者にもAWSの知識を身につけて欲しいという要望がありますね。
資格を取得するにあたって、おすすめの勉強法はありますか?
模擬試験が掲載されている書籍を購入し、実際に解いてみると、試験の概要を掴んでいただけると思います。試験慣れという観点でもおすすめです。今の実力と合格点までの差分を知ることで試験までの勉強も計画的に進められます。
そういったノウハウは、インターネット・アカデミーさんは豊富にありそうですね。
弊社は講義をするために、私たち社員もさまざまな資格を取得しています。実際に社員が試験を受け、資格を取得することで得られた知見をカリキュラムにも反映しているので、試験の傾向や合格率を上げるノウハウはかなり豊富に持っております。
たとえばどのような資格を取得されていますか?
Oracle認定 Javaプログラマ(Oracle Certified Java Programmer:OCJ-P)は弊社の社員が多く取得している資格の1つです。社員はさまざまな資格試験の勉強ノウハウの情報を共有しているので、最短距離で合格を掴み取っていただけるプログラムになっています。
資格取得はなぜ必要?今後エンジニアに求められるスキルとは
ITの資格の取得は今後も重要になっていくのでしょうか。
企業の担当者様とお話させていただくと、たとえばPythonの資格を持っているから、Pythonのコードをどんどん書ける人だとすぐに判断されることはないように思います。それよりも、資格試験の勉強を積極的に行い、業務内容にも関心を高く持っているという点で、非常にアピールポイントになるというのが今の企業様の資格試験の認識だと思います。
なるほど。知識だけでなく、その姿勢が評価に繋がるということですね。
ええ。取得している資格を見て、どんなことに関心が高いのか分かりますので、どんな業務を任せようかも判断しやすいです。資格の難易度によって、この資格に合格できるならこのレベルの業務はお願いできるな、と想像しやすくなるのもポイントだと思います。
資格を取得する個人にとってのメリットはありますか?
資格にもよるのですが、今回ご紹介した資格は体系的に問題が作成されておりますので、資格を学んでいただくことで、技術を体系的に学んでいただくことができると思います。
生成AIの活用が進んでいく中で、今後どのようなスキルが求められるのでしょうか。
AIは今後もトレンドが続くことは予想されますので、AIを実現するためのPythonなどのプログラミング言語と、AIでデータ分析をするためのデータそのものを収集するIoT技術、そしてデータを守るためのセキュリティの知識はエンジニアとして必携のスキルになってくると考えています。
インターネット・アカデミーでは、言語や資格の勉強だけでなく、ビジネスマネジメントスキルを身につける講座も提供しており、ニーズとしても非常に増えてきています。エンジニアも技術だけでなく、プロジェクトを円滑に進めるためのコミュニケーションスキルやプロジェクトマネジメントスキルも求められていく時代になってきていると感じています。
◆インターネット・アカデミー(個人様向け):https://www.internetacademy.jp/ ◆インターネット・アカデミー(法人様向け):https://www.internetacademy.co.jp/
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