「めもらば」代表・きらぷか氏に聞く「個人開発とフリーランスエンジニア」のバランス感覚
「積読ハウマッチ」を筆頭に多くのサービスを展開し、並行して受託開発なども行っている合同会社めもらば。
個人開発と受託開発を両立する「めもらば」で開発を担当するのは、「フリーランス」のエンジニアであるきらぷかさんです。 フリーランス……とても自由に見えて魅力的に思える反面、実際に活動していくには不安定さもあり苦労が絶えない面も。
大手SI企業からフリーランスへ転向したきらぷかさんですが、その背景には何があったのでしょうか。 フリーランスとして働く上での苦労や、個人開発に対する考えなどを伺いました。
「自分で手を動かしたい」思いからフリーランスへ
まずはきらぷかさんのキャリアから教えてください。 10年くらい前から大手SI企業で開発のお仕事をされていたんですよね。
そうですね。新卒でSIerの企業に入り、社内ツールを開発する部署にいました。 社内の様々なプロジェクトを見ながら「どういうツールがあれば開発が楽になるのか」を考える仕事に取り組んでいました。
入社したばかりの頃は「企画されているツールの開発」だったのですが、年次を重ねるにつれプロジェクトのマネジメントを行う機会が増えました。 もともと開発をするのが好きだったので、自分で手を動かす機会が少なくなってきたことから、転職を考え始めたんです。
その前に、技術の動向のキャッチアップをして市場価値を高めてから転職したいと思い、フリーランスになりました。
なるほど、一度フリーランスになって市場価値を高めようと考えられたんですね。
フリーランスをやってみると結構お客さんもついてくれて、フリーランスとしての楽しさも見えてきました。 なので、現在もどこかの企業に転職はせずにフリーランスを続けています。
腰掛けのはずが、そのままフリーランスになったというパターンなんですね! フリーランスの初期の案件は、どのような経緯で決まるのでしょうか?やっぱりツテを頼ったり…?
実はそういうツテとかがなく独立してですね(笑)。 クラウドソーシングのサイトに登録して、そこで募集している案件に応募していました。
クラウドソーシングのサイトの案件は単価の低いものが多い印象があります。
おっしゃる通り、単価はまちまちなのが実際のところかなと思います。
募集する側は、ソフトウェア開発に慣れている人ばかりではありません。 なので、「実情は分からないけれど、安くできたら嬉しいな」という感覚で普通に開発会社に払うよりも低い単価になっているのかもしれませんね。
その中で生計を立てていくためにはどのような工夫をしたのでしょうか。
中には単価が良いケースもありますが、今のところはまだ多くないイメージです。 私の場合は、最初はクラウドソーシングのサイトで実績を積み、並行して個人開発プロダクトを出していくことで、現在ではクラウドソーシングサイトのプロフィールや公式サイトを見て声をかけていただくことが多い状態です。
案件に応募して実績を積み高い評価を受けると、サイト上で優良な業者だと認定されるんです。 ここで実績と評価を高めることで、知名度や信頼感が高まり、結果として新しいクライアントからお声掛けいただけるようになりました。 今は営業などもしていないんですが、十分な数の案件をいただけている状況ですね。
なるほど。サイト上の仕事へ応募していた時期の案件と、現在受けられている案件を比べると、やっぱり性質や規模感は少し変わっているんでしょうか。
より単価は高くなってきていますし、継続的な案件も増えてきています。 ただ、公開で募集されている案件には「様子見」のものもあり、受けてしっかり仕事をすることで大きな案件に繋がることもあります。
現場での開発経験後に現場から離れてマネジメントを行い、現在では再び自ら手を動かすところに戻られていますよね。 そのブランクを経ての再開はスムーズでしたか?それとも苦労しましたか?
製品開発のマネジメントをしていたので完全に離れていたわけではないんですが、自分で手を動かしていなかったので不安はありました。 なので、会社に居た頃から業務外で個人でコードを書いて開発をしていましたね。
個人でコードを書いてリリース・運用するなかでのインプットは開発の際のハマりどころを察知するなどマネジメントにも役立てられたので、個人開発はやって良かったですね。
ちなみに当時作られていたものは、めもらばさんのポートフォリオのAndroid用アプリなどでしょうか。
現在は公開していないものもありますが、このあたりのAndroidアプリやゲームを作っていました。 そのため、フリーランスとしての初期の案件もAndroidアプリが多かったですね。
働きながら個人開発にも取り組まれていたのは、独立を見越しての実績作りのためだったんでしょうか。 それとも自分の腕をサビつかせない目的だったのでしょうか。
どちらかと言えば後者ですね。 開発力を取り戻したいのと、新しい技術を触ってみたい、というモチベーションがメインでした。 個人開発をやっていたからこそ、独立してすぐに案件を受けられたと思います。
個人開発のアイデアは「めんどくさい」の解消
1番は皆さんと同じでお金ですね〜(笑)。収入源を増やしたいなっていう思いです。 ただ、その中でも自分がユーザーになれるものを作っていますね。 最近つくった「ウマ育ノート」も自分が『ウマ娘』をプレイしていて「こういうツールがあったら良いな」と思って作りました。
基本的には自分が課題に思ったものを作り、反響が大きかったものを育てる感じですね。 あとは、触ったことがない技術やライブラリをいきなり案件で使うのは怖いので、個人開発で使ってみて経験を積む意味合いもあります。
以前はWebの案件はあまり受けていなかったのですが、Webアプリの個人開発を通してNuxt.jsなどが使えるようになったことで今ではWebの案件も受けています。 技術の学習と自分の課題の解決を兼ねたものを作り、そちらでもお金ももらえたら嬉しい、という感覚ですね。
もし個人開発だけで暮らしていけるなら暮らしていきたいのでしょうか。 それともあくまで副収入という立ち位置は変わらないんでしょうか。
本収入になるのであれば本収入にしたいですね(笑)。 個人開発のプロダクトに専念できる状態になれば、そちらに集中してみたいですね。
今はNuxt.jsで案件も受けているとのことでしたが、始まりは個人開発で作るところからだったんですね。
僕のスタイルとして請け負いでやることが多く、そのときにサーバーもWebフロントもアプリも、色んな事がフルでできる方が安心していただけるんです。 その能力を広げようと個人開発の時間を使っていたら、ちゃんと本業の方にも活きてきました。
クロスプラットフォームでアプリを書けるFlutterにも意欲を示されていましたもんね。
個人開発でも両OSでアプリを出したいのと、アプリの案件でも両OS対応して欲しいと言われることが多いんです。 両方ともネイティブで開発だとコストがかかるのでお客さんの予算と合わないケースも多く、なんとかできないかなと思っていて。
フリーランスとして広い領域でできるのは大事なんですね。
「ウマ育ノート」で気になったんですが、更新の頻度が早く、素材の数もすごく多いじゃないですか。 そのモチベーションはどうやって保たれているんでしょうか。
今は作りたてですし、やっぱり反響があったり、使ってくださる人が多いっていうのが一番のモチベーションですね。 「積読ハウマッチ」も応援してくれる方・シェアしてくれる方がいるので、収入になるわけではなくても改善を続けています。
個人開発では、テストなどもかなりしっかりやって完璧に仕上げてから出すものでしょうか。
個人開発だと、テストはしているのですが、バグがあったときの影響の大きさによって、テストの実施度合いに色をつけているような感じで、リスクベースドテストという考え方を取り入れています。
もちろん、決済が絡む部分やデータ汚染がされそうなところなど、致命的になりうるものはしっかりテストしています。 表示が崩れるくらいなら何とでもなるのですが、致命的なリスクは担保してから出しますね。
守るべきところは守ってって感じなんですね。
ちなみにお仕事の案件と個人開発での時間配分はどのようにされていらっしゃいますか。 新しい技術へのキャッチアップや個人開発は、本業にも活きてくる投資の面もあるとは思いますが。
メインはもちろん受けている案件で、空き時間に個人開発をしています。 案件の状況は、案件が多くてほぼほぼフルで働かないといけない時もあれば、逆に案件が少ない時期もあり、そうなると個人開発の時間が多めになる感じですね。
個人開発は細かい空き時間や余裕があるタイミングで一気に進めます。 会社員の時にも仕事をして帰宅後や土日に少しずつ開発し、連休でガッツリやる感じだったので、当時からあまり変わりませんね。
余談ですが推しのウマ娘はどのキャラクターでしょうか。
すごく難しい質問ですね。 以前はトウカイテイオーが好きでガチャも引いたんですが、今はストーリーを読んだらすごく良かったのでナイスネイチャですね。
最近のサービスはゲーム関連も多いように見えるのですが、ゲームに関するサービスはモチベーションに繋がるんでしょうか。
情報整理したり痒い所に手が届くツール系のサービスで、ちょっとめんどくさいなというのを解消するのが好きなんです。 ゲームをやっていて感じる「こういう情報を一気に見れたらいいのに」とか「こういうフィルタができたらいいのに」みたい気持ちが元ネタになっていますね。
バランス感覚を支えるリスク管理と家族の存在
きらぷかさんはこれまで10年ほど開発のお仕事をされており、現在はフリーランスなわけですが、今後どういう風なキャリアを考えられているのでしょうか。
個人開発者としてはやはり個人開発で売り上げが立つものを作りたいですね。
フリーランスとしては、ソフトウェアの開発を発注する前段階、要件定義や発注先探しなどから困っているような方のサポートも行いたいですね。 どう発注したらいいのか分からない、どう作ったらいいか分からない、予算は最初だから全然出せない、など困っている方がかなり多いと感じるんです。
開発だけではなく、コンサルのような役割も考えられているんですね。 SIer企業で上流工程やマネジメントを経験されていたり、今も要件定義から開発まで、開発もサーバーサイドからフロントエンドまでカバー範囲が広いからこそ、向いているように感じますね。
企業勤めから独立してフリーランスとして活動するメリットや楽しさ、デメリットや苦労することも両面あるかと思います。 それぞれきらぷかさんはどのように感じられますか。
独立してよかったのは、やっぱり色々なお客さん・案件に関われることですね。 企業勤めだと1つの案件やプロダクトに深く関わるので、設計の見直しなどのチャレンジはしにくいですし、視野も広がりにくいと思います。 もちろん、突き詰めていくことでその言語や領域の深堀りはできるので、どちらが良いかは難しいですが。
フリーランスで色々な案件に関わることで「こういう案件だとこういう点が重要」みたいな経験で視野が広くなっていきますし、設計を思考できる回数が案件数に比例して増えていくので、設計面はかなり力をつけられると感じています。 ここは楽しくもあり実力にもつながるところで、今後のキャリアにつながるポイントになるなのかなと思います。
デメリットとしては、個人でやることが多いのでチーム作業の経験は少なくなることですね。 また、自分より技術面でスキルが上の人がいないので、技術的なところで後ろ支えがいないっていうのも、精神的には厳しいところかなと。
企業勤めだと深堀りしていけるし、困った時には助けてもらえる。 ただ、関係者が多く一存で希望どおりに進めるのが難しいので、やりたいことができるかというと難しく、担当を持つため、別のことにチャレンジしにくいので視野が広がりにくい。
フリーランスだとその逆で、案件も自由に選べるといえば選べるし、色々な案件を通して視野が広がるし様々なチャレンジができる。 けれども、同じ組織の相談相手がいないので自分で何とかしないといけないプレッシャーが大きい。
そうしたメリットデメリットを踏まえて、フリーランスとしての活動と個人開発をやるという判断はどう思いますか。
個人的には向いてるかなと思います。 色々なお客さんと話したり、業務を深く知ったり、様々なパターンを考えてみたりというのが好きなので、常に新鮮な気持ちでいられて常に勉強しなきゃと思わせてくれる今の環境は好きですね。
それに早起きしなくて良いですし(笑)。 自分でスケジュールをコントロールできる面はすごく働きやすいかなと思います。
関係者が少なく希望どおりに進められるので、時間の使い方が自由という点は魅力的ですが、甘えてしまうリスクもあると思います。 きらぷかさんの場合はご家族もいらっしゃるなかで、そのあたりのメリハリはどのように工夫されているのでしょうか。
家族がいるからだらけれないっていうのはあります。 生活費と養育費と考えて、この辺まではしっかりという最低ラインが引かれるので、それが一番のプレッシャーになります。 1人だったらもっと酷いと思いますよ(笑)。
自分以上に技術ができる人っていうのが周りにいない状況ですが、それってプレッシャーやそれがネガティブになることってあるんでしょうか。
難しいですけど、プレッシャーの一方で自分が頑張るモチベーションの1つでもあります。 不安がないというと嘘になりますが、ある程度プレッシャーがある状況だとモチベーションが上がるタイプなのでそのおかげで頑張れていますね。
ただ、むちゃくちゃ難しい案件は受けないようにしています。 案件を受ける前に「どのあたりまで考えていますか、こういう場合は契約変更できますか」と、結構深くまで話を聞くことが多いんです。 自分が本当に対応できるかどうかのレベルまで話し合い、許容リスクのラインより厳しい要件は、考えられるリスクが許容できる範囲になるまで相談させていただいています。
それはすごく大事そうです。ちなみにラインの引き方はどのような形なのでしょうか。
基本的には「技術的な不安が無い」というラインですね。 ただ、中には「どうしても頼みたい」というお客さんもいるので、そういう時は「スキルセットや経験が足りず時間がかかる可能性がある」という話をして受ける形が多いです。
そこは包み隠さず、発注する際のリスクや懸念をお伝えして、判断をお客さんにお任せします。 組み込みなど完全に畑違いのものはやはりお断りしています。
フリーランスのエンジニアからたまに聞くのは、会社勤めが嫌になったから辞めて何か案件をつかみ取らないとと思って探し、外れくじをつかんでしまうケースです。
最初だと、すぐに案件を取らなきゃという気持ちが焦って、無理な見積もりや条件で頑張ってしまいがちですよね。 自分はSIer企業に勤めていたからかもしれませんが、リスクを考えてバッファをとることが多いです。無理はいけません。
そういうバランス感はすごく大事だなと、お話を聞いていて改めて思いました。
無理をして案件を受けてつぶれてしまっても、誰も幸せにならないですからね。
フリーランスに無理は禁物。石橋を叩きながら。
読者には、これからフリーランスになりたい方や今フリーランスで今後の方針を考えている方もいらっしゃるかと思います。 5年前、10年前のきらぷかさんに近い方々に対して、なにかアドバイスをいただけますでしょうか。
やっぱり「無理はしないで」と。 僕も最初のころ結構無理をして辛かったり、怒鳴って来るような怖いお客さんから受注しちゃったりしたこともありました。 焦りすぎずに、ゆとりをもって仕事をしてほしいです。
今のようにうまく回り始めた要因は何だったのでしょうか。
「運がよかった」が一番かなと思っています。 ただ、会社員の間に個人開発をしてキャッチアップをしつつ、独立後に小さい案件で実績を積んでより大きな案件につなげていく、という流れは結構良かったなと思います。
会社を辞めるのもいきなりじゃなくて、事前にどれくらいの単価でどういう案件が募集されているかを調べてから辞めるとか。 事前にある程度は辞めても大丈夫かは確認していました。
会社員時代から、フリーランスでやっていくための準備をしていたんですね。
paizaのスキルチェックなど、自分の技術力を客観的にも確認していました。 Aくらいまで行けて年収1000万レベルと評価されたので、それなら大丈夫かなと安心できたり。
しっかりと準備をする大切さを感じます。 フリーランスを目指す方にとって参考になるお話でした。 ありがとうございました!
ライター
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