ディー・エヌ・エー社を設立した南場智子さんが代表を務めるデライト・ベンチャーズ。2023年12月にはプロダクトのローンチからグロース、さらには事業戦略から出資までエンジニアをサポートする起業家支援プログラムをスタートしました。VチャレTechに込めた思い、期待が高まる第1回の反響はどうだったのか。本プログラムを立ち上げたマネージングパートナーの川崎修平さんと、プリンシパルの藤井康介さんにお話を伺いました。
デライト・ベンチャーズ
所在地:東京都渋谷区円山町28番1号 渋谷道玄坂スカイビル11F 代表:南場智子
マネージングパートナー 川崎修平(画像左)
元DeNAの取締役CTO。「Mobage」や「モバオク」を独力で3ヶ月で開発。2018年6月にDeNAの取締役を退任し、フェローに。2019年10月からデライト・ベンチャーズに入社し、ベンチャー・ビルダーのエンジニアとして、支援先のサービスの設計・開発を推進。
プリンシパル 藤井康介(画像右)
2006年にソフトウェア開発会社に入社。HR事業会社、Supership、ヤフーを経て2023年よりデライト・ベンチャーズに入社。スタートアップやメガベンチャーなど様々な規模や業態での事業立ち上げ経験を活かし、ベンチャービルダーとしてのプロダクト開発クオリティを担保し、プロダクトの成功を支援。
事業創出から投資まで一気通貫で支援
まずはVチャレTechを運営するデライト・ベンチャーズについて簡単に教えてください。
デライト・ベンチャーズは2019年に創成した独立系ベンチャーキャピタルで、主にベンチャーキャピタル事業とベンチャービルダー事業、2つの事業を行っています。2023年にはスタートアップ企業への支援と投資を行うデライト・ビルダーファンド(ファンド名称:デライト・ベンチャーズ・ビルダー2号投資事業有限責任組合)を設立しました。ベンチャービルダー事業において、創業前の個人の方を対象とした短期間の起業準備・事業創出プログラム「Vチャレ」を運営しており、エンジニアの起業支援に特化したプログラムが「VチャレTech」です。
他社の事業創出プログラムとの違いは何でしょうか。
フレームワークを提供し専門家が伴走しながら事業創出をするスタートアップスタジオ機能と、事業への投資を行うベンチャーキャピタル機能が共存していることが大きな強みです。
VチャレとVチャレTechの違いを教えてください。
Vチャレは主にビジネスパーソンを対象としていますが、VチャレTechはエンジニアの起業家を対象にしています。またVチャレでは世の中の顕在化した課題にアプローチする課題解決型のサービスを投資対象としているのに対し、VチャレTechではまだ世の中にない新たな価値を提案する価値提案型のプロダクトが対象です。
プログラム内容もVチャレでは、起業までの上流工程で起こるリスクを最小化するために細かく検証を積み上げますが、VチャレTechではエンジニアが自分でプロダクトを作れる前提にあるため、まずはプロダクトを市場にリリースすることに注力します。その後の市場の反応やニーズを判断材料として投資の判断をさせていただきます。
VチャレTechを企画されたのには、どのような背景があったのでしょうか。
ビジネスパーソン向けのVチャレは起業のリスクを最小化するためのフレームワークやゲートウェイが設計されているので、課題解決型の事業との相性が良い一方、価値提案型の事業を採択しづらい課題がありました。もう少し幅広い起業家を支援できないかという議論をする中で、エンジニアを対象としてプロダクトのリリースからスタートするような起業支援プログラムとして、エンジニアに特化したVチャレTechを行うことになりました。
元DeNA 川崎修平がプログラムを監修、検証費用は最大1,000万円
どのようなエンジニアを対象とされていますか?
エンジニアの経験年数などは明確に定義しておらず、最低限、企画しているプロダクトを1人で作りきれるスキルがあれば問題ありません。また、ターゲットとなる市場や競合、ユーザーを理解できているか、ターゲットに対して素早く価値検証を実行できるかなど、プロダクトへのスタンスを重視しています。
プロダクトはスタートしてからピボットすることもあり得るので、選考の時点でどんなアイデアを出してくるかというよりも、どうやってそのアイディアに辿り着いたか、思考のプロセスを重要視しています。プロダクトの内容についても、特定の領域を優先的に評価することはありません。
年齢の規定はあるのでしょうか。
特にありません。ただ学生だからと言って優遇することはなく、大人と同じようにフラットに見ています。18歳未満の未成年の方は、プログラム参画にあたって保護者の承諾が必要です。
採択されると、どのような支援が受けられるのでしょうか。
DeNA時代に「Mobage」をほぼひとりで、約3か月で開発したマネージングパートナーの川崎修平が責任者として本プログラムを監修しています。投資家目線とエンジニアとしてのものづくり目線、双方の視点からサポートできるのが特徴的です。最大1,000万円の検証費用を提供する他、検証結果に応じて出資も行いますし、米国での起業挑戦の支援も可能です。
第1回VチャレTech応募者の傾向は?
第1回VチャレTechは2023年4月にプログラムが開始されました。実際に応募者と会ってみて、どのように感じられましたか?
大学院生の方やCTO経験者など、幅広い方が応募してくれました。デモプロダクトを既に開発済みの方や、開発後のユーザーインタビューを実施済みの方もいて、かなりレベルが高かったですね。面談を振り返っても、いかに自分のプロダクトが素晴らしいかを目を輝かせて話してくれる方も多く、そういう方は進捗も早いですし、期待値も高いので、開催して良かったなという気持ちが強いです。
事業の領域や技術も思った以上にバラバラで、バラエティーに富んだプログラムになったなという印象です。日本人で海外に住んでいる方や、海外で起業したいという方もいました。
グローバルな視点を持つ方もいらっしゃったんですね。具体的なプロダクトの内容について教えてください。
最新の技術を使ってさまざまな領域で新たな体験を生み出すチャレンジをしている方にご応募いただいています。一例としては、次のような内容です。
・次世代コンテンツ制作とエンターテインメントの新たな体験の提供
・スポーツやアウトドア領域DX
・新時代コミュニケーションツール
・情報とデータ管理を進化させるツール
意外に感じられたことはありましたか?
もっとAIやWeb3の領域が多くなるのではと考えていたのですが、エンタメやヘルスケアなどさまざまな領域での応募があり、採択したプロダクトもバランスよく点在しています。また、エンジニア起業家を対象にしていたため、ファイナンスや営業・マーケティングを支援してほしいというニーズを想定していたのですが、そういった分野について既に深く考えている方が多かったのも印象的でした。プロダクトの方向性を一緒に悩む相談相手として、捉えてくれたのかなと感じています。
エンジニアの方は「その他の領域は専門ではない」「自分はエンジニアだから分からない」と思い込んでいる方が多いのですが、実際にお話を聞いてみると解像度が思ったよりも高く「全然それで良いですよ」、「やってみましょう」となることが多いですね。
投資判断で重視するのは「粘り強さ」
2024年4月から9月は設計・検証フェーズとのことですが、どういったことを進めているのでしょうか。
このフェーズでの「設計」は、プロダクトの設計ではなく、検証計画を設計するフェーズです。プロトタイプをリリースした上で、具体的な検証を行うために、検証内容を設計します。検証フェーズには初期検証と追加検証があり、優先的に検証すべき内容を定義して検証し、最終的に投資の材料となるトラクションやプライシング、マネタイズを検証してもらう形を想定しています。
プライシングやマネタイズは経験のないエンジニアも多いと思うのですが、プログラムの中で色々と学べるのでしょうか。
プライシングを一緒に設計するなどの支援は行うのですが、第1回VチャレTechでは起業を想定している方が多かったので、ビジネスモデルやプライシングの想定を行って応募してくれる方が多かったです。
プロダクトによるとは思いますが、初期検証ではどのようなことを検証されるのでしょうか。
基本的には最終的に投資材料に繋がる部分というのを定義しているのですが、検証費用の使い方としては、例えばtoCビジネスであれば、ある程度UI/UXのクオリティを求められるのでデザイナーに外注したり、海外展開を見据えたホワイトペーパーの外注だったり。他にも、プロトタイプを作った上でユーザーに深いインタビューするための謝礼に使うこともありますね。
価値提案型をメインにしていることもあり、我々がアイディアを聞いて直接良いかどうかを判断するより、市場に判断を委ねることを大切にしています。そのため、検証でどのように市場に判断を委ねると良いデータが取れるのか、そのためにユーザーに正しく情報が伝わるようにするために必要な部分を検証費用として出すというのが大枠の考え方です。
そして10月以降は、いよいよ投資交渉フェーズですね。
ええ、マネージングパートナーの南場智子、坂東龍、川崎修平にピッチをしていただき、最終的に投資を判断するフェーズです。私たちはピッチ資料のアップデートや事業計画の作成などを支援しています。
川崎さんが重点的に見ているポイントはありますか?
課題解決型ではヒット率は高いけれど大ホームランはなかなか出しにくいというのがある中で、価値提案型のプロダクトが先行するVチャレTechでは大ホームランを目指して、大きいことをやってもらいたいという思いがあります。もちろん誰にも響かない、独りよがりでは困りますが「これは上手くいったら大きくなるかも」という期待感を感じたいですね。また世の中に届ける上で、執念深くニーズを捉え続けて、最終的にPMFするところまで持っていけるくらいの粘りも伝えてもらいたいです。上っ面のきれいごとばかり並べられてしまうと、「1回つまづいたときに終わってしまいそう」と思ってしまうかもしれません。
VチャレTechでは事業創造から伴走するので、検証の仕方やお金の使い方もよく分かります。粘り強くアプローチできるかどうかは、プロジェクト中も見ています。
スタートアップで成功している人はさらっと成功しているように見えて、その裏側では相当地道な努力をしています。どこまで粘り強くできるかどうかは、我々だけでなく、次のラウンドでも伝えてもらわなければいけない点ではないでしょうか。
エンジニアは創造的なものづくりに最も有利な場所にいる
VチャレTechを通じて、どのような世界を実現していきたいですか。
まだ世の中にないような革新的なアイディアと技術力を思いっきり発揮できる環境を用意し、新たな価値を生み出せるエンジニアの皆さんを全力でご支援していきたいですね。それによってたくさんのスタートアップの創出に貢献したいと思っています。
藤井さん個人として支援してみたい領域はありますか?
私自身がそのプロダクトの価値を理解できないとしても、ユーザーの熱狂をめちゃくちゃ生んでいるようなプロダクトを支援していきたいですね。また価値提案型やtoC は体系化やフレームワークが非常に難しいのですが、支援を通じてさまざまなナレッジを蓄積・体系化し、次に挑戦する起業家に還元していきたいと考えています。
エンジニアは創造的なものを作るのに一番有利な場所にいると思っています。ビジネスの人はエンジニアに頼まなければ作れませんが、エンジニアはこう作りたいというものを自分で手を動かせば作れる。依頼されたものを作るだけじゃなく、自分たちがこういうものが欲しい、こういうものがあったら世の中がもっと良くなるというものに、積極的に関わって欲しいです。
エンジニアとしての経験も豊富な川崎さんからのお言葉、心強いです。
これって何が良いの?と聞かれた時に、言葉で説明できない、プロダクトを触ってから判断してくれというようなものって多いと思うんです。それをピッチ資料に起こすのではなく、まずプロダクトを作れることがVチャレTechの魅力だと思います。言語化できるかではなく、熱狂を生み出すプロダクトが作れるかを求めていますし、そういうアイディアを持っている方が集まってくれるのが我々の期待として大きいです。
時期は未定ですが、第2回も実施する予定ですので、たくさんの方に応募していただければと思います。世の中を変えるような革新的なプロダクトとの出会いを楽しみにしています。
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