季節の風物詩として多くの人に親しまれている「M-1グランプリ」。第20回目となる『M-1グランプリ2024』では過去最多の1万330組が参加し、非常に盛り上がった大会となりました。そんな中、IT企業の漫才部として初めて一回戦を突破したのが、株式会社コンピュータ技研の社員同士で組んだ漫才コンビ「きくばり」です。アマチュアの一回戦通過率は10%以下なのでこの結果は快挙といえるでしょう。
「きくばり」が所属するコンピュータ技研の漫才部には、エンジニアを含む社員たちが在籍し、自社で寄席を開催するなど本気で漫才に取り組んでいます。さらに地域の催事や、製品紹介のイベントでも漫才を披露し、社外にも活動領域を拡大しているとのこと。今回は漫才部で活動している江森 大佑さんと大内 勇人さんに、漫才部が誕生した背景やエンジニアに刺さる漫才ネタについてお話を伺いました。
株式会社コンピュータ技研
大阪、東京、佐賀、沖縄・石垣島、静岡県・伊東にオフィスを構えるIT企業。ソフトウェア開発、インフラ環境構築などの各種システム開発に加え、オープンイノベーションや共創の考えのもと既存システム開発領域に限らない事業展開(ソーシャルビジネスの企画・立案など)を行っている。
また、人事制度においては、会社の理念に対して、社員自身ができる貢献や実現したいキャリアと向き合い、それを会社にプレゼンすることで、会社から投資=給与を引き出す「自己申告型の給与制度=オーナーシップ制度」を導入。
企業公式サイトも「漫才」がコンセプト
漫才部がある企業はかなり珍しいと思いますが、どのような背景で設立されたんですか?
正式に部活動としてスタートする前から、社内イベントで漫才を披露するカルチャーがありました。先輩社員の2人が主に社員旅行で漫才をやることが多かったのですが、毎回盛り上がっているのを見ていた当社の代表が「俺もやりたい!」といくことで早速、他のメンバーと一緒にコンビを組んでやってみたところ、その漫才がとても好評で楽しくて続けているうちに、いつの間にか部活動になっていました。
貴社の代表も漫才をやっているんですね。会社のサイトも印象的で、開いた瞬間に「なあ、、コンビ組んでくれへん?」というキャッチフレーズが目に飛び込んできます。どんな思いが込められているんですか?
「漫才コンビのように顧客と伴走し、課題解決をしたい」という想いで「漫才」をコンセプトにしています。ただ、それだけではなく社内に向けたメッセージも込められています。社員たちは私たちにとって「相方」のような存在なので、一人ひとりの個性を輝かせるため、漫才のネタを書くように対話を続けていきたい。そして、オリジナルのキャリアを一緒に作っていきたいと考えています。
私たちはコミュニケーションを大切にしながら、「漫才」と「キャリア」に本気で向き合っています。もちろん本業のシステム開発のことも知っていただきたいのですが、漫才をコンセプトにしたサイトは予想以上に反響が大きく、興味を持ってくれる人が増えた実感がありますね。
ちなみにサイトの右下にあるボタンはなんですか?
これは「なんでやねんボタン」で、押すと音声が流れます。いくつかツッコミのバリエーションがあるので、ぜひ試していただければと思います。
Webならではの仕掛けで面白いですね。スローガンとして掲げている「世界に『0』をONする会社」には、どんな意味が込められているんですか?
お客様に10倍の価値を提供して「0」をONする、お客様が自身の価値に気づいていないこともあるので、コンビになって新たな「0」をプラスしたいなど、いろいろな意味が込められています。大きな価値を提供するためには、まず私たちの個性を活かす必要がある。その個性というのも、目に見えないのである意味「0」だと思います。
いろいろな意味が込められているんですね。社内には漫才が好きな人は多いんですか?
お笑いを好きな人は多いですが、笑いのレベルが高いかと言われるとそんなことはないと思います(笑)。入社希望の学生さんからも「入ったら全員漫才をやらないといけないんですか?」という質問を受けることもありますが、決してお笑いが好きなメンバーだけではありません。漫才部にもあくまでやりたい人が所属するという感じですね。
漫才を本気で楽しみながら、新規の開発案件も獲得
漫才部はどんなところで漫才を披露しているんですか?
M-1グランプリへの挑戦はもちろん、自社イベント、地域のお祭、企業の社内行事での寄席の開催など、枠にとらわれずさまざまなかたちで活動しています。
製品を紹介するための漫才もやったことがあるのですが、塗料の剥離(はくり)剤だったので商品説明がかなり難しくて…。それこそM-1のCM中に流れる商品PRの漫才のように作ったのですが、もっと笑いの要素を増やしたかったなと少し反省しています(苦笑)。
寄席は定期的に開催しているんですか?
はい、明確に時期を決めているわけではありませんが、「そろそろやろうか」という感じで準備をして、いろいろな業界の関係者や取引先をご招待しながら開催しています。場所は大阪オフィスで行うことが多いですね。イベントを実施できる広めのスペースがあるので、その場所を活用しています。
漫才について取引先からの反応はどうですか。
ビジネスのために寄席を開催しているわけではないのですが、そこから新たな仕事に繋がることもありますね。よくあるのは、既存のお客様と一緒に来られた方をご紹介いただくケースです。漫才が終わった後に「ちょうどITで困ってたので、ちょっと仕事をお願いしてもいいですか」とご依頼いただくことも。既存のお客様との関係性も良好になるので、自分たちも漫才を楽しみつつ良いペースで続けられていると思います。
採用イベントなどで漫才を披露することもあるんですか?
はい、当社やIT業界について知ってもらえるように、SIerでの仕事の進め方や、あるあるをネタにしています。SNSでも、エンジニア同士で組んでいるコンビ「キーパーチャージ」が漫才の動画を披露していたこともありました。
どんなネタなのか教えてもらえますか?
面接の練習をするようなネタですね。少しブラックな内容も含んでいますが、SEの働き方は一昔前のハードな働き方ではない。今はワークライフバランスを実現していることを知っていただければと思います。
今村さん:SEって文系と理系の割合はどれくらいですか?
松原さん:良い質問ですね、これよくある質問第1位ですよ。
今村さん:ほんとですか、じゃあ2位から10位まで当てたら帰れますね。
松原さん:いやどこのテレビ番組だよ。あと早く帰りたがるのも失礼だからね。大体文系と理系、半々くらいっていう風に言われてますね。
今村さん:へぇ、それは意外でした。
松原さん:確かに理系のイメージが強い仕事ですからね。
今村さん:はい!そもそもSEってなんですか?
松原さん:そんなことも知らずに応募してきたの?逆にSEのこと何だと思ってるのよ。
今村さん:SEですよね、Sが終電まで、Eがエンドレス残業。あ、だからSEは終電までエンドレス残業の略ですね!
松原さん:知ってるな!しかも昔のSEの働き方知ってるじゃねえかよ。
今村さん:昔?
松原さん:そうそう、今は働き方改革が進んで残業時間も少なくなったんだよ。
今村さん:誰が働く機械ですか!!
松原さん:いや、言ってないよ!? 俺が言ってるのは働き方改革ね。ワークライフバランスの話。
当社はもちろん、最近のSEは残業も少ないので安心していただければと思います。また、エンジニアの中にはハードワークしながら成長していきたい方もいるので、そのような働き方も応援しています。
漫才を披露したときの学生たちの反応はどんな感じでしたか?
とても温かい反応ですね。「コンピュータ技研って面白そうな会社」と思ってくれる方も多く、そのまま選考に進まれる方もいますね。興味を持ってもらえるのはもちろんですが、「この社風は自分に合わないかも」というスクリーニングにもなっている思います。ホームページでもわかりやすく企業のカラーを打ち出していることが、ミスマッチを防ぐことにも繋がっていると感じています。
漫才部メンバーの意見も活かしてM-1に挑戦
漫才の練習は、普段どのように行っているんですか?
漫才部全体で集まって練習するのは毎月1〜2回で、それ以外は個々のコンビで仕事終わりなどにネタを作ったり漫才を合わせたりしています。コロナ禍はリモートでの漫才にも挑戦してみましたが、ボケやツッコミの間が微妙にずれるのでなかなか難しいですね。
たしかにタイムラグが微妙にあるので、リモートでの漫才は厳しそうですね。毎年、M-1に向けての準備はいつ頃から始めるんですか?
ネタの準備を半年ほど前から始めて、できたら漫才部内で披露して感想をもらいながらブラッシュアップしていきます。仕事と全く関係ないので気分はリフレッシュするんですけど、今年も本番に向けての緊張感は常にありましたね。
江森さんが代表の松井さんと組んでいる漫才コンビ「きくばり」が、『M-1グランプリ2024』で1回戦を突破しましたが、ここまでの道のりは大変だったそうですね。
そうですね、2019年から毎年挑戦して漫才部から5組以上のコンビが挑戦してきたものの、毎年1回戦敗退という悔しい思いをしてきました。
特に今回の『M-1グランプリ2024』では、エントリー数が過去最多の1万330組だったと聞いています。そうなると1回戦を突破するだけでも大変ですよね。
1回戦の通過率は20%前後で、アマチュアに限ると10%を切ることもあります。毎年全体のレベルも上がっていますし、プロも多数参加しているので非常に厳しい戦いですね。ただ、嬉しいことに『M-1グランプリ2024』1回戦のときは、かなりお客さんに笑ってもらえたので、手応えがありました。
「きくばり」の1回戦通過を知ったときには、社内でもかなり盛り上がっていましたね。
M-1ではどんなネタを披露したんですか?
IT業界とは全く関係ないネタで、「昔の純喫茶って良かったよね」というくだりから、松井がどんどんボケていくような流れです。本番の数か月前に漫才部のメンバーに見せたもののあまりウケなかったので、いろいろ内容を変えていきました。部員からの正直な感想や意見を取り入れつつ、日々の練習や寄席で漫才を磨いてきた成果が実ったと感じています。
江森さんはツッコミを主に担当していますが、相手が「社長」の松井さんということで少し遠慮することもあるんですか?
言葉遣いは全く気にしていなくて、「お前いい加減にせえよ!」とツッコム場面もあります(苦笑)。でもさすがに頭を叩いたりする「ドツキ漫才」はできないですね。大阪なので「ドツキ漫才」も選択肢としてあるんですけど、それよりも自分たちに合った掛け合いの方がお客さんの反応も良いと思います。
その後の2回戦はどうでしたか?
全体のレベルが一気に上がって、残念ながら2回戦を通過することができませんでした。まわりはほとんどプロなので、基本的な声の大きさ、わかりやすい動作、間の取り方などが全く違いましたね。悔しさもありましたが学びは多かったので、他の部員と切磋琢磨しながら次は2回戦も突破したいと思っています。
漫才に取り組むことでエンジニアとしても成長
漫才とエンジニアの仕事で、何か共通することなどありますか?
「コミュニケーションが大切」というのは両者に共通していると思います。例えば、漫才のネタで「これは新しい」「きっとウケるだろう」と思って漫才をやってみても、意外とウケないことが多い。お客さんのニーズを掘り下げて考えながら、内容をブラッシュアップしていく過程は、漫才もシステム開発も同じだと感じています。
当社でも複雑な要件定義が求められる場面が増えているので、漫才にも通じるコミュニケーションの重要性を再認識しています。
漫才に取り組むことが、エンジニアとしての成長に繋がることもあるんですか?
はい、漫才を始めて一気に成長したメンバーもいますね。先ほど紹介したSE同士のコンビ「キーパーチャージ」なんですけど、入社当時は2人とも本当に目立たない存在というか、前に出るのが得意じゃないタイプでした。しかし、漫才をやるようになってから、みんなの前ではっきり意見が言えるようになり、周囲とのコミュニケーションもスムーズに取れるようになりました。
漫才に取り組むことで、自分に自信がついたということですか?
そうですね、人前に出るハードルが下がったのではないかと。エンジニアは内にこもることなく、いろいろな人と積極的にコミュニケーションを取ることが大切なので、漫才が仕事にも活かされている良いモデルケースになっていると思います。
2024年からは、お笑い芸人をエンジニアとして採用する「お笑い芸人採用」も始められたそうですね。
はい、社会に「0」をONできることを何なのか考えたときに、「お笑い芸人の夢を追う人と、そのキャリアを応援したい」という思いが湧き上がってきました。というのも、「お笑い芸人としての1ヶ月の収入は1万円以下のケースが85%を超える」という調査結果もあるからです。
自分の好きなお笑いの世界で充実している一方、経済的に苦しいことも多いということですね。
それに、お笑い芸人としてブレイクする割合は全体の0.1〜3%、お笑い芸人として一生食べていける確率は8,000分の1という試算もあります。そのような状況下においては、夢に区切りをつけるタイミングが遅れることで、キャリアの選択肢が狭まってしまい、結果としてアルバイト生活が一生続くことも想像できます。芸人としての“今”の夢を全力で応援しながら、その後のキャリアについても不安がなくなるように新たな活躍の場を提供していきたいと考えています。
最後に、今後の目標や展望について教えてください。
個人的に思っているのは、若手でお笑いが好きな社員が漫才部に入って、どんどんM-1に挑戦してほしいなと。私たちのように1回戦を突破するコンビが増えていけば、会社に新たな活力をもたらすことにもなるので、コンピュータ技研や漫才部の魅力をもっと広く発信していきたいと思っています。
採用関連のことでいうと、エンジニアだけではなく「お笑い芸人」の皆さんにもぜひジョインしていただければと思います。本気でお笑いと仕事に取り組むメンバーが増えていけば、私たちのさらなる成長にも繋がっていきます。芸人の皆さんのセカンドキャリアだけではなく、“今”の夢をこれからも応援していきたいですね。
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