小中学生を中心に絶大な人気を誇る『Minecraft(通称:マイクラ)』。ゲームとしての魅力はさることながら、その教育的価値にも注目が高まっています。
日本国内でも数年前から教育にMinecraftを活用する動きが出てきており、教育版マインクラフトを使った作品コンテストである「Minecraftカップ」も盛り上がりを見せています。
そこで今回は、Minecraftカップ運営委員会事務局の福島氏にインタビューを実施。大会が目指す世界観や、Minecraftを通じて実現できる事柄についてお話を伺いました。
子どもたちが評価される場を生み出したい
まずはMinecraftカップの概要について教えてください。
Minecraftカップは、学校教育の現場で使われている「教育版マインクラフト」で作られた作品を全国・海外から募集し、内容を競い合う大会です。
応募年齢は高校生以下を対象としていて、大会参加者は与えられたテーマに沿ったワールドを教育版マインクラフトで制作し、部門ごとに応募します。集まった作品は、全国を13ブロックに分けた地区ブロックごとに地区大会予選と本選を行い、全国大会では地区ブロックを勝ち抜いた全作品の審査を実施します。そして、最優秀賞をはじめとする、その年の各賞を決定します。
Minecraftカップはいつごろから、どのような目的で開催されているのでしょうか。
2019年から年に1回のペースで開催し、今年で5回目になります。最初は日本マイクロソフト社の社会貢献事業の一環として取り組みを開始しました。現在は、公益社団法人ユニバーサル志縁センターと、一般社団法人ICT CONNECT 21という団体が協力しながら運営を行っています。
大会の目的は、デジタルなものづくりを通して「ひとりひとりが可能性に挑戦できる場所」を創出すること。教育版マインクラフトと聞くと、どうしてもプログラミング能力を向上させるものだと思われがちです。
ただ私たちは、プログラミングに限らず、もっと幅広い視点でデジタルなものづくりに触れる機会をより多くの子どもたちに届けたいという思いで取り組んでいます。
具体的にはどのようなイメージでしょうか。
1つが、地域間での情報格差をなくしていくこと。 実際に私たちの大会も、首都圏の参加者は多いものの、地域にいくほど作品数が少なくなる傾向があります。でも、ワークショップなどで全国を回ってみると、“マイクラ好き”な子どもたちは地域を問わずたくさんいるんです。
つまり、Minecraft=遊びやゲームのイメージで、教育のツールになるということが浸透していないんですよね。さらに⽇本財団の18歳意識調査によると、12%の⼦どもたちが学校や家庭でのデジタル教育の環境差を訴えているというデータもあります。子どもたちに身近なMinecraftを使ってデジタル教育の環境差をなくしていくことが、私たちの使命でもあります。
そしてもう1つ、「子どもたちが評価される場をもっと作っていきたい」という思いもあります。 子どものころって、スポーツとか目に見えやすい指標で評価される傾向が多いと思いませんか?でもMinecraftカップであれば、スポーツが得意じゃない子でもきちんと能力や成果が評価される機会を作ることができる。そんな“場所”をどんどん生み出していきたいんです。
作品制作やプレゼンの経験が大きな自信に
Minecraftカップの参加者に傾向や特徴はありますか?
比較的、小学校高学年の参加者が多い印象です。個人や数人のチーム単位での参加が中心ですが、最近はCoderDojoやプログラミング教室単位での参加も増えてきています。あと、数は多くありませんが、直接会ったことのない子どもたち同士がオンライン上でつながってチームを組んだりするケースもありますよ。
作品のテーマは毎年どのように決めているのですか?
基本的には大会の運営委員会で検討し、その年の大会を支援してくださるパートナーのみなさんの意見もお聞きしながら決めています。例えば2023年のMinecraftカップのテーマは「誰もが元気に安⼼して暮らせる持続可能な社会 〜クリーンエネルギーで住み続けられるまち〜」です。子どもたちも学校の授業などで触れる機会の多いSDGsを題材に、今年はエネルギーや環境問題、またジェンダーもプラスしたテーマを設定しました。
まさに世界的な潮流や社会問題を反映しているのですね。ちなみにこれまでの大会参加者の方からは、どのような感想があがっていますか?
まず保護者の方々からは、「普段はおとなしい我が子が、マイクラを通じてチームのメンバーとスムーズにコミュニケーションが取れていて驚いた」という声や、「パソコンを使えるか心配だったが、やりはじめると上達が早くてびっくりした」といった感想をいただいています。また参加者からは、「いつも親からマイクラの時間を制限されているが、全国大会に出ると言ったら親の反応が変わった。家のなかでマイクラがしやすくなった」という声もありました。
さらに受賞チームには「デジタル賞状」をお渡ししていて、受賞者の子が全校朝礼で表彰されたり、校長室に呼ばれて賞状を渡されたりすることもあるようです。自分が楽しいと思ってやっていたことが、周りの方々から評価されることで、自信につながったという声もたくさんもらっています。
特にMinecraftカップは作品を作るだけでなく、プレゼンを行う機会もありますので、発表が苦手だった子が「人前で話すことに自信を持つことができた」という感想をくれたときは私も嬉しかったですね。
大会を通じて身につけられるさまざまなスキル
福島さんのなかで、特に印象に残っている作品はありますか?
個人的に、2022年の中国ブロックヤング部門の最優秀賞を獲得した「巨大樹がつなぐ生命」という作品が心に残っています。個人参加の女子中学生の方の作品だったのですが、世界観を創る力と、考える力、そしてそれを実際にマイクラの世界で表現する力のすばらしさに驚きました。同時に、それらを表現できるマイクラのすごさというのでしょうか。動物や植物、昆虫など、自在に表現できることが、子どもたちの豊かな想像力を引き出しているのではないかと感じました。
福島さんが考える、Minecraftカップを通じて得られる経験やスキルは?
Minecraftカップは、個人から最大30名のチーム単位で参加可能です。チームで参加している子たちは、まずどのようなテーマで作品を作るか、何を表現したいかなど、話し合いながら計画を立てます。そのうえで合意形成を図りながら、実際にパソコンでの作業に移っていくイメージです。
基本的には子どもたちの夏休み期間を使って作品を作ってもらうのですが、全体のスケジューリングや1日ごとの工程を計画しながらプロジェクトをマネジメントする力。また集団内で折り合いを付けていく力や、コミュニケーション力も自然と身についていくのではと考えています。
なるほど、テクニカルスキルだけでなく、ヒューマンスキルも磨くことができるんですね。
そうですね。あとは、チーム内でMinecraftやプログラミングに詳しい子が、初心者の子に教えてあげる場面もよく見られます。まるで大人の世界のように、それぞれの得意な部分を活かし、苦手な部分を補いながら、共通のゴールに向けて協力しあっている姿には感銘を受けますね。
Minecraftカップを周知するための取り組み
より多くの人たちにMinecraftカップを知ってもらうために、どのような取り組みをしていますか?
保護者の方向けの施策、教育機関向けの施策、そして子どもたちに向けた施策の3つがあります。 保護者向けの施策に関しては、各種SNSやウェブサイトを通じた情報発信。教育機関向けについては、「活動報告書」を各地の教育委員会に配布させていただいたり、学校や自治体に向けたアプローチなどを行っています。
子どもたちに向けた施策も多数実施していて、例えば「Minecraftワークショップ全国キャラバン」がその1つです。全国大会の審査員長を務めるプロマインクラフターのタツナミシュウイチさんによる講座および、教育版マインクラフトを使った作品制作と発表を行うという内容で開催しています。
ほかにも、「廃校ワークショップ」という取り組みがあると聞き、興味深いなと感じたのですが。
廃校ワークショップは、あらかじめマインクラフトのワールド上に⽤意した廃校をリノベーションするプログラムです。例えばプールを釣り堀りにリノベーションするなど、子どもたちならではの柔軟な発想でどんどん面白いアイデアが生まれてくるんですよ。
同時に、少子高齢化などの社会問題に目を向ける機会にもなりますし、指導者向けに教材としても配布していますので、今後学校教育やプログラミング教室での導入が増えていけば嬉しいなと考えています。
ちなみに普段Switchなどで遊んでいる子どもたちにとって、パソコンでの制作は難しく感じませんか?
たしかに最近の子どもたちはコントローラーでMinecraftを行う機会が多いので、パソコン=難しいというイメージを持たれがちです。そのような問題に対応するため、Minecraftカップでは「忍者ワールド」と呼ばれる教材を開発しました。
これは忍者の里と呼ばれるワールドを舞台に、教育版マインクラフトの基本操作から応用まで学べる内容になっています。初心者はもちろん、熟練者も楽しめる内容になっていて、子どもたちにパソコンでの制作を身近に感じてもらえるような工夫を行っています。基本的には教育版マインクラフトの体験会などで実施していますが、Minecraftカップ参加者には無償で配布しています。
家族から応援される「甲子園」のような大会にしていきたい
教育版マインクラフトを、学習プログラムの一部として取り入れている学校も増えてきていると伺いました。
はい。英語の授業でマイクラを活用している京都府の某小学校では、「授業中は英語だけを話すように」というルールを設けているのですが、子どもたちにとってはハードルが高いものです。ところが「マイクラを使ってみんなで作品を作り上げる」という目標を設定することで、Minecraftをやるために英語を使おうとするみたいです。「間違ってもいいからとにかく英語で思いを伝えよう」という経験を通じて、子どもたちの英語に対するハードルを下げていくという仕掛けが特徴で、教育業界でも話題になりました。
もう1つ、北海道のある中学校では、特別支援学級でマイクラを利用しています。読んだり書いたりすることが苦手な特性を持つ子どもたちもいるなかで、Minecraftの「イマーシブリーダー(音声でそのページのテキスト部分を読み上げる機能)」を活用し、情報共有を行っているそうです。音を使ってコミュニケーションを取る方法は、私たち運営事務局にとっても新たな気付きでした。
福島さんは、Minecraftカップを通じて子どもたちにどんな経験をしてもらいたいと考えていますか?
まずは楽しんで取り組んでもらうことが一番です。そのうえでMinecraftカップでの経験が、進学先での友達づくりの場面で活かされたり、進路を選ぶときのヒントになったりと、新たなステージでのびのびと自分の力を発揮してもらうための一助になれば嬉しいですね。
今後、運営事務局として取り組んでいきたい事柄は?
もっとたくさんの子どもたちに機会を提供していくためにも、今まで以上に学校関係者や教育関係者の方々と連携しながら活動を進めていきたいです。あとは、Minecraftカップを、野球の「甲子園」のような大会にしていきたいな、と。
甲子園の魅力って、自分が住んでいる地域の学校を全力で応援できることだと思うんです。「隣のお兄ちゃんがMinecraftカップに出ているらしいよ。あなたもやってみない?」といった会話が家族で自然となされるような、そんな世界を作っていきたいですね。
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