スマートフォンやウェアラブルデバイスの進化で、簡単に睡眠、運動量、体重などを記録できるようになりましたが、健康に関するデータを上手く活用できていないエンジニアも多いのではないでしょうか。
それらの情報をAIが総合的に判断し、的確な健康アドバイスや提案をもらえるアプリとして注目されているのが『カロママ プラス』です。エンジニアにも起こりがちな健康課題を、AIと専門家がどのように解決しているのか。『カロママ プラス』を開発・運営している株式会社Wellmiraの代表取締役社長兼CEO・渡辺敏成さんにお話を伺いました。

■AI健康アプリ 『カロママ プラス』 体重や食事、運動、睡眠、気分などライフログデータをトータルで記録し、健康的に暮らすためにおすすめの次のアクションをパーソナルAIコーチ「カロママ」がアドバイス。2億通り以上のアドバイスは全て管理栄養士など専門家が監修。利用者におすすめの献立や食材、運動などを提案することで、健康をサポートしている。

■株式会社Wellmira 代表取締役社長兼CEO:渡辺 敏成 所在地:東京都千代田区神田須田町1丁目23-1 住友不動産神田ビル2号館11F 創業(単体):2002年7月25日(2024年4月1日に現在の社名に改称)
デスクワークが多いエンジニアの健康課題とは?

まず、Wellmiraがどんな会社なのか教えてください。

利用者に寄り添い、その人のためのアドバイスを行うAI健康アプリ 『カロママ プラス』などを展開するサービス事業と、ヘルスケアのプロフェッショナルとしてクライアントさんの事業に合わせたアプリ開発からプロセス支援まで行うソリューション事業を展開しています。

事業的にはBtoBとBtoCの両方を展開しているのでしょうか。

主にBtoBtoCでの展開になります。例えば『カロママ プラス』であれば、企業が『カロママ プラス』アプリを導入し、社員一人ひとりに食事内容や歩数、睡眠状態をアプリに記録してもらい、健康経営に活かすといった流れです。


各企業のエンジニアは、どんな健康課題を抱えていることが多いですか?

各企業の事業内容や働き方によっても異なるのですが、ある企業のエンジニアの場合、椅子に座り同じ姿勢で仕事をする時間が長いため、歩数が少なく肩こりや腰痛といった健康課題を抱えている方が多いことがわかりました。また、食事の時間が不規則で、1度にまとめて食べたり、夜遅い時間にボリュームのある食事をとったりする傾向が見受けられます。

なるほど。役職や職種によっても健康課題の傾向は異なるのですか?

経営層の方々は運動に気を使っていることが多く、活動量が比較的多い傾向にあります。職種別では、営業職の方は車や電車での移動が多いことで、他の職種に比べて歩数が少ない結果が見られることがあります。


それぞれの会社で違いはあるものの、役職や職種でも運動量に差が見られるということですね。

エリアによっても運動量に違いは見られます。例えば、都内にあるいくつかの会社は、20代30代の女性の歩数があまり多くありませんでした。その理由はヒアリングしてわかったのですが、ヒールを履いている方の割合が高く、歩き回るのが物理的に難しいということです。また、同じ企業であっても、事業所の拠点エリアごとに歩数や身体活動量に差があるなど、それぞれ健康課題が異なることもあります。


運動量はさまざまな要因で増減するということですね。普段から歩数を計測するなど、ヘルスケア・アプリを使っている人もいらっしゃいますが「上手く活用できない」という声もよく聞きます。

そうですね、私が多くのヘルスケア・アプリについて明確に課題に思っていることは、「データの可視化」で終わっていることです。例えば、歩くと自動的に歩数をカウントしてくれたり、睡眠の状態が可視化されたり、心拍数を計測できるアプリもありますが、それらは体の状態を可視化することまでしかできない場合が多いです。

「データの可視化」だけでは不十分なのですか?

食事、運動、睡眠の現状が可視化されることは、本人の気づきになるものの、それだけでは具体的なアクションにつながりにくいのが現実です。だからこそ、当社は一人ひとりの健康課題に寄り添って、具体的な行動プランを提案することを目指しています。データの蓄積や可視化だけではなく、その人が行動変容を促すようにトータルで支援していくことが大切だと考えています。
ヘルスケアを続けられない人も習慣化できるのか

ヘルスケア・アプリで健康に関するデータを確認するだけでは、具体的なアクションにつながりにくいことも多いと思います。『カロママ プラス』では、どのような点が他のヘルスケア・アプリと異なるのですか?

『カロママ プラス』は、体重や体温、体脂肪などのデータや、食事、運動、睡眠、気分といった健康に関わるライフログを蓄積できるだけでなく、パーソナルAIコーチ「カロママ」がそれらのデータを総合的に見て、利用者ごとにパーソナライズ化された健康アドバイスや提案を行います。


ライフログはどのようにして記録するのですか。

例えば「食事」のデータは、特許を取得している独自のAI食事画像認識機能を活用しているので、食べた食事の写真を撮るだけでカロリーや栄養価計算ができます。また、市販品や外食メニュー、よく食べる家庭の食事など約15万メニューがアプリに登録されているので、利用者さま自身がそのなかからメニューを選ぶことで、カロリーや栄養価を計算することもできます。

食事の記録を忘れる方も多いと思いますが、それを防ぐ機能もあったりするのですか?

もちろんです。食事の記録忘れを防ぐため、アプリのタイムラインで「カロママ」が「ご飯食べましたか?」など声をかけてくれます。それ以外にも、「今日のカラダ情報を入力してみましょう!」という呼びかけもあります。


なるほど、通知機能もあるのですね。他のアプリとの連携はできるのでしょうか。

はい可能です。ウェアラブルデバイスと連携して睡眠時間や深い睡眠、浅い睡眠、レム睡眠の時間を取得したり、スマホ内蔵の歩数計と連携して日々の歩数のデータを取得することができます。

ヘルスケアを習慣化できない人のために、楽しく続けるための工夫などがあれば教えてください。

アプリにログインすると貯まるスタンプカードがあります。ログインしてスタンプを貯めると、プレゼントに応募することができます。また、弊社アプリには「健康サポーター」という機能があり、ご利用者さまの健康支援を目的に、コンビニやスーパーマーケットなど様々な企業に参加していただいています。ご利用者さま自身が「健康サポーター」を選んでフォローすることで、「健康サポーター」が実施している健康イベントに参加することもできます。イベントによっては、食事記録をしてポイントを貯めるとプレゼントがもらえるものもあるため、楽しく続けられると好評です。また、カロママから毎朝応援メッセージが届いたりするのが楽しいという声もいただいています。


ポイントでプレゼントを獲得できるのは、利用者のモチベーションに繋がりそうですね。

そうなんです。例えば喫茶店でモーニングを食べる機会が多い岐阜県で、貯まったポイントを喫茶店のモーニングと交換できる「モーニングプロジェクト」を展開したところ大変好評でした。また、ある企業さんで「食事月間」というキャンペーンを行い、食事の記録で毎食10ポイント付与し、貯まったポイントでプレゼントと引き換えるという企画も人気でした。また、日々のライフログや健康課題からAIが判断しておすすめの献立メニューや食材、レシピを提案する機能も、楽しく役立つと、ご利用者さまに好評です。

「AI」×「人」のハイブリッド支援で完了率98%超

『カロママ プラス』では、利用者が何か目標を設定できるのでしょうか。

はい、企業向けに提供しているものでは「ヘルシーダイエット」「メタボ改善」「ほどよく筋肉&引き締め」「生活習慣改善」など11コースから目標を選び、設定できます。AIが、記録されたライフログや健康状態から総合的に判断して、その人に合った「良かったこと」「注意すること」「次にどうしたら良いか」をアドバイスします。

パーソナルAIコーチは、どんなアドバイスをしてくれるのですか。

食事に関して一例をあげると、「1食のカロリーは良いが、ここまでの摂取カロリーが少ないのでもう少し食べても大丈夫ですよ」といったアドバイスや、野菜の摂取が少ない方には「ブロッコリーをかために茹でて冷蔵庫に入れておけば20〜30秒レンジにかけるだけで食べられます。野菜不足解消に役立ててみてくださいね」といった具体的な提案も行います。食事に関するカロママのアドバイスや提案は、すべて管理栄養士が監修をしており、アドバイスのパターンは約2億通りあります。


なるほど、かなり豊富なパターンからそれぞれのライフログに合わせてアドバイスしてくれるということですね。

はい、AIによるアドバイスだけではなく、『カロママ プラス』で取得したデータをもとに管理栄養士や医師などの専門職からのアドバイスが受けられる「オンラインカウンセリング」を企業や健康保険組合向けに展開し、特定保健指導を実施しています。

『カロママ プラス』と『オンラインカウンセリング』はどのように連携しているのですか。

『カロママ プラス』に蓄積されたご利用者さまのライフログとAIが提供したアドバイスを、『オンラインカウンセリング』のシステムに連携することで、指導を行う管理栄養士や医師に引き継ぎます。例えば、AIが野菜の摂取を褒めて、運動不足について注意喚起している対象者の指導をする場合、当社の『オンラインカウンセリング』の指導員の管理栄養士は、面談の最初に「野菜はよく食べていると褒められていますね、でも運動が足りないようですが」と寄り添った言葉かけをできます。そうすると対象者は「自身のことを分かってくれている」と心を開きやすくなり、運動を続けられない理由などを話してくれます。


指導員とAIを組み合わせたハイブリッド指導で、さらに深掘りできるということですね。AIのアドバイスについては、ハルシネーションへの対策なども行っているのですか?

はい、パーソナルAIコーチの精度には徹底的にこだわっており、エビデンスにもとづき正確なアドバイスを行うようにプログラムを組んでいます。具体的には、国内外の約300の論文をベースにしたルールを設定し、そのルールと利用者が記録した食事や運動などのデータを組み合わせてアドバイスの精度を高め、利用者一人ひとりに寄り添ったアプローチを可能にしています。

きちんとした裏付けにもとづいたアドバイスを提示しているのですね。

そのとおりです。『オンラインカウンセリング』でも、指導員には、私たちが整えたエビデンスにもとづくルールを開示し、適切に対象者にアドバイスしていただいています。日々のサポートも手厚く、対象者に、面談で指導員がお伝えしたことをチャットで届ける仕組みも実装しています。

それはきめ細かい対応ですね。

このような取り組みが功を奏して、『カロママ プラス』と『オンラインカウンセリング』を組み合わせたサービスにおいて、対象者のプログラム完了率が98%を超えています。頻度高く指導員と接することでヘルスケアが習慣化していることが、大きな要因だと思います。
使いやすいタイムライン型のUIをさらに進化させたい


ヘルスケア・アプリのデザイン面で、工夫されていることはどんなことですか?

『カロママ プラス』は、幅広い年齢・職種の方々に利用されるアプリです。企業はもちろん自治体でのご利用もあります。そのため、一定の層に絞り込むのではなく、若い人からシニアの方まで誰でも使いやすいようユニバーサルデザインを意識しています。

UIについては具体的にどのようなことに注力していますか。

多くの方が普段使い慣れているUIに近いスタイルにしようと考え、アプリの表示を情報が時系列で表示されるタイムライン型にこだわって設計しています。アプリについては利便性や使いやすさと同時に、反応率をあげる方法なども改善していくために動いているところです。

どのような改善をされているのですか。

まだ研究段階ですが、利用者に健康に向けた行動変容を促すため、どのタイミングでどのようなメッセージを出せば良いかといったことを大学と共同で研究しているところです。

最後に今後の展望についても教えてください。

当社としては、『カロママ プラス』を含め、PHR、つまり健康データをもとにした行動変容を支援するアドバイスの精度をいかに上げていくかということに今後も注力し、生成AIの活用方法をはじめ、さらなる研究、改善を進めていきます。その中で、2025年の春から夏を1つのマイルストーンとして、『カロママ プラス』のリニューアルを計画しています。


なるほど、2025年が大きなターニングポイントになりそうですね。

そうですね、2024年5月に『カロママ プラス』を利用したユースケースが経済産業省の「令和5年度補正PHR社会実装加速化事業(情報連携基盤を介したPHRユースケースの創出に向けた課題・論点整理等調査実証事業)」に採択され、2025年に開催する大阪・関西万博にて、経済産業省エリアでの出展を予定しています。『カロママ プラス』に記録された食事、運動、睡眠、気分などのライフログデータと、他社のアプリに記録された服薬や健診結果といったPHRデータをもとに、パーソナルAIが、来場者一人ひとりに最適な健康アドバイスや、万博会場や周辺エリアで食べられるおすすめの食事を提案します。


大阪・関西万博への出展という好機にタイミングを合わせつつ、『カロママ プラス』をリニューアルしていく予定なので、ぜひWellmiraの今後に注目していただければと思います。
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