「テレワーク川柳2023」に見るリモートの最新トレンド|会議中のあるあるに共感が止まらない
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「テレワーク川柳2023」に見るリモートの最新トレンド|会議中のあるあるに共感が止まらない
岸 裕介
2024.05.14
この記事でわかること
テレワークを進める中でのあるある体験
オフィス回帰が強まっていることへのさまざまな感情や出来事
時間と場所にとらわれないテレワークのメリット

アフターコロナでハイブリッドワークが浸透している一方で、フル出社に戻す企業が増えています。エンジニアをはじめとした世の中のビジネスパーソンは、テレワークとオフィス回帰のトレンドをどのように感じているのでしょうか。

それらの働き方について悲喜こもごもの感情があらわれているのが、2014年から開催されている「テレワーク川柳」です。一般社団法人日本テレワーク協会の主催で、2023年度には全国から3,918句の応募がありました。テレワーク協会会員を含めた厳正なる審査で、会長賞(1句)や優秀賞(2句)など、特に優れた句が選ばれています。

オフィス回帰に関連した句や、テレワークのあるある体験を上手く表現した句について、一般社団法人日本テレワーク協会の事務局長・村田 瑞枝さん、主席研究員の若生 直志さん、主任研究員の片山 祐美さんにお話を伺いました。

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テレワーク川柳

一般社団法人日本テレワーク協会が毎年公募。「真に時間と場所にとらわれない暮らしと仕事のスタイル」を目指して、テレワークがより一層身近な働き方として社会全体に普及促進していくことを目的に開催している。

https://japan-telework.or.jp/associationactivities/senryu/

「テレワーク=在宅勤務」の考え方はもう古い!?

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岸 裕介

最近のテレワークの傾向について、どのように感じられていますか?

村田さん

世の中では「テレワーク=在宅勤務」という捉え方が主流ですが、本来のテレワークは場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を指しています。エンジニアのみなさんにとっては、サーバーのメンテナンス現場を想像していただくといいかもしれません。スマートグラスをつけて、遠隔地からの指示を受けながら作業している場面。それも一つのテレワークです。

岸 裕介

なるほど、テレワークの場所は業務によってさまざまということですね。

村田さん

テレワークでは、現場を退いた熟練の技術者と若手をリモートでつなぎ、長年培ったスキルを継承することも可能です。世代間のスキルギャップを埋められるので、後継者問題や人手不足の解消にもつながります。例えば、農業の現場においては、遠隔地にいる専門家の指導によって、収穫に最適なタイミングや生育のポイントがわかります。

岸 裕介

たしかに、人手不足や技術者の高齢化が課題になっている業種・業界では特にテレワークの活用が重要ですね。

村田さん

ええ、現在テレワークは幅広い業界で導入されており、運輸業においては今まで安全運転管理者と対面で行っていたアルコールチェックを、リモートで行うこともできます。また、人手不足が深刻な介護の現場においては、利用者に必ずしも接する必要のない業務は全てリモートで行うことも。一人ひとりが働きやすい環境を実現する上で、テレワークはなくてはならないと思います。

岸 裕介

メリットの多いテレワークですが、「テレワーク川柳」はどのように始まったのでしょうか?

若生さん

スタートした2014年当初は、「テレワーク」という言葉もなく出社が当たり前の状況だったので、もっと柔軟な働き方を世の中に広めたいという思いで始まっています。当時の状況から考えると、テレワークが当たり前になっていることをうれしく感じる一方で、シニア層ではまだ抵抗があるのも事実です。「テレワーク川柳」では、それらの世代間のギャップもユーモアたっぷりに表現されているので、ぜひ多くの方に楽しんでいただければと思います。

出社/オフィスのことを詠んだ句4選

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岸 裕介

テレワーク川柳で選ばれた作品について伺っていきます。オフィスのことを詠んだ句では『リモートのオフィスに残るファイブ爺』が優秀賞に選ばれていますね。シニカルな句で思わず笑ってしまいました。

若生さん

いわゆるITリテラシーの低いシニア層には、Web会議に自宅からつなげる方法がわからない方もいらっしゃいます。テレワークが難しいので出社してコミュニケーションを取ることに。その結果、“お爺さん”が会社に残ってしまうというわけです。

村田さん

SNSで一時期“IT介護”という造語が流行りましたよね。社内の担当者がITリテラシーの低い社員へのサポートや説明に追われる状態のことですが、この句で描いている世界観に近いように感じます。

片山さん

社内のキャリアが高いシニア層は、他の人に聞きにくいこともあるかもしれませんね。他にも業務の忙しさで聞けないなどいろいろ理由がありますが、川柳としてユーモアと悲哀のバランスが秀逸だと思いました。

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岸 裕介

会長賞を受賞している「テレワークやめたわが社にさようなら」という句ですが、こちらはいかがでしょうか?

若生さん

これは2023年度の世相を表した句として、特に評価が高かったのだと思います。新型コロナウイルスが5類感染症に移行されてからテレワークを廃止する企業が相次ぎ、転職・離職する社員が急増しました。

村田さん

その背景として、コロナ禍のテレワークでも仕事に支障がないことがわかった社員の方々からの不満が多いことがあげられます。テレワークでも業務は進められるのに、なぜフル出社する必要があるのかと。

岸 裕介

たしかに、テレワークの良さを知ってしまうとフル出社に戻すのは難しそうですね。エンジニア界隈でも、5類移行前に比べると転職のニーズが高まっているように感じます。

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若生さん

「飲み仲間 示し合わせて 出社する」これは完全にテレワークあるあるの句ですね。おそらくこの方の仕事は全部テレワークでもできるのですが、わざわざ出社して他の人と飲みたいということですね。

村田さん

日々のテレワークで感じるストレスを解消するために、同僚と待ち合わせて美味しいお酒やご飯を楽しむ。そんな風に出社している方も今は多いのではないでしょうか。現代らしい出社意義をわかりやすく表現された句だと思います。

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岸 裕介

続いて「おじさんの 残り香悩まし テレブース」という句ですが、こちらはいかがでしょうか。

若生さん

これは世相を表しているというよりも、おじさんを少しお茶目にいじった句ですね。そもそも、コロナ以前には各社にWeb会議ができるスペースというのがあまりなかったんです。コロナ禍に急造で作ったテレブースを設置している会社が多いのですが、そこにシニア層の方々が入ったとき、加齢臭や整髪剤の残り香があることも…。

片山さん

テレブースは小さいので、ニオイがこもりやすいんですよね。女性の化粧などのニオイが気になる方もいらっしゃるのかもしれませんが、男性比率が高いオフィスが多いのでこの句に反映されているのだと思います。

自宅での苦労を詠んだ句3選

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岸 裕介

続いて、自宅でのテレワークについて詠んだ句についてお伺いします。「テレワーク 家事と育児の 三刀流」こちらはいかがでしょうか?

若生さん

こちらは言うまでもなくメジャーリーガー・大谷選手の二刀流にかけた句として選ばれています。

村田さん

正直なところ、女性で仕事、家事、育児の三刀流は珍しいことではないかもしれません。ただ、テレワークをきっかけに男性の家事や育児への参加が進んだのは間違いないので、社会的には非常にポジティブな変化だと思います。

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村田さん

「『テレビ見る?』オカンよ俺は 仕事中」これも、非常に多くの共感を集めたあるあるの句ですね。田舎に帰省したときに、両親や親戚がテレワークを理解していないことはよくあるケースだと思います。

片山さん

自室にこもっていればまだしも、リビングや居間などのオープンスペースでパソコンを開いているだけでは、仕事かどうかの判断がつきにくいですよね。それにテレワークをしている側も、自宅だと気が抜ける場面がどうしてもあると思います。

岸 裕介

業務の内容にもよりますが、社内のチーム内の打ち合わせなどでは、普段と違った一面が見えて親近感が湧くなどプラスの効果もありそうな気がします。

村田さん

そうですね、子育ての様子を目にしたり、子どもの名前を知ったりすることで、他のメンバーの子どもが病気の時などに「あとは私がやっておくから」と協力的になる方が多いようです。

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岸 裕介

続いての「テレワーク パパの勇姿を 子に見せる」も非常にポジティブな句だと感じました。

若生さん

そうですね、その前提として今の父親には家の中で書斎がないことも多いんですよね。仕方なくリビングでテレワークに取り組むこともありますが、それを子どもへの「勇姿」として表現しているのが秀逸だと思います。

村田さん

コロナ禍の2021年から「小学生がなりたい職業」のランキングに会社員が入るようになりましたね。コロナ禍でパパの勇姿を見て、会社員をイメージしやすくなったことが大きな要因ではないかと。

若生さん

Web会議などで部下にいろいろな指示を出すこともあるので、小学生から見たらカッコいいと思うのかもしれませんね。逆にお客さんから怒られているような場面は嫌だなと感じるのかもしれませんが(苦笑)。

リモート会議中の大変さを詠んだ句3選

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岸 裕介

次にリモート会議中のことを詠んでいる句についても教えてください。

若生さん

「たぶんだが 彼はあぐらを かいている」、これは姿勢に限った話ではなく、上半身だけきちんと着替えていて、下はパジャマやスウェットという状態もありますよね。

村田さん

本人は大丈夫だと思っているかもしれませんが、実はリモート会議は対面でのミーティングよりもよく見られているんですよ。さすがに下半身はカメラで写らないかもしれませんが、眠そうな表情やあくびはリアルな会議よりもみんなに目立ちます。

岸 裕介

たしかに、一画面に全員表示されることが多いですもんね。

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若生さん

「会議中 部長の風呂が 沸いた音」これもよくありますね。あとは宅急便のピンポンや犬・猫の鳴き声とか、皆さんの共感を得やすいと思います。

片山さん

夕方の会議で風呂が沸いた音が聞こえると、「今からお風呂に入れるように準備していたんだ」と思っちゃいますね(笑)。

村田さん

ときには、「そろそろ切り上げますか」と会議を終わらせるきっかけにもなるかもしれません。ほのぼのした雰囲気が出ている良い句だと思います。

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岸 裕介

他にも「ピンポンに 出るに出られず 不在票」という句では、リモート会議ならではの苦悩を感じました。

村田さん

不在票なら後で再配達の連絡をすれば済むんですけど、新入社員の方たちで多いのはトイレに行くのを我慢することです。リアルな会議では、隣りの人に「ちょっとトイレに行ってきます」と言えるけど、リモート会議では誰に言えばいいかわからない。チャットに書いて全員に知られるのも恥ずかしいし…。

片山さん

オンライン会議が立て続けに入って休憩がないときはつらいですよね。新入社員の方に限らず、途中で抜けるのをためらう方は多いような気がします。

テレワークの良さを感じられる句3選 

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岸 裕介

テレワークの良さを改めて感じられる句もありましたね。まず、優秀賞に選ばれている「里帰り 二日延して テレワーク」こちらはいかがですか?

村田さん

私たちも帰省するときはテレワークを駆使して一週間以上、実家に滞在しています。同じようにテレワークを活用して帰省先でゆっくり過ごされる方が増えていると思います。それに、お盆の時期などの前から帰省すれば交通機関の混雑を避けることもできます。

片山さん

交通費も節約できますし、帰省先で仕事をした方が良いと思います。帰ってくる日を土日以外にすれば、さらに混雑は避けられるかもしれませんね。

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岸 裕介

「ふるさとの 空き家がオフィスに 進化する」は、社会派の句だと感じたのですがいかがですか?

村田さん

古民家などの空き家を再生してオフィスにするケースが、田舎で増えていますね。今は地方でもリモートで働けるので、そのまま滞在したり住んだりする方もいらっしゃいます。

片山さん

あとは、空き家などをリノベーションしてコワーキングスペースにするようなケースもありますね。

岸 裕介

最近よく見かけますが、地方におけるコワーキングスペースのニーズは?

村田さん

テレワークが浸透してきているので、ニーズは間違いなくあります。その中で上手くいっているコワーキングスペースの共通点は、管理人など「人」が良いこと。通信環境や店内のレイアウトなど最低限の環境整備は必要ですが、コミュニケーションやコミュニティが重要です。「あそこに行けば、あの人がいる」という動機が大切だと思います。

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岸 裕介

「Uターン 後押しくれた テレワーク」という句も、人生が変わるようなテレワークの良さを感じる作品だと感じました。

若生さん

地元に戻ってテレワークをするけど、転勤じゃないということですね。今は会社によっては、単身赴任で地方に行く必要がなくなっています。つまり、転勤になったとしても、現在と変わらない場所でリモート勤務できるということです。

村田さん

一般社員だけではなく、経営層の方々にもそういった自由な働き方が広がってきています。時々社内で集まるときは、出張扱いで飛行機代などが支給される会社も出てきていますね。

テレワークの浸透で働き方はどのように変わっていくのか?

岸 裕介

テレワークが浸透するなかで、これからの働き方はどのように変わっていくと思いますか?

村田さん

現在、テレワークは私たちの生活の一部になっていて、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方として多くの会社で取り入れられています。これから人口減少がさらに加速していくなかでAIの活用なども進められていますが、業務の効率化と私たちにとってより幸せな働き方が求められることは間違いありません。2023年に「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」という本が話題になりましたが、一人ひとりに合った生き方を見つけていく時代になっていくと思います。

岸 裕介

ハイブリッドワークについても、社員の皆さんが自由に働き方を決められるのが本来あるべき姿なのかもしれませんね。

村田さん

はい、出社の曜日や頻度を会社側が一方的に決めてしまうのは、社員の柔軟な働き方を制限してしまうことにつながります。テレワークの普及により、本当の意味で時間と場所にとらわれない自由な働き方が世の中に広がってほしいと思います。

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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