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Googleに真似された!? 日本発のブラウザアプリ「Smooz」に学ぶ、先入観にとらわれない開発
アンドエンジニア編集部
2020.07.16
この記事でわかること
「先入観」で参入しづらそうに見える場所には、チャンスが転がってるかもしれない
ユーザに満足されるジェスチャーの実装には、トライ&エラーや新技術の導入が必要
Googleでもスタートアップのアプリから模倣する

現代社会における必須アプリ、ブラウザ

1日の中で少なくない時間を費やすブラウジングですが、GoogleやAppleといったテックジャイアントが覇権を握るブラウザアプリ市場に挑戦したことのあるエンジニアはそうそういないはず。

そんな未知のブラウザという領域で、2016年にリリースされ、着々とユーザを獲得している高性能モバイルブラウザアプリ「Smooz」をご存知でしょうか?

スワイプによる簡単なタブ移動や、

ジェスチャーによる機能の呼び出し

そして、豊富な機能や検索速度などがウリで、過去にはApp Store Best of 2016も受賞しています。

日本のスタートアップが、資金も人材も段違いの競合に挑み、ユーザを獲得し続けられる理由とは?

「Smooz」の開発者、アスツール加藤さんに、謎に包まれたブラウザ開発について語っていただきました。

加藤雄一【かとう・ゆういち】 アスツール株式会社CEO 新卒でソニーに入社しソニー・エリクソン(現ソニーモバイルコミュニケーションズ)、楽天、Viber Japanを経て2016年アスツール株式会社を創業。「人間の能力を拡張する未来(アス)の道具(ツール)を作る」というビジョンのもと、スマホブラウザ「Smooz」や「在庫速報.com」を開発中。

「ブラウザ開発は難しい」という先入観

アンドエンジニア編集部
ブラウザ開発って、やってる会社もほとんど聞かないですし、技術的な難易度がすごく高そうですよね。
どうやって開発したんですか?
元GoogleでChrome作ってたエンジニアを巻き込めたとか…?
アスツール 加藤さん
実は、Smoozの最初のリリースでは、技術的に特別難しいことは何もしてないんです。
ブラウザには、ブラウザのコア技術であるレンダリングエンジンの部分と、もっと上のレイヤーの、ブラウジング体験の部分があって。
僕たちが作ってるのって、ブラウジング体験の部分で、この部分を作るのは技術的には簡単です。
アンドエンジニア編集部
え!?
流石にそんなことないんじゃ…?
アスツール 加藤さん
だって、ブラウザの表示は、WebViewを呼び出せば一発です。iOSやAndroidのプログラミング入門書に出てくるレベルのものです。
スワイプの検知も、スマホ向けアプリ開発の中では初歩の初歩。
実際に、Smoozの最初のリリースまでは、趣味でコードを書いていただけの私とエンジニアの2人で実装しました。
iOSでのWebView実装例
アンドエンジニア編集部
リリースまでたった2人で進めたんですか!?
アスツール 加藤さん
課題を解決するための実装にフォーカスできたからこそできたことだと思います。
ブラウザ開発と聞いて、”レンダリングエンジンから全部作らなきゃいけない!”と思っちゃう人は、先入観にとらわれてます。
そもそも、レンダリングエンジンを開発するには、超大規模な開発チームが必要ですし、Google、Apple、Firefox等の大手に太刀打ちするのはなかなか難しい領域です。
アンドエンジニア編集部
エンジニアが陥りがちな落とし穴だ…。
アスツール 加藤さん
一から作りたい気持ちもわかるんですけどね(笑)。スタートアップが戦う場所ではないです。

スマホでのブラウジング体験で発生している「諦め」

アンドエンジニア編集部
加藤さんが、スマホのブラウザに感じた課題ってなんだったんですか?
アスツール 加藤さん
「もういいや。」って諦めが発生していたところですね。
アンドエンジニア編集部
諦め…?
アスツール 加藤さん
PCで調べもの、例えば、ある家電を調べたりするときって、タブを何個も開いて、それぞれをつき合わせながら値段とか性能とか比較するじゃないですか。
でもスマホだと、タブの切り替えや新規のタブ開始に必要なアクションが多くて、比較が難しい。
結果として、比較がめんどくさくなっちゃって、一番上に出てきた商品を買う、というように、情報探しの品質にある程度「諦め」を持ってしまっていることに気づいたんです。
PCでの作業中に複数タブを開き作業するライター
アンドエンジニア編集部
言われてみれば、僕も諦めてた記憶があります…。
アスツール 加藤さん
ジョブズが最初にSafariのプレゼンをしてから10年経ってるのに、ブラウザ体験には未だにPCとスマホで大きく差がある。
しかも、提供したいブラウジング体験の実装は、難しくない。
こんな領域は他にないなとチャンスを感じ、プロダクトを作り始めました。

ChromeやSafariが競合にならないワケ

アスツール 加藤さん
しかも、Smoozのスワイプでのタブ切り替え機能やカスタム性の高いジェスチャー機能って、ChromeやSafariでは提供できないんですよね。
アンドエンジニア編集部
そんなことあります…?
GoogleにしてもAppleにしても、資金はあるし、優秀なエンジニアもたくさんいるだろうし…
アスツール 加藤さん
もっと構造的な問題で、彼らはあくまで標準ブラウザを作らなきゃいけないんです。
つまり、ChromeやSafariはママチャリのように、万人受けするブラウザでなければならない。
もしSmoozのコア機能である、スワイプでのタブ切り替えを実装したら、絶対に既存の数億人のユーザからクレームが殺到しますよ(笑)。
アスツール 加藤さん
Smoozは、クロスバイクのように、現状に不満を持つ一部の人に使ってもらえればいいんです。
ビジネスとしても、スマホブラウザのシェアの10%を取れれば大成功ですし。
アンドエンジニア編集部
ChromeやSafariとは棲み分けできてるんですね。

ユーザはエンジニアとゲーマー、そして10代

アンドエンジニア編集部
Smoozのユーザって、どんな人が多いんですか?
やっぱりエンジニアですか?
アスツール 加藤さん
とにかくスマホブラウザをヘビーに使うユーザです。
やっぱり、スマホでブラウザを使う時間が長い人ほど、ブラウジング体験に不満を抱く機会が多いので。
アスツール 加藤さん
ご想像の通り、エンジニアやデザイナーが多いんですけど、ゲーマーも多いんです。
あるスマホゲームでよく使われてるらしく、Smoozのジェスチャー割り当てで周回の効率を上げてるらしいです(笑)。
彼らのおかげか、ジェスチャーは多い日だと全ユーザの合計で、1日に100万回近く使われます。
ゲームの攻略サイトにておすすめされるSmooz グラブル攻略より
アンドエンジニア編集部
周回は1回1分減らせるだけで数時間の節約になりますから、ユーザもこだわるんですね。
アスツール 加藤さん
あとは、意外かもしれないけど10代が多い。
高校生や大学生は、若いので、新しいものに対する抵抗が小さいのと、可処分時間が多いので、スマホを使う時間が長くなるのが理由でしょうね。
教室でSmoozをおすすめされて使い出した人もいるみたいです。
アンドエンジニア編集部
教室でブラウザアプリのバイラルが起きるのか、現代の高校生はすごいな…(笑)。
アスツール 加藤さん
もちろん、若者、特に高校生のSmoozへの課金率は低いです(笑)。
でも、高校生のユーザの中にもわざわざiTunesカードを買って課金してくれてる人もいて本当にありがたいです。

ブラウザ開発苦労エピソード

ブラウザ開発者は採用で「頭おかしい奴」扱いされる

アンドエンジニア編集部
ブラウザ開発ならではの苦労はありましたか?
アスツール 加藤さん
採用は大変でしたね。
最初の頃は、ブラウザを一緒に作ろう!って話すと、ほとんどの人から「頭おかしい奴だ…」って反応をされてました(笑)。
Appleから頂いた賞やユーザ数などの目に見える結果が出てくるとマシになりましたが。
Best of app store 2016に選出されたSmooz PRtimesより
アンドエンジニア編集部
なるほど(笑)。
でも、ブラウザ作るってなるとビビっちゃいますよ。
アスツール 加藤さん
まあ、僕でさえリリース前は何人ユーザがつくか不安でした(笑)。

何事もコア機能が受け入れられてから

アスツール 加藤さん
あとこれは開発全般に共通だと思うんですけど、機能が想定より使われないことはありました。Smoozの一番コアな機能はスワイプでのタブ切り替えだったんですが、リリース時にはあと2つ、入力前の検索ワードのリコメンドと、ブックマークの公開機能を実装してたんです。
リリース時にはあった、ユーザの読んでいるページを解析し、入力前に検索語句を提案するリコメンド機能や、はてなブックマークのように、人のつけたコメントを見たり、コメントと共にブックマークを公開できる機能。  Astool Inc. サポートページより
アスツール 加藤さん
でも、これらの機能は結局使われないどころか、ユーザによっては不快感を示されちゃって。
特にブックマークの公開機能は、公開/非公開を自分で設定できたにもかかわらず、受け入れられませんでした。
ブックマークはプライベートなもので、公開したいユーザは少数派だったんです。
今振り返ると、機能を絞ってもっと早くリリースすればよかったです。
アンドエンジニア編集部
在庫速報.comの記事でも、「機能を追加していくのは、コアバリューが受け入れられてから」とおっしゃってましたよね。

自己流ジェスチャーは機械学習で対応

アスツール 加藤さん
もっと技術的な話だと、ジェスチャーは実装が結構大変で。
まず、最初に想定していたよりユーザが誤作動に対しネガティブな反応をすることが判明しました。
なので、ここの精度は地道に上げていきましたね。
アスツール 加藤さん
あとは、ユーザの中に結構「自己流ジェスチャー」をする人がいて。
例えばLの字を書くジェスチャーがあるですが、「私はLをこう書くんだけど、これに合わせれないか」ってお問い合わせをくださる方が結構いるんです。
当時は、解決するにはサーバ側で機械学習を使ってカスタムジェスチャーを作るしかなかったんですが、レイテンシーも問題だし通信量も増えるしで、流石に現実的じゃなくて、しばらく頭痛のタネでしたね(笑)。
アンドエンジニア編集部
結局解決できたんですか…?
アスツール 加藤さん
AppleのCore MLが出て、クライアント側で機械学習が利用できるようになったので、カスタムジェスチャーをクライアント完結で実装して対応しました。
Smoozで実装されたカスタムジェスチャー。3回同じジェスチャーをしてもらい、その軌跡を教師データとして使用する。
アンドエンジニア編集部
機械学習まで使って解決するってすごい。
アスツール 加藤さん
使用するユーザは一部ではあるんですが、ジェスチャーってSmoozのコアバリューの一つで、深堀りしたい領域だったので。
ジェスチャーで負けられないじゃないですか。
アンドエンジニア編集部
まさに執念…!

ChromeやMicrosoft Edgeを凌ぐ先見性

アンドエンジニア編集部
そういえばTwitterで、「SmoozのUIがChromeのUIに似てて乗り換えやすい!」みたいなツイートを見たんですが、これって狙ってやってるんですか?
アスツール 加藤さん
それ、完全に逆なんですよ(笑)
メニューが右下にあって、検索窓が画面の中央付近にあるようなUIって、Smoozが先で。
ChromeはSmoozリリース後のアップデートで、今みたいなUIになったんです。
当時の加藤さんのTweet
アンドエンジニア編集部
え、パクられたってことですか!?
アスツール 加藤さん
どうでしょうね(笑)。
ただ、SmoozってApple Storeで「ブラウザ」って検索した時に、だいたい一番上に出るんですよ。
なので、もしかしたら見られてるのかもな…とは思います。
そもそもブラウザアプリって少ないですから、リサーチされててもおかしくはないと思ってます。
アンドエンジニア編集部
他にも、「参考にされた」かもしれない、と感じた出来事ってあるんですか?
アスツール 加藤さん
Microsoftが出してる、「Edge」ってブラウザアプリがあるんですけど、Smoozが実装してたメニューの並べ替えを最近実装したみたいですね。
SmoozとEdgeのメニュー並べ替え機能
アンドエンジニア編集部
本当だ!
色んなとこから真似されてるな…。
アスツール 加藤さん
僕らもブラウザアプリは徹底的にリサーチしてて、その中でいい部分があれば参考にさせてもらうこともありますよ。
今も10個以上のブラウザアプリをスマホに入れてます。
アンドエンジニア編集部
ブラウザアプリってそんなにあるんですか!?
アスツール 加藤さん
実は、色んなアプリが現れては消えてます。
ブラウザって、ChromeやFirefoxが普及した経緯を見てもらえればわかると思うんですが、爆発的に普及することはあんまりなくて、ユーザは線形で増加するんです。
アスツール 加藤さん
それに、毎日使うアプリでもあるので、アップデートの間隔が開いてると、ユーザもなかなか乗り換えの決断がしづらい。
ライブラリのラストコミットが半年前だと不安になるじゃないですか。
日本国内のブラウザシェア推移。現在1位を誇るChromeですら、その座を獲得するまでに10年近い時間を要した。StatCounterより
アスツール 加藤さん
そんなブラウザアプリだからこそ、定期的にアップデートし続けて、信頼を積み重ねることが重要なんです。
それができて生き残っていくブラウザアプリは、かなり少ないですが。

先入観にとらわれずに、ブラウザ領域で起業したアスツール加藤さん。

先日のWWDCにて発表されたiOS14では、ついにiOSでもデフォルトブラウザが選択できるようになるなど、ブラウザ開発自体への追い風も吹いています。

みなさんも、ぜひいろいろなブラウザを使ってみて、自分にあう最高のブラウザを見つけてみてください!

Smooz | Smooth Browsing with One Hand

アンドエンジニア編集部
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