「ママリ」は一期一会だからこそ温かい!コネヒト株式会社CTOが語る、コミュニティアプリを健全に保つ仕組みと技術
孤独になりがちな子育て中のママを支えるQ&Aコミュニティアプリ「ママリ」。 1ヶ月の投稿は約150万件、お悩みへの回答率は驚異の約95%!
子どもを出産したママの3人に1人(※)は使っているという、育児をしている人なら一度は聞いたことがあるサービスです。
※:「ママリ」で2019年内に出産予定と設定したユーザー数と、厚生労働省発表「人口動態統計」の出生数から算出。
温かいコミュニティとしての評判も高い「ママリ」は、ユーザー数280万人と、急成長を続けています。しかし、コミュニティが大きくなればなるほど、ユーザー間のトラブルやシステム上の課題が出てくるもの。
そこで、「ママリ」の開発・運営を行っているコネヒト株式会社CTOの伊藤さんに、温かいコミュニティ作りの秘訣と、急成長するコミュニティを支える技術について伺いました。
温かいコミュニティをつくる秘訣は「一期一会」
ママリ、私もママとして使わせてもらっています!いつ見ても、たくさんの質問で盛り上がっていますよね。
ありがたいことに、ママリの登録者数は2021年1月時点で約280万人を突破し、2019年に出産した女性の3人に1人が使ってくださっている計算になります。
すっかりママにおなじみのアプリですね! ママリ内では、ユーザーのみなさんがかなり積極的に質問されているようですが、質問を増やすためにどんな工夫をされているんでしょうか?
質問をする心理的なハードルを下げるためにかぶってもOKと明記しています。また、質問の回答欄にも「あたたかい回答を待っています」というメッセージを添えています。
さらに、初めて投稿してくれた質問に関しては、「○○さんは初めての投稿です。やさしくフォローしてあげましょう!」と付け加えるなど、質問しやすい環境を作っています。
初めてでも安心して質問できますね。 約95%という非常に高い回答率を生み出す施策についても教えてください。
回答率を高める施策の1つに「回答リクエスト」があります。たとえば、質問者の方が「自分と近い1歳の子どもを持っているママに聞きたい」とリクエストしますよね。すると、条件に該当するユーザーに「あなたへの質問」として、目立つ形で表示させるんです。
リクエストされると思わず答えたくなりますね! しかし、妊娠や育児に関することになると、それぞれの考え方の違いなどによって意見の対立やいざこざが起きやすいのでは…とも思います。それを解決する仕組みはありますか?
ママリではフォロー機能をつけず、質問者と回答者が常に「一期一会」になるようにして、いざこざが起こりにくい環境を作っています。 フォロー機能があるSNSだと、「誰が発言したか」に意識が向いてしまい、いざこざが常態化しがちです。それを防ぐために、ママリではあえて発言者を意識しづらい仕組みにしているんです。
常にその場限りだから、自分とは違う考えの人がいたり、不快なことがあっても引きずりにくいんですね。 私も実際に使う中で、とてもあたたかい雰囲気を感じているので納得です。
コミュニティの良し悪しの基準は人それぞれですが、ママリはとにかく「あたたかい場」にすることを考えています。 サービス開始当初からママ一人ひとりの経験が大事だと考えていて、フォロワーの数が多い人のほうが正しい意見に見えたり、古参ユーザーの声が大きくなったりということがないようにしています。
新しい人も前からいる人も平等なコミュニティの実現は現実世界でも他のSNSでも難しいものですが、ママリではそれを様々な工夫によって達成されているんですね。 一方で、やはり不適切な発言や人を傷つける発言が出てくるのは避けられないと思うのですが、ガイドラインなどは設けているのでしょうか?
マナーと注意点を公開し、必要に応じて違反する投稿は対応しています。 最初のころは全て人の目でチェックしていましたが、今はこれまでの違反投稿を教師データとして、機械学習で自動で検出しています。 あと、ガイドラインの違反についてはユーザーからも通報があります。 検出されたものが本当に違反しているかどうかだけ、人の目で確認するようにしています。
違反を予防するためのサービスの改善もされているのでしょうか?
はい。 ママリユーザーには妊活中、妊娠中、育児中などいろいろな状況の方がいらっしゃいます。例えば、「妊活中」の投稿が集まるカテゴリに妊娠報告をする方がいた場合に、投稿者に悪気はなくても、それを見て傷ついてしまう妊活中の方がいて「カテゴリ違反」として通報されることがあります。
そこで、投稿文の内容からカテゴリを自動で類推する機能をつけ、「妊活中」のカテゴリに妊娠報告が混ざりにくいようにしました。
細かい部分の工夫がコミュニティの快適さを支えているんですね! 「あたたかい場」を実現する仕組みについてお伺いしてきましたが、いいコミュニティを測るための定量的な指標は設けていますか?
ママリでは、2つの観点から指標を設けてコミュニティの管理を行なっています。 1つはコミュニティの熱量です。 定量的には、回答率や最初の回答が返ってくるまでの時間などを指標としてウォッチし、熱量を測っています。
もう1つは、コミュニティの健全性です。 こちらは、違反報告の数やサービスの利用継続率から判断しています。 利用継続率が下がっている場合は、居心地が悪くなる理由がないか探るようにしています。
検索キーワードはママの悩みを知るための強力なデータ
ママリのユーザーには妊活中から育児中まで様々な方がいます。フェーズによって、人によって、必要とする情報にかなりの差があると思いますが、そのニーズに答えていくためにどんな工夫をされていますか?
「妊活中」「妊娠中」「育児中」などのユーザー情報と閲覧履歴に基づいて、異なる記事がおすすめで表示されるようになっています。 以前はスタッフがおすすめ記事を指定していましたが、現在はレコメンドエンジンを開発し、人によって違う記事を表示しています。 その結果、人の手で選んでいたときよりも、記事のクリック率がアップしました。
記事を選ぶ手間もなくなり、クリック率も上がっていいことづくめですね!ユーザーからも反響はありましたか?
いえ、特にはありません。 ですが、ユーザーが違和感を感じていないというのはいいことだと思っています。
今ってどのサービスでも、当たり前のように機械学習をつかったレコメンドをやっていますが、ユーザーの先回りをしたようなレコメンドがなされることがあるじゃないですか。 この先回り感は、ユーザーに「気持ち悪さ」を抱かせる可能性があります。
確かに「ダイエット」と一度検索しただけで、痩せないとダメだと煽るような広告が表示されたり…。ネット広告から見張られているように感じることがありますね。
みなさん一度は感じたことがあると思います。 「気持ち悪さ」を防ぐためには、アルゴリズムだけでなく、UI/UXも含めてチューニングに時間をかけなければいけません。
ユーザー視点に立っているからこそ「気持ち悪さ」を感じさせないためのチューニングにも力を入れてらっしゃるんですね。 他にも機械学習を活用している部分はありますか?
PUSH通知で送るおすすめコンテンツの選定にも一部、機械学習を用いています。 また、まだ開発中のものだとQ&Aのマッチングにも取り組んでいます。今は新しい投稿から表示されるのが基本なので、質問する人と回答できる人のマッチングにはまだ改善の余地があると考えています。
既に続々と機械学習を使う場が増えてきているんですね。 機械学習を活用することで、将来的にやっていきたい施策などはありますか?
ママであるユーザーの一歩先を見据えたコンテンツのレコメンドができるようにしたいと考えています。 例えば、妊娠中の方が2ヶ月後にどのような準備をするべきか、どのような悩みに直面するのかなど、心の準備ができるようなコンテンツをレコメンドすることで、さらにユーザーに寄り添えると思うんです。
ママリは、妊娠中や育児に関する悩みのデータをたくさん持っていることが強みです。どんな人がどんなワードで検索して、何を読んだかなどの強力なデータアセットをさらに活用していきたいですね。
先輩ママ達からのアドバイスの集大成といった感じですね! 一方で、先ほど伺ったように先回りすることの気持ち悪さもあるのではないかと思います。そのあたりのバランスについてはどう考えていますか?
ポイントとして、パーソナルな部分や気持ちの部分には踏み込まないことが大事だと考えています。そのため、レコメンド機能は購入品のリストや手続きに関することなど、一般的な知識や多くの方に共通する内容に焦点をあてるのがよいのではと考えています。
新機能の追加と守りの開発は同時に行う
ママリはアプリ内でクーポンが取得できるなど質問や回答以外にもたくさんの機能がありますよね。 機能が増えると利便性が増す反面、ユーザーにとってはわかりづらくなるジレンマも生まれると思います。その点についてはどのように対処されていますか?
難しい問題ですが、「とにかく機能を増やせばいい」という考え方はしないようにしています。 機能を追加することで、新しいものを理解する必要が出たり画面操作が変わったりと、ユーザーに新たな手間が生じてしまいます。 そうまでして追加すべき機能かどうか、本当にユーザーの課題を解決できるのどうか、リリースする前にも後にも必ず検証しています。
どのように検証されているのでしょうか?
新しい機能を開発する際は、まずは社内の育児中の方にヒアリングをします。 社員の半分が育児をしているので、気軽に話をきけることは大きなメリットです。
ユーザーに近い存在が社内にたくさんいるのは心強いですね!
社内で議論した後は、アプリを通してユーザーインタビューを行い、さらにリアルな意見を集めるようにしています。
リリース後の検証は、どのようにされているのでしょうか?
各機能の利用状況を計測しています。あまり使われていない機能は廃止し、ユーザーにとって価値のある機能だけがある状態を維持するようにしています。
開発者として思い入れがある中での撤退の判断、潔いですね…! ユーザー視点の他に、開発者視点での難しさはありますか?
新機能を追加すると、システムの複雑性が増します。いわゆる「技術的負債」が溜まる。それが積み重なると、新たな機能追加の障壁になるので、定期的にリファクタリングやフレームワークのアップデートなど、システムのメンテナンス性を上げるような守りの開発をしています。
新機能のリリース直前で追い詰められていると、守りの開発が進まない…という話もよく聞きます。
目の前の仕事に追われていると、つい守りの部分を後回しにしてしまいがちなんですよね。当社では、開発組織の技術戦略として、システムの健全性向上の目標を掲げて、守りの開発も確実に行うことを意識しています。
社員全員が「ママリ」ウォッチャー
ママリは女性向けのコミュニティアプリですが、開発メンバーは女性が多かったりするのでしょうか?
実は、開発を行うエンジニアは全員男性なんです。
それは意外です!男性だけだと、妊娠中の悩みなど、理解が難しい部分はありませんか?
開発はエンジニアだけでなく、プロダクトマネージャー、デザイナーも含めたチームで行っていて、その中には女性もいるので問題なく進められています。 その上で、さらにユーザー理解を深めるために毎日ママリタイムというのを設けています。
ママリタイム!どういったものですか?
毎日14時から10分間、社員全員でママリを使うという取り組みです。各自、そのときに見た内容や気になった投稿など共有するんです。それを社員同士が共感したり議論したりすることで、さらに理解を深めています。
なるほど。みんなで話すことで、サービス開発のアイディアも膨らみそうですね。ママリタイムをきっかけに生まれた機能というものもあるのでしょうか?
はい。1つ事例をあげると、虐待事件の報道をきっかけに、ママリ内でも虐待に関する投稿が増える傾向があることに気付いたんです。 そこで、育児中にストレスを感じた方に向けて何かできないかと考え、「虐待」に関連するワードで検索した方に児童相談所の全国共通ダイヤル(189)を表示するようにしました。
社会課題の解決にもつながる取り組みですね!コミュニティを見守り続けているからこその知見だと感じます。最後に、今後の目標を教えて下さい。
プロダクトの面では、Q&Aのレコメンドの最適化や、ユーザーのフェーズに合わせた記事のレコメンドに取り組みたいです。特にQ&Aは、現在投稿が新着順に表示されているので、質問を知りたい人と回答できる人を適切にマッチングできる仕組みへと改善していきたいと考えています。
また、当社は「Connehito Tech Vision」というテクノロジーにおけるビジョンを掲げています。このビジョンを指針に、テクノロジーやデータの力でもっともっとユーザーの課題を解決していきたいですね。
編集・インタビュー : 矢野 由起
文 : いしめぐ
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