「イマを変えたい」女性にテクノロジーで伴走する。3万人に選ばれたSHEが「自己効力感」を大事にするワケ。
女性のためのライフコーチングカンパニーとして注目を集めている「SHE株式会社」。
累計3万人以上の女性が受講してきた、スキルレッスンやコーチングサービスを提供する「SHElikes」をはじめ、トータル美容プロデュースをするコミュニティ「SHEbeauty」やお金の知識の獲得を目指す「SHEmoney」などの新サービスの展開も予定されています。
SHEの強みは、#SHE活 でつながる受講生同士の学習を支えるコミュニティ。
2021年の2月には総額4.4億円の資金調達も実施しており、テクノロジーへの投資も増加するとのことです。
これまでのSHEのコミュニティを支え、今後もコミュニティの熱狂を科学し再現性高く展開するためのテクノロジーとは?
SHE株式会社CTO村下さん・PdM焼山さんに、SHEのサービス・コミュニティを支えるテクノロジーについてお聞きしました!
SHEは女性の人生をサポートする「ライフコーチングカンパニー」
SHEで展開されているサービスについて詳しく教えてください。
まず、SHEのサービスは一貫して、女性の人生に伴走し、自分らしい生き方の実現をしてもらうことを目的としています。 その元で、現在はキャリア領域で女性のためのクリエイティブスクール「SHElikes」を運営しています。 美容領域の「SHEbeauty」、金融領域の「SHEmoney」が現在展開のための準備中です。
スクールってSHElikes以外にもたくさんありますよね。 SHElikesならではの部分ってどんなところなんですか?
まずは女性限定かつコミュニティに重きをおいているということが挙げられます。 コミュニティへの帰属は、受講生のはみなさんが価値を感じてくれている部分だと思います。
次に、SHElikesは必ずしも転職や副業の獲得を受講生のゴールにおいていないところです。 もちろん受講生の中には、最初から転職や副業の獲得、フリーランスとしての独立を目的とする方もいらっしゃいますが。
だとすると、受講生の人たちは何を目的にSHElikesを受講されているんですか…?
「何か頑張って変わりたい」という抽象的な目的の方が多いです。 SHElikesでは、アウトプットを出すことで自信がついて、それを元にまた挑戦するというサイクルを回していき、結果として変わっていくというサイクルがあります。 コミュニティはこれを補助して一緒に伴走するためにあります。
てっきり転職や副業の獲得を目指している人がほとんどだと思っていたので意外でした。
SHEでも最初はキャリアチェンジを志向する受講生の方が大多数だろうと思っていたんですが、ユーザーヒアリングやサービスを運営していく中で得られた肌感からちょっと違うということがわかってきたんです。
どういったセグメントの受講生が多いんですか?
受講生の90%以上が1981年以降に生まれたミレニアル世代の女性です。 この年代は、社会人として数年働いてみて、仕事との向き合い方について再考する機会が増えます。 また、自分や自分の周りで妊娠・出産などのライフイベントも多くなるために、自分の人生についても考える機会が増え、SHElikesを受講される方が多いのかなと思っています。
利用者の「自己効力感」向上を支えるテクノロジー
テクノロジーの面から受講生を支えるために取り組んでいることはあるのでしょうか? スクール型のサービスだと、どうしても人が担う役割が大きい印象があります。
コーチングやコミュニティはもちろん人同士のやりとりですが、それをテクノロジーで支えることはできると考えています。 転職やキャリアチェンジをゴールに置く一般的なキャリアスクールでは、転職サポートができるキャリアカウンセラーに投資することが最も効率の良い投資になりがちです。 しかし、ゴールが「なりたい自分」であれば、テクノロジーが果たすべき領域は大きいのではないかと思っています。
そもそも、「なりたい自分」になるためには、自信をつける必要があります。 SHEではこの自信のことを自己効力感(エフィカシー)と呼んでいます。 そして自己効力感を向上させるためには、受講生自身がコーチングやコミュニティと相互作用し、アクションしていく必要があります。
そのアクションを「行動」「発見」「暗示」「実感」の4つにカテゴリ分けし、ここにフォーカスした受講生へのシステム・テクノロジー面からの支援を行っています。
SHE独自の分類があるんですね。
具体的なシステム・テクノロジーについては、この4つのカテゴリごとに説明いたします。 まずは、「行動」です。
ユーザーの「行動」を促す
「行動」はSHElikes上での学習だったり、コーチングやイベントへの参加を指しています。 行動しなければ自己効力感は向上しえないです。
たしかに行動が起点ですね。
SHElikesでの「行動」を促す仕組みとして検討しているものが、ゲーミフィケーションです。 周りの受講生とつながって行動や学習の進捗が見れるなど、競って楽しめるようなUIやUXにすることで、自身の学習もゲームのように楽しめるようにできればいいなと考えています。
ゲームの要素を入れることで「行動」をしやすくするんですね。
新しい自分を「発見」する
次の「発見」とはどういうことでしょう?
「発見」は気付きを得ることを指します。 SHElikesで多いのは、自分自身の価値観や自身の学習の進め方についての発見ですね。 この発見を通しても自己効力感は向上します。
例えば、自身の目指すべきロールモデルを発見できると自身の目指すべきものが見えてきて前向きになれますよね。 他にも、自分と同じ立場で時間も厳しいはずなのに頑張っている人を見つけることも、モチベーションの向上に繋がります。
目指すモデルや切磋琢磨している同志を発見できるとモチベーションの向上につながるのはよくわかります。 発見のためにどんなシステムやテクノロジーが活用されているのでしょうか?
発見の仕組みとしてまず挙げられるのがコーチングです。 コーチングは対話の密度が高く、かつ定期的にあるものなので、果たす役割は非常に大きいです。 コーチングもテクノロジーで改善できることがたくさんあります。
まずはコーチと受講生のマッチングです。 SHEのコーチのサポートのスタイルって、実は結構多様なんです。 本当に話を聞いて抽象的なアドバイスだけする、という人もいる一方、具体的な提案をバシバシしていく方もいらっしゃたり。 コーチの方の個性を保ちつつ、受講生とのタイプに応じて最適なマッチングをしていくことがすごく重要です。
自分に合わないタイプだと結構きつそうですもんね…。
今はまだ手動の部分も多いのですが、受講生とコーチのデータを元に自動でマッチングするシステムを構築しています。 どのコーチがアサインされ、どのくらいの満足度だったかという直接的なデータから、学習の進捗やスピードといった受講生個人のデータまでを使った、マッチングの最適化を目指しています。
累計の受講生数はもうすぐ3万人を超えるところまできており、現在の受講生も2500人を超えてきています。 自動で精度高くマッチングできるシステムは必須ですので、開発を急いでいます。
データ活用の基盤は整っている、という状況なんですね。 マッチングの他にもコーチングで工夫されていることはあるんですか?
いかにコーチングの時間を濃いものにするか、という部分でもテクノロジーができることがあります。 受講生の日々の学習状況や入会当初のモチベーションなどの情報にコーチがアクセスできるようにしたいと思っています。
そうすると、コーチングの際にシステム側から最適なコーチングを示唆したり、どの講座を取るべきかリコメンドをしたり、といったアシストができるようになります。
コーチングの内容もさることながら、相手を探るコミュニケーションが減ることでコーチの負担も減りそうですね。
もうひとつ「発見」のための場としてコミュニティがあります。 SHElikes内のSNSからSlackグループまであるのですが、コミュニティテックの詳細は後ほど説明させてください。 コミュニティでは、受講生同士のカジュアルなつながりからいろいろな「発見」をしていただいています。
同じような状況で悩んでいる人とやりとりできるのは、たしかに良い気づきがえられそうですね。
他にテクノロジーでできることとして、学習スケジュールの提案があります。 学習に関するデータは既に大量にあるので、そこから学習ペースや講座の選択に関する統計的な提案ができ、それが受講生の現在地の把握につながると考えています。
統計情報を見ることによって、自分の現在地や次の指針がわかるのは非常にありがたいですね。
自身の成功を「暗示」する
次は「暗示」ですか…ちょっと怪しいですね(笑)
「暗示」ってようは自分ができるイメージっていうのをすごく強烈にインプットするみたいなことで考えていて。
手段としてはここでもコーチングで、コーチングを通じて自分の納得のいく、信じられる目標を設定してもらうのが大事だと思っています。 テクノロジーを活用し、ジャーナリングとそれに基づく自動でのエンパワーメントができないかと思っています。
ジャーナリング、詳しく教えてください。
最近だと、日々の気分や課題を自由に書いてもらって、ウィークリーでそのインサイトが届くmuuteというAIジャーナリングアプリが流行っています。 このような機能を学習文脈に転用することで、学び続けるモチベーションを高めてあげられないかと考えています。
例えば、始めてしばらくは調子がよかったものの、最近ちょっと学習ペースやイベントへの参加が落ち込んでいる方がいるとします。 そんなときに、「大丈夫、みんなこの時期は落ち込むものですよ」だったり、「来週から頑張りましょう」といったメッセージを送るとか。
あとはエビデンスに基づくサポートです。 「落ち込んだときはこういう風に解決するといいですよ」など、そういうアシストをシステムで行うことで、学びのモチベーションを高めてあげられるのかもしれないと思ってます。
でも人間でなく機械から共感を含むメッセージがきたら、中には反感を覚える人もいそうですよね。 「いや機械に何がわかるんだよ!」みたいな。
言い方、表現は重要ですよね。 ただ、近年では人に寄り添った言葉を生成するAIのような、人の機微をくみ取る技術も進展していますし、解決可能な範囲だと思います。
先進的な施策ですし、うまくいくのか非常に気になります。
自分の成果を「実感」してもらう
最後のカテゴリが「実感」ですね。 これは、自分が何かしら設定した課題を達成できる実感、みたいなことですか?
まさにそういうことです。 実際にアウトプットしたときに、自分できたなとか、自分よく頑張ったなって思える体験のことを言っていて。
現在はTAから課題の添削が受けられるシステムになっており、ここで自身の成果が実感できます。 また、添削後の課題は他の受講生も閲覧可能です。 将来的には、課題を終えた際に他の受講生からのフィードバックを受けれるような仕組みを作るつもりです。
デザインなどのクリエイティブって他人からの評価がすごく気になりますもんね。
SHEのコミュニティが目指すのは「女子大」!?
SHElikesのコミュニティの機能について詳しく教えていただけますか?
現在SHElikesの受講生同士がつながる場所は2つあります。 1つがSHElikes内のSNS「SHEコミュニティ」です。
いまのところは投稿と返信、いいねができるようになっています。 ここでは主に、「チェックイン」といって、勉強開始の投稿をしてもらっています。 SHElikesの中にどんな人がいるのかを把握してもらうのが目的です。
もう1つがSlackです。 同期チャンネルを作っていて、同期での交流を深めてもらっています。 カジュアルな投稿も多いですし、コロナ前はオフラインの同期会も開催していました。
運営主導でのコミュニティができているんですね。 これから先、このコミュニティはどんな役割を果たしていくのでしょうか?
コミュニティをもっと活性化することで、SHEを女子大化したいなと思っています。
女子大…!? なんで女子大なんですか…?
コロナの影響でオンラインでの受講がメインになったことで、縦・横・斜めのつながりが醸成しづらくなりました。 また、受講生から一人でやっていて落ち込んでしまうという声が多かったんです。 そこでどのような体験を作っていくかを考えたときに、大学のような体験が良いのではないかという結論になって。
大学って授業以外の場所で友人と話しているなかで自分の価値観が形成されることもあるじゃないですか。 SHEもただ受講するだけの場ではなく、他の受講生と関わりながら学習することで様々な気づきを得られる場所を目指しています。
そういう意味で「女子大」なんですね。 そういうところもこれまでのスクールとは一味違う部分ですね。
現在は検証の段階なのでSlackも使っていますが、Slackで行っていることができるアプリケーションを自社開発し、SHEコミュニティに統合するつもりです。
既にあるものを使わず、自社開発するのはなぜですか…? 車輪の再発明になって、結構コストがかかる気がするのですが。
コミュニティはSHEの中でもコアの体験なので、それであれば、自社で開発したほうが体験のデザインもしやすいし、より没入感を作りやすいと考えたんです。
例えば、新しく入った人同士のマッチングや、問題を抱えている方への提案などの体験は、Botのような機能と相性がよく、適切な体験を作れます。 最適な体験をコミュニティで実現するためには、ユーザーの様々な情報と紐付けて必要なところはシステムで型にはめつつ、受講生自身で自由に活発に投稿していただけるようにできるのは、自社開発ならではだと思います。
没入できる、健全なコミュニティのための自社開発なんですね。
そうですね。 さらに、このコミュニティ機能はこれからリリースするSHEの新サービスとも共通化したいと考えています。 直近だとSHEbeautyやSHEmoneyなどですね。
でも、SHElikesはキャリア領域で、SHEmoneyは金融領域、SHEbeautyは美容領域のサービスですよね。 一見全く違うサービスのコミュニティを共通化する意図はなんでしょうか?
別のサービスですが、全くつながりがないかというとそうではありません。 新しい働き方をする上ではお金の知識は不可欠ですし、キャリアについて考える前に、自分自身の外見やコンプレックスと向き合いたい人もいるはずです。 ライフステージによっても一人一人が求めるものは違います。
受講生には、SHEのサービス全体を循環してもらいたいんです。 コミュニティを共通化もそのための施策で、他のサービスを利用した人がどう変わっていったのかが見えるようになり、他のサービスも利用してもらえるきっかけになればと考えています。
なるほど。 異なるサービスで共通に使えるということは、それぞれが単一のアプリケーション構造では難しいですよね?
そのとおりで、共通化のためにマイクロサービスアーキテクチャを導入しました。 コードベースを分離すると業務に負荷がかかりますし、適切な管理をしないと工数も増えます。
しかし、コミュニティ機能やユーザー基盤は全サービスで共通にし、同時にドメインごとの独自性や体験を作り込む必要があったため、マイクロサービスアーキテクチャの導入を決意しました。
アーキテクチャの変更はかなり大変だと思うのですが、将来を見据えて推進しているんですね…!
SHEが社会で果たす役割と、実現に向けた思い
村下さんはIndeedのエンジニアから思い切ったキャリアチェンジにも見えます。 その理由など教えていただけますか?
前職のIndeedは求人検索の会社で、データに基づく仕事のマッチングを最適化していました。 ただ、Webだけで完結する世界でできることは多くないと感じて。 例えばドライバーの方には、次もタクシーかトラックのドライバーをマッチングするなど、過去の再生産になりがちで。
SHEはオンライン・オフラインの両方でのユーザー間のコミュニケーションや、コーチとの伴走など、人が絡むサービスでそこがすごく重要だと感じていて。 人との関わりを通せば、ドライバーの方がエンジニアを目指して実現できる可能性もあると思い、そのポテンシャルと面白さをSHEに感じているんです。
たしかに大きく変化できる可能性は感じます。
オンライン・オフライン両方で人と多く関わりますし、コミュニティで長く利用していただけるサービスだからこそ、データの取得や活用のしがいもあります。 そこを科学していきたいですね。
SHEは女性向けのサービスですが、開発メンバーの男女比はどうなっているのでしょうか?
特に意図していませんが、男性と女性が半数ずつです。 国籍も人種もバラバラで、多様性のあるチームですね。
SHEのメインのユーザー層は日本のミレニアル世代の女性ですよね。 特に男性メンバー向けにユーザー理解のためのサポートはあるのでしょうか?
特別なものは設けていません。 相手への想像力がある方で、ステレオタイプに気付ける方であれば必要はないと思います。 SHEでは相手へのリスペクトを持ちつつ率直な議論をすることを重視しており、カルチャーフィットは採用の段階からきちんと見ています。
大事なのは相手への想像力やリスペクトなんですね。
ジェンダーに縛られずあるべきなのが社会の風潮だと思いますが、現在SHEが提供しているのは女性に限定したサービスですよね。 この点は難しいお題だと思うのですが、どのように捉えているのでしょうか。
おっしゃるとおり、現在のSHEが提供しているのは女性のみを対象にしたサービスです。 ですが、ジェンダーに縛られない世界観を実現したいと考えていますし、ゆくゆくは男性にも利用できるようにする可能性はあります。
男性にも提供する可能性あるんですね、意外でした。
なので、例えばUIは女性向けのデザインにはしておらず、誰でも使いやすいデザインを意識しています。 ブランドカラーのピンクなどの色は入りますが、妙にかわいくなどはせず、全ての人に受け入れられるプロダクトを目指しています。
ただ日本社会の現状を鑑みたときに、どうしても女性はマイノリティになりがちです。 男性と女性の両方が混じったコミュニティでは、男性優位なステレオタイプが働いて健全な議論ができていないシーンは多いですし、女性同士でしか共感できないところも多くあります。
そういう状況では、女性の自己効力感の向上をサポートし、女性をエンパワーメントすることは重要だと考えていますし、SHEの提供する女性コミュニティが果たす役割は大きいと思っています。
この思想はPMやエンジニアといった開発メンバーにも共有されています。
組織全体に思想が行き渡っているのは素敵ですね。
一方で、SHEの設計やコンテンツがステレオタイプを助長することになってはいけない、という危機感は常に持っています。 例えばSHEが女性のキャリアに対して固定観念を持って提案をしてしまうと、受講生もそこに引きづられてしまいかねません。
だからこそ、SHEとしてどういう風に「女性」を捉えてサポートしていくのかは非常に大きな責任を感じますし、今後もずっと考えながら理想の社会の実現に向けて頑張っていきたいと思います。
女性のエンパワーメントに本気で取り組むSHEの覚悟を感じます…! 村下さん、焼山さん、ありがとうございました!
SHEでは、最高の学習体験を一緒に作っていただける仲間を心待ちにしています。 まずは気軽にランチなどでお話させてください!
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